
『The Art of Barter:How to Trade for Almost Anything』Karen S. Hoffman, Shera D. Dalin (2010)
『バーターの技法:ほぼ何とでも交換する方法』カレン・S・ホフマン、シェラ・D・ダリン (2010)
https://note.com/alzhacker/n/nc981affbe466
目次
- はじめに:/ Introduction
- 第1章 バーターがあなたにもたらすもの / What Barter Can Do For You
- 第2章 家の中に潜むバーターのチャンス / The Barter Lurking Around Your House
- 第3章 プロのように取引する / Trading Like a Pro
- 第4章 高速取引の世界 / Trading in the Fast Lane
- 第5章 バーターの光と影 / The Upsides and Downsides of Barter
- 第6章 他人の家こそ我が家 / There’s No Place Like (Someone Else’s) Home
- 第7章 バーターと税金 / Barter, Taxes, and You
- 第8章 慈善活動の拡大 / Charity Expands With Barter
- 第9章 子供の遊び:子供のためのバーター / Child’s Play:Barter for Kids
- 第10章 バーターと新しい小規模ビジネス / Barter and Your New Small Business
- 第11章 バーターを職業に / Barter as a Career
- 第12章 健康のためにバーターを! / Barter to Your Health!
- リソース:/ Resources
本書の概要
短い解説:
本書は、現金に依存しない生活を送りたい一般読者向けに、バーター(物々交換)の実践的な方法を包括的に解説する。現代社会でバーターを活用することで、経済的負担を軽減し、コミュニティを強化し、より豊かな生活を送る方法を具体的に示す。
著者について:
著者カレン・S・ホフマンは、バーター交換業界で20年以上の経験を持つ実践者。自身のバーター会社を経営し、国際相互貿易協会のエグゼクティブディレクターも務めた。共著者のシェラ・D・ダリンは経験豊富なライター兼マーケッター。両者とも長年にわたり個人レベルでもビジネスレベルでもバーターを実践してきた。
テーマ解説
- 主要テーマ:現金に依存しない生活の実現可能性 [現代社会におけるバーターの実用性と効果]
- 新規性:デジタル時代のバーター手法 [インターネットや交換業を活用した現代的なバーター手法]
- 興味深い知見:バーターによるコミュニティ構築 [経済的便益を超えた社会的価値の創造]
キーワード解説
- ダイレクトバーター:仲介者を介さない個人間の直接取引
- トレードエクスチェンジ:取引を仲介する商業的な交換業者
- タイムバンク:時間を通貨とする地域通貨システム
3分要約
本書は、現代社会においてバーター(物々交換)がどのように活用できるかを包括的に解説する実践的ガイドである。著者たちは、バーターが単なる現金不足の代替手段ではなく、コミュニティの構築、ストレスの軽減、環境保護、そしてより豊かな生活を実現する強力なツールであることを力説する。
導入部では、著者カレン・ホフマンの個人的な経験——若い新婚時代に家の修理と引き換えに家を手に入れた話——から始まり、バーターがいかに人生を変える力を持つかを示す。バーターは現金を節約するだけでなく、人間関係を深め、地域社会を強化し、環境に優しい生活を可能にする。
第2章では、家庭内に潜在するバーターの機会を探る。使わなくなった物品、未使用の贈り物カード、さらには個人的なスキルや才能までもが、バーターの対象となりうる。読者は自宅やガレージを探検し、交換可能な「宝」を発見する方法を学ぶ。
第3章と第4章では、バーター取引の実践的な手法を詳述する。個人間の直接取引から、商業的なバーター交換業者の利用まで、様々なアプローチを解説。オンラインでのバーターサイトの活用方法、取引の交渉術、リスク管理など、プロのように取引するためのノウハウが詰まっている。
第5章ではバーターの利点と欠点を公平に検討する。忍耐強さが必要なこと、税務上の考慮事項、取引が不均等になりうることなど、現実的な課題にも目を向ける。
