
書籍 『Common: Essay on Revolution in the 21st Century』
目次
- 序章 コモン:政治的原理として
- 第一部 コモンの出現
- 第1章 共産主義の重荷;あるいはコモンに対する共産主義
- 第2章 大収奪と「コモンズ」の回帰
- 第3章 コモンズの政治経済学批判
- 第4章 コモン、地代、資本
- 第二部 コモンの法と制度
- 第5章 所有権法と不可譲渡性
- 第6章 コモンの法と「コモン・ロー」
- 第7章 「貧困の慣習法」
- 第8章 労働者のコモン:慣習と制度の間で
- 第9章 制度創設的実践
- 第三部 九つの政治的命題
- 政治的命題1 私たちはコモンの政治を構築しなければならない
- 政治的命題2 使用権は所有権に挑戦しなければならない
- 政治的命題3 コモンは労働の解放の原理である
- 政治的命題4 私たちは共通の労働を制度化しなければならない
- 政治的命題5 経済的協同組合主義はコモンの社会への道筋である
- 政治的命題6 コモンは社会民主主義の基盤でなければならない
- 政治的命題7 公共サービスはコモンの制度とならなければならない
- 政治的命題8 コモンズはグローバルでなければならない
- 政治的命題9 私たちはコモンズの連邦を制度化しなければならない
- 21世紀における革命に関する追記
本書の概要:
短い解説:
本書は、現代社会が直面する危機を乗り越える新たな政治原理として「コモン」を提唱する。資本主義の私有財産制度と国家社会主義の両方を超克し、人々が共同で管理する「コモンズ」に基づく社会構想を探求する。
著者について:
ピエール・ダルドとクリスチャン・ラヴァルはフランスの哲学者・社会学者であり、共同で数多くの著作を発表している。両者は新自由主義批判で知られ、マルクス主義の伝統を継承しつつも、それを単純に復活させるのでなく、現代的な文脈で再構築することを目指す。本書では歴史的・理論的な分析を通じて、政治哲学の新たな地平を切り開く。
テーマ解説
- 主要テーマ:コモンを原理とする新たな社会構想
- 新規性:共産主義の伝統を批判的に継承しつつ「コモン」概念を中核に据える
- 興味深い知見:労働者自主管理の歴史的経験と現代的な意義
キーワード解説(1~3つ)
- コモン:人々が共同で管理・利用する資源と社会的実践の総体
- コモンズ:歴史的に形成された共同管理の社会的形態
- 制度創設的実践:新しい社会関係を生み出す実践的プロセス
3分要約
本書は、現代の政治的・社会的危機に対する応答として「コモン」概念を徹底的に探求する。著者たちは、この概念が単なる理論的抽象概念ではなく、実際の社会的実践として理解されるべきだと主張する。
序章では、コモンが単なる共有資源を超える政治的原理であることが示される。それは人々が共同で決定し、管理する実践的なプロセスとして定義される。
第一部では、コモンの歴史的・理論的基盤が探求される。第1章では、伝統的な共産主義概念がしばしば国家中心主義に陥り、真のコモンを抑圧してきたことが批判される。第2章では、資本主義的収奪に対する抵抗としてのコモンズの歴史的役割が検討される。第3章では、現代のコモンズ論を政治経済学的に批判し、その限界を明らかにする。第4章では、地代理論を通じて資本とコモンの関係が分析される。
第二部では、法的・制度的観点からコモンが考察される。第5章では、私有財産権に対する不可譲渡性の概念が対置される。第6章では、コモン・ローの伝統がコモンの法的基盤として再評価される。第7章では、貧困層の慣習的権利が歴史的に重要な役割を果たしてきたことが示される。第8章では、労働者自主管理の歴史的経験が詳細に分析される。第9章では、新しい社会関係を創出する制度創設的実践の重要性が強調される。
第三部では、9つの具体的な政治的命題が提示される。これらは、コモンに基づく新たな社会構想の実践的指針となる。使用権の優位、労働の解放、協同組合主義、公共サービスの改革、グローバルな連帯など、多角的な提案がなされる。
最終的に著者たちは、21世紀の革命概念を再定義する。それはもはや国家権力の奪取ではなく、日常生活におけるコモンの実践を通じた社会関係の漸進的変容として理解される。
各章の要約
序章 コモン:政治的原理として
