
Explore Everything
本書の要約
エクスプロア・エブリシング:都市をハッキングする場所(原題:Explore Everything:Place-Hacking the City)
本書は、人類学者ブラッドリー・ガレット(Bradley L. Garrett)による都市探検の民族誌的研究である。著者は2008年から2012年にかけて、ロンドンの地下鉄廃駅、下水道、建設現場、摩天楼などを探検する「ロンドン統合クルー(LCC)」に参加し、その体験を記録した。
都市探検とは、廃墟、地下施設、建設中の建物など、一般人が立ち入り禁止とされた都市空間に侵入し、写真撮影や探検を行う活動である。探検者たちは「場所ハッキング」と呼ばれる手法で都市のセキュリティの隙間を突き、隠された空間にアクセスする。
著者は単なる観察者ではなく、実際に探検に参加することで、この実践の本質を明らかにしようとした。彼らはシャード(ヨーロッパ最高層ビル)の頂上、ロンドン地下鉄の廃駅、19世紀の下水道システムなど、数百箇所の「立入禁止」区域を探検した。
本書は都市探検を単なる冒険やスリル追求として描くのではなく、現代都市における自由と監視、公共空間の私有化に対する無言の抗議として位置づけている。探検者たちは、経済力や権力によって排除された都市空間を取り戻そうとする試みを行っており、これは政治的行為でもある。
しかし、この活動は法的リスクを伴う。著者自身も2012年にヒースロー空港で逮捕され、長期間の法的問題に直面した。探検者たちは逮捕、起訴、ASBO(反社会的行為防止命令)などの処罰を受けながらも、都市の隠された歴史と空間を記録し続けた。
本書は都市探検の実践を通じて、現代都市における権力構造、監視社会の実態、そして人間の根源的な探求欲求について深く考察している。
目次
免責事項
プロローグ
第1章 UEシーン(The UE Scene)
第2章 歴史の廃墟(The Ruins of History)
第3章 移行の捕捉(Capturing Transition)
第4章 潜入クルーの台頭(The Rise of an Infiltration Crew)
第5章 地下の聖杯(Grails of the Underground)
第6章 新世界のハッキング(Hacking the New World)
第7章 群衆と手錠(Crowds and Cuffs)
エピローグ
各章の要約
プロローグ
Prologue
著者がカンボジアでの研究を終えてロンドンに戻った際、ヒースロー空港で英国交通警察(BTP)によって逮捕された場面から始まる。警察は著者が4年間にわたって参加したロンドン統合クルー(LCC)の活動について情報を求めていた。著者は研究者として機密情報を保護する義務があると主張し、携帯電話のPINコードの提供を拒否した。この逮捕は、本書全体を通じて描かれる都市探検活動の結末を象徴している。本書は都市探検の実践、探検者たちとの友情、そして権力との対立について記録したものである。
第1章 UEシーン
The UE Scene
著者が初めてシャード(ヨーロッパ最高層ビル)の頂上に到達した体験から始まる。都市探検(UE)とは、廃墟、地下施設、建設現場などの立入禁止区域に侵入し、写真撮影を行う活動である。探検者たちは「場所ハッキング」という手法で都市のセキュリティの隙間を突く。著者は2008年から人類学者として探検コミュニティに参加し、Team Bと呼ばれるグループと活動を開始した。都市探検は単なる冒険ではなく、現代都市における自由と監視、公共空間の私有化に対する無言の抗議でもある。探検者たちは権力によって排除された都市空間を取り戻そうとしている。
第2章 歴史の廃墟
The Ruins of History
著者らはバタシー発電所などロンドンの象徴的な廃墟を探検し、ヨーロッパ各地の廃墟を巡る旅行を行った。廃墟探検は美的魅力だけでなく、過去との対話を可能にする。探検者たちは公式の歴史解釈とは異なる、より個人的で感情的な歴史体験を求めている。管理された遺跡とは対照的に、廃墟では自由な解釈と体験が可能である。著者らはホテル・コスモスで野営し、ソビエト潜水艦U475を探検するなど、様々な廃墟で夜を過ごした。これらの体験は、場所と人間の関係性を再構築し、公式の歴史ナラティブに挑戦する行為である。
第3章 移行の捕捉