第6章から第12章では、バーターの具体的な応用例を探る。住宅交換によるバカンス、医療サービスとの交換、慈善活動での活用、子供へのバーター教育、起業時の資金節約、バーターを職業とする方法、そして医療サービスへのアクセス確保まで、多岐にわたる実践例を紹介する。
著者たちは、バーターが単なる経済的行為ではなく、人々をつなぎ、問題を創造的に解決する手段であることを強調する。読者は、現金に制限されない世界の可能性——より柔軟で、持続可能で、人間的な交換経済の可能性——を発見するだろう。
各章の要約
はじめに
バーターは世界最古の取引形態だが、現代社会でも十分に活用できる方法である。著者たちは、バーターが現金の節約だけでなく、人間関係の構築、コミュニティの強化、ストレスの軽減など、多面的な利益をもたらすことを説明する。経済的困難に直面している人々にとって、バーターは新たな可能性を開く手段となる。
第1章 バーターがあなたにもたらすもの
バーターは現金を節約する以上の価値を持つ。時間の節約、環境保護、コミュニティの構築、精神的充足など、多様な利益をもたらす。失業中や収入減少期には、バーターが経済的圧迫を緩和し、新たなキャリアの道を開くこともある。著者は「なぜバーターがこんなにも簡単なのか」という問いかけを通じて、読者の思考の転換を促す。
第2章 家の中に潜むバーターのチャンス
家庭内には、バーターの可能性が至るところに潜んでいる。使わなくなった衣服、家具、本、DVDから、未使用の贈り物カードまで、あらゆる物品が交換の対象となりうる。個人的なスキルや才能——家政婦サービスから専門的コンサルティングまで——も貴重な交換材料となる。読者は系統的な在庫調査を通じて、自分自身の「隠れた富」を発見する方法を学ぶ。
第3章 プロのように取引する
効果的なバーター取引には、適切な評価、明確なコミュニケーション、相互信頼が不可欠である。オンラインでのバーターサイトの活用、取引の交渉術、契約の結び方など、実践的なスキルを詳細に解説。ベビーシッティング協同組合や地域のバーターイベントなど、コミュニティベースの取引形態も紹介する。
第4章 高速取引の世界
商業バーター交換業者を利用すると、取引が迅速化され、取引の範囲が拡大する。交換業者の選び方、メンバーシップの費用対効果、ブローカーとの関係構築など、交換業者を効果的に活用する方法を詳述。タイムバンクや地域通貨システムなど、代替的な交換形態についても探る。
第5章 バーターの光と影
バーターには多くの利点があるが、欠点も存在する。取引成立までの時間がかかること、税務上の考慮事項、取引の不均衡など、現実的な課題を公平に検討する。著者たちは、これらの課題を認識した上で、バーターの利益を最大化する方法を提案する。
第6章 他人の家こそ我が家
バケーションホームの交換から永住住宅の交換まで、不動産を対象としたバーターの可能性を探る。住宅交換サイトの利用方法、交換の実践的な手配、法的・実務的な考慮事項を詳細に解説。1031交換など、税制上の有利な取引形態についても説明する。
第7章 バーターと税金
バーター取引にも税務上の影響がある。偶発的な個人間取引と、事業に関連する定期的な取引では、税務処理が異なる。内国歳入庁の要件、適切な記録の保持、交換業者を通じた取引の報告など、バーターの税務についての実践的なガイダンスを提供する。
第8章 慈善活動の拡大
バーターは慈善活動や地域奉仕を強化する手段としても機能する。現金寄付に代わるものの提供、慈善団体自体によるバーターの活用、交換業者を通じた寄付など、慈善活動におけるバーターの創造的な応用例を紹介する。
第9章 子供の遊び:子供のためのバーター
子供たちにバーターを教えることは、交渉術、公平さの概念、創造的問題解決の貴重なスキルを育む。家庭内での安全な取引の設定、年齢に適した取引活動、バーターを通じた起業家精神の育成など、子供向けのバーター教育を詳述する。
第10章 バーターと新しい小規模ビジネス
起業家にとって、バーターはスタートアップコストを大幅に削減する強力なツールとなる。事業開始に必要な物品やサービスの交換、初期顧客の獲得、キャッシュフローの節約など、起業におけるバーターの戦略的活用を解説する。
第11章 バーターを職業に
バーター産業自体がキャリアの機会を提供する。バーター交換業者のブローカー、セールス担当者、交換業者のオーナーなど、バーター関連の職業について詳述。各職種に必要なスキル、責任、報酬についての実践的な情報を提供する。
第12章 健康のためにバーターを!
