
英語タイトル:『By Way of Deception: The Making and Unmaking of a Mossad Officer』Victor Ostrovsky & Claire Hoy 1990
日本語タイトル:『モサドの真実:ある諜報員の告白』ヴィクター・オストロフスキー&クレア・ホイ 1990
目次
- プロローグ:オペレーション・スフィンクス / Prologue: Operation Sphinx
- 第一部 訓練生 / Part I: Cadet
- 第1章 採用 / Recruitment
- 第2章 学校での日々 / School Days
- 第3章 新人 / Freshmen
- 第4章 上級生 / Sophomores
- 第5章 初心者 / Rookies
- 第二部 内と外 / Part II: Inside and Out
- 第6章 ベルギーテーブル / The Belgian Table
- 第7章 かつら / Hairpiece
- 第8章 別れと歓迎 / Hail and Farewell
- 第三部 / Part III
- 第9章 ストレラ / Strella
- 第10章 カルロス / Carlos
- 第11章 エグゾセ / Exocet
- 第12章 チェックメイト / Checkmate
- 第13章 アラファト支援 / Helping Arafat
- 第14章 アメリカでのみ / Only in America
- 第15章 モーゼ作戦 / Operation Moses
- 第16章 港湾保険 / Harbor Insurance
- 第17章 ベイルート / Beirut
- エピローグ / Epilogue
本書の概要
短い解説
本書は、イスラエル諜報機関モサドの元工作員による組織内部の実態暴露を目的とし、モサドの訓練過程から実際の作戦まで、一般には知られない諜報活動の詳細を赤裸々に描いている。
著者について
著者ヴィクター・オストロフスキーは、カナダ生まれのイスラエル人で、1984年から1986年までモサドに所属した元工作員である。組織の腐敗と道徳的堕落に幻滅し、内部告発者となった。共著者クレア・ホイは、カナダのジャーナリストで、オストロフスキーの証言を整理し、本書の執筆に協力した。
主要キーワードと解説
- 主要テーマ:モサドの訓練システム、中東諸国での秘密工作、組織内部の腐敗構造
- 新規性:サヤニム(協力者)システム、Al部門の存在、内部派閥争い
- 興味深い知見:暗殺作戦の詳細、偽装身分の作成技術、アメリカ国内での活動実態
本書の要約
本書は、元モサド工作員オストロフスキーによる内部告発書である。著者は1983年にモサドに採用され、3年間の厳格な訓練を経て工作員(カツァ)となったが、組織の腐敗と非道徳的行為に幻滅し、1986年に脱退した。
モサドの訓練は極めて過酷で、心理的操作、偽装身分の習得、武器訓練、尾行・監視技術、暗殺技術まで含む。訓練生は常に相互監視下に置かれ、些細な失敗でも除名される。組織は「国家のため」という大義名分のもと、あらゆる非道徳的行為を正当化する思想を植え付ける。
本書で暴露される作戦の数々は衝撃的である。1973年のゴルダ・メイア首相暗殺計画阻止では、PLOがストレラ・ミサイルでメイアの専用機を撃墜しようとしたが、モサドが事前に察知し阻止した。国際テロリスト「カルロス」を巡る作戦では、フランス警察官3人が犠牲になったが、モサドの内部対立が原因だった。
エチオピア系ユダヤ人(ファラシャ)救出作戦「モーゼ作戦」では、スーダンに偽装リゾートホテルを建設し、表向きは観光客を受け入れながら、実際は1万8千人のファラシャを秘密裏にイスラエルに避難させた。この作戦は人道的側面もあったが、モサドの巧妙な偽装工作の典型例でもある。
特に深刻なのは、モサドがアメリカ国内で「Al」という秘密部門を通じて活動していることだ。公式には存在しないとされるこの部門は、アメリカの政治家や議員を監視し、時には政策に影響を与える工作を行っている。1979年のアンドリュー・ヤング国連大使辞任事件は、モサドがヤングとPLO代表との秘密会談を盗聴し、情報を漏洩させて辞任に追い込んだものだった。
