Contents
フタル酸エステル類と代謝物
Industrial Toxicants/Phthalates Ester and Metabolites
概要
ja.wikipedia.org/wiki/フタル酸エステル
en.wikipedia.org/wiki/Phthalate
多くの工業製品
フタル酸エステル類は、プラスチックの柔軟性、透明性、耐久性、寿命を高めるために使用される添加物質。
フタル酸エステル類を含むプラスチックは、食品包装、歯ブラシ、おもちゃ、バス用品、マニキュア液、スキンケア製品、ヘアスタイリング製品、ネイルエクステンダーなど、日常的に幅広く利用されており、大多数の人はある程度フタル酸エステル類にさらされている。
www.sixclasses.org/videos/bisphenols-phthalates
略語
- mMP(フタル酸モノメチル)
- mEHP(モノ[2-エチルヘキシル]フタル酸)
- mEP(フタル酸モノエチル)またはモノエチルフタレート(MEP)
- mBP(フタル酸モノ-n-ブチル)
- mEOHP(モノ-[2-エチル-5-オキソヘキシル]フタレート)
- mEHHPフタル酸モノ[2-エチル-5-ヒドロキシ-n-ヘキシル]
- DEHP(フタル酸ジ[2-エチルヘキシル)
- DMP(フタル酸ジメチル)
- DEP(フタル酸ジエチル)
- DBP(フタル酸ジ-n-ブチル)
- ACN(アセトニトリル)
暴露源
フタル酸ジエチルは、多くの工業製品、入浴剤、美容製品、化粧品、香水、経口医薬品、昆虫忌避剤、接着剤、インク、 漆、洗剤、などに含まれる
フタル酸ジエステルは日常的に幅広く使用されているため、それらの製品との日常的な接触、室内の空気、ほこりの吸入などによっても暴露する。
食事
食事はフタル酸エステルの最も一般的な供給源、牛乳、バター、肉などの脂肪の多いが食品が主な供給源となる。プラスチック容器を利用した暴露よりも特定の食物からの摂取による暴露が大きい。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25376446
ファーストフード
2003年から2010年にかけて行われた9,000人のデータを分析した研究では、ファーストフードレストランで食事をしたと報告した人では、尿中のフタル酸エステル(DEHPとDiNP)がはるかに多いことがわかりった。
ファーストフードのわずかな消費であっってもフタル酸エステル類の暴露は高まる。ファーストフードを少ししか食べないと報告した人は、何も食べていないと言った人よりもDEHPレベル15.5%、DiNPレベル25%増加した。
ファーストフードをかなりの量食べていると報告した人では、DEHP24%、DiNP39%の増加を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27072648
缶詰
週に一回以上、缶詰を食べている被験者では、フタル酸(2-エチルヘキシル)の代謝物であるMEHHP濃度が高い。
プラスチック製品
プラスチック容器での保存
脂質を多く含む食材をプラスチック容器で保存している人では、フタル酸(2-エチルヘキシル)の代謝物であるMEHHP、MEHPの尿中濃度が高い。
子供の口遊び
子供がフタル酸エステルを含む製品を口に入れたり、噛んだり、吸ったりすることによって、子供の口腔から侵入する。
化粧品経由(女性での高値)
女性の尿中MEPレベルは男性より高い。これは認可対象ではないDEPが化粧品や衛生用品などで広く使用されていることを意味する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6163747/figure/ijerph-15-01950-f001/
医療機器
医薬品賦形剤
フタル酸ジn-ブチル(DNBP)は、医薬品製造の賦形剤、腸溶性コーティングとして使用される。オメプラゾール、ジダノシン、メサラミン、テオフィリンなど。
DBP代謝物であるAsacol(メサラジン)使用者のフタル酸モノブチルの尿中濃度は、非使用者の平均よりも50倍高いことがわかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19270786
職業暴露
プラスチック・グラスファイバー工場
ガラス繊維強化プラスチックを扱う工場
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19059432
toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search/a?dbs+hsdb:@term+@DOCNO+171
地域・場所
都市部・郊外
都市部、郊外では農村、田舎地域よりも屋外での高いフタル酸エステル濃度を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2677823/
PVC製床材
気温が高いと空気中のフタル酸エステル濃度は高くなる。PVC床材はBBPとDEHPのより高い濃度をもたらし、ホコリに多く見られる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2677823/
検査
フタル酸モノエチル(MEP)
(MEP)Monoethylphthalateはフタル酸エステル暴露のバイオマーカーとして用いられる。
フタル酸エステルは、容易に分解する傾向があるため、環境的には永続に残らない。
同様に体内でも迅速に代謝され酸化生成物を生成する傾向にある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16332407/
部分的にはグルクロン酸抱合反応により尿中、より少ない量が糞便として排出される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14574443/
短期的暴露指標
フタル酸エステルは急速に代謝、分解される。このことから工業生産および環境中への広がりが許容されることとなり、屋内外、土壌、空気中など様々な空間に存在する。
フタル酸エステルの迅速な代謝と排出速度から、検査値のレベル高値は過去の暴露を示しておらす、日々または週単位での変動を示す可能性がある。そのため単回の尿検査では過去の暴露評価ができない。
健康リスク・疾患リスク
フタル酸エステル類とその代謝物は、動物の生殖、胎児の発達に対して毒性を有する。
ヒトへの悪影響は完全に文書化されていない。
内分泌撹乱
DEHP(フタル酸ジ2-エチルヘキシル)は、内分泌かく乱物質としてよく知られている。DEHPは非常に毒性が高く、LC 50(死亡率50%)は0.5ppmである。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5842715/
EDC-2:内分泌かく乱化学物質に関する内分泌学会の2番目の科学的声明
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4702494/
テストステロンの低下
フタル酸エステル類は、血液凝固を妨げ、テストステロンを低下させ、子供の性的発達を変えることも解明されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15749265/
フタル酸は内分泌かく乱物質として作用し、エストロゲン受容体と相互作用することでホルモンの恒常性を妨害する。
DNBP、DEHPは、 in vivoで1.5ppmの濃度で抗アンドロゲン作用を示し、テストステロン濃度と精子の産生量を減少させた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8593856/
女性化
低レベルのフタル酸は胎児の男性脳を女性化し、高レベルでは発達中の男性の脳を過剰に男性化させる。
認知機能
DEHPの暴露は、脳へのリスクがあると考えられている。
性差と神経発達