コモンは単なる共有資源ではなく、政治的実践の原理である。この概念は、私有財産制度と国家主義の双方を超克する可能性を秘めている。著者たちは、コモンを「共同活動を通じて生成され、共同で管理されるもの」と定義する。これは受動的共有ではなく、能動的共同実践を意味する。コモンの政治は、新自由主義の個人主義と伝統的社会主義の国家中心主義の両方に対する代替案を提供する。
第一部 コモンの出現
第1章 共産主義の重荷;あるいはコモンに対する共産主義
伝統的共産主義は国家による生産手段の国有化を強調し、実際にはコモンを抑圧してきた。マルクス主義の歴史的経験は、国家官僚制による社会の管理という歪んだ形態を生み出した。真のコモンは、人々の自主的協同関係に基づくべきであり、上からの管理ではない。著者たちは、共産主義の遺産を批判的に継承しつつ、その国家的歪曲を克服する必要性を強調する。
第2章 大収奪と「コモンズ」の回帰
資本主義の起源は共同資源の収奪(囲い込み)にあり、この過程は現在も続いている。しかし同時に、収奪に対する抵抗としてコモンズの実践も持続してきた。歴史的に、農民共同体は土地や資源の共同管理を発展させてきた。これらの実践は単なる過去の遺物ではなく、現代的な意義を持つ。著者たちは、収奪の歴史に対する抵抗の伝統を再評価する。
第3章 コモンズの政治経済学批判
現代のコモンズ論は往々にしてロマン主義的になりがちである。著者たちは、コモンズを単なる市場や国家の代替物として位置づける見方を批判する。真のコモンは、資本主義的論理そのものに対する根本的批判を含まねばならない。コモンズの経済的側面を過小評価することも、逆に市場経済に完全に統合することも避けるべきである。
第4章 コモン、地代、資本
地代理論の観点から、資本とコモンの関係を分析する。資本は本質的にコモンに依存しながら、それを私物化する傾向を持つ。この矛盾が現代資本主義の根本的な緊張を生み出している。著者たちは、地代概念を拡張し、知識、文化、生命そのものなどの新たな収奪形態を説明する理論的枠組みを提供する。
第二部 コモンの法と制度
第5章 所有権法と不可譲渡性
私有財産権の絶対性に対して、不可譲渡性の概念を対置する。不可譲渡な権利とは、売買や譲渡ができない基本的権利を意味する。この概念は、共同資源の私物化を制限する法的基盤を提供する。著者たちは、使用権を優先し、所有権を制限する法的枠組みの必要性を論じる。
第6章 コモンの法と「コモン・ロー」
コモン・ローの伝統は、国家法に対する慣習法の優位を主張してきた。この伝統は、コモンの法的基盤として再解釈できる。著者たちは、形式化的な成文法に対して、人々の実践から生まれる生きた法の重要性を強調する。コモン・ローは、コモンの制度的表現として機能しうる。
第7章 「貧困の慣習法」
歴史的に、貧困層は生存権を主張するために独自の慣習法を発展させてきた。これらの法的実践は、公式の法体系から排除されながらも、重要な抵抗の資源となってきた。著者たちは、これらの「下からの法」がコモンの政治的実践にとって持つ意義を考察する。
第8章 労働者のコモン:慣習と制度の間で
労働者自主管理の歴史的経験を分析する。パリコミューンから現代の協同組合まで、労働者は生産手段の共同管理を実践してきた。これらの経験は、慣習的自律性と制度的持続性の間の緊張を示している。著者たちは、この緊張を生産的に解決する方途を探る。
第9章 制度創設的実践
コモンは自然に生まれるのではなく、意識的実践を通じて構築される。制度創設的実践とは、新しい社会関係を生み出す活動である。これは単なる反対運動ではなく、替代的制度の創造を目指す。著者たちは、この実践が持つ変革的可能性を強調する。
第三部 九つの政治的命題
政治的命題1-9 コモンの政治的プログラム
9つの命題は、コモンに基づく社会構想の具体的指針を提供する。使用権の優位、労働の自主管理、協同組合主義の拡大、公共サービスの改革、グローバルな連帯などが提案される。これらの命題は相互に関連し、包括的社会変革のビジョンを構成する。著者たちは、国家権力の奪取ではなく、日常生活におけるコモンの実践を通じた漸進的変容を主張する。
政治的命題1 私たちはコモンの政治を構築しなければならない