組織内部では深刻な腐敗が蔓延している。上層部は性的スキャンダルにまみれ、工作員は権力を悪用して個人的利益を追求する。「サヤニム」と呼ばれる世界中のユダヤ系協力者ネットワークは、しばしば工作員の私的目的に悪用される。組織の標語は「汝、偽りによりて戦争をなさん」だが、これは敵だけでなく、イスラエル政府や国民に対しても適用される。
最も衝撃的なのは、1982年のレバノン戦争でのモサドの役割だ。組織はキリスト教民兵指導者バシール・ジュマイエルと癒着し、パレスチナ難民キャンプでの大量虐殺を知りながら阻止しなかった。さらに、アメリカ海兵隊宿舎爆破事件では、事前に攻撃情報を入手していたにも関わらず、具体的警告を出さず、241人の海兵隊員の死を招いた。
オストロフスキーは、モサドが本来の任務である情報収集と分析を軽視し、暗殺と破壊工作に傾倒していると批判する。組織は政府からの監督を免れ、独自の政治的目標を追求している。この体質は、パレスチナ人に対する残虐行為や、インティファーダ(民衆蜂起)の激化につながっている。
著者は、モサドの「目的は手段を正当化する」という思想が、イスラエル社会全体に蔓延し、国家の道徳的基盤を腐食させていると警告する。真の平和のためには、このような秘密組織の暴走を止め、民主的統制を回復する必要があると主張している。
各章の要約
プロローグ:オペレーション・スフィンクス
「ストレラ・ミサイル」「偽装作戦」「政治工作」
1981年のイラク核施設爆撃の舞台裏を描く。モサドはイラク人科学者を偽装採用し、核施設の詳細情報を入手した。フランス人技術者を内部工作員として送り込み、爆撃時の誘導装置を設置させた。この作戦は表向き軍事作戦だが、実際は数年にわたる綿密な諜報工作の結果だった。イラクの核武装阻止という大義のもと、民間人を巻き込む欺瞞作戦が正当化された。
第一部 訓練生
第1章 採用
「心理的操作」「忠誠心テスト」「選抜過程」
著者のモサド採用過程を詳述。最初の接触から最終選考まで、応募者は徹底的な身元調査と心理テストを受ける。家族へのアプローチ、偽の逮捕・拘束シミュレーション、極限状況での反応テストなど、応募者の心理的限界を試す手法が用いられる。採用側は「国家への奉仕」を強調するが、実際は個人の弱点を把握し、組織への完全な服従を求めている。5000人中15人程度しか最終選考に残らない。
第2章 学校での日々
「NAKA報告書作成」「APAM保安術」「軍事知識」
モサド・アカデミーでの基礎訓練を描く。NAKA(統一報告書式)では、全ての報告書を同一形式で作成することが義務付けられ、些細なミスも許されない。APAM(作戦保安)では、尾行の発見・回避技術を学ぶ。軍事講義では近隣アラブ諸国の政治・軍事構造を暗記させられる。訓練生同士は相互監視と批判を強制され、連帯感は破壊される。教官は「疑心暗鬼こそ生存の鍵」と教え込む。
第3章 新人
「カバー・ストーリー」「実地訓練」「心理的圧力」
実践訓練段階に入った訓練生たちの体験。偽装身分を使った接触練習、監視・尾行の実地訓練、緊急時対応シミュレーションが行われる。訓練生は常に評価され、失敗すれば即座に除名される。偽装警察による拘束・暴行シミュレーションでは、実際に暴力が加えられ、訓練生の精神的限界を試す。「友情」すら工作の道具とする思考パターンが植え付けられる。訓練の過酷さに耐えかねて脱落する者が続出する。
第4章 上級生
「採用工作」「性的操作」「道徳的堕落」
工作員による敵対者採用技術を学ぶ段階。金銭、思想的共感、性的脅迫の三つが主要な採用手段とされる。実際の工作員が暗殺技術を実演し、殺害に対する心理的抵抗を除去しようとする。この段階で、組織内部の性的腐敗が露呈する。上級工作員たちは権力を濫用し、女性職員との不適切な関係を公然と行っている。著者は、組織が標榜する「高い道徳性」との乖離に困惑を覚える。
第5章 初心者
「最終試験」「実戦配備」「組織内政治」
訓練の最終段階で、訓練生は実際の諜報任務を与えられる。著者は元モサド幹部マイク・ハラリとの接触を命じられるが、ハラリの腐敗ぶりに衝撃を受ける。組織内部の派閥争いと権力闘争が激化し、訓練生も巻き込まれる。最終的に15人中12人が卒業するが、その多くは組織の暗部を目撃している。卒業時点で、純粋な愛国心は既に失われ、組織への盲目的忠誠心が植え付けられている。
第二部 内と外
第6章 ベルギーテーブル
「サヤニム・ネットワーク」「技術情報窃取」「スリランカ工作」
