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ヨウ素
ある国を滅ぼすにはヨウ素を取り上げれば良い
甲状腺ホルモン関連記事
T4(サイロキシン)/T3(トリヨードチロニン)/rT3(リバースT3)
概要
ヨウ素は甲状腺ホルモンの主原料、昆布、わかめ、ノリなど多く含まれている。
ヨウ素が欠乏すると、甲状腺の機能も低下する。
日本人の推定ヨウ素摂取量は13.8mg(RDAの約100倍)
日本人は食文化としてヨウ素を多く含む海藻をよく食べることから、世界でもヨウ素を最も摂取している国のひとつであり、一般的な食生活の中では不足することはほとんどないと考えられている。
海藻を利用した肥料を用いた食品にも含まれる。
昆布類を毎日大量に摂取している場合、一部の人では過剰症の可能性もある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3204293/
www.endocrine-abstracts.org/ea/0029/ea0029p1641
ただし、世界的なヨウ素欠乏要因は土壌から不足だけではなく、ヨウ素の代謝を阻害する環境毒素(ハロゲン化物、臭化物、フッ化物、etc)などが関与しており、環境中の蓄積や曝露の増加が報告されている。
特に甲状腺ホルモン療法を行っている場合ヨウ素を多く必要とするため、日本人であっても食生活によっては不足する可能性があるかもしれない。ヨウ素レベルを診断することをおすすめしておく。
甲状腺とヨウ素
ヨウ素は腸内でヨウ化物に還元される。ほとんどが胃と十二指腸で吸収され、主に甲状腺と腎臓によって循環器系から排出される。
血漿ヨウ素の半減期は約10時間。甲状腺の過剰活性では半減期は短くなる。
摂取されたヨウ素の90%は24~48時間以内に腎臓から排出される。[R]
腎機能が正常であれば、過剰なヨウ素は容易に排出される。
健康な成人の身体には15~20mgのヨウ素が存在し、そのうち70~80%が甲状腺に含まれる。
抹消ではT4とT3の分解によりヨウ素が放出され、血漿ヨウ素プールでリサイクルされる。摂取された殆どのヨウ素は最終的には尿中に排出される。
ヨウ素の役割
ヨウ化物は甲状腺機能を制御することが知られている。主な作用は甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対する甲状腺の反応を低下させること。
高濃度のヨウ素は、甲状腺ホルモンの分泌を抑制する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8736272/
ヨウ素の食事摂取基準
18歳以上 推奨量140μg 耐用上限量2200μg(2.2mg)/日 厚生労働省基準
www.fgs.or.jp/pdf/03_Iodine/04_freedom_research/123_36_143_144004.pdf
食事からのヨウ素摂取は変動要因が多いため、算出がむずかしい。
ヨウ素欠乏
三大微量栄養素欠乏症
日本以外では、ヨウ素というとヨウ素欠乏症をイメージするほど、ヨウ素の欠乏が公衆衛生上の問題となっている。ビタミンA、鉄、に続いてヨウ素は3大微量栄養素欠乏症とされている。
若干余談だが、世界ではヨウ素欠乏による脳障害が深刻で、新生児だけでも3500万人がそのリスクにさらされている。[R]
一人あたりのヨウ素補充コストはわずか数円にすぎない。。
ヨウ素欠乏への適応
甲状腺はヨウ素欠乏に対して部分的に適応する。
ヨウ素欠乏は血清TSHの増加を引き起こし、T3/T4産生の比率を増加させ、T4からT3への変換が増加する。
中程度から重度のヨウ素欠乏では、血清TSH濃度は上昇し、血清T4濃度はわずかに低く、血清T3濃度はわずかに高い。
しかし、高齢者の平均血清TSHでは低い可能性がある。また、重度のヨウ素欠乏症では、代償応答が十分に行われず、甲状腺機能低下症を生じることがある。
そのため、甲状腺機能検査(血清TSH、T3、T4)は、感受性の高いヨウ素の指標とはみなされない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5004493/
ヨウ素の阻害・減少要因
日本では食生活に海藻を利用することから、ヨウ素過剰による甲状腺機能低下症を生じさせるはずだが実際にはほとんど生じていない。民族的特性?との可能性も言われているが証明はされていない。熱処理によるヨウ素の流出に加え、以下のいくつかの阻害要因と関連してヨウ素過剰による甲状腺機能低下症が抑制されている可能性がある。
ゴイトロゲンコンテンツ
ブロッコリー、キャベツ、大豆などの野菜に含まれるゴイトロゲンコンテンツは、甲状腺のヨウ素取り込みに競合することが知られている。
大豆イソフラボン
