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カドミウム毒性・認知症リスク
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概要
カドミウムは元素の周期律表の中で、亜鉛と水銀に位置する金属であり、亜鉛と類似する化学的挙動を示す。
カドミウムは肺、肝臓、腎臓、精巣、骨、脳などの臓器に蓄積し、血液脳関門を通過することができる。(腎臓と肝臓が主な標的)
脳を通過したカドミウムは、中神経系の機能不全、パーキンソン病症状、血管機能、学習、記憶能力などの神経損傷の要因となりうる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23997854/
慢性カドミウム中毒は一般に症状を示さず、腎臓や脳へ蓄積し、長期経過の後、関連障害を引き起こすため危険性が見逃されやすい有害金属の一つとして認識されている。
カドミウムの吸収
カドミウムは胃腸管を介して吸収される。
溶解性、吸収率は胃と腸のphの影響を受ける。H2ブロッカーは、胃のpHを上昇させることで溶解性を低下させカドミウムの吸収を阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15778018/
鉄欠乏によるカドミウム吸収の増加
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24373608/
カドミウムの曝露源
カドミウムは環境汚染物質として主に製錬、石炭工場から放出される。
その他、燃料、産業廃棄物、タバコの喫煙などもカドミウムの曝露源である。
カドミウムの曝露は、主に吸入と摂取によって吸収される。
皮膚からの吸収はごくわずか。
粒径によって異なる吸収率
カドミウムの吸入は粒径によって異なり、約10~15%が吸収される。
カドミウムの摂取も粒子の大きさに依存し約5~10%が吸収される。
鉄・カルシウム・亜鉛欠乏
鉄、カルシウム、亜鉛欠乏症の人でより大きく腸内吸収される。
カドミウムを多量に含む可能性のある製品・農産物
- カドミウム汚染土壌で生育する農産物
- 下水汚泥、肥料、および灌漑用水は土壌を汚染する可能性がある
- 大型魚 マグロ、タラなど
- 精製食品、加工食品
- 加工肉、コーラなどの飲料、インスタントコーヒー
- たばこの煙
- 汚染された飲料水
- 職業被爆 電池製造、半導体製造、歯科材料の製作
- 食品の缶詰に使用されるハンダ
- 自動車からの排気ガス、モーターオイル
- 芸術家が使うカドミウム塗料(明るいオレンジ、赤、黄)
- 大気汚染
- ゴムタイヤ、プラスチック、塗料の焼却
喫煙者の高いカドミウムレベル
たばこの喫煙は、カドミウムをとり入れる主要な曝露源、血中および腎臓のカドミウム濃度は、タバコを吸わない人よりも喫煙者において一貫して高い。
産業曝露では、溶接やはんだ付けなどが行われる職場環境で吸入の可能性がある。
お米はカドミウム曝露源のトップ
日本人の食品からのカドミウム摂取源は、お米からが圧倒的に多い。(4割)
米魚介、(雑穀、野菜)、海藻などが(各1割)
日本全国にある鉱山に含まれるカドミウムが、環境中へ排出されるなどして水田や土壌に蓄積してきたものが、お米などの作物によって吸収される。
お米1kgに含まれる平均カドミウム量は0.06mg(60μg)
13%の地域では0.1~0.2mg/kg 1%で0.2~0.3mg/kg、0.3%では0.4mg/kgを超える。
www.mhlw.go.jp/houdou/2003/12/h1209-1c.html
数%で基準値超えのカドミウム摂取
日本人の平均お米消費量は一日119g
平均的なカドミウムを含むお米では7~8μgだが、13%で2~3倍のカドミウムを含むため16~24μgのカドミウムを摂取している可能性がある。さらにお米を朝昼夜と常食している場合はその数倍に達する。
その他のカドミウム供給源も存在するため日本人の数%から1割(数百万人~)で、7μg/kg/週(体重60kgで420μg/週・60μg/日)の暫定耐用摂取量(国内基準値)を超えている可能性がある。
カドミウム土壌
鉱山のない地域であっても、ホタテやイカ肝臓などの水産廃棄物肥料を持ち込むことにより、カドミウム濃度が上昇する。
ヒ素吸収とカドミウム吸収はトレードオフの関係にあり、カドミウムが低減するとヒ素が上昇する。
土壌pHを上げることが有効な手段 + ファイトレメディエーション
www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/sousyo/sousyo18_01.pdf
貝、イカ、タコ
カドミウムは海水や海の底にも蓄積するため、そこに住む貝類・イカ、タコなど軟体動物、甲殻類などのエビ、カニの内蔵にも蓄積しやすい。
カカオ・チョコレート
アメリカの小売店で販売されているチョコレート製品のカドミウム濃度の検査
カドミウム含有量は0.004~3.15mg/kgの範囲。鉛は0.38mg/kg
※3.15mg/kgのカドミウム濃度である場合20g/日の消費で日本の暫定耐用基準値を超える。
カドミウムと鉛はカカオ含有量と相関し、製品タイプ、カカオの産地によって異なった。
カドミウムレベルの平均値はアフリカ産(平均0.1mg/kg)よりも南米産のカカオ(平均1.1~mg/kg)により高濃度のカドミウムが含まれることが見出された。いくつかの要因が介在しているが、火山性によるカドミウムの土壌汚染が大きな要因として考えられる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29310543
