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英語タイトル: The Oxford Handbook of Social Movements / Edited by Donatella della Porta and Mario Diani
日本語タイトル: 『オックスフォード社会運動ハンドブック』 / ドナテラ・デラ・ポルタ & マリオ・ディアーニ編 2015年
目次:
- 第一部 中核的理論的視点 / Core Theoretical Perspectives
- 第1章 序論:社会運動研究の領域 / Introduction: The Field of Social Movement Studies
- 第2章 社会理論における社会運動 / Social Movements in Social Theory
- 第3章 政治学における社会運動 / Social Movements in Political Science
- 第4章 歴史分析と社会運動研究 / Historical Analysis and Social Movements Research
- 第5章 抗争的政治 / Contentious Politics
- 第6章 ジェンダーとセクシュアリティ運動研究からの新たな理論的方向性:集合的アイデンティティ、多制度的政治、感情 / New Theoretical Directions from the Study of Gender and Sexuality Movements: Collective Identity, Multi-Institutional Politics, and Emotions
- 第二部 社会運動と構造的プロセス / Social Movements and Structural Processes
- 第7章 資本主義と労働運動の歴史的力学 / Historical Dynamics of Capitalism and Labor Movements
- 第8章 人口動態と社会運動 / Demography and Social Movements
- 第9章 移民と社会運動 / Migration and Social Movements
- 第10章 宗教的復興主義と社会運動 / Religious Revivalism and Social Movements
- 第11章 エスニシティ、ナショナリズム、社会運動 / Ethnicity, Nationalism, and Social Movements
- 第12章 都市の力学と社会運動 / Urban Dynamics and Social Movements
- 第三部 抗争のミクロ力学 / Micro-Dynamics of Contention
- 第13章 行動への動機づけ / Motivations to Action
- 第14章 制約と機会としてのネットワーク / Networks as Constraints and Opportunities
- 第15章 合理的行為 / Rational Action
- 第16章 ミクロ動員と感情 / Micromobilization and Emotions
- 第17章 生活過程の視点から見た動員解除と離脱 / Demobilization and Disengagement in a Life Course Perspective
- 第四部 運動はいかに組織化されるか / How Movements Organize
- 第18章 社会運動と組織分析 / Social Movements and Organizational Analysis
- 第19章 ネットワーク・アプローチと社会運動 / Network Approaches and Social Movements
- 第20章 社会運動の連合 / Social Movement Coalitions
- 第21章 コミュニティとしての運動 / Movements as Communities
- 第22章 新技術と社会運動 / New Technologies and Social Movements
- 第23章 運動におけるコミュニケーション / Communication in Movements
- 第24章 地理学と社会運動 / Geography and Social Movements
- 第五部 集合行為のレパートリー / Repertoires of Collective Action
- 第25章 戦略 / Strategy
- 第26章 抗争のレパートリー / Repertoires of Contention
- 第27章 暴動 / Riots
- 第28章 政治的暴力 / Political Violence
- 第29章 内戦における社会的動員と暴力、およびその社会的遺産 / Social Mobilization and Violence in Civil War and their Social Legacies
- 第30章 市民的抵抗 / Civil Resistance
- 第31章 社会運動における消費者戦略 / Consumer Strategies in Social Movements
- 第32章 自発的行為と社会運動 / Voluntary Actions and Social Movements
- 第六部 抗争の文化 / Cultures of Contention
- 第33章 文化的対立と社会運動 / Cultural Conflicts and Social Movements
- 第34章 ナラティブと社会運動 / Narrative and Social Movements
- 第35章 社会運動の芸術 / The Art of Social Movement
- 第36章 社会運動におけるビジュアル / Visuals in Social Movements
- 第37章 実践運動:非主権的権力の政治 / Practice Movements: The Politics of Non-Sovereign Power
- 第38章 内在的説明:エスノグラフィー、エンゲージメント、社会運動実践 / Immanent Accounts: Ethnography, Engagement, and Social Movement Practices
- 第七部 政治的・非政治的機会と制約 / Political and Non-Political Opportunities and Constraints
- 第39章 抗争的集合行為と進化する国民国家 / Contentious Collective Action and the Evolving Nation-State
- 第40章 社会運動と多国間の舞台 / Social Movements and the Multilateral Arena
- 第41章 「ゲーム開始」:権威主義国家における社会運動 / “The Game’s Afoot”: Social Movements in Authoritarian States
- 第42章 抑圧:国内反対派のガバナンス / Repression: The Governance of Domestic Dissent
- 第43章 抗議の管理:企業の政治的アクション・レパートリー / Managing Protest: The Political Action Repertoires of Corporations
- 第44章 政党システム、選挙制度、社会運動 / Party Systems, Electoral Systems, and Social Movements
- 第45章 ポピュリズム、社会運動、大衆的主体性 / Populism, Social Movements, and Popular Subjectivity
- 第46章 市場、ビジネス、社会運動 / Markets, Business, and Social Movements
- 第八部 運動の社会的・政治的変革への貢献 / Movements’ Contributions to Social and Political Change
- 第47章 福祉の変化と社会運動 / Welfare Changes and Social Movements
- 第48章 環境運動の影響 / The Impacts of Environmental Movements
- 第49章 人権を構築するのは社会運動なのか? / Is it Social Movements that Construct Human Rights?