大豆イソフラボンは、活性甲状腺ホルモン(甲状腺ペルオキシダーゼ)へのヨウ素取り込みが減少する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12270219
海藻に含まれる臭化物
海藻には無機臭化物(臭素化合物)が高度に含まれることがあり、抗甲状腺特性をもつ。
link.springer.com/article/10.1007%2Fs10967-008-1008-9
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11523434
ベーカリー業界では臭素がヨウ素に採って代わり使用されるようになった。(米国)
過塩素酸塩 perchlorate
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4137763/
環境の過塩素酸塩は、さまざまな供給源から供給され、無機塩として非常に安定しており、長期間にわたって土壌および地下水に低レベルで残留する[R]
日本のボトル飲料中の塩素酸塩と過塩素酸塩 85本中62本から最小限度を超える過塩素酸塩が検出された。[R]
日本の食品と、水道水の塩素酸塩、過酸化塩素酸塩の摂取量[R]
ヨウ素結合を阻害する化学物質
臭化物、フッ化物、塩化物
減塩食
ヨウ素化塩に含まれるヨウ素の不足
放射性ヨウ素
過剰症
健康な人でのヨウ素の耐用上限量はかなり高いと考えられている。
日本のヨウ素過剰による甲状腺関連疾患
長期的に昆布を摂取することで甲状腺関連疾患のリスクが生じることが報告されている。
28mg以上での甲状腺中毒症
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2744193
日本の沿岸域における食事からのヨウ素摂取による無症候性甲状腺機能低下症
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8106628
原発性甲状腺機能低下症の患者22人の3週間のヨウ素摂取制限後、12人(54.5%)が甲状腺機能を正常化させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3722332
北海道の風土病「甲状腺腫」
甲状腺刺激ホルモン(臭化物など)により甲状腺腫が上昇した可能性がある。しかし27年後の追跡調査では、北海道住民で同様のヨウ素摂取が認めらたが、甲状腺腫の過剰の兆候は見られなかったため原因としてヨウ素は除外された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/4158495
ウォルフチャイコフ効果
サプリメント
米国で最も販売されている成人向けマルチビタミンの74%にのみヨウ素が含まれていた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30266075
米国産サプリメントのラベルに記載されたヨウ素量と一致したものは51%
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19246372/
抗体陽性
ヨウ素の高用量摂取は、抗サイロペルオキシダーゼ抗体(TPOAbs)および抗サイログロブリン抗体陽性の被験者で甲状腺機能低下症発症リスクが高まる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18270254/
胎児
胎児(妊娠36週)の甲状腺は、過剰ヨウ素に対する保護適応であるウォルフチャイコフ効果の能力を獲得しないため、ヨウ素過剰により胎児の先天性甲状腺機能低下症を引き起こす可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22841183/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15650362/
妊娠中の海藻スープなどの過剰摂取による新生児の甲状腺機能低下症
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21276114/
アミオダロン(抗不整脈薬)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24067547/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22433945/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22130792/
放射線検査での造影剤
