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はじめに
女性ホルモンとして知られるエストロゲンは、女性らしいからだを作ったり、月経や妊娠・授乳に関わるだけでなく、多彩な作用によって脳の神経保護作用を発揮する。
エストロゲンの枯渇は、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、シナプス減少、認知障害、加齢関連の様々な疾患リスクの増加と関連している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3592200/
エストロゲンと長寿
より長い生殖寿命と長寿の間には正の相関関係が示されている。このメカニズムは明らかになっていないが、神経保護効果をもつエストロゲンの生涯にわたる累積暴露期間の長さが影響をおよぼしている可能性が示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5177476/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27923020/
エストロゲン低下によるアルツハイマー病リスク
閉経後のステロイドホルモンの低下は、女性のアルツハイマー病リスクが男性よりも高く重症であることの原因となっていることが示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17379265/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24434111/
パーキンソン病リスクの低減
疫学的研究では、エストロゲンの神経保護効果がパーキンソン病のリスク低下と関連することを示唆している。
n.neurology.org/content/70/3/200.long
エストラジオール投与による脳機能の改善
いくつかの研究が、卵巣摘出手術によってエストロゲンを枯渇させた動物モデルにおいて、脳損傷による神経変性を増強することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23555795/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25135305/
同様に卵巣摘出手術を行なった動物へのエストラジオール投与は、脳の損傷を逆転させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25135305/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28681915/
エストロゲンの神経保護メカニズム
脳サイズの遺伝的調節
脳の進化に関わってきたエストロゲン
エストロゲンは脊椎動物の時代からある最も古いステロイドホルモン。
エストロゲンは、脳のサイズを調節する4つの遺伝子を制御することがわかっており、エストロゲンが先祖の脳の進化に重要な役割を果たしていた可能性が示唆される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4487212/
ミトコンドリア機能の改善
ミトコンドリア生合成
エストロゲンはミトコンドリア生合成、アポトーシス、ミトコンドリアの形態へと多彩に影響を及ぼす。このメカニズムは完全には理解されていないが、エストロゲン受容体α、β、小胞体によって媒介されるものと思われる。
海馬ニューロンのシナプスミトコンドリア内にはエストロゲン受容体が存在しており、これはエストロゲンがミトコンドリアDNAの転写に直接影響を与える可能性があることを示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20538040/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21514693/
ミトコンドリア膜の維持 カルジオリピン
卵巣摘出手術を行なった動物では、ミトコンドリア膜の必須成分であるカルジオリピンが減少する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28130408/
カルジオリピンは、酸化的リン酸化、アポトーシス、ミトコンドリアたんぱく質の輸入、スーパーコンプレックスの形成など、ミトコンドリア機能に重要な役割を果たす膜成分。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22014644/
NRF-1、PCG-α
それ以外にも、ミトコンドリア機能に影響を与えるNRF-1やPCG-aなどの転写因子を調節することも示されている。エネルギー代謝の需要が高い脳では、エネルギー産生に関わるミトコンドリアの機能は特に重要である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28401437/
ミトコンドリア転写因子A(TFAM)の転写調節
ミトコンドリア転写因子TFAMはミトコンドリアDNAの転写と複製を開始する。
www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1567724906002406
抗酸化作用
エストラジオール治療は、シトクロムcオキシダーゼ活性の上昇によってミトコンドリア機能を高め、同時に脳内のフリーラジカル生成を減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18094246/
血管機能
エストロゲン受容体は、平滑筋細胞だけでなく血管内皮細胞にも局在する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12388160/
一酸化窒素シンターゼ
脳卒中を起こすと、エストロゲンは血管拡張と血管の柔軟性の重要な役割を果たす血管内皮の一酸化窒素シンターゼ活性を増加させ、COX-2などの炎症マーカーを抑制し、白血球の接着を減少させて保護作用を発揮する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19401209/
アミロイドβの減少
エストラジオールはマウスのアミロイドβを減少させ、タウの過剰リン酸化を減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16365303/
タウの過剰リン酸化を防ぐ
エストラジオールはin vitroにおいて総タウを増加させ、脱リン酸化を誘発する
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16024764/
エストロゲンは、エストロゲン受容体αの過剰発現介してアミロイドおよびタウのリン酸化を減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29641978
BDNF遺伝子発現 作業記憶の改善