- 第50章 国際的意思決定への市民社会参加の条件 / The Conditions for Civil Society Participation in International Decision Making
- 第51章 社会運動における民主主義 / Democracy in Social Movements
- 第52章 民主的イノベーション / Democratic Innovations
- 第53章 革命と体制変動 / Revolutions and Regime Change
本書の概要:
短い解説:
本書『オックスフォード社会運動ハンドブック』は、社会運動研究を専門とする研究者や大学院生を主な対象とした、この分野の包括的な概観と最先端の議論を提供する学術書である。その目的は、社会運動研究の領域を「マッピング」し、さらに社会学や政治学を超えた隣接分野からの知見を取り入れることで、この分野を「拡張」することにある。編者は、社会運動研究が特定のアクター(個人、組織)、実践(抗議、公共的挑戦)、理論的問い(構造的変化と紛争、文化的表象、合理的行為のメカニズム、政治的・制度的文脈の影響)によって特徴づけられる学問領域として確立されてきたことを認めつつも、その境界は多孔的であり、他の分野との対話を通じて常に更新される必要があると論じる。本書は、古典的なアジェンダを確認するとともに、ジェンダー研究、歴史学、人類学、地理学、組織論など多様な分野との対話を通じて、社会運動研究の新たな理論的・実証的方向性を提示することを目指している。
各章の要約
第一部 中核的理論的視点
第1章 序論:社会運動研究の領域
編者らは、社会運動研究が独自の研究領域として確立されたことを述べる。この領域は、抗議を行う個人や組織、抗議イベント、集合行為の実践に焦点を当て、構造的変化と紛争の関係、文化的表象、集合行為の合理性、政治的機会構造という四つの主要な理論的問いを中心に発展してきた。しかし、本書の目的はこの「古典的アジェンダ」を確認するだけでなく、他の知的領域との対話を通じて領域を「拡張」することにある。そのために、本書は社会運動と構造的プロセス、ミクロ力学、組織化、行為レパートリー、文化、政治的機会、社会的変革への貢献という観点から構成され、各パートで既存研究の概括と分野横断的な拡張を試みる。
第2章 社会理論における社会運動
エーダーは、社会運動が社会理論において長らく周縁的な存在であったと指摘する。社会秩序の問題に焦点を当てる社会理論にとって、運動は秩序へと変換されるべき残余カテゴリーであった。しかし、マルクス、デュルケーム、ウェーバーといった古典的理論家の仕事には運動を理解するための重要な示唆が含まれている。その後、トゥレーヌやハーバーマスといった理論家は、社会運動を社会変革の主体として理論の中心に据えようとした。近年では、合理的選択理論や感情・アイデンティティに焦点を当てるミクロなアプローチが発展したが、個人とマクロ構造の中間にある「ミクロ構造」(社会的関係のネットワーク)に注目し、そこで意味が循環する過程を分析する新たな理論的展開が重要であると論じる。
第3章 政治学における社会運動
チサーシュは、政治学における社会運動研究の展開を、マディソンの多元主義に端を発する四つの研究伝統(マルクス主義、ウェーバー主義、ポランニー主義、トクヴィル主義)に沿って整理する。マルクス主義は運動を資本主義システムへの抵抗と捉え、ウェーバー主義は近代国家という制度との関係で運動を分析する。ポランニー主義は運動を資本主義の拡大に対する民主的規制を求める反運動と見なし、トクヴィル主義は市民社会における多元的利益の集合的表現として運動を位置づける。これらの伝統は、権力、国家、市民社会に対する異なる見方を示しており、社会運動の多面的な理解に貢献する。
第4章 歴史分析と社会運動研究
マルコフは、歴史分析が社会運動研究に不可欠であることを論じる。歴史分析は、単に過去の事例を追加するだけでなく、時間の働き方そのものを分析の対象とする。時間は、比較分析の次元(事例の多様性の拡大)、持続期間(運動の盛衰)、趨勢(国家能力の成長などの長期的変化)、周期(季節や選挙などの反復的過程)、画期的事件(革命や戦争などの決定的瞬間)、経路依存性(先行する出来事が後続の出来事を規定する過程)といった多様な形で社会運動に影響を与える。歴史的分析は、社会運動の特定の文脈依存性と時間的プロセスを理解する上で重要である。
第5章 抗争的政治
タローは、「抗争的政治」という概念が、社会運動に限定されないより広範な集合的紛争(革命、内戦、民族紛争など)を包括的に研究するためのプログラムとして発展してきた経緯を説明する。このアプローチは、個々の運動や組織ではなく、抗争的エピソードそのものに焦点を当て、その中で繰り返し生起する因果的メカニズムとプロセスを特定することを目指す。初期のプログラムには、起源や結果の分析が不十分、メカニズムの概念が不明確、構造と行為の関係への関心が薄いといった限界もあったが、運動内の関係、政党や法廷との関係、過激化の過程、内戦のメカニズム、革命への移行など、多様な研究を刺激してきた。
第6章 ジェンダーとセクシュアリティ運動研究からの新たな理論的方向性:集合的アイデンティティ、多制度的政治、感情
ウルフ、バーンスタイン、テイラーは、ジェンダーとセクシュアリティの運動研究が、社会運動理論全体に三つの重要な貢献をしてきたと論じる。第一に、集合的アイデンティティの概念を精緻化し、それが構築される過程や、戦略的に「展開」されることの重要性を明らかにした。第二に、権力が国家のみならず多元的な制度に分散しているという「多制度的政治」アプローチを発展させ、運動の標的や戦略の多様性を理解する枠組みを提供した。第三に、感情が運動の動員や持続において中心的な役割を果たすことを示し、過度に構造的・合理的なモデルに挑戦した。これらの貢献は、社会運動研究の文化的転回を推し進めるものである。
第二部 社会運動と構造的プロセス
第7章 資本主義と労働運動の歴史的力学
シルバーとカラタシュリは、社会運動研究から資本主義と労働運動が軽視されてきたと批判する。1990年代以降の主流的研究は、労働運動の衰退をグローバル化の必然的結果と見なす傾向があった。しかし、新興工業国や中国での労働運動の台頭、米国における低賃金移民労働者の運動の高揚は、労働運動の終焉説が誤りであることを示す。著者らは、資本主義の歴史的力学の中に労働運動を位置づけ、資本の「創造的破壊」が労働階級を絶えず作り変え、それに伴って新しい労働抗争(マルクス型)や既存の生活様式を守るための抗争(ポランニー型)が生じると論じる。資本主義のシステムレベルの問題(利潤性と正統性の緊張)が、これらの抗争を駆動する。
第8章 人口動態と社会運動
ゴールドストーンは、社会運動を構成する人々の属性(年齢、性別、教育など)と、社会全体の人口構成の両方が、運動の発生、戦術、イデオロギー、帰結を形作ると論じる。人口動態の分析は、異なる集団の成長率の差(例えば、教育を受けた層の急増)や、特定の年齢コーホート(例:ベビーブーム世代)の政治的世代としての経験に焦点を当てる。例えば、大量の青年層(ユースバルジ)は政治的不安定や暴力の可能性を高めるが、高齢化した社会ではより市民的で平和的な運動が優勢になる。人口動態の変化は、社会の制度に負荷をかけ、新しい機会と動機を生み出すことで、社会運動を促進する。
第9章 移民と社会運動