モサドの世界的協力者ネットワーク「サヤニム」の実態を暴露。世界各地のユダヤ系住民が、愛国心に訴えられて協力者となっている。ロンドンだけで2000人の活動協力者と5000人の予備協力者がいる。著者はアジア・アフリカ担当部署で、スリランカの内戦に介入し、政府軍とタミル反政府勢力の双方に武器を売却し、両勢力を訓練する作戦に関与した。この二重工作により、スリランカの内戦は長期化し、多数の犠牲者が出た。
第7章 かつら
「暗殺技術」「カバーアップ」「内部告発」
伝説的暗殺者アミカンの技術と、その宗教的動機を描く。アミカンは正統派ユダヤ教徒で、髪の毛で作った偽装キッパ(宗教帽)を着用し、素手での殺害を好んだ。1970年代のアテネでの暗殺作戦では、PLO幹部2人を殺害したが、作戦の詳細は長年秘匿された。著者は、同僚からの性的アプローチと、それに関わる組織上層部の腐敗を告発するが、上司に黙殺される。組織内部では、性的スキャンダルが権力闘争の道具として使われている。
第8章 別れと歓迎
「キプロス作戦」「情報操作」「組織的裏切り」
著者の最初で最後の海外任務であるキプロス作戦を描く。PLO要人を乗せた航空機の強制着陸作戦で、著者は現地でPLO関係者から重要情報を入手したが、上層部に無視された。作戦は失敗し、無実の民間人を拘束する国際的恥辱を招いた。著者は作戦失敗の責任を押し付けられ、危険な前線勤務への転属を命じられた。組織は失敗の責任を個人に転嫁し、真相隠蔽を図る体質を露呈した。著者はイスラエルを脱出し、カナダに亡命した。
第三部
第9章 ストレラ
「ゴルダ・メイア暗殺計画」「ミサイル攻撃」「国際テロ対策」
1973年、PLO黒い九月がゴルダ・メイア首相のローマ訪問時に暗殺を企図した事件の全容。テロリストはソ連製ストレラ・ミサイル14発を用意し、メイアの専用機を撃墜しようとした。モサドは二重スパイを通じて計画を察知したが、組織内対立により情報共有が遅れた。最終的に、ローマ空港でミサイル12発を発見・押収し、残り2発も別の場所で発見した。この事件は、モサドの優秀さを示すと同時に、組織内部の権力闘争が作戦効率を阻害する問題も浮き彫りにした。
第10章 カルロス
「国際テロリスト」「二重スパイ」「作戦失敗」
悪名高い国際テロリスト「カルロス」追跡作戦の失敗例。モサドはPLO内部にムハルベルという二重スパイを送り込み、カルロスの行動を監視していた。しかし、部門間の縄張り争いにより、フランス警察への情報提供が不十分となった。結果的に、カルロスはフランス警官3人を殺害して逃亡し、国際的テロリストとしての地位を確立した。この事件は、モサドの内部対立が外部の犠牲者を生む典型例となった。組織の利害が人命よりも優先される体質が明らかになった。
第11章 エグゾセ
「武器密売」「拷問訓練」「国際陰謀」
チリの独裁政権との武器取引を通じて、仏製エグゾセ・ミサイルを入手した作戦。イスラエルは秘密警察訓練の名目でチリに接近し、マヌエル・コントレラス将軍との取引を成立させた。取引の一環として、モサドはチリ秘密警察に拷問・暗殺技術を指導した。この技術は後に、ワシントンでのチリ元外相オルランド・レテリエル暗殺事件で使用された。モサドは直接関与していないが、技術提供により間接的に暗殺を可能にした。軍事技術入手のために独裁政権と協力する実態が明らかになった。
第12章 チェックメイト
「デンマーク協力」「シリア工作」「採用作戦」
デンマーク情報機関との密接な協力関係と、シリア政府高官採用作戦を描く。デンマークはアラビア語通信の監視をモサドに依存し、事実上の属国状態にある。モサドはシリア軍幹部ヤディードの兄弟マギードを通じて、ヤディード本人の採用を試みた。チェス好きのマギードにカナダ人実業家として接触し、数か月かけて信頼関係を構築した。最終的に採用に成功し、シリアの軍事機密を入手したが、ヤディードは麻薬密輸の容疑で逮捕され、デンマークに亡命する結果となった。
第13章 アラファト支援
「PLO内部工作」「武器密売阻止」「欧州作戦」
1981年、PLOのアラファト議長が個人警護部隊強化のため欧州で武器調達を試みた際の阻止作戦。モサドはアラファトの運転手兼ボディガードドゥラク・カシムを工作員として採用し、内部情報を入手していた。ハンブルクとウィーンで同時に偽装武器取引を仕掛け、PLO側に約2000万ドルの損失を与えた。作戦ではドイツの対テロ部隊とも連携し、武器と引き換えに提供されるはずだったハシシも押収した。最終的に約30人のテロリストが逮捕され、PLOの武器調達網に大打撃を与えた。
