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N-アセチル-L-システイン(NAC)
概要
N-アセチル-L-システインとは
N-アセチル-L-システイン(NAC)は、アミノ酸 L-システインをアセチル化したもので、数十年にわたって医療用途への探求が行われてきた栄養補助食品。
N-アセチル-L-システインは、最強の抗酸化物質と言われるグルタチオンの前駆体であり、体内ではシステインに変換され、強力な抗酸化物質、抗炎症作用を示す。
システインは鶏肉やにんにく、ヨーグルト、卵などの食べ物に含まれるが、N-アセチル-L-システインは天然の素材には含まれない。[R]
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25669310/
グルタチオンの材料
グルタチオンはグルタミン酸、グリシン、システインの三つのアミノ酸で構成されている。
システインは細胞内のシステイン濃度が3つのアミノ酸の中で一番低いため、システイン補充は特に欠乏状態において体内のグルタチオンレベルに大きな影響を与える。(システインはグルタチオン合成の律速段階)
生物学的利用能
グルタチオン自体は単独で経口摂取しても、腸管でその多くが加水分解されてしまうため、臨床的な効果は限られることが知られている。また腸管を透過したとしても脳のバリアである血液脳関門にほとんど阻まれてしまう。[R]
ただし、N-アセチルシ-L-ステインも小腸を通過する際に、肝臓で受けるのと同様に脱アセチル化反応を受けて、最終的に4~10%まで生物学的利用能は低下する。[R]
N-アセチル-L-システインの血液脳関門を通過する能力は論争されており、動物研究では血液脳関門を貫通し脳内で活性作用をもつことが示されているが、用量と投与経路によって変動する可能性がある。[R][R]
経口投与の半減期は6.25時間
アルツハイマー病への直接効果
抗酸化防御
アルツハイマー病患者へのN-アセチル-L-システイン投与は、脳内のグルタチオンレベルを高め、抗酸化防御システムを改善することを目的としている。
ヒトアルツハイマー病患者へのN-アセチル-L-システイン投与研究は行われており、有用な薬物としての潜在的な効果を示している。[R]
基礎研究
グルタチオン増強
げっ歯類へのN-アセチル-L-システイン投与は、脳グルタチオンの増強を示し、アクロレイン、ペルオキシナイトライト、ヒドロキシルラジカルなどの酸化種に対抗して保護効果が観察された。[R][R][R]
減少したアセチルコリンの改善
アミロイドβ投与のADマウスへのN-アセチル-L-システイン処置により、減少したグルタチオン、アセチルコリン、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を大幅に改善し、学習と記憶の改善が観察された。[R]
コリン作動性と脳エネルギー代謝の回復 N-アセチルシステイン投与による、マウスのコリン作動性および脳エネルギー代謝の回復による認知記憶障害の改善[R]
脂質過酸化保護
トランスジェニックAPP / PS-1マウスを使用したin vivo研究では、発症前に飲料水に経口投与されたN-アセチル-L-システインは、ニューロンの酸化的損傷を減少させ、タンパク質および脂質の酸化ならびにタンパク質のニトロ化を低減できることが示された。[R]
アポトーシスの軽減
アミロイドβに曝露したアルツハイマー病脳およびニューロン培養では、細胞はアポトーシスの特徴を示す。[R]
N-アセチル-L-システインは、アポトーシスに関連するシグナル伝達経路p35 / Cdk5活性の刺激効果、Ras / ERK経路の活性化、MLK3-MKK7-JNK3シグナル伝達カスケードのリン酸化/非活性化の減少など、抗アポトーシスシグナル伝達経路の活性化により、アミロイドβ毒性に対する保護効果を示す。[R][R][R]
アミロイドβ前駆体タンパク質転写の下方制御
NACはそのダウンレギュレーションを通じてAPP遺伝子の転写に関与している可能性がある。N-アセチル-L-システイン(NAC)がヒト神経芽細胞腫細胞のAPP遺伝子転写を下方制御する可能性がある。[R]
臨床研究
文字流動性課題の改善
二重盲検無作為化プラセボ対照試験 50mg/ kg のN-アセチル-L-システインを一日三回に分けて6ヶ月間投与。 24週目に、NACを投与されたアルツハイマー病患者は、プラセボグループと比較して文字流動性課題で有意に優れたパフォーマンスを示した。
その他の多くの認知機能スコアを改善したが、有意に改善しないスコアも存在した。
複合栄養素補充
認知パフォーマンス、BPSDの維持
1年間の非盲検試験 24人のアルツハイマー病患者への投与
栄養補助食品製剤 葉酸、ビタミンE(α-トコフェロール)、ビタミンB12、S-アデノシルメチオニン、N-アセチル-L-システイン、アセチル-L-カルニチンの投与。
アルツハイマー病患者は1年間認知パフォーマンスと、BPSDを維持した。[R]
時計描画課題(CLOX-1)の維持
34名の軽度認知機能障害患者 二重盲検無作為化プラセボ対照試験
葉酸、α-トコフェロール、B12、S-アデノシルメチオイニン、N-アセチルシステイン、アセチル-L-カルニチンを6ヶ月間投与。[R]
トレイルメイキング、数字記憶テストの改善
N-アセチルシステインを含む複合栄養素を摂取した参加者は、プラセボグループと比較して2週間以内にトレイルメイキングおよび数字記憶テストで改善を示した。
74歳以上の参加者の割合が増加すると、複合栄養素での改善が示されなかったが、これは年齢に関連した吸収率の低下および/または基礎的栄養素欠乏と関連するかもしれない。
今回の調査結果は、後期高齢者では追加の栄養補給が必要になる可能性があることを示唆する。[R]
NAC リコード法と関連する効果
毒素の解毒
鉛中毒
ミネラルへのキレート効果、鉛等(鉛はグルタチオンを不活性化させる)
水銀中毒
農薬 有機リン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26786042
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26946308
ディーゼル排気ガス
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4872652/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24814479
ホモシステインの低下
二重盲検無作為化プラセボ対照試験 4週間のN-アセチル-L-システイン経口投与(1.8g/日)は、喫煙者と非喫煙者両方のホモシステイン濃度を有意に低下させた。