エッガートとジューニは、移民をめぐる政治的動員(移民による運動、移民のための運動、移民に反対する運動)と、それが西欧社会における構造的変化(グローバル化、人口移動と多様化、政治空間の変容、欧州統合)によってどのように影響を受けるかを分析する。移民問題の顕在化に伴い、公共領域における「クレイム申し立て」は増加し、そのテーマ的焦点は移民の規制から市民的統合(特にイスラムの受容問題)へと移行してきた。主張を行う主体としては国家アクターや政党が中心であるが、極右や反レイシズムのアクター、移民自身の動員も見られる。しかし、抗争の主要な舞台は国家レベルに留まっており、移民運動の研究は社会運動研究とまだ十分に統合されていないと指摘する。
第10章 宗教的復興主義と社会運動
リンデキルデとキューレは、1980年代以降顕著となった宗教的復興主義(宗教の脱私事化、公共圏への回帰)が社会運動の基盤として重要な役割を果たしていると論じる。世俗化理論の退潮とグローバル化の進展がこの復興を促進した。宗教的復興主義に基づく運動は、ヒルシュマンの枠組みを借りて、「声」によるもの(制度的適応や承認を求める公的な政治的要求)と、「退出」によるもの(主流社会から離脱し、内なる変容や分離された共同体の形成を図る、より間接的な挑戦)に大別できる。著者らは、社会運動研究と宗教社会学のさらなる理論的統合が、プレフィギュラティブ運動や逸脱的ミリューへの動員、超越的動機の理解などにおいて有益であると提唱する。
第11章 エスニシティ、ナショナリズム、社会運動
ムロは、エスニックおよびナショナリスト運動の研究が社会運動研究から比較的切り離されてきたと指摘する。エスニック集団と国民の概念的区別を整理した上で、アイデンティティ政治を説明する三つの主要なパラダイム— primordialism(本質主義)、instrumentalism(道具主義)、constructivism(構築主義)—を検討する。本質主義はアイデンティティを固定的と見なすのに対し、道具主義と構築主義は可変的と捉える。冷戦終結後、エスニック・ナショナリスト紛争が増加したが、紛争と暴力は区別される。ラテンアメリカの先住民運動を事例に、民主化や国際的な人権レジームといった政治的機会構造が運動を促進し、彼らが「先住民」というラベルを戦略的に用いながら、都市の権利や社会変革を求める様子を明らかにする。
第12章 都市の力学と社会運動
アンドレッタ、ピアッツァ、スビラッツは、都市が社会運動の重要な舞台であることを論じる。都市社会運動を「都市問題をめぐって、集合的アイデンティティ、共有された信念、連帯に基づき、様々な抗議形態を用いて動員する、非公式な関係のネットワーク」と定義する。都市開発のネオリベラル化(大規模再開発、ジェントリフィケーション、公共サービスの商品化)が都市抗争の条件を作り出している。具体的な運動形態として、都市計画への反対運動(NIMBYと蔑称されがちだが、より広範な「生活の質」を求める運動へ発展しうる)と、空き家占拠(スクワット)運動/社会センター運動(住宅確保や代替的な社会空間の創出を目指すよりラディカルな運動)の二つを詳述する。これらの運動は、都市のあり方を問い直し、「都市への権利」を要求する transformative な主体であると結論づける。
第三部 抗争のミクロ力学
第13章 行動への動機づけ
社会的・政治的問題に対する抗議行動への参加を説明する動機づけの理論を概観する。人々が抗議行動に参加するか否かは、まず「苦情」から始まる。これは、相対的剥奪感や社会的公正(分配的正義と手続き的正義)への認識に根差している。次に、抗議の「需要」(社会における支持層)と「供給」(抗議の機会を提供する反対勢力の組織)のバランスが行動の実現を左右する。参加の動機は、「道具的」(環境を変化させようとする合理的計算)、「集団同一性」(集団への帰属意識や義務感)、「理念的」(意見や怒りを表現したいという道徳的義務)の3つに分類され、これらが相加的に作用する。感情、特に怒りは参加を促進する重要な要素である。最後に、動機が実際の参加に至るまでには、「合意動員」(人々を説得する)と「行動動員」(支持者を活動家に変える)という2つの段階があり、社会的ネットワークがその過程で重要な役割を果たす。
第14章 制約と機会としてのネットワーク
社会運動における個人の参加を説明する上で、社会的ネットワークが果たす二面的な役割を論じる。ネットワークは、情報の流れ、プロ運動的態度の形成、集合的アイデンティティの発達を通じて、参加の「機会」を創出する。特に、既存のネットワークを通じた勧誘は、動機づけられた個人を実際の参加者へと変える上で決定的である。一方で、運動に反対する者との強い紐帯は、参加を「制約」する役割も果たし得る。ネットワークの効果は、活動のリスクやコストの高さによっても変化する。本章では、コミュニケーション、社会的影響、アイデンティティなど、ネットワークが作用する主要なプロセスを検討する。さらに、運動参加の結果としてネットワーク資本が形成されるという「結果」としての側面や、仮想空間におけるソーシャルメディアの影響、そしてネットワークの動態を理解するための方法論的課題についても議論する。
第15章 合理的行為
社会運動研究における合理的行為アプローチの貢献を再評価する。オルソンの集合行為論が提起した「フリーライダー問題」は、組織や戦略の重要性に着目させることで、寧ろ社会運動理論の形成に寄与した。初期の研究は参加の動機を単純化したモデルで説明しようとしたが、実証研究は参加者が集団的合理性や社会的インセンティブに動かされていることを明らかにした。重要な進展は、マーベルとオリバーらによる「批判的質量」理論であり、集団の規模、異質性、生産関数などの要因が複雑に相互作用し、集合行為のダイナミクスが決まるという「複雑で条件的な」理論の必要性を説いた。このアプローチは、集団構造やネットワークが常に重要であり、人間の主体性が戦略的状況を交渉するための道具を提供するものである。
第16章 微視的動員と感情
感情が社会運動への参加を促進するプロセスを考察する。即時の参加を説明する概念として「ホットな認知」や「モラル・ショック」があるが、実際の集団的な道徳的憤りやショックが生じるには、時間をかけた動員とフレーミングの過程が不可欠である。恥や自己嫌悪などの「固定化する感情」から、怒りや誇りなどの「動員する感情」への転換は、自助グループや社会運動による「感情の解放」を通じて初めて可能になる。長期的な活動主義は連帯や友情のような強い絆によって支えられるが、内部の権力格差はこれらの絆を脅かし、怒りや対立を生む。悲しみや憂いのような私的な感情も、例えば「嘆きの母親」たちのように、集合的な抗議行動へと人々を動員する力を持つ。権威主義体制下では、日常的な抵抗や仮想コミュニティが運動の基盤となることがある。
第17章 人生過程の視点から見た動員解除と離脱
社会運動の衰退や個人の活動離れを扱う研究が軽視されてきた理由と、その概念やメカニズムを整理する。動員解除は、社会運動産業全体、特定のキャンペーン、個別の運動組織など、様々なレベルで生じる。個人レベルでの「離脱」は、自発的である場合も、排除や弾圧の結果である場合もあり、そのコストは組織の構造に依存する。1960年代活動家を追跡した研究は、活動経験がその後の政治的指向、家族生活、職業選択に長期的な影響を与える「世代単位」を形成することを示した。離脱のプロセスを理解するには、活動の報酬の枯渇、イデオロギーの意味の喪失、社交関係の変容という3つの相互依存するレベルを、人生過程の出来事と関連させて分析する必要がある。今後の研究課題として、組織レベルの動員解除の類型化や、マクロ社会的文脈の影響、運動失敗の波及効果などが挙げられる。
第四部 運動はいかに組織化されるか
第18章 社会運動と組織分析