医療サービスは、バーターの最も需要の高い分野の一つである。医療提供者とのバーター取引の交渉、医療債務の返済、交換業者やオンラインサイトを通じた医療サービスへのアクセスなど、医療分野でのバーター活用を探る。著者は「バーターが命を救うこともある」と述べ、その重要性を強調する。
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現金のいらない世界:バーター経済が開く新しい豊かさの扉 AI考察
by Claude 4.5
バーターは単なる物々交換ではない
私たちは「お金がなければ何も手に入らない」という前提の中で生きている。だが、本当にそうだろうか?
この書籍『Art of Barter』を読み進める中で、私は一つの根本的な洞察に到達する。バーター(物々交換)とは、単に現金の代替手段ではない。それは価値の本質そのものを問い直す行為なのだ。
著者たちが繰り返し示すのは、現金中心の思考が私たちの可能性をいかに制限しているかという事実だ。カレン・ホフマンが18歳で初めて家を手に入れた話は象徴的だ。彼女には頭金も、安定した収入もなかった。しかし彼女は「修理労働」という自分の持つ資産を見出し、それを住居という必要なものと交換した。
ここで重要なのは、彼女が何か特別なスキルを持っていたわけではないという点だ。夫のリックは便利屋としての技能があったが、それは誰でも学べる程度のものだ。彼らが本当に持っていたのは創造的に考える能力、そして「現金がないなら別の方法がある」という発想の転換だった。
隠された富:あなたの家に眠る交換可能な資産
書籍の第2章は私たちに鋭い問いを投げかける。「あなたは本当に貧しいのか?」
著者たちは読者に、家中を見回して「1年以上使っていないもの」をリストアップするよう促す。クローゼットの奥の服、ガレージの隅の工具、本棚の読まない本。これらはすべて潜在的な通貨なのだ。
しかし、より深い洞察がある。物だけではない。あなたの時間、あなたの知識、あなたの技能。これらすべてが交換可能な価値を持つ。
ここで私は立ち止まって考える。なぜ私たちは自分の持つものを「価値がない」と思い込んでしまうのか?それは貨幣という単一の尺度が、多様な価値を不可視化してしまうからではないか。
例えば、あなたが週末に庭の手入れをするのが好きだとしよう。貨幣経済では、それは「趣味」であり「非生産的な時間」だ。しかしバーター経済では、それは誰かの庭を手入れする対価として、子どもの学習塾代を得られる「価値ある技能」になる。
バーターが生み出す予期せぬ副産物:コミュニティの再構築
書籍が強調するもう一つの側面が、私には極めて重要に思える。それはバーターが人間関係を変容させるという事実だ。
現金取引は匿名的だ。あなたはスーパーでレジ係の名前を知らない。クレジットカードをスワイプし、商品を持ち去る。そこに関係性は生まれない。
しかしバーターは違う。書籍に登場するシーラの例を考えてみよう。彼女はライティングスキルを、コンシェルジュ医師の医療サービスと交換した。その過程で、彼女は医師と友人になった。単なる患者と医師の関係を超えて。
これは偶然ではない。バーター取引は、その性質上、より多くの対話を必要とする。価値の交渉、ニーズの確認、信頼の構築。このプロセスそのものが社会的紐帯を織りなすのだ。
セントルイスの二つの家族の例も示唆的だ。彼らは週に一度、互いに夕食を提供し合う取り決めをした。表面的には「食事の交換」だが、実際には何が起きたか?子どもたちは一緒に遊び、大人たちはワインを傾けながら語り合い、拡大家族のような関係が生まれた。
ここに私は、現代社会が失ったものを見る。貨幣経済の効率性は、私たちを孤立させた。バーターの「非効率性」こそが、実は人間性を回復させる装置なのではないか。
バーターと権力:見えない解放のメカニズム
さらに深く掘り下げてみよう。バーターには権力構造を変容させる潜在力がある。
現在の経済システムでは、あなたの価値は「給与明細」に記された数字で定義される。年収300万円の人間と、年収3000万円の人間。この差は、彼らの「価値の差」として内面化される。
