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概要
神経保護の歴史をもつメチレンブルー
メチレンブルー(塩化メチルリチオニウム)は1876年にドイツの科学者Heinrich Caroによって作られた。20世紀初頭には、すでに精神科医によって統合失調症の実験的治療薬としてメチレンブルーが用いられている。
その後一世紀以上にわたるメチレンブルーの神経組織に及ぼす影響の観察から、メチレンブルーが神経保護作用と記憶増強効果を有することが再び発見された。
安全性の高い治療薬
その他メチレンブルーは歴史的に尿路感染症、マラリア、メトヘモグロビン血症の治療に使用されてきた治療薬としても知られている。(尿路感染症は現在では使われていない)
現在WHOではメチレンブルーが効果的で安全な中毒などの解毒剤として必須医薬品リストに掲載されている。
神経変性疾患
最近の研究の証拠でも、メチレンブルーが健常な動物、ヒトの記憶を効果的に改善することが支持されている。
メチレンブルーは現在、軽度認知障害(MCI)、早期アルツハイマー病、パーキンソン病、レーベル遺伝性視神経症、ミトコンドリア機能障害と関連する神経変性障害の潜在的な薬物療法としても再導入が試みられている。
低用量で示す神経保護効果
メチレンブルーの神経生物学的効果は、受容体との相互作用、薬物の用量反応関係では決定されず高用量(マイクロモル)と低用量(ナノモル)で異なる効果を示す。
1μM = 320mcg/l
メチレンブルーの多面的に作用する独特の神経保護効果は、低用量で用いる場合に最大限発揮される。
アルツハイマー病
アルツハイマー病患者へのメチレンブルーは、タウ凝集阻害剤のアプローチとして第三相まで進められたが、プラセボ郡との比較において疾患の進行に違いは示されなかった。
しかしプラセボ群解析の予想外の結果などから低用量での追試が計画されている。(詳しくは後述)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3265679/
メチレンブルーの多彩な抗認知症作用
ミトコンドリア機能の改善
タウリン酸化を阻害することで、アミロイド班形成を弱めミトコンドリア機能の障害を部分的に逆転させる。
メチレンブルーは、ヘム合成、シトクロムオキシダーゼ(複合体Ⅳ)、およびミトコンドリア呼吸を増加させることが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20463399
記憶能力の改善
ミトコンドリアを介した記憶増強および神経保護に関連するメチレンブルーの作用機序
MBH2=ロイコメチレンブルー
メチレンブルーの記憶増強と神経保護の代謝メカニズム
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3265679/
アルツハイマー病患者の海馬ミトコンドリア、血小板では複合体Ⅳの活性低下が観察されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22685618/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17928358/
タウ阻害作用
タウ凝集の拡散防止
異常なタウ、αシヌクレイン、TDP-43はプリオン様の特性を有し、神経変性疾患において脳全体に広がることを強く示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27658420
メチレンブルーはタウ凝集の自己触媒的なプリオンの拡散を防ぐ作用を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27658420
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5870021/
タウタンパク質の低下
メチレンブルーは、ミスフォールディングプロテイン(PrP)表面と結合し、オリゴマー形成、凝集物の形成を阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23022479
メチレンブルーはミスフォールドされたタウタンパク質の脳内濃度を低下させることが報告されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19433072
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21040568/
神経伝達物質系への作用
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21040568/
アルツハイマー病の認知機能とも関わるコリン作動性、セロトニン作動性、グルタミン酸作動性神経伝達物質系の代謝へも影響をおよぼす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19433072