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22271121/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23599025/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22827435/
高齢者の甲状腺機能に対する非イオン性造影剤効果の前向き研究
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8733880/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8328500/
着色剤
赤色3号(エリスロシン)、赤色105号(ローズベンガルNa塩)
www.jstage.jst.go.jp/article/brte/24/3/24_117/_pdf/-char/ja
ヨードチンキ
ヨウ素系の外用消毒剤 皮膚、粘膜から吸収されることで甲状腺機能へ影響をおよぼす。
乳頭癌、甲状腺炎
ヨウ素の過剰摂取は乳頭癌と甲状腺炎の高い発生率に関連している可能性が示唆される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8736272/
女性の海藻消費と甲状腺癌のリスク 日本
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22414981/
ヨウ素の測定
毛髪
毛髪中のヨウ素は、長期のヨウ素欠乏および過剰を評価するための有効な指標である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24446669/
尿中ヨウ素
90%のヨウ素が尿中に排出される。食事のヨウ素量を反映しており、日によって変動が大きく、全身のヨウ素状態を測定する信頼できる方法ではない。
ヨウ素負荷試験
- 朝一番の尿は使用せず捨てる。
- 50mgのヨウ素/ヨウ化物(Iodoral)をコップ1杯の水で服用する。
- 24時間、すべての尿を収集する。 24時間の尿の収集には最初の朝のサンプルも含める。
- 24時間尿のサンプルを検査機関へ送る。
90%(45mg)のヨウ素が排出されていれば、ヨウ素が十分あることを示す。
45mg未満であればヨウ素欠乏を示す。
ヨウ素の投与法
David Brownstein プロトコル
ヨウ化物とヨウ素の組み合わせを使用することで、より効果的に作用をもたらす可能性がある。
患者のヨウ素レベルが十分に高まるまで甲状腺ホルモン療法は開始しない。
甲状腺ホルモンをすでに摂取している場合、以下の3つ選択肢がある。3分の2は投与量の維持が可能。
- 甲状腺ホルモンの投与量を維持する。
- 甲状腺ホルモンの投与量を半分に減らす
- 甲状腺ホルモンの服用をやめる。
神経質になったり、不安になれば、すぐに甲状腺ホルモンの投与量を減らすかどうかを患者に伝える。
TSHの上昇
ヨウ素療法の開始時にはほぼ全員で、ヨウ化ナトリウム共輸送体-NISを刺激し、TSHが上昇する可能性がある。これは甲状腺細胞へのヨウ素の輸送を増やすために必要な反応。
正常な値に戻るには最大で6ヶ月が必要、それまでの期間5~30mIL/l上昇することがある。T3やT4が正常である限り、このTSHの上昇は甲状腺機能低下症のサインではないだろう。
数千人のヨウ素療法の治療により甲状腺機能亢進症を引き起こした人は10人未満と推定している。
甲状腺ホルモン療法によるヨウ素不足
甲状腺ホルモンを摂取すると、代謝率が上昇し、ヨウ素の必要性も高まる。甲状腺ホルモンの摂取期間が長いほどヨウ素欠乏症の問題は悪化する。
ヨウ素が不足している場合、甲状腺ホルモンの補充はヨウ素不足の問題を悪化させる。
トランスサイレチン(プレアルブミン)
レチノール結合蛋白質,およびサイロキシンの担体となることからこの名が付いている。
アミロイドβの産生
トランスサイレチンは可溶性アミロイドβ複合体を生成することが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9329705/
アルツハイマー病患者の低いトランスサイレチン
アルツハイマー病患者では、脳脊髄液中のトランスサイレチンレベルの低下を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9343132/
サイロキシン結合グロブリン(TBG)
en.wikipedia.org/wiki/Thyroxine-binding_globulin
サイロキシン結合グロブリン(TBG)は、T4およびT3を末梢組織へ運搬する、肝臓で産生される輸送タンパク質。
T4に対する親和性がT3の20倍高く、血清中のT4の75%はこのTBGに結合している。
TBGは、血清中の甲状腺ホルモン濃度を決定するもっとも大きな因子