しかしバーターはこの序列を攪乱する。弁護士の1時間と、庭師の1時間は、貨幣換算では10倍の差があるかもしれない。しかしバーター取引では、両者は対等な価値提供者として向き合う。
書籍に登場するデボラ・ハイランドの事例が印象的だ。彼女は南北戦争時代の衣装を編む。その労働集約的な作業は、市場価格では数百ドルの価値しかないかもしれない。しかし彼女は自作のナイトキャップを、$200のカスタムメイドブーツと交換した。
ここで何が起きたのか?彼女と取引相手は、市場価格ではなく投入された時間と技能を基準に価値を測った。この時、通常の価格メカニズムでは不可視化されていた労働の価値が、可視化されたのだ。
バーターの暗部:権力の非対称性は消えない
しかし、私はここで立ち止まらなければならない。バーターを過度にロマンティック化してはいけない。
書籍も率直に認めているように、バーター取引には多くの困難がある。取引の不均衡、詐欺のリスク、時間のかかる交渉プロセス。
さらに、私が懸念するのは、バーターが必ずしも権力の非対称性を解消しないという点だ。例えば、失業中の人間が歯科治療を必要とし、歯科医に「掃除労働」を提供するとしよう。表面的には対等な交換だが、実際には絶望的な必要性が交渉力を歪めているかもしれない。
書籍の第5章で触れられている「バーター取引での差別」の問題も重要だ。一部の提供者は、バーター顧客を「二級市民」として扱う。レストランで最悪の席を案内され、最良の商品在庫は現金客のために取っておかれる。
これは何を意味するか?バーターという形式だけでは、社会的序列は変わらないということだ。形式を変えても、人々の意識や文化的規範が変わらなければ、差別は継続する。
税制という壁:国家はバーターをどう見ているか
書籍の第7章が扱う税金の問題は、バーターの「政治性」を浮き彫りにする。
IRSの立場は明確だ。バーター取引も課税対象である。つまり、あなたが配管工事を提供して歯科治療を受けたなら、その歯科治療の「市場価値」に対して所得税を払わなければならない。
この規定を考えてみよう。なぜ国家はバーター取引を課税したいのか?表向きの理由は「公平性」だ。現金取引が課税されるなら、バーター取引も課税されるべきだ、と。
しかし、より深い理由がある。バーターは国家の可視性の外で行われる。政府が経済活動を把握し、管理し、課税するためには、すべての取引が貨幣を媒介する必要がある。バーターの広がりは、国家の統制力の低下を意味する。
実際、歴史を振り返れば、大恐慌時代にアメリカの400のコミュニティが独自のバーター通貨を発行したという事実が示唆的だ。経済危機の際、人々は国家通貨の外側で生存手段を見出した。これは権力者にとって脅威だっただろう。
バーターとテクノロジー:新しい可能性と新しい支配
21世紀のバーターは、インターネットによって変容している。CraigsList、U-Exchange、Swaptreeなどのプラットフォームは、バーター取引を劇的に容易にした。
しかし私はここに両義性を見る。
一方で、これらのプラットフォームは取引コストを下げ、より多くの人々にバーターへのアクセスを提供する。農村部に住む人が、都市部の提供者と取引できる。これは解放的だ。
他方で、プラットフォーム企業は新しい仲介者として権力を持つ。手数料を徴収し、利用規約を設定し、誰を排除するかを決定する。バーター取引所(Trade Exchange)の手数料が10-15%というのは、決して小さくない。
さらに言えば、デジタル化されたバーター取引は追跡可能だ。すべての取引記録がデータベースに残る。プライバシーの観点から、これは懸念すべき事態だ。
書籍が推奨する「草の根バータークラブ」は、この文脈で重要性を持つ。Meetup.comなどを通じた顔の見える取引は、プラットフォーム企業の中抜きを回避し、自律的な交換空間を作り出す。
バーターと資本主義:対立か共存か
ここで私は根本的な問いに立ち返る。バーターは資本主義に対する対抗運動なのか、それとも資本主義の補完物なのか?