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22483305
オートファジーの誘発
メチレンブルーは試験管モデル、動物モデルの両方においてタウオパチーを有意に減少させた。この分析によってメチレンブルーがラパマイシンと同様の機序(mTOR、Akt)を示唆することが見出された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22361619/
2mg/kg のメチレンブルー治療は、マウスの総タウレベルの有意な減少をもたらしたが、使用された用量のどれもサルコシル(sarkosyl)不溶性タウ(異常型タウ)レベルの有意な変化をもたらさなかった。
メチレンブルーはHSP70ATPase活性の阻害剤であり、HSP70の活性低下は総タウ、リン酸化タウレベルの低下をもたらす。MBはHsp70活性を約80mMのEC50で阻害する。
Hsp70がタウタンパク質の分解を防ぐ防御的役割を果たす可能性がある。
www.tandfonline.com/doi/abs/10.4161/auto.19048
プロテアソーム活性
メチレンブルー投与のADマウスではATP産生レベルに差はなく、メチレンブルーがミトコンドリア機能へ有意な変化を引き起こさない。メチレンブルーはアミロイドβは減少させるが、タウレベルは減少させない。
メチレンブルーはADマウスのプロテアソーム活性を増加させる。このメカニズムはわかっていないがメチレンブルーのアミロイドβの減少はプロテアソーム活性の増大による可能性がある。
高用量ではないメチレンブルーの学習や記憶改善効果は、主にプロテアソーム活性によるものかもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20731659
NOS・cGMP阻害作用
メチレンブルーは一酸化窒素合成酵素、グアニル酸シクラーゼの阻害剤である。
これらの阻害は低血圧を改善することがわかっている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19433072
メチレンブルー その他の作用
健常者の認知能力
無作為化二重盲検プラセボ対照 26名の健常者(22〜62歳) メチレンブルー(〜280m)/日を投与。
低用量メチレンブルー投与は、持続的注意、短期記憶課題、記憶増強、MRI画像において機能的な活性の増加と関連していた。
前頭前野、頭頂葉、後頭皮質のfMRI画像の活性と関連して、記憶検索テストの正解率がプラセボ郡と比べ7%の増加を示した。
vitalsigns.com.ph/methylene-blue-improves-short-term-memory-attention-and-cognition/
メチレンブルーの抗菌・抗ウイルス
カンジダ感染症治療
メチレンブルーはミトコンドリア呼吸鎖の阻害作用によりカンジダ・アルビカンスが酵母から菌糸への移行を阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4780517/
閉所恐怖症患者の恐怖への影響
メチレンブルーは恐怖の克服に成功した後に投与されると、記憶および恐怖の消失が強く維持される。
反対に失敗後に投与されると、恐怖を失くすことに有害な影響をおよぼす可能性がある。
メチレンブルーの皮膚老化防止作用
メチレンブルーは健常者および早老症患者由来の培養ヒト線維芽細胞において強力なROS捕捉効果を示す。この効果はNアセチルシステイン、MitoQ、mTEMよりもより効果的であった。
また高齢者の古い皮膚線維芽細胞の表現型を減少または逆転することを示した。
メチレンブルーの適用は、in vitroにおいて、皮膚の生存率を改善し、創傷治癒を促進、皮膚の水分補給、真皮の厚さを増加させる。
遺伝子発現分析では、メチレンブルー治療が健康な皮膚に必須のエラスチンおよびコラーゲン2A1をアップレギュレーションすることを含め、細胞外マトリックスタンパク質のサブセット発現が変化することを示した。
メチレンブルー治療は、IGF-1転写のアップレギュレーションを介して真皮中のコラーゲンを増加させることが示される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28559565
近赤外線照射と同様の神経保護効果
低用量メチレンブルーと近赤外線療法(LLLT)は、同じメカニズムによる神経保護効果を有し、脳のシトクロムオキシダーゼ酵素活性による神経細胞の酸素消費量を増加させる。
www.frontiersin.org/articles/10.3389/fncel.2015.00179/full
低用量LMTM
低用量プラセボ群での治療効果
18ヶ月間100mg/日のロイコメチレンブルー(LMTM)を投与した被験者では、プラセボと比較した場合、アルツハイマー病症状の改善を示さなかった。
ロイコメチレンブルーの投与は尿の色が変化してしまうため、盲検法を実施するため少量不活性であると考えられる量(4mg×2回/日) のLMTMをプラセボ郡に加えられている。