社会運動における「組織」の概念を再考し、形式的組織に限定されない分析の重要性を提唱する。アーンとブルンソンの「部分的な組織」理論に依拠し、組織を、メンバーシップ、階層、ルール、監視、制裁という5つの要素の組み合わせとして捉える。社会運動は、これらの要素の一部しか持たない「部分的な組織」であり、創発的秩序と決定された秩序の混合体である。この視点から、Occupy運動などの「リーダーなき」運動に見られる、メンバーシップの包括性とそのジレンマ、一般集会と作業部会における一時的な階層性、行動のためのルール策定とその執行(監視と制裁)を分析する。組織化は固定的ではなく、問題や緊張に対処するために組織要素の組み合わせが変化する弁証法的過程であり、運動の戦術として外部に向けて用いられることもある。
第19章 社会運動へのネットワークアプローチ
社会運動を、複数の行為者間の反復的で型にはまった相互作用から生じる「集合行為フィールド」として捉え、そのネットワーク構造と動態を分析する。ネットワークの「結びつき」は、組織間の直接的な関係、個人の共同メンバーシップ、イベントへの共同参加、共有されたプロジェクトや実践など、多様な形態をとる。これらの結びつきの組み合わせパターンは、資源配分と境界定義という2つの主要メカニズムに着目することで、「社会運動」「連合」「サブカルチャー/コミュニティ」「組織」という4つの理想的類型として整理できる。結びつきの形成は、アジェンダ、組織モデル、イデオロギーの近接性によって促進され、それは談話的実践として動的に構成される。ネットワークの時間的変化を理解するために、抗議周期の各段階(増幅、統合、分節化)における結びつきの変容や、活動家のコーホートがフィールドを横断する軌道を追うことが重要である。
第20章 社会運動連合
共通の目標に向かって協力するも、独自の組織的アイデンティティを保持する運動組織間の「連合」に焦点を当てる。連合の形成を促進する要因として、(1)共有されたイデオロギー、アイデンティティ、目標、(2)組織間の事前の社会的結びつき(特に「仲介者」の役割)、(3)政治的机会、特に目標に対する「脅威」の認識、(4)資源の利用可能性、が挙げられる。連合の「結果」に関する研究は未発達だが、組織的変化(フレーミングや戦術の拡散)、運動動員の規模の拡大、政治的成果(政策変更)、そして連合自体の存続などが検討されている。連合の存続には、内部の対立や競争の管理、および外部の政治的文脈が影響する。今後の研究課題として、複数の要因が組み合わさる状況的因果性や、異なる連合のタイプが及ぼす影響の差異、意図せざる結果の分析などが挙げられる。
第21章 コミュニティとしての運動
社会運動を、運動組織だけでなく、個人のネットワーク、文化的活動、制度的支援者、代替制度なども包含する「社会運動コミュニティ」として概念化する。この概念は、目に見える抗議が消えた時期に運動を維持するメカニズムを説明するのに有効である。中東(パレスチナ、イラン、エジプト)の権威主義的文脈における運動を検討し、西欧的な社会運動コミュニティの定義が完全には当てはまらないことを示す。そのような環境では、物理的な「自由な空間」が否定されるため、非公式の日常的抵抗の文化や、ブログなどを基盤とした「仮想コミュニティ」が、運動の目標、信念、ネットワークを維持する上で重要な役割を果たし得る。これらの「想像されたコミュニティ」は、抑圧的システムに直面しながらも社会変化を求める人々の間での、「我々」という意識の感覚に依存している。
第22章 新技術と社会運動
情報通信技術が社会運動にもたらした構造的変化を要約する。(1)オンライン署名やDDoS攻撃など、一時的で大規模な参加を特徴とする「エフェメラルな集合行為」の台頭。その有効性を「 slacktivism (怠け者の活動)」として退ける見方は早計である。(2)ソーシャルメディアが、運動組織を介さない動員や、運動組織そのものの変容(例:MoveOnのような新しいモデル)を可能にしたこと。(3)ICTが、特に資源の乏しい南半球や権威主義体制下の運動、および越境運動において、道具的および非道具的(文化的、アイデンティティ形成)に重要な役割を果たしていること。さらに、情報過多の時代において、社会運動研究が政治コミュニケーション研究の知見(例:フレーミング、アジェンダ設定、プライミング効果、情報摂取の選択性)を積極的に取り入れる必要性を説く。
第23章 運動におけるコミュニケーション
社会構造、メディア環境、運動の組織形態の変化に伴い、運動におけるコミュニケーションの役割がどのように変化したかを考察する。現代の組織中心の運動では、コミュニケーションは主にマスメディアを通じて集合的アイデンティティを「フレーミング」し、世論を形成する手段であった。しかし、制度化されたつながりが弱まった晩期近代社会では、運動の組織形態が変化している。ベネットとセガーバーグは、組織が主導する「組織によって仲介された集合行為」、組織が個人の参加を「可能にする」連結行為、そして組織が最小限で参加者の個人的な結びつきに大きく依存する「群衆に可能にされた連結行為」という、3つの理想的類型からなる連続体を提案する。後者では、コミュニケーションは単なるメッセージ伝達ではなく、ネットワークそのものを組織化する役割を担う。このような多様な運動形態を理解するためには、活動家の「コミュニケーション・レパートリー」や、言語、視覚的シンボルの役割の変化に着目する必要がある。
第24章 地理学と社会運動
地理学的視点が社会運動の実践を理解する上で如何に重要かを論じる。地理学者は、運動が社会構造に埋め込まれた不平等や不正義にどのように対応するかに焦点を当てる。(1)「場所の政治」:運動は、文化的意味、記憶、アイデンティティに満ちた特定の場所から動員し、その場所固有の政治的・文化的経済によって形成される。(2)「空間的不平等」:資本主義や国家権力の地理的に不均一な展開が、不平構造や政治的機会を場所によって差異化する。(3)「スケールの政治」:運動は、地方、国家、国際など複数のスケールを横断する戦略を展開する。(4)「闘争のネットワークと関係的空間」:場所に根ざした運動が、広範な「収束空間」や「アセンブラッジ」を形成し、空間を越えた連帯を構築する方法を探る。最後に、地理学者が社会運動とどのように協働し、「活動家の地理学」を実践してきたかを概観する。これは、知識と実践の統合、親和性の政治、権力関係の交渉、変革の先取りを目指すものである。
第五部 集合行為のレパートリー
第25章 戦略
戦略的対峙は、目標を持つプレイヤーが、協力的または対立的に互いの思考、感情、行動に影響を与えようとする際に発生する。社会運動とその敵対者との間の対峙が最も明白だが、運動と潜在的な同盟者や支持者、メディア、政府関係者との間の戦略的相互作用も存在する。相互作用の形態としては協力が衝突よりも一般的である。プレイヤーとは目標を持って戦略的行動に従事する個人または個人の集団(複合プレイヤー)であり、その目標は不安定で、内部での競合や生存自体が目的化するジレンマなどに直面する。アリーナとは、特定の相互作用が進行し、何らかの利害がかかる一連の規則とリソースの集合であり、物理的空間や制度的場(世論など)を指す。プレイヤーは自らの能力に合ったアリーナを選択し、時にはアリーナそのものを変えようとする。戦略的アプローチは、プレイヤーとアリーナ、そしてそれらの間の相互作用に焦点を当て、抗争のダイナミックな性質を明らかにする。特に国家は、現代世界における主要なプレイヤーかつアリーナであるが、統一された主体ではなく、多数の下位プレイヤーの集合体として分析すべきである。運動が利用する手段には、物理的強制、説得、報酬の三つの基本類型があり、運動は主に説得に依存するが、戦術の選択には道徳的ジレンマが伴う。今後の研究課題としては、活動家の意思決定プロセス、個人や指導者の役割、組織内の相互作用など、戦略的相互作用の微視的側面の解明が挙げられる。
