
英語タイトル:『Data Grab: The New Colonialism of Big Tech and How to Fight Back』Ulises A. Mejias & Nick Couldry 2024
日本語タイトル:『データ・グラブ:ビッグテックの新植民地主義とその対抗法』ウリセス・A・メヒアス & ニック・カルドリー 2024
書籍『データグラブ:ビッグテックの新たな植民地主義とその対抗方法』 2024年
「妊娠を知ったのは、フェイスブックの広告だった」
16世紀の土地収奪から21世紀のデータ収奪へ。ニューヨーク州立大とロンドン経済大の研究者が、現代のビッグテック企業による大規模なデータ抽出を歴史的植民地主義の… pic.twitter.com/mHJAWPwVR6
— Alzhacker (@Alzhacker) September 26, 2025
目次
- 序章 土地収奪からデータ収奪へ / From Landgrab to Data Grab
- 第1章 新しい植民地主義 / A New Colonialism
- 第2章 データ領域 / Data Territories
- 第3章 データの新文明化使命 / Data’s New Civilising Mission
- 第4章 新植民地階級 / The New Colonial Class
- 第5章 反抗の声 / Voices of Defiance
- 第6章 抵抗のプレイブック / A Playbook for Resistance
- 結論 抵抗しなければどうなるか? / And If We Don’t Resist?
本書の概要
短い解説
本書は、現代のデジタル技術による大規模データ収奪を歴史的植民地主義の継続として捉え、その構造と対抗策を示すことを目的としている。
著者について
著者のメヒアスとカルドリーは、それぞれメキシコとロンドンの異なる植民地経験を持つ研究者である。デジタル社会学とメディア研究の専門家として、データ植民地主義の概念を提唱し、技術決定論に対抗する批判的視点を提示する。
主要キーワードと解説
- 主要テーマ:データ植民地主義 / 歴史的植民地主義の手法をデジタル時代に適用した新しい支配形態
- 新規性:データ領域 / 物理的領土に代わる、コードによって構築された支配空間の概念
- 興味深い知見:社会定量化セクター / データ抽出を通じて利益を追求する新しい産業複合体
3分要約
本書は、現代のビッグテック企業によるデータ収集を「データ植民地主義」として定義し、これが500年前に始まった歴史的植民地主義の現代版であると論じる革新的な分析である。
著者らは、植民地主義の「4つのX」(探索・拡張・搾取・殲滅)モデルを現代に適用し、アマゾン、グーグル、フェイスブックなどの企業がいかにこのパターンを踏襲しているかを示している。歴史的植民地主義が土地を「ただそこにある」資源として扱ったように、現代のデータ植民地主義は人間の生活データを「安価な」資源として扱っている。
データ植民地主義の核心は「データ領域」の創設にある。これは物理的な土地に代わる、コードによって構築された支配空間である。スマートフォンのアプリ、ソーシャルメディアプラットフォーム、IoTデバイスなどを通じて、私たちの生活空間全体がデータ抽出のための領域に変換されている。この過程で、非対称的な権力関係が生まれ、企業は私たちの行動を追跡・予測・影響できる一方、私たちは彼らの行動を見ることができない。
この新しい植民地主義は、3つの「文明化」物語によって正当化されている。第一に「利便性」の物語—データ抽出が私たちの生活を便利にするという主張。第二に「接続性」の物語—プラットフォームが人類をより良く結びつけるという約束。第三に「AI の優越性」の物語—人工知能が人間より優れた判断を下すという信念である。しかし、これらの物語の背後には、歴史的植民地主義と同様の権力構造と不平等の再生産がある。
データ植民地主義を推進する「新植民地階級」は、著者らが「社会定量化セクター」と呼ぶ産業複合体を形成している。これには、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やその中国版であるBATX(バイドゥ、アリババ、テンセント、シャオミ)といった巨大プラットフォーム企業から、データ仲介業者、政府契約業者まで幅広い主体が含まれる。特に注目すべきは、パランティアのような企業が政府の意思決定システムそのものになりつつあることである。
このシステムの影響は不平等に分配される。歴史的植民地主義の遺産により、有色人種、女性、貧困層がアルゴリズム差別の主な対象となっている。同時に、グローバル・サウスの国々は、グローバル・ノースの企業によるデータ抽出の対象となり続けている。