単独療法において有効
その後の分析によってプラセボ郡への投与量が投与群よりも有効であることが示された。
さらなるサブグループ分析によって、低用量LMTMを抗認知症治療薬と併用していたグループでは効果が示されず、単独で投与していたグループにのみ低用量LMTMが有効であることが見出された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29154277
A3 水色実践はプラセボ低用量群(8mg/day)メチレンブルー単独
A3 水色点線はプラセボ低用量群(8mg/day)アルツハイマー病治療薬との併用
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5870021/figure/jad-62-jad170727-g008/
メチレンブルー ホルミシス応答曲線
ホルミシス応答のピーク 4mg/kg
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20463863/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3265679/
高用量メチレンブルー
高濃度のメチレンブルーは、電子を電子輸送鎖錯体から電子を奪い活性を損なう。
中程度の用量(3mg / kg)低用量(1mg / kg)が全身性および肺血管抵抗性および酸素摂取を改善する。
4mg / kgは記憶増強において最も信頼できる用量
4mg / kgのメチレンブルーを5日間投与、先天性無力患者の記憶維持を有意に改善
げっ歯類でのメチレンブルーのホルモン用量応答は、1〜4mg / kgで行動に影響をおよぼし、10mg / kgで無効になる
メチレンブルーの投与量
メチレンブルーには明確な推奨用量というものがなく、高用量で個別の疾患を目的としたものか、中用量(研究者は低用量と呼ぶ)ホルミシス応答を利用した健康効果を目指すか、低用量でミトコンドリア機能を高めるかなどによって変わってくる。
低用量にも、さらに少量のマイクロ用量が適切であると考える個人もいる。MBの特に長期投与の証拠が限られているため、このあたりはリスクとベネフィットを個人的にどう考えるかなど、主観的な要素も加わってくる。マイクロドースでは期待するベネフィットが十分に得られるかどうかは別として、リスクはベネフィット以上に低くすることができるだろう。
以下に用量別のコンセプトをおおまかに示す。
メチレンブルー投与量 参考
- 0.06~0.3mg/日 ナノモル用量
- 0.4mg/日(70mcg/kg)ミトコンドリア増強
- 0.4mg メチレンブルー1%溶液約一滴に含まれるメチレンブルー
- 0.5mg以上 尿が青くなり始める投与量
- 1mg以下/日 金魚メチレンブルーでの長期的な安全上限
- 1.8mg(体重60kg換算)試験管研究で示されたアンチエイジング効果の最小用量濃度100nM 分布の偏り、蓄積性、吸収率を無視した場合)
- 1~5mg/日 一般的に向知性薬として用いられる用量
- 8mg/日 LMTM臨床試験での改善結果を示した低用量
- 10mg以下/日 研究グレードMBでの長期的な安全上限
- 30~240mg/日(0.5~4mg/kg)ミトホルミシス用量
- 60~120mg(1~2mg/kg)メトヘモグロブリン血症治療
- 120mg/(2mg/kg)副作用がない安全な上限量
- 240mg(4mg/kg)ミトホルミシスの最適用量・記憶改善
- 300mg(5mg/kg)セロトニン中毒の可能性
- 600mg/日(10mg/kg)中用量 おそらく効果なし
- 600mg~ 高用量 タウ凝集阻害作用
- 2160~4320mg(36~72mg/kg)抗マラリア薬
※体重60kgの場合
摂取タイミング
個人入手の還元されていないメチレンブルーは食事によって吸収が妨げられるため空腹時に摂取、または舌下投与であれば食事時間と関係なく摂取できる。医薬などの還元化型メチレンブルー(LMTX)は安定性が高いため食事との併用が可。
ホルミシス用量
4mg/kg日(体重60kgの場合240mg/日)
一日朝一回に限定
これを超える用量は、有害性が利益を上回る可能性が高いと考えられ推奨されない。
また一般に入手できるメチレンブルーでは不純物のリスクも生じるため、この用量を用いる場合は信頼のできる医薬品グレードのメチレンブルーを使用する必要がある。ホルミシス応答の特性を考えれば、朝または昼に一回、毎日か隔日投与でも良いかもしれない。
一般的なメチレンブルーの開始用量
0.5mg/kg(体重60kgの場合30mg/日)
抗酸化剤・ミトコンドリアエンハンサー・アンチエイジング
70 mcg/kg
0.1~30mg/日
LMTM臨床試験結果に基づく低用量
4mg×2回/日
投与の簡易化
メチレンブルー投与量が3mgである場合はメチレンブルー溶液は0.3g(0.3cc)
再度アルミ箔に滴下して0.3gに達するのに何滴ドロップするかをカウントする。
次回からはそのドロップ数を滴下していく。