出生前のフタル酸エステルの暴露は、生後1年間の神経発達と行動に影響をあたえる。
フタル酸エステル類の神経毒性作用は、男児よりも女児に対して脆弱である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23747553
神経伝達物質の低下
フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)に曝露した魚は、神経伝達物質の活性の低下と行動の変化を示した。
www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048357506001313
アセチルコリンエステラーゼ活性の阻害
DEHPはゼブラフィッシュ胚のアセチルコリンエステラーゼ活性を有意に阻害し、グリア線維性酸性タンパク質およびミエリン塩基性タンパク質を上方制御することを示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24042840
タウのリン酸化
出生前にDEHPに暴露された老齢ラットでは、認知機能障害およびタウタンパク質のリン酸化の増加を引き起こすことが観察された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22610992/
相乗的毒性
日常生活において人はフタル酸エステル類とPCB類の両方に曝されている。PCBはフタル酸代謝に関与するグルクロン酸抱合酵素と相互作用する可能性が示唆されており、フタル酸エステルと相乗的毒性効果を示す可能性がある。
不妊症カップル303人の男性の調査では、精子運動性の低下の潜在的な原因として、フタル酸エステルとPCBの相互作用毒性が示唆された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15811833
アレルギー
子供のアレルギーはフタル酸エステルへの暴露と関連する。
linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1352231008007978
キノリン酸の増加
フタル酸エステルはトリプトファン代謝を妨害することにより、キノリン酸の上昇を引き起こす可能性がある。
インスリン抵抗性の増加、グルコース代謝の低下
フタル酸ジエチルヘキシルは高齢者の酸化ストレスを介したインスリン抵抗性と関連する。
doi.org/10.1371/journal.pone.0071392
フタル酸エステル代謝産物はアメリカ人男性の腹部肥満およびインスリン抵抗性と有意に相関する。
ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/ehp.9882
journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0060030
www.nature.com/articles/ijo2008207
academic.oup.com/jcem/article/100/11/4172/2836122
高脂血症・高トリグリセリド
www.psychiatrist.com/jcp/article/Pages/2014/v75n12/v75n1212.aspx
肥満(PPARアゴニスト)
ノエチルヘキシルフタレート(MEHP)、フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)の代謝物への曝露は、動物の3つのPPARと相互作用する。
MEHPは選択的PPARγモジュレーターであり、肥満の原因となる可能性がある。
europepmc.org/abstract/MED/19433246
腎臓・肝臓
内分泌撹乱に加えて、毒性効果があり、腎臓、肝臓への影響をもたらす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16234408/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12842765/
癌・免疫
高濃度のフタル酸エステル類暴露は、白血球機能の低下、腫瘍の発生に影響する可能性がある。
慢性閉塞性肺疾患
高スチレン曝露の可能性がある580人の労働者のCOPD死亡率は2倍に増加。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26574575?dopt=Abstract
生殖障害・母体
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20368132/
胎児の死亡率増加、幼少期の奇形
www.psychiatrist.com/jcp/article/Pages/2014/v75n12/v75n1212.aspx
母体の尿中の高いフタル酸エステルレベルは、男性児の肛門性器間の距離との間に相関関係が発見された。これは男性児の女性化を示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16079079/
カンナビノイド系
フタル酸エステル類は、アロステリック拮抗薬として、CB1受容体を阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3951193/
治療アプローチ
カリフォルニア州のバイオモニタリングによるフタル酸エステル類ファクトシート
biomonitoring.ca.gov/sites/default/files/downloads/FactSheet-Phthalates.pdf
暴露源を遠ざける
フタル酸が用いられている化粧品や衛生用品を避ける。(特に女性)
プラスチック包装された食品や缶詰食品の摂取を避ける。
プラスチック容器を保存用として使用しない。(特に脂肪の多い食品)
電子レンジでプラスチック容器を使うことを避ける。
熱い食べ物の食器、食器は、ガラス、磁気、ステンレス製を使う。
食事や調理の前に手を洗う。特に子供。
定期的に床を掃除しホコリを取り除く(フタル酸エステルはほこりとしてたまる)
化学物質の解毒能力を高める(グルクロン酸抱合)
アブラナ科野菜の摂取
(スルフォラファン・イソチオシアネート)
www.functionalmedicineuniversity.com/public/922.cfm
クレソン
cebp.aacrjournals.org/content/8/10/907.long
柑橘類
academic.oup.com/jn/article/139/3/555/4670380
グルタチオン補充療法
経口、静脈投与、経皮、N-アセチル-システイン
クリアランス(排出)能を高める
遠赤外線サウナ
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3504417/
ナイアシン補充療法
その他
αリポ酸
αリポ酸の投与は、フタル酸(BNBP)中毒ラットの精巣毒性を軽減する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24912129/
レスベラトール・クルクミン
レスベラトール、クルクミンは、フタル酸(DEHP)によって誘発された精巣損傷に対して改善を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26361869/
参照文献
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6163747/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25706863/
www.greatplainslaboratory.com/
journals.sagepub.com/doi/10.1080/10915810701352721
europepmc.org/articles/pmc5486284