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脳の働きの劣化の問題は、細胞ではなくシナプスだ。
細胞を一秒に一個 一日85000個失って130歳まで生きたとしても、失われるのは脳全体の10%にすぎない。
シナプスを失うとは、ニューロン間の伝達を失うということだ。
「記憶が消えるとき」ジェイ・イングラム
アリセプト(ドネペジル)
アリセプトという認知症の薬はどこまでも、対処療法でしかないと言われている。。進行の抑制効果も摂取していないグループと比べて平均すると2年長いぐらいだ、病気を治すわけではなく進行を先延ばしするという意味ではたしかにそうだ。ただ、自分は逆にずっと不思議だったのが、脳内のアセチルコリンを増やすだけでなぜ2年も効いてくれるのかということ。
たしかに、患者の立場から見ればたったの2年と思うかもしれないけど、そのアリセプトの背後には何百という薬が、認知症に効果があると期待されてテストされてきたが、まあ、ことごとく承認試験で失格となっている。
これらは2年の対処療法としての効果しかないアリセプト以下の効果だったわけだ。
承認にこぎつけなかった薬の働く仕組みを見る限り、もっと根本的に効きそうなものもあったりするのだが、、
アセチルコリンの海馬新生作用
若年性アルツハイマー病はまず海馬とその周辺がダメージを受ける。また進行が早いタイプのアルツハイマーほど、海馬機能の悪化が他の脳部位よりも早く進む。
アセチルコリンはこの海馬の細胞を増やす作用もある。
だから、アリセプトによるアセチルコリン増強は、単に情報伝達の材料を補うといっただけの話ではなく、脳神経細胞の修復作用もあって、そのおかげで他の薬にはない2年の引き伸ばし効果が得られるのかもしれない。(あくまで憶測)
喜怒哀楽
アセチルコリンがアルツハイマーと深く関わっていることは知られているが、ドーパミンがアルツハイマーとどの程度関わっているかについては、まだはっきりとしたことがわかっていない。
参考元:www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4174765/
最近気になった記事は、ドーパミンやアドレナリンなどのカテコール核は、タウ蛋白凝集を防いでいるかもしれないというものだ。
参考元:http://www.amed.go.jp/news/release_20151216.html
その前に少し解説が必要だが、神経伝達物質はお互いに競合しあっているところがあって、アセチルコリンがたくさんシナプスから放出されると、こんどは逆にドーパミンが抑制気味になってしまう、逆もしかりでドーパミンがたくさん出ていると、今度はアセチルコリンが抑制気味になるというバランス説がある。そしてアセチルコリンはカテコール核を持たない。
そのため、ドーパミンが不足しているパーキンソン患者に、アセチルコリンを抑制する薬を与えればドーパミンが増えるんじゃないあという理屈で、抗コリン薬が開発されたこともある。
つまりアリセプトで24時間365日アセチルコリンが脳内でフル回転している状態だと、ドーパミンも常に抑制され、ドーパミンなどのカテコール核によるタウ蛋白除去の働きが邪魔されるために、タウ蛋白凝集が進行し悪化してしまうのではないかということを、ちょっと思いついたのだ。
アルツハイマーになる人には、生真面目な人、仕事人間な人が多いって聞くけど、(うちの母もそう)ひょっとするとそういう人たちは、仕事に没頭したりとかでアセチルコリンばかりを使うようなことばかりしていて、喜んだりした時にでるドーパミン、興奮した時に出るアドレナリンを放出する機会が少ないせいで、タウ蛋白が分解される機会を失ってしまっているのではないだろうか?
まとめてしまうと、アセチルコリンが常に抑制された状態が認知症患者に良くないのは、自明だが、アセチルコリンが常に放出された状態もそれはそれでまずいのではないかということだ。
この理屈に従うと、脳内の神経伝達物質をアセチルコリン優位にしつつも、時々ガス抜きのようにドーパミンやアドレナリンが優勢になるような生活、又は投薬方法がより認知症患者の人にとっては効果的ということになる。
ちょっと話の水準を変えると、人間はひとつのタイプの感情に偏って生きると、生理学的な意味でもひずみが発生するようにできているのではなかろうか。
美味しいものを食べたりして感じる幸福感も、何かに無我夢中で仕事に没頭しているフロー状態だとか、どちらも脳の健康には必要で、ネガティブな感情、怒ったりだとか泣いたりとしたことも、時には体の仕組みとして必要なのかもしれない。
一般的には良くないとされているストレスでさえも、緩和の伴うストレスが必要だということが多くの研究者によって示されている。
※緩和の伴わない持続したストレスは、たとえささいなストレスであっても、身体に致命的な作用を及ぼす。
妄想気味な考えかもしれないが、この種のことは一般の人にも認知症患者にも当てはまる話ではないだろうか。
アリセプトをやめたら症状が改善したという話しをチラホラ聞いたことがあるのだが、今までそれについては、上で書いたようにアセチルコリンによって抑えられていたドーパミンが反動でドパッとでるため、一時的にハイになって改善したかのように見えるだけではないかと思っていた。
だがひょっとすると大量のドーパミンによって、タウ蛋白が除去されるということが関係しているのかもしれない。まあそんなすぐには除去されないだろうが。
そこでアリセプトの投与をやめてドーパミンを増やすという考え方が出てくるが、それはなかなか怖くてできない。アセチルコリンの受容体の数が激減しているので、薬をやめてしまうと今度は極度に脳内のアセチルコリンが不足してしまい、病状が一気に悪化する可能性が高まるからだ。そして一度悪化すると回復は困難になる。。
