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鉛中毒とリスク
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概要
鉛は地球上のいたるところに偏在しており、歴史的に古くから神経毒性を有する金属として知られている。現在でも健康被害をもたらす地球環境上の問題金属としてみなされている。
特に発展途上国では、鉛の使用が許容されており、先進国を含め貧しい子供たちの鉛中毒リスクが高い。
北米に住む子どもたちの7%が10μg/dlの血中鉛濃度を保持しているが、中南米の子供では33~34%。
成人の鉛曝露増加の主な危険因子にはアルコールの消費と、喫煙が含まれる。
また鉛中毒リスクを高める寄与因子としては、カルシウム不足、鉄分の欠乏、加齢、遺伝的感受性などがある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17431499
鉛の曝露源
- タバコ(喫煙者ではタバコがもっとも可能性が高い)
- 鉛含有農薬
- 鉛含有の塗料片
- 道路標示塗料
- 鉄製橋梁や構造物の防錆塗料(2000年以前)
- 住宅用壁塗料
- 陶磁器用絵の具
- 鉛(合金を含む)金属片の摂食や誤嚥
- 漢方薬(珍氏降糖)
- ダイビング用おもり
- 魚釣り用おもり
- 散弾・鉛銃弾遺残症
- カーテンのおもり
- 鉛(合金を含む)
- 金属微粉末や蒸気の吸入 – 鉛精錬工程
- 鉛合金の加工工場
- ハンダ付け作業
- 有鉛ガソリン
- 汚染水
- 廃鉱からの漏出
- 廃棄された鉛蓄電池
- 家電製品や電気機器に使用されていたハンダからの溶出
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16915221
水道管
1980年以前の水道管には鉛管が使われており、その水道水では鉛が鉛イオンとして溶け出しており、長期間飲むことで鉛が蓄積する可能性がある。
www.ibananww.ne.jp/3-4-1trouble.htm
大気汚染
スペイン北部地域で65歳上の死亡率が大気中の鉛濃度と有意に関連していることが報告されている。
鉛による認知機能へのリスク
アルツハイマー病
血中鉛濃度とアルツハイマー病の間の関連性は、いくつかの症例対照研究で評価されている。しかし鉛濃度の有意な増加は見られていない。
鉛曝露の職業的リスクを有する労働者の認知症リスク増加は示されていない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17525096
ALS
鉛曝露のリスクを伴う職業においてALSの発症が報告されており、鉛はALSの病因に関与するという長年の仮説がある。
散発性ALSへの鉛の関与の生物学的メカニズムは、酸化ストレス、興奮毒性、ミトコンドリア機能不全においてその可能性があると考えられている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16909025
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28777965
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16898674
IQスコアの低下
1991年、米国疾病管理予防センターの、小児の血中鉛基準値は10mcg/dlであった。しかし、その後の増え続ける証拠から10mcg/dlでは、小児の神経発達が遅れ、行動に問題が生じるという科学的証拠が増加してきている。
全体としては、血中鉛が1μg/ dL増加するごとに、IQポイントが0.87減少する。この影響は不可逆であり生涯にわたって影響を及ぼす。
IQスコアと生涯年収の間には関連性があることが知られており、1970~1990年代に有鉛ガソリンを使用したことによって失われたIQポイントの経済的コストは、1兆ドル(105兆円)に相当すると米国EPAでは試算した。(1世代、20年間)
2mcg/dl閾値とし、それ以下では副作用が生じないという証拠は存在しないが、現実的に達成可能な2mcg/dlを少なくとも基準値とするべきである。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16889836/
神経伝達系への影響
鉛の神経毒性は、ドーパミン作動性、コリン作動性、グルタミン酸作動性などの神経伝達への影響と関連している。
www.hindawi.com/journals/bmri/2014/840547/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12835126
シナプス可塑性の低下
慢性的鉛の曝露は、海馬のNMDA受容体依存性の長期増強を阻害し、発現を変化させる。
NMDA受容体のサブユニットのひとつのシナプス可塑性を損ない、BDNFシグナル伝達を阻害し、学習と記憶機能を低下させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21042954
酸化ストレス・Ca2+の撹乱
鉛への曝露は酸化ストレスを引き起こし、Ca2+シグナリングを混乱させる。
europepmc.org/abstract/med/22526509
エピジェネティクス発現の低下
発達中の脳の鉛曝露は、DNAの高い酸化的損傷をもたらし、アルツハイマー病関連遺伝子のエピジェネティック発現に影響を与える
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18171917/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22272629/