カドミウム摂取量とリスク
食事中の16μg/日以上のカドミウム摂取は、乳がんリスクと関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22422990
食事からのカドミウム摂取量が31.5μg/日を超える場合には日本人女性のエストロゲン受容体陽性(ER +)乳がんと関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23608001
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5332171/
カドミウム曝露の検査
カドミウムの半減期
カドミウムは吸収後、通常メタロチオネインなどのタンパク質に結合する。体内のカドミウムは肝臓に30%、腎臓30%蓄えられ、半減期は25年である。
血中カドミウムの半減期は75~128日と推定されているが、これは身体組織、血清からではなく臓器の沈着からのクリアランスであることが示されている。
そのため、血清、毛髪、尿中のカドミウム濃度は、体内に蓄積されたカドミウムの量ではなく最近の曝露を反映している。
血清カドミウム
血中のカドミウム濃度には診断価値がほとんどない。
血清チャレンジテストでは、血液および動脈中のカドミウムを検出できる。
毛髪カドミウム
毛髪中のカドミウムレベルは、腎臓中のカドミウムレベルと高い相関関係を示す。
しかし毛髪にカドミウムが反映されるまでには数ヶ月のタイムラグが必要なことが多い。
article.sapub.org/10.5923.j.env.20120204.05.html
カドミウムの健康への影響
カドミウムの毒性は、肺、腎臓、肝臓、骨格、生殖器官、および心臓血管の機能不全とも関連する。
主要な標的器官は腎臓であり、管状細胞のアポトーシスやミトコンドリア輸送経路の酸化損傷である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23123462/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12759569/
他有害金属との相乗作用による酸化ストレス
カドミウムの基本的な毒性メカニズムは、他の必須金属との相互作用によって引き起こされる酸化ストレスと考えられている。
亜鉛やセレンなどの必須金属の代謝障害も、同様に酸化ストレスへ影響を与え、カドミウムともある程度相互的に悪影響を誘発し合う。
ヒ素、鉛、カドミウムの有害金属が相乗的に作用し、単独よりもより多くのアミロイドβを生成し、ラットの脳への損傷を増幅させ、炎症を引き起こした。
骨と関節
カドミウムは直接骨細胞と相互作用をし、石灰化を減少させ、プロコラーゲンC-プロテイナーゼ、コラーゲン産生を阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20200937/
カドミウム毒性によって引き起こされるカルシウム吸収ビタミンD活性の変化は、骨軟化症および骨粗鬆症を引き起こす可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10209978/
またリン酸の取り込みを減少させ、線維芽細胞成長因子23を刺激することでも骨軟化症、関節炎、骨粗鬆症、神経筋疾患に寄与する。
心臓血管系
カドミウムは動脈内の亜鉛を置き換えることで柔軟性のない脆い動脈に寄与する。
カドミウムによるカルシウムチャネルの破壊と血管拡張剤の阻害から、直接的に血管を収縮させ一酸化窒素が増加することによって、高血圧、糖尿病、突然の心臓死の増加、末梢動脈疾患、血管内膜の厚さの増加、心筋梗塞つながる可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15184277/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19270787/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18845316/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18053980/
消化器系
カドミウムは亜鉛を介在する消化酵素の産生を妨げる。
男性生殖器
前立腺の問題やインポテンスは、カドミウムによる亜鉛欠乏の結果として生じる可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22039149/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15158563/
内分泌系
カドミウムは低用量であっても下垂体ホルモンの調節に影響を与え、多くの内分泌を撹乱する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23085516/
上昇した血中のカドミウム濃度はTSH産生の抑制とも関連している。
尿中のカドミウムの増加はT3、T4の上昇と関連していた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23044211/
亜鉛は成長およびインスリン放出に必要。カドミウムは成長不全、成長の発達速度を低下させ糖尿病に寄与する可能性がある。