Capturing Transition
著者はウェストパーク精神病院を探検し、廃墟の移行状態を観察した。精神病院の廃墟には患者の個人的な物品が残されており、探検者たちは過去の人々の生活の痕跡と向き合う。廃墟は静止した過去ではなく、常に変化する移行状態にある。探検者たちは破壊される前の廃墟を記録し、公式の記録が残らない場所の歴史を保存する役割を果たしている。HDR写真技術により、廃墟の超現実的な美しさが表現される。廃墟探検は終末論的な想像力とも結びつき、探検者たちは文明崩壊後の世界を想像しながら廃墟を体験する。
第4章 潜入クルーの台頭
The Rise of an Infiltration Crew
Team Bはバーリントン地下核シェルターへの侵入を成功させ、都市探検の倫理規定を破った。この成功により、グループは従来の探検から「潜入」へと活動を発展させた。マーク・エクスプロの誕生日パーティーでTeam AとTeam Bが合流し、ロンドン統合クルー(LCC)が結成された。LCCは建設現場、高層ビル、地下施設への潜入を本格化させた。彼らは作業員に扮装する「社会工学」技術を駆使し、シャード、ヘロン・タワーなどの頂上に到達した。この活動は単なる冒険ではなく、排除された都市空間への権利を主張する政治的行為でもある。
第5章 地下の聖杯
Grails of the Underground
LCCはロンドンの下水道システムに潜入し、19世紀のジョセフ・バザルゲット(Joseph Bazalgette)が建設したヴィクトリア朝の下水道を探検した。彼らは地下鉄廃駅の完全探検を目標とし、ダウン・ストリート駅、ブロンプトン・ロード駅、オルドウィッチ駅などを次々と発見した。メール・レール(地下郵便鉄道)の発見は特に重要な成果だった。しかし、活動の激化により警察の注意を引き、メンバーが逮捕される事態となった。英国交通警察は反社会的行為防止命令(ASBO)を発令し、探検者たちの活動を制限しようとした。それでも探検は続行され、最終的に全ての廃駅が記録された。
第6章 新世界のハッキング
Hacking the New World
著者とマーク・エクスプロはアメリカ各地を巡り、デトロイト、シカゴ、ミネアポリス、ラスベガス、ロサンゼルスで都市探検を行った。デトロイトでは産業衰退の廃墟を、シカゴでは嵐の中でリッツ・カールトンの頂上に到達した。ミネアポリスでは地元の探検者集団「アクション・スクワッド」と協力し、軟質砂岩を掘削して洞窟システムにアクセスした。ラスベガスでは、ホームレスが住む排水管を探検し、社会格差の現実を目撃した。アメリカでは英国より権威主義的でない対応を受けることが多く、フォンテーンブロー・ホテルの警備員トムは協力的だった。探検活動は資本主義への批判ではなく、むしろ祝福として捉えられる。
第7章 群衆と手錠
Crowds and Cuffs
2012年のシャード写真公開により、著者は一躍メディアの注目を集めた。Telegraph、Guardian、BBC等の取材要請が殺到し、都市探検の政治的意味について議論する機会となった。しかし、メディア露出は都市探検コミュニティ内部の批判を招いた。同年8月、著者はヒースロー空港で逮捕され、英国交通警察による取り調べを受けた。警察は著者の博士論文を証拠として使用し、都市探検活動を犯罪行為として扱った。この逮捕により、著者は英国への入国を拒否され、「幽霊」のような存在となった。メディア露出は都市探検の政治的重要性を示すと同時に、権力による弾圧の激化をもたらした。
エピローグ
Epilogue
著者は都市探検の本質について最終的な考察を行う。都市探検は単なる冒険ではなく、現代都市における民主的権利の行使である。探検者たちは閉鎖された都市空間を開放し、公共空間の私有化に抗議している。LCCの活動は個人の集合体によるものであり、固定的な組織ではなかった。都市探検は過去の探検活動の延長線上にあり、人間の根源的な探求欲求を反映している。権力側の過剰な反応は、恐怖のプロパガンダの実態を暴露している。著者は都市探検が今後も続き、より民主的で透明な都市環境の創造に貢献することを期待している。この「黄金時代」は終わったが、新しい世代の探検者たちが活動を継続している。
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