第26章 抗争のレパートリー
「抗争のレパートリー」とは、集団が慣れ親しんだ行動の在庫から特定のものを選択し、それを状況に応じて即興的に演技(パフォーマンス)するという概念である。この章では、レパートリーが選択され変化するプロセスを、抗争が展開する三つの主要な領域(運動内、運動‐当局、運動‐治安部隊)における相互作用に焦点を当てて分析する。運動内では、リーダーは参加者の結束とコミットメントを維持するため、意識啓発、フレーム調整、儀礼の利用などのレパートリーを用いる。運動と当局の間では、政治的机会の構造に応じて、示威行進から暴動、武装反乱まで、制度的なものから非制度的で暴力的なものまで、多様なレパートリーが選択される。運動と治安部隊の間では、警察などの対応様式が運動のレパートリーに大きな影響を与え、過酷な弾圧は運動側の暴力のレパートリーを誘発しうる。さらに、抗争の周期が高まると、一般公衆、対抗運動、国境を越えたアクターとの相互作用が活発化し、レパートリーの選択と革新にさらに複雑な影響を及ぼす。特定の出来事が集合的アイデンティティの再定義を促し、感情的な反応を引き起こすことで、新しいレパートリーが生まれることもある。レパートリーの選択と変化は、目的合理的な論理だけでなく、表現的で情動的な論理にも左右されるのである。
第27章 暴動
暴動は、明確な政治的アジェンダが不明確で、衝動的かつ破壊的な行動を特徴とする、社会運動とは異なる異議申し立ての形態である。この章は、2008年のギリシャと2011年のイギリスで発生した全国的な暴動を事例に、その政治的動機と合理性を考察する。暴動を単なる「犯罪的」「無軌道」な行為と断じる政治的言説に対し、学術的考察は、背景にある社会経済的・政治的文脈、警察と地域住民の関係の悪化、そして暴動の引き金となる象徴的な事件(「閃光点」)に焦点を当てる。ギリシャの暴動は、警察による少年射殺事件を契機に、ネオリベラル政策による若年層の疎外と警察の抑圧的な対応に対する広範な怒りが爆発したものであった。同様に、イギリスの暴動も警察による黒人男性射殺事件とその後の警察の不適切な対応に端を発し、社会的剥奪と警察への不信感が蓄積した地域で発生した。参加者の感情と行動(警察や象徴的資産への攻撃、略奪)は、抑圧的と感じられる警察およびより広範な政治体制に対する怒りと、自らの生活に対する一時的なコントロールの奪還という意味を帯びていた。これらの事例は、暴動の「政治的」意味が、参加者の行動とそれを取り巻く社会政治的文脈、および閃光点事件の象徴的意義を結びつけることで理解できることを示している。
第28章 政治的暴力
政治的暴力とは、物理的、心理的、象徴的損害を個人や財産に与え、様々な聴衆に影響を及ぼして政治的・社会的変化を影響または抵抗しようとする、多様な行動のレパートリーである。社会運動研究の観点は、政治的暴力をより広範な政治的抗争プロセスの中に位置づけ、その発生を非暴力的動員からのシフト、および国家や対抗運動を含む多様なアクター間の相互作用的ダイナミクスの結果として捉える。このアプローチは、マクロ・ミクロの要因のみに注目するのではなく、関係的メカニズム(国家との相互作用、運動内競争、対抗運動との関係など)を通じて、暴力のエスカレーションと過激化を説明する。さらに、テロリズム研究、イスラム過激派運動研究、内戦研究との対話は、社会運動研究の視座を広げ、新たな文脈(権威主義体制、宗教的動員、戦時経済)や組織的・思想的要因の重要性を浮き彫りにしている。今後の研究課題は、街頭抗議、非公然暴力、内戦など、異なる形態の政治的暴力の間の相互関係と変容を、より統合的な分析的視点から捉えることである。
第29章 内戦における社会的動員と暴力、およびその社会的遺産
1945年以降、大規模暴力の主要な形態は内戦である。本章は、内戦における民間人への暴力のパターン、社会的動員、そして戦争の社会的遺産という三つのテーマに焦点を当てる。まず、民間人への暴力のパターンについては、武装集団の制度とイデオロギーに着目する近年の「組織的転回」を論じる。武装組織は、指揮官と戦闘員の間の principal-agent 問題に直面しており、強い組織制度と政治的社会化を通じて、暴力のレパートリー、標的、頻度を統制する。次に、社会的動員に関しては、非暴力運動から武装勢力へのエスカレーション、反乱軍と国家双方による民間人支援の動員、そして「民心掌握」戦略や無差別暴力の効果などが検討される。最後に、内戦の社会的遺産は、負の側面(経済的打撃、潜在的な対立)だけでなく、より平等なジェンダー役割や、政治的参加の拡大、プロ社会的行動の増加といった「肯定的」な側面も持ちうることが示される。市民の戦争暴力への曝露が、戦後の共同体における投票や参加を増加させるという実証研究も存在する。今後の研究では、社会運動と内戦という異なる形態の抗争政治の研究間の交流を深め、レパートリー、組織制度、動員構造などの概念を共有することが有益であろう。
第30章 非暴力抵抗(シビル・レジスタンス)
非暴力抵抗(シビル・レジスタンス)は、暴力に頼らない非日常的な政治的行為を持続的に用いる社会現象である。この章は、その概念と研究、成果、そして社会運動研究との関係を論じる。非暴力抵抗は、ガンディーの思想的影響を受けつつも、ジーン・シャープらにより戦略的・実践的な技術として発展した。支配者は被治者の同意に依存しているという権力観に立ち、大衆が経済的・社会的協力を撤退させる(ボイコット)または能動的に行う(バイコットなど)ことで体制の基盤を切り崩す。研究は、道徳的アプローチから戦略的アプローチへと推移し、シャープの影響を受けた実証研究により、非暴力運動は暴力運動よりも成功する確率が高いことが明らかになった。非暴力キャンペーンは、イラン、フィリピン、東ドイツ、チュニジアなど、世界各地で権威主義体制を打倒する上で主要な役割を果たしてきた。その成果は、直接的な政権交代にとどまらず、より広範な政治参加(年齢、性別を問わない)を可能にし、長期的な民主化にも寄与する。社会運動研究との相互交流は、双方の分野の発展に不可欠である。社会運動研究は、行為主体の戦略的選択にもっと注目すべきであり、非暴力抵抗研究は、運動の戦略をより広範な政治的・社会的文脈の中に位置づける必要がある。
第31章 社会運動における消費者の戦略
社会運動は、市場を政治の場として利用する戦略をますます活用している。政治的消費主義とは、倫理的・環境的・政治的に問題があると見なされた制度や市場慣行を変えるために、市場を政治の舞台として利用する消費者の行動である。その形態には、製品の不買(ボイコット)、積極的購買(バイコット)、企業政策についての意見表明(談話的戦略)、そして信念に基づくライフスタイルの実践(ライフスタイル政治)の四つがある。運動が消費戦略を用いる理由は、公民権運動のような成功事例があること、国境を越えた問題やアイデンティティ政治など従来の運動手法では解決が困難な課題が増えていることなどが挙げられる。有機食品運動や反スウェットショップ運動などの事例は、運動が商業化の手法(感情に訴えるマーケティング)を取り入れつつ、企業や政府をも巻き込んだ「変革の三角形」と呼ばれる問題解決のイニシアチブを形成していることを示す。これらの運動は、従来の国家中心の運動形態から、より個人化され、市場を標的とする形態へと変化し、地球規模での責任の取り方を促進している。
第32章 自発的行為と社会運動