書籍の著者たちは、明らかに後者の立場だ。彼女たちはバーターを、現金収入を「補う」手段として位置づける。失業者や低所得者が、経済的困難を乗り越えるための「ツール」として。
しかし、もし誰もがバーターで必要なものを手に入れられるなら、賃金労働の必要性は減少する。企業は労働者を雇えなくなる。資本の蓄積メカニズムが機能不全に陥る。
つまり、バーターのスケールアップは、資本主義システムへの脅威となりうる。だからこそ、バーターは常に「周縁的な活動」として位置づけられ、「可愛らしい代替手段」として描かれるのではないか。
イサカ・アワーズ(Ithaca Hours)やタイムバンクのような実験は、この緊張を体現している。これらのシステムは、コミュニティレベルでは機能する。しかし、国家レベルにスケールすることは、現在の経済・政治構造の下では極めて困難だ。
医療とバーター:生存権の再定義
書籍の最終章が扱う医療バーターは、特に重要だ。なぜなら、それは生存そのものに関わるからだ。
アメリカでは、医療費が個人破産の最大の原因だ。エレン・ヘルナンデスの恋人、ヒルベルトの事例が象徴的だ。彼は5年間医者にかかっていなかった。保険がなかったからだ。バーター(自動車修理と医療の交換)によって、彼は前立腺がんの早期発見を受けた。それは文字通り命を救った。
ここに私は、バーターの最も純粋な形を見る。金がなければ死ぬ、という状況への抵抗だ。
しかし同時に、これは深く悲しい現実でもある。なぜ医療へのアクセスが、個人のバーター能力に依存しなければならないのか?なぜ生存権が、交渉力によって左右されるのか?
書籍が推奨する戦略—医師との直接交渉、バーター交換所への加入—は、個人レベルでは有効だ。しかし、システムレベルでは何も変わらない。むしろ、バーターが「セーフティネットの欠如を補う手段」として機能することで、システムの欠陥を糊塗してしまう危険性すらある。
子どもとバーター:教育の可能性
書籍の第9章、子どもへのバーター教育の提案は、私を立ち止まらせる。
著者たちは、子どもたちにバーターを教えることで、彼らが「自己価値」を発見し、「交渉力」を身につけ、「コミュニティ」を築くことができると主張する。
これは魅力的なビジョンだ。確かに、子どもたちが「お金がなければ何も手に入らない」という諦念を内面化する前に、別の可能性を示すことは重要だろう。
しかし、私は懸念も抱く。子どもたちに「すべては交換可能だ」というメッセージを送ることの帰結は何か?友情は?無償の贈与は?見返りを期待しない親切は?
バーターは確かに、市場経済よりも人間的な交換形態だ。しかし、それでも互酬性の論理に支配されている。「私があなたに何かをするなら、あなたも私に何かをすべきだ」という。
人間社会には、互酬性を超えた関係も存在する。純粋な贈与。無条件の愛。これらをどう位置づけるのか?バーター教育がこの次元を見失わせる危険性を、私たちは認識すべきだろう。
日本的文脈:「結」と「講」の再評価
ここで私は、日本の伝統的な相互扶助システムを思い起こす。
「結」は、農村コミュニティにおける労働の相互提供システムだった。田植えや屋根の葺き替えなど、個人では困難な作業を、コミュニティメンバーが協力して行う。明示的な計算はないが、長期的な互酬性が前提とされていた。
「講」は、金融的な相互扶助システムだ。メンバーが定期的に一定額を出し合い、順番に大きな金額を受け取る。これにより、高額な支出(冠婚葬祭、農機具購入など)に対応できた。
これらは、書籍が描くバーターと類似しているが、重要な違いもある。「結」や「講」は、コミュニティの持続性を前提としていた。メンバーは逃げられない。評判が重要だった。
現代日本では、これらのシステムは崩壊した。人々は流動的になり、コミュニティは解体された。バーターを「復活」させようとするなら、この社会的基盤の欠如にどう対処するのか?