低用量で用いる場合、多少の誤差は許容される。
プラセボ・テクニック
メチレンブルーはプラセボ薬として用いられることがある。メチレンブルーの摂取により尿の色が変わるため、尿の色が変わることが改善したことを示すサインであると患者に伝える。尿の色の変化に不安を感じる被験者も多いため、予め伝えておくことでノセボを回避する意図もある。
低用量でのプラセボ相乗効果
アルツハイマー病LMTM投与研究のサブグループ解析では、プラセボ4mg投与群において、プラセボ薬ではなく用量濃度の違いであることを理解した患者は高用量の患者よりも優れていた。ただしAChE阻害薬、メマンチン等のアルツハイマー病治療薬を摂取していない場合に限られた。
尿の色を変化させない
メチレンブルーの摂取3時間前にビタミンC(アスコルビン酸)と混ぜることで、尿が青くなることを防ぐ。または0.5mg以下の用量を用いることで、尿の青さを軽減できる。
メチレンブルーの副作用
メチレンブルーの副作用は実質的に高用量でのみ生じうる。
治療用量である2mg/kg以下では安全に使用できる。
セロトニン中毒
メチレンブルーはモノアミンオキシダーゼ阻害剤(MAOI)であるため、5mg/kgを超える用量を静脈投与すると、セロトニン症候群、セロトニン中毒を起こす可能性がある。ただしSSRIなどとの併用であったり、特定の精神疾患、神経変性疾患においては、より低い線量(>10mg/日)であっても注意が必要となる。
パルスオキシメーターの誤作動
メチレンブルーはパルスオキシメーターの照射を妨げるため、酸素飽和度の測定が誤って低下させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12845393/
その他
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15854942/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12830064/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16313674/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15976222/
CoQ10、イデベノンとの競合
メチレンブルーはCoQ10、イデベノンと類似する作用があり、競合する可能性があるため摂取量が多い場合は、同時に摂取することは避けておいたほうが良いかもしれない。
メチレンブルー溶液
市販メチレンブルーの危険性
メチレンブルーに含まれる汚染物質は低用量では大きな問題にならないが、高用量では医薬品グレードであっても、ヒ素、アルミニウム、カドミウム、水銀、鉛などの不純物が含まれる。
染料または染色剤として販売されている工業用グレードおよび化学グレードのMBは、さまざまな汚染物質が含まれている。8%
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17928358
純度の高いメチレンブルーの入手は難しく、医薬品グレードであっても不純物が混入している可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19804809/
ただし、マイクログラム用量で使用する場合、仮に有害金属が数%レベルで混入していたとしても、日常の食生活や環境から入ってくる許容毒性量の枠内に収まるため、実質的にはさほど心配する必要はないと考えて良い。
研究グレード99%程度の純度が確保できるなら、数mg~10mg/日程度までは許容されうる。
メチレンブルー溶液の作り方(1%希釈)
ツール
- メチレンブルー原末 医療、研究グレード以上 98.5%~
- 蒸留水 30ml
- スポイト付きの滴下可能な遮光瓶 30cc~
- 精密スケール 0.01gまたは0.001g計測 1000~2000円程度で市販されている
- アルミホイル 約3cm角
- ミニ漏斗(なくても可)
作り方
- 精密デジタルスケールにアルミホイル角を載せ、その上にメチレンブルー原末を耳かきなどを利用して0.3g(300mg)を載せて測る。
- 遮光瓶へ入れるのにアルミホイルを二つ折りにして容器にメチレンブルーを投入
- 蒸留水30mlを遮光瓶に投入
- 軽く振って1%希釈のメチレンブルー溶液の出来上がり。
- 精密デジタルスケールに10滴ほどたらして10で割り、一滴の大体の重さ把握しておく。一滴は約0.04~0.1cc。
1mlに10mgのメチレンブルーが含まれており、一滴が約0.05gであれば0.5mgのメチレンブルーに相当する。 - 冷蔵庫で遮光保存すること。
MB1%の濃い濃度では安定的であり遮光密閉状態であれば、比較的長期保存が可能。
メチレンブルーの脱色
メチレンブルーは光触媒効果により脱色するため、紫外線が当たる環境であれば時間とともに色あせていく。還元反応によっても脱色するため、すぐに脱色させたい場合は、クエン酸、ビタミンC溶液などの酸性溶液を吹きかけてみる。