市民社会、ボランティア活動、社会運動という三つの研究分野は、長らく並行して発展してきたが、近年相互の関心が高まっている。ボランティア活動は、金銭的報酬や法的義務なしに、自己の世帯外の他者のために行われる労働と定義される。その概念は国ごとの文化的・歴史的文脈によって異なる。社会運動は、制度化されていない形態の集団行動に依拠し、社会変化を促進または抵抗する持続的努力として定義でき、一種の自発的団体と見なすことができる。ボランティア活動の理論は、社会運動研究に重要な知見を提供する。すなわち、ボランティア活動への参加は、社会関係資本(人的ネットワーク)、社会経済的地位(学歴、収入)、主観的志向(宗教性、利他主義、人格特性)などの要因に影響され、特に「声をかけられる」ことが参加の重要な契機となる。アメリカの公民権運動とドイツの環境運動の事例は、非政府組織や自発的団体が、社会運動の手段であると同時に結果でもありうることを示している。市民的関与と自己組織化の理論に関する両分野間の対話は、社会運動の出現、動員、成功、そして社会的・政治的変化への影響に関する理解を深化させるだろう。
第六部 抗争の文化
第33章 文化的衝突と社会運動
文化と社会運動の関係を考察するにあたり、本章では、文化が運動の争点となる葛藤の温床として機能する側面と、文化が挑戦と社会変革の手段として利用される側面に焦点を当てる。文化を「ツールキット」、社会運動を権威体系への集団的挑戦と定義した上で、運動の文化的挑戦の座を、文化的要素(産物、実践、価値観)と運動の姿勢(受容、改革、拒絶)の交差として類型化する。受容の例としては「家族の価値観」を擁護する宗教右派、改革の例としては喫煙規制運動や動物権利運動、拒絶の例としてはラッダイト運動や原理主義的宗教運動が挙げられる。これらの文化的挑戦は、制度的権威との間、運動間、運動内という三つの文脈で展開する。さらに、運動が文化を利用・変容させるメカニズムとして、「文化的再生」(忘れられた文化要素の復興と新たな意味付与)と「文化的創作」(既存の文化的資源からの新たな創造)を提示する。社会運動は、文化的対立の文脈において、文化的回収、再生、創作を行う重要な文化的行為者なのである。
第34章 ナラティブと社会運動
物語(ナラティブ)は、活動家が参加者を動員し、支持を得て、意思決定者に影響を与えるための重要な資源である。物語は、連鎖する出来事を順序立てて語り、規範的な要点を伝える語りであり、その説得力は、聞き手を没入させ批判的思考を停止させる力に由来する。社会運動の発生を説明するにあたり、物語は、人々が自らを抗議の主体として構成する集合的アイデンティティの形成に寄与する。また、制度化された物語がその説得力を失ったり、新しい物語が登場したりすることが、抗議の契機となる。動員と支持獲得の局面では、物語の効果はその形式や内容だけでなく、法廷やメディアといった制度における物語作法の規範にも左右され、活動家はしばしばそれに適応する戦略的コストを負う。運動の成果としては、政策立案者に好ましい物語が受け入れられること自体が成功であり、新しい語り手の階級(例えばエイズ患者)に権威が与えられること、または運動の歴史についての物語が公的に承認されることも重要な文化的影響である。物語をデータおよび方法として用いる際には、その回顧的性質や因果説明の曖昧さに注意が必要である。今後の研究では、物語の説得力を構成する要素や、政策過程における運動の物語の影響力、そして物語と他の文化的形態の比較などが課題となる。
第35章 社会運動の芸術
音楽を筆頭とする芸術は、社会運動の確立されたレパートリーの一部である。芸術的表現は、運動の内部力学(参加者の募集、連帯の動員、集合的アイデンティティの形成)において重要な役割を果たす。集団での歌唱や視覚的シンボルは、結束を強め、勇気と回復力を与える。同時に、運動の芸術は、外部へのコミュニケーション手段でもある。運動は、服装、旗、バナー、音楽、演劇などを用いて、自分たちが誰であり、何に立ち向かっているのかを公に表現する(WUNCの表示)。著名な芸術家の支援や、ドキュメンタリー、壁画などの芸術作品は、運動の理念を伝え、抗議の伝統を後世に伝える媒体となる。さらに、運動は、ストリート・パフォーマンスや風刺劇を通じて、自分たちが反対する「他者」を可視化し、名指しする。逆に、権威主義的体制は、芸術と芸術家を統制と弾圧の対象とすることが多い。運動における芸術実践は、運動の理念や情動を客体化し、運動が自らを認識する鏡となるだけでなく、抗議の伝承を可能にし、運動が実現を目指す世界のあり方を予示するユートピア的瞬間を内包するのである。
第36章 社会運動におけるビジュアル
社会運動の視覚的側面に関する研究は、近年関心を集めている。視覚的分析は主に二つの側面に焦点を当てる。第一に、運動が可視化されるパフォーマンス的側面である。示威行進や直接行動といった身体的な実践、服装やシンボルなどの視覚的コードは、運動の主張を表現し、内部の連帯と集合的アイデンティティを形成する。運動のビジュアルは、感情(怒り、誇り、恐怖)を形成し、動員する上で極めて重要である。第二に、運動のメディア化された側面である。運動は、ウェブサイトやソーシャルメディアなどのニューメディア、さらには商業メディアを通じて、自らのイメージやメッセージを発信し、世論形成を試みる。イランやアラブ春の抗議では、デジタル技術を駆使した画像の流通と共創が、グローバルな不正のシンボル(ネダや Khaled Said)を生み出す上で決定的な役割を果たした。視覚的分析は、運動の感情的動員、フレーミング過程、異文化間での戦略の拡散などを理解する上で新しい知見を提供し、社会運動研究を豊かにする可能性を秘めている。
第37章 実践運動
「実践運動」とは、直接的に目標を実現しようとする日常的実践によって定義される、組織化されていない集合的行動である。土地の不法占拠、国境を越える非正規移民の移動、窃取や共有などがその例であり、それらの実践は、空間、所有権、地位秩序、規範的規制に内在する制限を越え、生活の可能性を拡大しようとする。これらの運動は、宣言ではなく「行為」によって主張を表明し、目標は体制への包括的拒絶ではなく、より良い生活への参加とアクセスの獲得であることが多い。その集合性は、公式組織ではなく、実践の相互参照と類似性の認識によって構成される。従来の社会運動が抑圧される文脈では特に重要であるが、それ以外の文脈でも、「声なき者」の声を伝え、社会制度を形成する遍在的変革力として無視できない。これらの実践は、しばしば「レジスタンス」として分析されてきたが、その意図と効果は複雑である。より包括的な概念として、「流用」が提案される。これは、何かを「取り上げる」と同時に、自らの実践として「取り込む」ことを意味し、抵抗の次元を超えた規範的で投影的な側面を評価できる。実践運動の正当化は、支配的秩序の未充足の規範的約束や、他との比較に基づくことが多く、その効果は、物質的アクセスの一時的変化、国家による弾圧または正規化、そして何が「正常」で「正当」と見なされるかという規範的基準そのものの漸進的変容にある。
第38章 内在的記述