一つの可能性は、意図的な「新しいコミュニティ」の形成だろう。書籍が紹介するMeetup.comのバーターグループや、タイムバンクは、この試みの現代版と言える。しかし、それらが「結」や「講」の持っていた強固な社会的紐帯を再現できるかは、疑問だ。
バーターの限界:システム変革にはならない
ここまで考察を重ねてきて、私は一つの結論に到達する。
バーターは個人の生活を豊かにすることはできる。現金支出を減らし、新しい人間関係を築き、自己価値を再発見する。これらは本物の利益だ。
しかし、バーターはシステムを変革しない。
なぜなら、バーターは依然として、希少性と私有財産を前提としているからだ。「私のものを、あなたのものと交換する」という論理は、資本主義の基本原理と何ら変わらない。媒介が貨幣か現物かの違いだけだ。
真の変革は、所有と交換を超えたところにある。それはコモンズ(共有財)の復活かもしれない。誰もが必要なものにアクセスでき、誰もが能力に応じて貢献する。「各人は能力に応じて、各人は必要に応じて」という古い理想だ。
バーターは、その理想への中間ステップではあるかもしれない。人々が「貨幣なしでも生きられる」と実感することは、より根本的な変革への心理的準備になりうる。
実践的示唆:明日から何ができるか
それでも、私は書籍の実践的価値を認める。理想的なシステムが到来するのを待つ間、私たちは今ここで生きなければならない。
書籍が提供する具体的戦略—家の中の不要品を棚卸しし、自分のスキルを認識し、バーターサイトに登録する—は、誰にでも実行可能だ。
特に経済的困難に直面している人々にとって、バーターは即座の緩和をもたらしうる。失業中でも、あなたの時間と労働には価値がある。それを認識するだけで、心理的負担は軽減される。
さらに言えば、バーターの実践は思考の訓練にもなる。「何が本当に必要か?」「自分は何を提供できるか?」「どうすれば創造的に問題を解決できるか?」これらの問いは、消費主義に毒された思考を解毒する。
最終的考察:バーターという「運動」の可能性
私は最後に、バーターを政治的運動として見る可能性を考えたい。
書籍はバーターを「個人のサバイバル戦略」として描く。しかし、もし多くの人々がバーターを実践し、それを意識的な選択として位置づけたら?
それは、現在の経済システムへの静かな反逆になりうる。貨幣への依存を減らし、企業の支配力を弱め、コミュニティの自律性を高める。
実際、歴史的には、経済危機の際にバーター運動が台頭している。大恐慌、アルゼンチンの経済崩壊(2001年)。これらの時期、人々は生き延びるために、既存システムの外側に新しい交換網を作り出した。
現在、私たちは新しい危機の時代にいる。気候変動、不平等の拡大、民主主義の後退。この文脈で、バーターは単なる経済的実践を超えて、抵抗の形式となりうるのではないか。
もちろん、これはロマンティックな幻想かもしれない。バーターが広がっても、既存の権力構造が無傷のまま残る可能性は高い。しかし、可能性は可能性として、探求する価値がある。
結語:問いの継続
この書籍を通じて考察してきた旅路の終わりに、私は確固たる結論には到達しない。それは意図的だ。
バーターについて、私たちが知るべき最も重要なことは、それが単一の答えではないということだ。バーターは道具であり、その価値は使う人の意図と文脈によって変わる。
生き延びるための手段として?素晴らしい。 コミュニティを築く方法として?価値がある。 システムへの抵抗として?可能性はある。 システム変革そのものとして?それは過大評価だ。
私が読者に残したいのは、答えではなく問いだ。
あなたは何を本当に必要としているのか? あなたは何を提供できるのか? あなたの豊かさを定義するのは誰か? お金がなければ、本当に何も手に入らないのか?
これらの問いを抱えながら、日常を見渡してみてほしい。そこには、貨幣という単一の尺度が不可視化してきた、無数の価値と可能性が横たわっているはずだ。
バーターは完璧なシステムではない。しかし、それは私たちに思い出させてくれる。別の世界は可能だ、と。そしてその世界は、大きな革命によってではなく、日々の小さな交換の積み重ねによって、少しずつ現れてくるのかもしれない。