コモンの政治とは、国家や市場の論理に従属しない新たな政治実践である。これは単なる政策転換ではなく、社会関係そのものを変革する原理だ。人々が共同で決定し管理するプロセスを通じて、真の民主主義を実現する。従来の代表制民主主義を超え、日常生活における直接的な共同統治を目指す。コモンの政治は、すべての社会的領域に浸透する包括的変革のプロジェクトなのである。
政治的命題2 使用権は所有権に挑戦しなければならない
私有財産権の絶対性に対し、使用権を優位に置く法的革命を提唱する。土地、資源、知識などへのアクセス権を、所有権から切り離す。これは単なる法的変更ではなく、人間と世界の関係の根本的転換を意味する。使用権の優位は、資源の共同管理と平等なアクセスを保障する基盤となる。所有から使用へ、排他から共有へのパラダイム転換である。
政治的命題3 コモンは労働の解放の原理である
労働の解放は、単なる労働条件の改善を超える。資本の論理に支配された賃労働そのものを克服することを意味する。コモンに基づく労働は、共同的な創造活動として再定義される。労働者は生産手段を共同管理し、労働過程と成果を自主的に決定する。これにより、労働は疎外された活動から、共同的な自己実現の場へと変容するのである。
政治的命題4 私たちは共通の労働を制度化しなければならない
共同労働の持続的実践には、制度的基盤が必要である。協同組合、労働者自主管理企業、生産者ネットワークなど、多様な形態を発展させる。これらの制度は、市場競争の論理ではなく、相互扶助と連帯の原理で運営される。重要なのは、形式だけでなく、内部の意思決定と権力関係を民主化することである。制度化的共同労働が新社会の胚胎形態となる。
政治的命題5 経済的協同組合主義はコモンの社会への道筋である
協同組合主義は単なる経済モデルではない。市場経済内部からの漸進的変革の戦略である。生産、流通、消費の各段階で協同組合を拡大し、資本主義的関係を駆逐する。これは国家による国有化とは異なり、基底からの社会変革を意味する。経済的民主化を通じて、政治的な民主主義の実質的内容を充実させる道なのである。
政治的命題6 コモンは社会民主主義の基盤でなければならない
従来の社会民主主義は国家による再分配に依存しすぎた。コモンを基盤とすることで、国家中心主義を克服する。社会保障や公共サービスを、国家による給付から、市民の共同管理による協同的提供へ転換する。これにより、受動的受益者ではなく、能動的共同管理者としての市民を創出する。社会民主主義の再生はコモンの政治なくしてありえない。
政治的命題7 公共サービスはコモンの制度とならなければならない
公共サービスを官僚的管理から解放し、利用者と労働者の共同管理へ移行する。教育、医療、交通など、すべての公共サービスを参加型民主主義の実験の場とする。これはサービスの質的向上をもたらすと同時に、新たな社会関係の育成の場となる。公共サービスが単なる国家サービスから、共同社会活動へと質的転換を遂げるのである。
政治的命題8 コモンズはグローバルでなければならない
コモンの論理は、国家の境界を超える必然性を持つ。気候変動、感染症、金融危機など、地球規模の課題に対処するには、グローバルなコモンズの構築が不可欠である。これはグローバル化の否定ではなく、新自由主義的グローバル化に対する代替的な全球統合の形を意味する。すべての人類の共同遺産としての地球環境と資源の管理を目指す。
政治的命題9 私たちはコモンズの連邦を制度化しなければならない
多様なコモンズを結びつける連邦的構造が必要である。これは中央集権的国家に対抗する、水平的なネットワーク型統治モデルだ。地域、国家、地球規模の各レベルで、コモンズ間の協力と調整を促進する。連邦主義は統一性と多様性の両立を可能にする。これにより、ローカルな実践とグローバルな連帯を媒介する制度的枠組みが構築されるのである。
21世紀における革命に関する追記
21世紀の革命概念は根本的に再定義される必要がある。もはやそれは暴力による国家権力の奪取ではなく、社会関係の漸進的変容を意味する。この変容は、コモンの実践を通じて日常生活レベルから始まる。著者たちは、この「静かな革命」が持つ変革的可能性を強調し、希望の政治学を提示する。
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