N-アセチル-L-システインは、葉酸治療が無効である場合の代替オプションとして提供できる可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26447155
抗炎症作用
一酸化窒素・炎症性サイトカインの減少
ヒトのミクログリアおよびアストロサイトでは、炎症性サイトカインの放出と炎症経路の活性化は、細胞内グルタチオンレベルの減少に関連している。[R]
N-アセチル-L-システインはNF-κBと誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)酵素の両方の阻害を促進し、結果として一酸化窒素および炎症性サイトカインの産生が減少する。[R]
N-アセチル-L-システインは、TNF-αによって誘導されるNF-κBの活性化を阻害する。[R]
IL-8の低下
高用量N-アセチル-L-システイン(1200mg/日)の10日間の投与は、IL-8を有意に低下させる。[R][R][R]
グルタミン酸作動性刺激の低下
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21118657
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5241507/
ランダム化クロスオーバー N-アセチル-L-システイン投与はコカイン依存症患者のグルタミン酸レベルを正常化
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22549117
睡眠時無呼吸症候群
N-アセチル-L-システインの経口投与は、ベースラインから閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者の徐波睡眠、睡眠効率を大幅に改善した。
無呼吸-低呼吸指数、無呼吸関連覚醒、最長無呼吸エピソード持続時間、1時間あたりの酸素飽和度低下イベント、エプワース眠気スコアの大幅な減少を示した。
相対的いびき時間、いびきエピソードの数、最長期間いびきエピソードも大幅に減少した。プラセボグループではこれらの改善効果は明らかではなかった。
また、N-アセチル-L-システインは、脂質過酸化の有意な減少と総還元型グルタチオンの増加をもたらした。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21838198
インスリン抵抗性・2型糖尿病
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15998259
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22935960
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16368447
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27161488
SIBO・腸内環境
オメプラゾールとN-アセチル-L-システインの併用投与は、胃食道逆流症の一種である喉頭咽頭逆流(LPR)の改善に最も効果的であった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24390944
N-アセチルシステインの投与は、PPIの長期投与による胃および十二指腸における細菌の異常増殖を有意に減少させることができた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22955351
潰瘍性大腸炎患者へのメサラミンとN-アセチル-L-システインの併用投与は、MCP-1、IL-8などケモカインの減少と相関して臨床的改善を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18473409
摂取
組み合わせ効果
N-アセチル-L-システインは、ビタミンE、またはビタミンEとA、必須脂肪酸との組み合わせにより大幅に活性酸素種が減少することが報告されている。
αリポ酸 + N-アセチル-L-システイン
また、様々な研究の結果、リポ酸とN-アセチル-L-システインの組み合わせにより、ミトコンドリアのアポトーシスと酸化ストレスからの保護効果が最大化され、アルツハイマー病と関連するミトコンドリア機能低下を防ぐことが示唆されている。[R][R]
効果を最大化させるためには、空腹時に摂取が理想。
デトックスに用いる際、活性炭とは併用しない。(結合して不活性化するおそれ)[R]
摂取量
多くの人では600~1800mg/日の用量で恩恵を受けることができる。臨床研究では2000mg/日までの用量が安全で効果的であることが判明している。[R]
COPD患者へのNAC2800mg/日、3ヶ月間の投与は安全であることが実証されている。[R]
低用量での限られたグルタチオン合成
NACの低用量投与では健康な人の血漿システイン、グルタチオンは上昇させない。
ストレスによりグルタチオンの需要が増加した場合に、N-アセチル-L-システイン投与はグルタチオン合成をサポートする。[R]
高用量でのアポトーシスリスク
低濃度のN-アセチル-L-システインは細胞増殖を促進するが、高用量ではアポトーシスを引きおこす可能性がある。[R][R]
有害作用の閾値
N-アセチル-L-システインの有害作用が増加する閾値は70mg/kg(60kg体重換算で4200mg)
70mg/kgまでは血漿システイン濃度は用量依存的に増加するが、70mgを超えてから140mgまでは血漿システイン濃度に有意な差は生じなかった。
140mg/kgの用量(60kg体重換算で8400mgで、酸化型グルタチオン(GSSG)を減少させ、グルタチオン(GSH)の増加を促進した。[R]
摂取タイミング
空腹時
吸収率が大きく高まるため空腹時に摂取。
発疹などの副作用が生じ、それらを回避したい場合は摂取量を減らすまたは食後に摂取する。
運動の前後を避ける
運動のホルミシス効果をキャンセルする可能性があるため、運動の前後は避けておく。
夜間・寝る前
睡眠中のグルタチオンレベルの維持と、概日リズムへの影響を最小限に抑えるため摂取が必要な場合は徐放剤を使用する。
ただし解毒などの必要性が高くトレードオフが成立する場合は摂取を試みる。
3型・毒素
断食などによるケトーシスで気分が悪くなる場合、脂肪細胞に蓄えられた有毒物質が放出している可能性もある。
摂取によって気分が改善するようであれば断食中にNアセチル-L-システインの徐放剤または通常タイプを複数回摂取する。