しかし、抵抗も可能である。著者らは、バルトロメ・デ・ラス・カサスからリアンヌ・シンプソン、エリック・ウィリアムズまで、歴史的植民地主義に抵抗した人々の声を紹介する。また、ノーバート・ウィーナーやジョゼフ・ワイゼンバウムなど、コンピューター技術の危険性を早くから警告した先駆者たちの洞察も取り上げる。
現代の抵抗運動は既に始まっている。市民による顔認識技術の禁止運動、労働者によるビッグテック企業での組合結成、先住民コミュニティによるデータ主権の主張などである。著者らは、抵抗を3つのレベルで展開する「プレイブック」を提案する:システム内での活動(規制の推進)、システムに対する活動(代替技術の開発)、システムを超えた活動(新しい価値観に基づくコミュニティの構築)である。
最終的に、本書は単なる技術批判ではなく、人類の自由と尊厳を守るための緊急の行動を呼びかけている。データ植民地主義に抵抗しなければ、私たちは自分が何者であるかを想像する能力そのものを失い、真の意味での「自由の地平線」を永遠に失うことになるだろう。
各章の要約
序章 土地収奪からデータ収奪へ
19世紀のジンバブエで英国南アフリカ会社が電信線とともに植民地支配を確立した事例から始まり、現代のデータ収奪を歴史的植民地主義の継続として位置づける。植民地主義の「4つのX」(探索・拡張・搾取・殲滅)モデルが、現代のビッグテック企業にも適用可能であることを示す。グーグルの利用規約やスペイン征服者のレケリミエント(要求書)の比較を通じて、同様の支配論理を明らかにする。
第1章 新しい植民地主義
米国のシングルマザー、トレーシーの体験を通じて、データ植民地主義の個人への影響を描く。資本主義と植民地主義を別々の歴史段階として捉える通説を批判し、両者が常に並行して発展してきたことを論証する。現代のデータ抽出は、植民地主義の「安価な資源」という論理の延長線上にあり、アルゴリズム差別を通じて歴史的植民地主義の不平等を再生産している。
第2章 データ領域
健康トラッカーを使用するマイケルの体験から、データ領域の概念を説明する。コンピューターの「行動文法」により、私たちの相互作用がデータ抽出可能な形式に変換される過程を分析。農業、教育、健康、労働などあらゆる生活領域が「スマート化」され、データ領域に転換されている実態を示す。特にギグエコノミーにおける「アルゴリズム専制」の問題を詳述する。
第3章 データの新文明化使命
フィリピンのアンジェラが就職面接でAIシステムに拒絶される体験を導入として、データ植民地主義を正当化する3つの「文明化」物語を解剖する。「利便性」「接続性」「AI優越性」の各物語が、実際には権力の非対称性と搾取を隠蔽していることを暴露。特にAIの「植民地的知識生産」の問題と、そのバイアスや差別的影響を詳細に分析する。
第4章 新植民地階級
チュニジアからヨーロッパへの移民カレドの体験を通じて、国境管理におけるハイテク監視システムの実態を描く。「社会定量化セクター」の概念を提示し、GAFA・BATXから政府契約業者まで、データ植民地主義を推進する新しい階級構造を分析。特にパランティア社の政府への浸透と、「アルゴリズム国家」の出現について詳述する。
第5章 反抗の声
中国の食事配達員チュンフォンの抵抗の物語から始まり、植民地主義に対する歴史的抵抗者たちの声を紹介する。バルトロメ・デ・ラス・カサス、リアンヌ・シンプソン、エリック・ウィリアムズ、アニバル・キハーノ、シルヴィア・ウィンターらの思想を現代に適用。コンピューター科学の父ノーバート・ウィーナーやジョゼフ・ワイゼンバウムの早期警告も取り上げ、抵抗のための思想的資源を提供する。
第6章 抵抗のプレイブック
アルゼンチンのトランス女性プログラマー、ホセフィーナ・ルシアの実践を紹介し、具体的な抵抗戦略を提示する。システム内(規制推進)、システムに対して(技術的代替案)、システムを超えて(新しいコミュニティ構築)の3層戦略を詳述。市民運動、労働組合化、先住民のデータ主権運動など、世界各地で既に始まっている抵抗運動の実例を豊富に紹介し、実践的な行動指針を提供する。
結論 抵抗しなければどうなるか?
抵抗しない場合の暗黒の未来像を描く。継続的な監視、アルゴリズム支配の拡大、自律性の喪失により、私たちは「自由とは何かを想像する能力」そのものを失う危険性がある。しかし同時に、植民地主義の歴史が教える重要な教訓—包括的な土地収奪には包括的な抵抗が必要—を確認し、希望を込めた行動への呼びかけで本書を締めくくる。
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