社会運動は、情熱と創造性に満ちた集合的営みである。エスノグラフィー、特に参与観察は、活動家の感情、生活経験、日常的実践を捉えるのに有効な方法である。しかし、主流の社会運動研究では十分に活用されておらず、人類学や批判的地理學における運動の民族誌的研究は、社会学や政治学のそれと断絶している。エスノグラフィーは、単なる研究方法ではなく、分析と執筆の様式、そして研究者自身が研究過程で変容することを厭わない態度である。運動内部で行われる「ミリタント」なエスノグラフィーは、活動家の実践の論理を理解する上で特に有効である。それは、運動の内部文化、アイデンティティ、意思決定をめぐる日常的な文化的生産、ローカルとグローバルを結ぶネットワーキングの実践、ニューメディアを利用した活動、そして示威行動や直接行動といった身体的・演劇的実践など、多様な実践領域を照らし出す。このような参与的アプローチは、研究者と運動の間の力関係や知識生産の政治学という難問を提起するが、運動と学者の双方にとって戦略的価値のある内在的知識を生成する。社会運動研究のさらなる発展のためには、様々な分野の民族誌研究者による学際的な対話と協力が不可欠である。
第七部 政治的・非政治的機会と制約
第39章 対立的集団行動と進化する国民国家
国家は、対立的集団行動に対して最も重要な大規模な構造的要因の一つである。国家は究極的な権威を主張するため、集団行動の流れが向かう舞台となる。国家は、生活条件を変化させる手段を持つと考えられるため、社会運動の苦情の源泉であり、社会変革を達成するための手段でもある。国家はその権力の乱用や、アイデンティティ政治への関与によっても抵抗を引き寄せる。しかし国家は、単なる不満の対象であるだけでなく、抑圧的・物質的・規制的能力を通じて、また社会化や動員の力を通じて、集団行動を形成する主体でもある。国家は多様な可能性と構成の範囲を表しており、社会と密接に絡み合っている。政治体制は国家へのアクセスを規制するが、国家と社会の関係を変えることは容易ではない。本章では、国家の制度的成長、国民的自決、グローバル化という3つの長期的変革が、対立的政治にどのような影響を与えてきたかを検討する。
第40章 社会運動と多国間アリーナ
グローバル化は社会運動に影響を与え、国家間の関係の強化は、人々が組織化する不満と闘争の資源の両方を形成する。しかし、社会運動研究の多くは、国家を主要な闘争の場として特権視し続けている。トランスナショナルな社会運動に関する研究は、社会運動が国家制度を形成してきたのと同様に、政府間組織や法といったトランスナショナルな制度を形成してきたことを示している。運動は、参加と説明責任を求める大衆の要求を反映し、国家の正統性を定義するのに貢献し、国際政治において市民社会アクターの場を確保してきた。しかし、運動の民主主義的衝動とグローバル資本主義システムの要求との間の矛盾は明らかになっており、多くの運動が国家システムの外に目を向けている。この発展は、社会運動と国家、さらには国家間システムそのものとの関係を再考するよう促す。
第41章 権威主義体制下の社会運動
権威主義国家では、民主主義的な自由が厳しく制限され、政治的異議を抑圧するために暴力と監視が用いられる。こうした条件は社会運動の発展には適さないが、運動が発生しないわけではない。運動が動員する場合、その組織、軌道、行動対象は民主主義的文脈とはしばしば異なる。権威主義体制下の社会運動を理解するには、国家の弾圧的対応の動態、運動の多様な主体間の戦略的相互作用、そして抑圧的レパートリー——公的なモジュール式レパートリーへと移行する前段階の、創造的で偽装的、引き金となる形態の集団行動——に注目する必要がある。運動は制約された環境に適応し、国家装置の複雑さと多様な利益が生み出す隙間を利用する。運動の成功は、組織戦略の柔軟性、戦術の多様性、そして国家の弾圧を動員の機会に転換する能力にかかっている。
第42章 抑圧:国内の異論に対するガバナンス
社会運動研究における「抑圧」の概念は、支配的な政治的・経済的秩序を脅かさないように「市民社会の行為を操縦する」こととして捉え直すことができる。この多次元モデルは、地理的・操作的規模(スケール次元)、行為者の制度的アイデンティティ(制度的次元)、そして行為の方法(機能次元)を用いて、抑圧の形態を整理する。スケール次元は、超国家的レベルから個人間レベルまでの範囲を、制度的次元は、国家と緊密に結びついた行為者から私的・市民的行為者までの範囲を、機能次元は、巧妙なチャネリングから暴力的強制に至る範囲をカバーする。このモデルは、動員とスケール、抑圧の制度的行為者、その戦略的機能との関係を探求する新たな研究を刺激しうる。国内の異論は、政治・経済的秩序に対する脅威と見なされ、国家や私的セキュリティ行為者、対抗運動によって、強制的または巧妙な手段を通じて、ほぼ例外なく何らかの形の「抑圧」を引き起こす。
第43章 抗議の管理:企業の政治的行動レパートリー
企業は、社会運動の要求に対応するために多様な戦術的レパートリーを発展させてきた。これには、回避、服従、妥協、迂回、対抗、予防という6つの戦略的指向が含まれる。企業の対応は、企業や産業の機会構造によって形成されるが、政治制度的文脈(資本主義の多様性、国家能力)や、抗議管理を担当する企業内部の専門部門(広報・渉外部門)の存在といった、これまで十分に検討されてこなかった側面にも影響を受ける。企業の戦術は、国家政治と私的政治の両方の領域で展開され、しばしば互いに結びついている。企業は制約の源泉であるだけでなく、運動の同盟者となることもある。企業の抗議管理のレパートリーを体系的に研究することは、現代の企業の政治的役割を理解する上で極めて重要である。
第44章 政党システム、選挙制度、社会運動
政党と社会運動の関係は、政治過程アプローチで想定される以上に複雑である。政党は運動の同盟者であるだけでなく、運動が政党を形成したり(コンセンサス民主主義国家)、既存政党を掌握したり(多数決民主主義国家)することがある。さらに、労働運動、環境主義(緑の党)、新ポピュリスト右派などの重要な社会運動は、個々の政党や政党システム全体を変革する力を持ってきた。左派運動と右派運動は、参加形態において体系的差異を示し、左派は抗議政治を好むのに対し、右派は選挙政治を好む傾向がある。近年の経済危機は、「反政党」の台頭を通じて、さらなる政党システムの変革を引き起こしている。社会運動と政党の境界は曖昧であり、両者の相互作用は民主主義的代表制の動態を理解する上で中心的である。
第45章 ポピュリズム、社会運動、および大衆的主体性
ポピュリズムと社会運動の関係は不明確であり、両者の研究は分断されてきた。しかし、両者は非制度化された対立的政治の形態として、共通の政治的機会構造を共有し、しばしば連続して出現する。ポピュリズムを人民主体性の一形態として概念化するとき、社会運動(参加型・草の根型)とポピュリズム(住民投票型・トップダウン型)の間に本質的な緊張関係が存在することが明らかになる。現代ラテンアメリカでは、大規模な社会抗議がポピュリスト的勃発の前兆となることが多く、これは政党を媒介とした民主主義的代表制の危機を反映している。ボリビア、エクアドル、ベネズエラの事例は、ポピュリスト/左派政権と社会運動の間の多様な関係——有機的生成から住民投票的・技術支配的収用まで——を示しており、人民主体性の異なる形態が政治領域をどのように再形成するかを理解する必要性を強調している。
第46章 市場、企業、社会運動
企業と市場は社会運動に影響を与えるとともに、運動からも影響を受ける。企業および産業の機会構造という概念は、運動の活動を促進・制約する経済的・組織的・文化的要因を捉える。研究は、産業内の競争動態、規制の差異、私的規制協会、さらに企業内ではCEOの特性、取締役会のガバナンス、評判、可視性、企業文化などが、運動の動態を形成することを示してきた。近年の動向——ベネフィット企業、プロの草の根ロビー活動、証券取引委員会規則の変更、企業の社会的責任(CSR)、クラウドファンディングと共創——は、運動と企業・市場の相互作用が、運動の影響の機会と制約の両方を生み出しながら、産業および企業の機会構造を変化させ続けていることを示唆している。企業、市場、産業の特性が社会運動のプロセスに与える影響を理解することは、組織研究と社会運動研究の交差点において極めて重要である。