エストロゲンは、脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子のエストロゲン感受性応答要素(ERE)への直接結合、またはBDNFを上方制御する神経活動の増加により、BDNF遺伝子発現を誘導することができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17055560/
BDNFVal66Met遺伝子多型を有する健康な女性では、エストラジオールとBDNFの相互作用により、作業記憶を調節することが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28416813/
IGF-1発現 海馬記憶の改善
エストロゲンはIGF-1受容体シグナル伝達経路を介して海馬と記憶の維持に役割を果たす可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23264616/
100歳長寿では、IGF-1レベルを平均よりも低く保つ遺伝子変異を有する人が多い。
www.livescience.com/44436-anti-aging-hormone-may-actually-shorten-life.html
MMP9の活性阻害 血液脳関門の完全性
エストラジオール投与は、脊髄損傷ラットのMMP9およびSUR1 / TrpM4の発現と活性化を阻害し、血液脊髄関門の透過性を低下させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25763638/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26598084/
ミクログリアM2 神経炎症の減少
ミクログリアの活性には炎症性/細胞障害性のM1型と抗炎症性/神経保護のM2型が存在する。エストロゲンはミクログリアのM2型を活性化させ、脳内の抗炎症作用を発揮する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24607811/
エストロゲン投与によるM2活性は、パーキンソン病マウスモデルの酸化ストレス、神経炎症、ドーパミン作動性ニューロンの神経変性の減少をもたらした。このことは閉経後と閉経前で異なる女性のパーキンソン病のリスクを説明できるかもしれない。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091302216300413
www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnagi.2017.00129/full
脳細胞DNAの修復
加齢に伴う神経変性障害は、DNA修復能力の低下によりDNAの変異が蓄積することと関連する。脳内のミトコンドリアDNAは活性酸素に大量に曝されるため、DNAの修復能力は特に重要性をもつ。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21550379/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24981012/
性ステロイドは様々なDNA修復経路と相互作用することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24860786/
エストロゲンのDNA修復効果は、BDNFレベルと関連する可能性がある。
Nrf-2活性 ストレス防御と解毒
Nrf2は、活性酸素や酸化ストレスなどによって活性化され保護作用を示す内因性の防御因子。エストラジオールの欠如は海馬CA1領域のNrf2-ARE経路を減衰させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28419990/
GPER1 / GPR30の活性 神経新生と空間記憶
GPER1 / GPR30は、17β-エストラジオールに高い親和性で結合する膜エストロゲン受容体。癌の進行と心血管の健康に役割を果たすと考えられており、中枢神経系に広く分布している。
エストラジオールを生理学的レベルを超えて投与した場合、GPER1 / GPR30を活性化することが可能。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24704272/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24508637/
GPER1からのシグナル伝達は、神経伝達物質の放出と海馬のニューロンでの神経新生を介して空間記憶を改善することが示されている。さらに、GPER1の活性化は、マウスの不安を示す行動や社会的記憶、発情期の動作などの社会的行動に寄与する。男性の海馬でのGPER1の活性化は、エストロゲン受容体αをリン酸化することも示されいる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28465157
神経伝達能力の改善
脊髄損傷を受けたメスのラットはオスのラットよりも運動機能の改善がより早く、より大きい。オスラットにエストラジオールを投与すると未投与オスラットと比べて、神経インパルスの伝達に有意な改善を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26598084/
抗酸化作用
女性のミトコンドリアは男性のミトコンドリアよりも高い還元型グルタチオンレベルを示す。卵巣摘出手術は女性のグルタチオンレベルを男性と同レベルにまで低下させる。エストロゲン治療はそれらを妨げ酸化ストレスに対して保護効果を示した。
これは女性が男性よりも長寿であることを可能にするメカニズムのひとつかもしれない。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891584902013564
臨床研究
認知機能(エストロゲン補充療法)
アルツハイマー病患者へのエストロゲン補充療法の効果
プラセボ対照二重盲検比較試験 ホルモン療法を使用した女性グループは、プラセボグループと比べ有意に良好な認知機能のエンドポイントを達成した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8649552/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9191757/
無作為化二重盲検プラセボ対照試験 低用量エストラジオール(1mg、0.5mg/日)が、プラセボ郡と比べ女性アルツハイマー病患者の認知機能を改善。ApoE4対立遺伝子のない女性の認知機能および気分をより改善した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20094015
視覚記憶・意味記憶の改善
17βエストラジオールの3ヶ月間の短期経皮投与は、アルツハイマー病を有する閉経後女性の認知機能に好ましい効果を示す。意味記憶(ボストン命名テスト)、視覚記憶(フィギュラ記憶テスト)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3302351/