神経変性疾患へのリスク
鉛、マンガン、溶媒、特定の農薬はミトコンドリアの機能不全、および金属ホメオスタシスの変化、αシヌクレインの凝集等複数のメカニズムにより神経変性疾患のリスクを高める。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25914621
認知機能への影響
血清鉛
血清鉛濃度は、アルツハイマー病患者、認知症患者の単語リスト想起および単語リスト認識と有意に相関。
journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/1533317513506778
アルツハイマー病患者の血清鉛、カドミウム、水銀、ヒ素は認知機能の異常とは直接的には関連していなかったが、
血清鉛レベルは、言語記憶スコアと有意な負の相関があった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24164932/
骨に蓄積した鉛
骨に蓄積した鉛のレベルは高齢者の認知能力スコアの低下と関連する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16688005/
オートファジー誘導による学習記憶障害
鉛曝露はラットの小胞体ストレスを誘導し、タウの過剰リン酸化、αシヌクレインの蓄積を引き起こし得る。鉛の神経毒性はオートファジーを誘導することにより海馬におけるアポトーシスを増強し、ラットの学習と記憶能力を損なう可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22811615
鉛曝露による細胞アポトーシスはmTORC1経路の阻害によって活性化される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25686247
診断
尿中、血漿中の鉛は、低用量曝露では非常に不正確。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23443239
尿、髪の毛、足指の爪のサンプルで鉛濃度の差は報告されていない。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0013935102943616
尿中鉛
尿中の鉛と血清の鉛には相関があり、環境からの鉛曝露の場合には、尿中鉛を指標として用いることが可能だが、概算であるため注意が必要。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18813691
EDTAチャレンジ試験
EDTA投与による幼児の尿中濃度は許容可能な間接的指標として役立つ。血中鉛は優れた識別能力を示さなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2494797
チャレンジテストへの批判
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3846974/
浸透圧調整による尿中鉛評価
尿中鉛、ヨウ素、カドミウム、ヒ素のモニタリングは、クレアチニン調整よりも浸透圧調整による評価がより信頼性が高い。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27286873
参考値
血清鉛
リコード法 2mcg/dl未満
標準 全年齢 0~4.9mcg/dl
成人(16歳以上) 45mcg/dlを超える場合にキレート療法が検討される。
www.mayocliniclabs.com/test-catalog/Clinical+and+Interpretive/113401
尿中鉛
24時間あたり125mcg未満の鉛の尿中への排泄は、重大な鉛曝露とは関係ない。
24時間あたり125mcgを超える鉛の尿中排泄は、通常、蒼白、貧血、およびその他の鉛毒性の証拠として関連する。
尿中鉛(クレアチニン比)
リコード法 1mcg/g未満(推定値)
2mcg/g(クレアチニン)以下
4mcg/g(クレアチニン)未満の尿中排出は深刻な鉛曝露とは関連しない。
4mcg/g(クレアチニン)を超える尿中排出は、通常、蒼白、貧血、その他の鉛中毒と関連する。
www.mayocliniclabs.com/test-catalog/Clinical+and+Interpretive/48547
毛髪中の鉛
リコード法 2.0mcg/g以下(推定値)
5.0mcg/g以下
10.0mcgを超えている場合、重大な鉛曝露を示している。
www.mayocliniclabs.com/test-catalog/Clinical+and+Interpretive/8495
鉛のキレート
発汗
鉛の排出経路は尿ではなく、汗や胆汁である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3222694/
汗中の鉛濃度は、血中鉛、尿中鉛の上昇ではすぐには反映されないが、長期的な追跡調査では汗中の鉛が上昇した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1754878/
汗中の鉛の3分の1~2分の1が高分子と複合体を形成している可能性があり、発汗による鉛は天然または合成キレートによる結合によって排出されている可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3563484/
サウナ
サウナは作業中に浸透した鉛等の有毒な物質の排出を増加させ、臨床的な改善をもたらした。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1866932/