第八部 運動の社会的・政治的変革への貢献
第47章 福祉の変化と社会運動
福祉制度と社会運動の関係は複雑である。資本主義は商品化と脱商品化の矛盾を内包し、福祉レジームは、国家、民間資本、慈善団体、家族、そして運動自身による自己組織化された形態を含む、様々な供給の組み合わせである。福祉の変化は、社会運動の圧力を含む、政治闘争の不連続な期間に生じる。抗議の波は、経験、アイデンティティ、願望を再秩序化し、新たな組織形態と contentious なレパートリーを生み出す重要な変革の機会である。戦後の長期ブーム期には、福祉国家が資本主義の「平和公式」として機能したが、1960年代の抗議の波は、福祉制度に対する新たな要求(官僚制、男性中心主義、人種差別への挑戦)を生み出した。新自由主義時代は、福祉に対する組織的な攻撃をもたらし、運動の抵抗を引き起こした。現在の危機は、福祉に対する新自由主義の攻撃に抵抗する運動の新たな波を生み出しているが、その成功は、組合と新たな社会運動の間の「ちょうつがい」が閉じられるかどうかにかかっている。
第48章 環境運動の影響
環境運動の影響は、政策、実践、結果に対してしばしば主張されるが、評価が難しく、激しく議論されている。環境運動は、草の根の直接行動から官僚化されたロビー団体まで、組織と行動の形態において多様である。その影響力は、科学的証拠への依存、可視性、政治的機会に基づいている。運動は、政策形成(例:気候変動法への影響、開発阻止)と政策実施の両方に影響を与え、世論を形成し、企業の行動を変化させてきた。国際交渉では、環境NGOは専門知識を持つ分野で最も影響力を持ち、「ブーメラン効果」を利用するが、産業団体に比べて外部者であり、複雑で分極化した問題(気候変動など)では影響力が限定的である。環境運動は、権威主義国家における市民社会の空間の拡大や、民主的政治過程の活性化にも貢献してきた。しかし、環境運動の多くの成功にもかかわらず、地球環境の悪化は前例のないペースで続いており、運動のローカルな成果は、より広範な制度的取り決めによってしばしば制限されている。
第49章 人権を構築するのは社会運動か?
人権と社会運動の関係は、学際的人権文献において体系的に研究されてこなかった。「人権運動」という言葉は、グローバルな正義の理想を正当化するために主に規範的に用いられてきた。トランスナショナルなアドボカシー・ネットワークは、NGOによる人権の構築を研究する主要な枠組みであるが、エリート変容に焦点を当てており、活動家や一般市民の間での集合的アイデンティティ形成を無視している。国際NGO(INGO)と草の根組織(GRO)の関係は、INGOが運動の目的を歪める場合もあれば(例:オゴニ人民運動)、既存のキャンペーンに重みを加える場合もある(例:治療アクション・キャンペーン)。人権が実践において効果的であるためには、人々が不正義に対処するのに適した方法で人権を定義し、苦情を申し立てる場所を知る必要がある。社会運動と人権の研究には、異なる規模、異なる組織形態において、人権の定義と要求が集合的アイデンティティにどのように貢献するかを体系的に研究する必要がある。
第50章 国際意思決定への市民社会参加の条件
過去30年間のトランスナショナルな活動主義の強化を決定づけた国際的条件を検討する。特に、市民社会組織(CSO)の国際的意思決定過程への限定的だが継続的な包摂を可能にした条件に注目する。この漸進的変化を理解するために、CSOの現代的グローバル化論争に関する观念的貢献を検討する。まず、トランスナショナルな活動主義を促進した社会経済的および規範的・制度的条件を検証する。次に、CSOの文脈的影響とトランスナショナルなレベルでの規範変化の政治を理解するための解釈モデルを概説する。さらに、グローバル化に関する議論を調査し、それによって展開された主要なグローバル・マスターフレームを精査する。この作業から、市民社会参加推進規範という共通項が特定され、それが具体的な制度化の文脈で分析される。これらの制度的実例は、現在のグローバル・ガバナンスの枠組み内でのこの新規範の広がりを跡付けながら、その実施が必然的に党派的な解釈に従属し、したがって政治的論争を引き起こすことを示している。
第51章 社会運動における民主主義
社会運動は政策変更を通じて民主主義国家を変革するだけでなく、従来の政治への根本的批判を表明し、メタ政治的課題に取り組む。労働運動以来、社会運動は参加型民主主義の構想と実践を議論し実験する場となってきた。1960年代以降の「新しい社会運動」は、分権的で参加型の組織構造と国家・企業官僚制への対抗を主張した。グローバルジャスティス運動では、参加型民主主義の強調に加え、合意形成、多様性の尊重、包摂性といった審議民主主義的価値が前面に出た。2011年以降の緊縮財政反対運動(インディグナドス/オキュパイ)は、占拠された公共空間において「真の民主主義」としての参加型かつ審議型民主主義を先取りしようとした。運動内部における民主主義の構想と実践の変容は、政治的機会構造、組織適応、文化的変化、技術、および過去の運動からの学習を含む様々な要素の影響を受ける。社会運動における民主主義の研究は、運動が「別の民主主義」を呼びかける中で重要性を増している。
第52章 民主主義的イノベーション
民主主義的イノベーション(市民参加のための制度的仕組み)と社会運動は、共通善を構築する対立する方法としてしばしば対置されてきたが、歴史的には相互に形成し合ってきた。民主主義的イノベーションの最初の波は、1970年代に、政治過程のより大きな包摂性を求める社会運動の要求への応答として出現した(例:地区評議会、参加型予算)。社会運動は、新たな形態の民主的関与に参加またはボイコットすることによって、民主主義的イノベーションの働き方に影響を与える。さらに、社会運動の内部民主主義的実践と非公式意思決定の限界に関する考察は、審議民主主義の分野に影響を与え、その実践の手続き化(ミニ publics の台頭など)を促した。逆に、審議民主主義の理論と方法論は、社会運動研究に、談話的相互作用の微視的過程への注目をもたらした。両分野の研究は、民主主義的相互作用を形成するより広範な政治的過程と力の役割について互いに学び合うことができる。
第53章 革命と体制変動
革命運動は、法律、政策、文化的規範の変更を通じて社会を改革しようとする通常の社会運動とは異なり、政治体制の変更を含む、より根本的な変革をもたらそうとする。革命(狭義の社会革命)は、政治体制の転覆に加えて、経済制度や階級構造の根本的変化を伴う稀な歴史的出来事である。革命運動は通常失敗するが、成功すれば何らかの体制変動をもたらす。革命状況(二重権力)は、政治的忠誠心が政府と革命家の間で分裂している状況であり、経済危機、戦争、エリートの分裂によって国家のインフラストラクチャー権力が崩壊または弱体化したときに生じやすい。抑圧的で権威主義的な体制は、広範な不満を生み出し、平和的改革の可能性を閉ざし、革命的イデオロギーの説得力を高め、人々を防御や集団的利益追求の手段として革命的戦略に向かわせるため、革命運動の成長を促進する傾向がある。対照的に、民主主義体制は、社会紛争を選挙やロビー活動といった制度的チャネルへと方向転換させ、国家自体への反乱という誘因を一般に抑制する。したがって、革命は長年にわたり確立された民主主義体制を転覆したことは一度もない。
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