ガランタミンの優位性
そこで、もうひとつ思いついたことではあるが、レミニール(ガランタミン)に切り替えると、ドーパミン不足によるタウ蛋白の蓄積が多少は和らげられはしないだろうか。
なぜならレミニールはアセチルコリンだけでなく、ドーパミンやエンドルフィンなど他の神経伝達物質も同時に増強する作用をもつからだ。(そのため相対的にアセチルコリンの作用は弱まる)
レミニールによるドーパミンの増加量は2割増しぐらいらしいから、大きくは期待できないかもしれない。ただ、母がアリセプトからガランタミンへ変更した時の反応を見ると、2割増しとは思えないほどの大きな臨床的な変化を感じた。
一番大きな変化は、以前読書天秤法の記事を書いたが、ガランタミンに変えてから本をまったく読まなくなったことである。
かといって、活動的でないかというとそうでもなく、ドーパミンが出ているのだろう。横で見てて明らかにハイになっていて、毎日が楽しそうであったりはする。
また、ガランタミンのもうひとつの優位性というか特性といったほうがいいが、血中の半減期がアリセプトと比べてとても短い。
アリセプトは80時間 ガランタミンは7~9時間と10倍近い差がある。
この短さは、それだけ薬物の血中濃度が一定しにくく、小まめに摂る必要もあるため、普通はデメリットとして見られていると思うのだが、一方でその短さによって、アセチルコリンの日内変動を作ることが可能になりもする。
アルツハイマー病 概日リムズの重要性 ガランタミンを用いた日内変動コントロール
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19032118
通常の朝晩摂取だとしても、次の接種までに血中濃度が半分を必ず切ることになる。また、活動的な朝に1錠摂って夜は半錠摂るといったようにして、日内変動の波をコントロールすることもできる。(医者の処方方法としては、おそらく認められていない)
夜の摂取量をなぜ減らすかといったことについては、以下の記事で書いているので参考にしてください。
ただ一方でリスクもあって、朝晩のうち一回でもガランタミンを飲み忘れると、次の摂取時間までほとんどアセチルコリンの増強作用がかなり弱まった状態にもなってしまう。(完全には切れない)
高用量を摂取していてアセチルコリン受容体がダウンレギュレートしまくっている患者さんが、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を切らしてしまうというのは、正直恐ろしい。
高用量の場合ハイブリッド摂取(それぞれ減薬した上でのアリセプトとガランタミンの同時併用)がむしろ安全な気がする。※これも処方方法としては認められていない
ガランタミンとアリセプトを比較した長期投与の成績を見ると、その効果の差は微妙だ。
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(アリセプトやガランタミンなど)とメマリーの組み合わせだと、明らかに、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤単体使用に比べて成績がいい。
メマリーとアリセプトの組み合わせに対して、メマリーとの組み合わせで、いくらかガランタミンが効果があるって感じ。ただ以下の記事に詳しく書いてあったが、大人の事情もあるようでほとんど差はないと考えておいたほうがいいかもしれない。
dislocon.blog.fc2.com/blog-category-6.html#entry130
そうなると効果があるかどうよりも、QOLと副作用で選んでしまってもいいのかなと思ってしまう。
しかし、仮にだが、ドーパミンによるタウ蛋白凝集を防ぐ効果がガランタミンと関係しているのであれば、その効果の優位性は患者のタウ蛋白の蓄積度に依存するのではないだろうか。
そして、アセチルコリンの強い海馬神経新生作用と、ドーパミンのタウ蛋白除去作用というそれぞれの仮定をおくなら、ガランタミンとアリセプトを期間を決めて交互に繰り返し投与すると、よりリスク分散に結びつかないだろうか。
見方によっては、アリセプトのアセチルコリン増強による海馬新生の役割と、レミニールのドーパミン増強によるタウ蛋白除去のいいところ取りと考えることができるかもしれない。
この考え方は間違っているかもしれないし、交互投与したケースなんてないだろうから、なんの根拠もないので、あくまで感覚的な話なのだが、交互投与のほうが多少引き伸ばし効果が高いんじゃないかなと思っている。これだと医師の処方が可能な範囲にも収まるよな?
ガランタミンを使用するにせよアリセプトを使用するにせよ、メマリーとの組み合わせは臨床報告を見る限りは、とっとけって感じだ。
※ブレデセン博士のその後の臨床報告では、メマリーとアセチルコリンエステラーゼを併用した患者は、MENDプログラムの治療効果が弱いと書かれている。。
仮に交互投与を実行するとすれば、アリセプトの半減期が70時間と長いため、最低数週間単位から数ヶ月単位で変更する必要があるだろう。
ちなみに、ガランタミンもM1ムスカリン受容体とα7ニコチン性アセチルコリン受容体アセチルコリンを刺激して海馬の神経新生を促進するようだ。
参考元:https://www.carenet.com/news/general/carenet/38164
受容体の感受性も高めてくれるらしいので、受容体の閾値の底上げをしてくれるかもしれない。
※医師の指示と異なる投与法を推奨する記事ではありません。