第14章 アメリカでのみ
「Al部門」「政治工作」「アンドリュー・ヤング失脚」
モサドの最高機密部門「Al」によるアメリカ国内活動を暴露。公式には存在しないこの部門は、24-27人の工作員でアメリカの政治・軍事情報を収集している。1979年、国連大使アンドリュー・ヤングとPLO代表との秘密会談を盗聴し、情報を漏洩させてヤングを失脚させた。この工作により、アメリカの対PLO政策転換を阻止した。しかし副作用として、アメリカ黒人コミュニティの反イスラエル感情が高まった。Al部門は航空機製造会社から技術を盗用し、イスラエル企業の米軍受注獲得にも関与している。
第15章 モーゼ作戦
「ファラシャ救出」「偽装リゾート」「人道的作戦」
エチオピア系ユダヤ人ファラシャの救出作戦。公表された航空機による救出(5000人)の陰で、スーダンに偽装観光リゾートを建設し、紅海経由で約13000人を秘密裏に脱出させた。リゾートは実際にヨーロッパからの観光客を受け入れながら、夜間にファラシャをヘラクレス輸送機でイスラエルに運んだ。施設には通信設備や武器が隠匿され、イスラエル海軍艦艇が物資補給を行った。作戦は人道的側面もあったが、モサドの偽装工作技術の高さを示す事例でもある。新聞報道により作戦が露見し、施設は一夜にして閉鎖された。
第16章 港湾保険
「リビア工作」「保険会社偽装」「港湾情報収集」
リビアのトリポリ港湾管理者を保険調査員として採用した作戦。モサドは架空のフランス保険会社を設立し、港湾管理者に「保険調査協力者」として月1000ドルを支払った。管理者は善意で協力していると信じていたが、実際はPLO船舶の動向を報告していた。入手した情報を基に、イスラエル海軍特殊部隊がリビア港内でPLO武器輸送船2隻を爆破した。管理者は爆破事件に興奮して報告したが、自分が情報源だったことは最後まで知らなかった。この事例は、無自覚協力者の活用手法を示している。
第17章 ベイルート
「レバノン戦争」「民兵虐殺」「アメリカ人見殺し」
1982年レバノン戦争でのモサドの役割と失敗。モサドはキリスト教ファランヘ党のバシール・ジュマイエルと癒着し、月2-3万ドルの資金提供を行っていた。サブラ・シャティーラ難民キャンプでの大量虐殺では、モサドは事前に虐殺を知りながら阻止しなかった。さらに深刻なのは、1983年の米海兵隊宿舎爆破テロ事件で、モサドは爆弾を積んだトラックの情報を事前に入手していたが、アメリカ側に具体的警告を出さず、241人の海兵隊員が死亡した。CIAのバックリー工作部長誘拐事件でも、人質救出に必要な情報提供を拒否した。
エピローグ
「インティファーダ」「道徳的堕落」「民主的統制の必要性」
1987年のインティファーダ(民衆蜂起)勃発以降の状況分析。パレスチナ人に対する組織的暴力が常態化し、イスラエル社会全体の道徳的基盤が崩壊している。モサド式の「目的は手段を正当化する」思想が社会に蔓延し、子供への暴力も正当化されている。著者は、この状況がモサドの無責任体制に起因すると主張する。組織は政治的監督を免れ、独自の利益を追求している。真の平和実現のためには、秘密諜報機関への民主的統制確立が不可欠であると結論している。
アルツハッカーは100%読者の支援を受けています。
会員限定記事
新サービスのお知らせ 2025年9月1日よりブログの閲覧方法について
当ブログでは、さまざまなトピックに関する記事を公開しています。2025年より、一部の詳細な考察・分析記事は有料コンテンツとして提供していますが、記事の要約と核心部分はほぼ無料で公開しており、無料でも十分に役立つ情報を得ていただけます。 さらに深く掘り下げて知りたい方や、詳細な分析に興味のある方は、有料コンテンツをご購読いただくことで、より専門的で深い内容をお読みいただけます。パスワード保護有料記事の閲覧方法
パスワード保護された記事は以下の手順でご利用できます:- Noteのサポーター・コアサポーター会員に加入します。
- Noteサポーター掲示板、テレグラムにて、「当月のパスワード」を事前にお知らせします。
- 会員限定記事において、投稿月に対応する共通パスワードを入力すると、その月に投稿したすべての会員記事をお読みいただけます。
サポーター会員の募集
- サポーター会員の案内についての案内や料金プランについては、こちらまで。
- 登録手続きについては、Noteの公式サイト(オルタナ図書館)をご確認ください。