カドミウムはのエストロゲン様作用をもつメタロエストロゲンだと考えられている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22161274/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22314386/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12858169/
糖代謝
血清カドミウムとメタボリックシンドロームの発症には強い相関がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22911659/
腎臓
カドミウムは腎臓に蓄積し、腎臓疾患、ビタミンDの代謝を損ない骨に有害な影響を与える可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1303956/
カドミウム腎症
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19106433/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15688856/
聴力の低下
尿中カドミウムレベルの高い患者は、低周波の聴力損失が有意に高い。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22183895/
神経系・アルツハイマー
血清カドミニウムとアルツハイマー病死亡率の相関
アメリカ人の血液中のカドミウム値と7~13年後のアルツハイマー病死亡率上昇は、正の相関を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28511080
カドミウム濃度とアルツハイマー病死亡率
高齢者の血中カドミウム濃度は、アルツハイマー病関連の死亡率と有意に関連している。
アルツハイマー病患者の生存曲線
血中カドミウム値の四分位
四分位1:≤0.3μg/ L(上のグラフ線 )
四分位2:0.3~0.4μg/ L(真ん中のグラフ線)
四分位3:0.4~0.6μg/ L(真ん中のグラフ線)
四分位4:>0.6μg/ L (下のグラフ線)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4908725/
慢性疲労症候群
慢性疲労症候群、神経学的症状の一部にカドミウムが関与している可能性。
マグネシウムと亜鉛の栄養補給が予防と治療として寄与する可能性。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22795611/
小胞体ストレス
細胞内のカルシウム(Ca2+)依存性ATPアーセを損ない小胞体ストレスを誘導する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21933187
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4905828/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21544200
酸化ダメージ
カドミウムはフリーラジカル生成を刺激し、脂質、タンパク質、DNAへの酸化的損傷に寄与する。
onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/jat.2550080504
www.jbc.org/content/273/21/12703.full
コリン作動性の低下
カドミウムは、コリン作動性に対して選択的毒性を誘発する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25201352
カドミウムはアセチルコリンの放出を阻害し、コリンエステラーゼを活性化する。これは、神経系の活動亢進の傾向をもたらす。カドミウムはまた、神経細胞に直接的な損傷を与える。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22013727/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21933187/
アミロイドβ、老人斑の増加
カドミウムはアミロイドβおよび老人斑の産生を増加させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3460286/
タウの凝集
カドミウムはタウの凝集を促進する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17920001
SODの低下
脳内のカドミウムはSODレベルを低下させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11373040
オートファジーの誘導
カドミウムはオートファジーを誘導しアポトーシスを促進する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23880342
オートファジーはカドミウムに対してニューロン細胞の保護的役割を有する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26041154
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19061949