サウナによって亜鉛、銅、マンガン、ビタミン E、ナトリウムなど有益なミネラルやビタミン、電解質も発汗中に失われるため、それらを補充していく。
運動
自転車による運動によって汗中の鉛が増加
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1882228/
ペクチン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16835878
柑橘類に含まれるペクチンを五日間にわたり投与すると 、鉛の尿中排出が560%増加した。
ビタミンC・ビタミンE
ビタミン C はグルタチオンをリサイクルすることによって、グルタチオンレベルを増加させる
鉛に暴露した15人の労働者にビタミン C を1g/日(1年間)ビタミン E 400 IU/ 日 投与したところ赤血球の脂質過酸化の減少を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24560336/
N-アセチルシステイン
鉛に暴露した171人の労働者に N アセチルシステイン400または800mg投与したところ、グルタチオン合成が活性化され血中の鉛濃度の低下、酸化ストレスの低下を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23731375
亜鉛
亜鉛はカドミウム及び鉛と競合する亜鉛欠乏はそのためカドミウムのより大きな体内への吸収に寄与することがある。
亜鉛サプリメントの摂取はメタロチオネインを合成する。細胞内メタロチオネインは亜鉛とカドミウムの両方に結合することを示唆する
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2219126/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/107749
カルシウム
カルシウムの補給は、妊娠中、授乳中の母親の骨からの鉛の動員を減少させ、新生児および乳児へのカドミウム暴露を保護した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19165383/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17296490/
鉄
鉄分強化食品による鉄分補給は、貧困地域に住む都市部の子供たちの血中鉛濃度を低下させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16740843/
EDTA
DMSA
ジメルカプトコハク酸 (DMSA)は鉛の強力なキレート剤。
過剰な鉛の暴露をした患者にDMSAを投与したところ尿中鉛排泄が有意に増加、血中鉛濃度は有意に減少した。尿中鉛排出量は治療前の12倍と大きく変動した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19700440
自閉症の小児へのDMSA投与は鉛、スズ、ビスマスの排出量を大きく増加させた。
DMSA療法は安全であり、多くの有害金属の除去に効果的、特に鉛には効果的であり、赤血球グルタチオンを劇的に正常化させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2774660/
無機鉛中毒へのDMSA投与 DMSAは腎臓の鉛をキレートするのに効果的。忍容性は一般的に良好だが高用量では(100-1000mg/kg)妊娠中の母体毒性、胎児毒性を示すことがある。EDTAがより好ましい。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19663612
DMPS
DMPSの経口吸収はDMSAよりも39%高い。排出半減期は20時間。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8113976/
コリアンダー
3~7歳児へのコリアンダー抽出物投与による鉛排出の効果
2週間のコリアンダー使用グループでは、平均血中鉛濃度は有意に減少、尿中鉛濃度は増加、鉛の腎排出は増加した。しかし、対照群においても有意に低下しており解毒教育の効果が反映された可能性がある。
journal.bums.ac.ir/browse.php?a_id=337&sid=1&slc_lang=en
マウスへのコリアンダー投与は、大腿骨の鉛沈着および腎臓の鉛誘発損傷を有意に減少させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11535365/
メチオニン
EDTAキレートは鉛の尿中排出を促進したが、メチオニンは鉛の糞中排出を有意に増加させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2514724
タウリン
タウリンの投与はカドミウムによって誘導されたマウス脳の酸化障害の予防に有効であることが見出された。タウリン投与の抗酸化力は100mg/kgまで直線的に増加する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18548748
カルノシン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9765790
カルノシンは、鉛によって誘発されたラットの酸化ストレス、腎障害を防止する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26255262