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認知機能だけではないコリン作動性の作用と機能
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概要
コリン作動性とは
受容体が神経伝達物質としてアセチルコリンを使用する場合、シナプスが神経伝達物質として使用する場合それらはコリン作動性と呼ばれる。
コリン作動性は、自律神経系、末梢神経系、中枢神経系に別れ、記憶、消化、心拍、血圧、運動、覚醒、睡眠、ストレス応答など多くの生理学的機能の役割を果たす。
コリン作動性神経とは
コリン作動性神経(コリン作動性ニューロン)とは、神経伝達物質の一つであるアセチルコリンを放出するコリン作動性ニューロンの総称。
コリン作動性神経は、中枢神経系に広く分布しており、その中でもよく研究されているのが前脳基底部および脳幹にある投射ニューロンで、睡眠からの覚醒や視覚における働きが知られている。
アルツハイマー病のコリン作動性仮説(コリン仮説)
アルツハイマー病に伴う認知機能低下が、脳内の神経伝達物質アセチルコリンの不均衡にあるというコリン作動性仮説は30年前に提唱された。
現在の多くの認知症の薬物療法はコリン作動性仮説に集中しているが、それらはすべて限定的な有効性しかもたない。(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなど。)
現在では、コリン作動性の破壊はアルツハイマー病の原因ではなく結果であると多くの研究者において考えられている。[R]
コリンエステラーゼ阻害剤の限られた効果
コリンエステラーゼ阻害剤およびメマンチンによる認知症の治療は、認知症の尺度および認知症の全体的評価において統計的に有意であるが、臨床的にはわずかな改善しかもたらさない。[R]
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤を投与された患者の9.6%のみが、3年以上経過しても安定した認知機能テストの結果を維持していた。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤投与治療の平均期間は14ヶ月。[R]
リン酸化タウの増加
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害剤の使用は、アルツハイマー病患者のリン酸化タウを未治療の患者よりも増加させるかもしれない。[R]
コリン作動性システムの役割
記憶と学習
内因性のアセチルコリンは、記憶、物体認識、記憶の統合、健忘、記憶の回復に重要な役割を果たしていることが実証されている。
特にマイネルト基底核からのコリン作動性ニューロンは記憶と深く関与しており、これらの変性はアルツハイマー病患者の記憶障害に寄与している。[R][R][R]
注意力の強化と持続
大脳皮質のアセチルコリンは、脳の感覚入力処理におけるSN比の調整に関与する「感覚ゲート」を駆動するとされる。この働きは認知機能の基盤となる注意、集中などに重要であり、アルツハイマー病や統合失調症の患者ではこの機能に変化が見られることが知られている。[R][R][R]
ストレス緩和
ニコチン性受容体刺激によるHPA軸活性の減衰
ニコチン性受容体のアンタゴニストでラットを治療すると、ストレッサー剤に反応したHPA軸の活性化が減衰することがわかった。[R]
同様に、ニコチンで、ニコチン性受容体を活性化することにより、HPA軸に対するACh効果を模倣することができる。[R]
ニコチン受容体の刺激は、神経学的ストレスと大きく関連するHPA軸(使用下部-下垂体-副腎)の下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌を抑制する。
ニコチンは、視床下部傍核(PVN)の脳幹カテコールアミン作動性領域において選択的かつ用量依存的感受性を示した。[R]
睡眠サイクル(レム睡眠の促進)
コリン作動系はGABA作動性やモノアミン作動性などと相互作用することで、睡眠サイクルを調節する。[R]
レム睡眠の促進
脳幹の特定の領域でのコリン作動性ニューロンの刺激は、用量依存的にレム睡眠を促進できることが実証されている[R]
コリン作動性ニューロンへの刺激は、(M2サブタイプ)用量依存的にREM睡眠を促進することが示されている。
ウェイクオン/REMオン
アセチルコリンは「ウェイクオン/REMオン」と呼ばれるスイッチングによって覚醒と睡眠の両方の促進に影響を与える。
橋状網形成における内因性アセチルコリンの放出は、覚醒時または睡眠中よりもレム睡眠時の方が有意に大きい。
睡眠薬ゾルピデム、ジアゼパム、エスゾピクロンは、橋状網形成においてアセチルコリンの分泌を変化させることがラットモデルで実証されている。[R]
神経発達
コリン作動性ニューロンは、海馬神経新生を調節し、アセチルコリンはニューロンの可塑性において重要な役割を果たすことが示唆されている。[R][R][R]
炎症の低下
コリン作動性抗炎症経路
炎症性サイトカインは、損傷や感染があると免疫系の細胞によって産生される。
感染部位においては炎症細胞が補充され炎症カスケードを開始する。
コリン作動性抗炎症経路は、腎臓、肝臓、肺、その他の臓器などにおいて局在化された炎症反応が局在化組織の範囲を越えて広がってしまった場合に、損傷が広がらないようブレーキをかけて保護する役割を有する。
α7ニコチン性受容体、IL-6、IL1β、TNF-α
アセチルコリンは炎症状態においてIL-6、IL1B、TNF-α、その他の前炎症性サイトカインを減少させることが示されている。
アセチルコリン受容体(α7ニコチン受容体)は、様々な免疫細胞(マクロファージ、単球および肥満細胞)上に見出され、それらの活性化を阻害することによって炎症を軽減する。
一方でアセチルコリンはその他のニコチン受容体を介して、抗炎症性サイトカイン(IL-10)の産生をも抑制する。[R][R]
ChE阻害剤によるコリン作動性抗炎症経路(CAP)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24893223/
炎症性腸疾患の減少
迷走神経はアセチルコリンを介して活性化され、その抗炎症作用を発揮する。
アセチルコリンの活動が減少し迷走神経の活動が減少すると、抗炎症活性が減少し、炎症性腸疾患(IBD)が生じえる。
動物モデルの実験では、アセチルコリンの増加は腸粘膜炎症を減少させている。
コリン作動炎症経路とは異なる抗炎症作用
ドネペジルはアセチルコリンエステラーゼ阻害作用によるコリン作動性抗炎症経路とは独立して抗炎症作用を有する。[R]
痛みの軽減
ドネペジルによるコリン作動系の活性化は片頭痛の優れた予防アプローチの可能性を示す。[R]
オピオイド作動性メカニズムとコリン作動性メカニズムとの間の相互作用は、中枢神経系の様々な経路で生じる。
相互作用は鎮痛および鎮痛耐性に影響するだけでなく、オピオイドおよびニコチンの相互依存性を媒介する可能性が高い。[R]
感染症からの保護
アセチルコリンは、バイオフィルム形成を阻害すると同時に血球機能を増強し、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の感染から保護する役割を有する。[R]
血流の改善
アセチルコリンは一酸化窒素およびプロスタグランジン産生の活性を介して血管拡張に寄与する。[R]
ホルモンへの影響
セトロニンおよびアセチルコリンは、視床下部に作用することで下垂体からのプロラクチンおよび成長ホルモンの分泌に影響をおよぼす。[R]
IGF-1、グレリン、GHRH、ソマトスタチンのレベルに影響を与える。[R]
視床-皮質コミュニケーション
また、アセチルコリンは、感覚皮質において視床-皮質コミュニケーションを促進することにより、聴覚シナプス伝達に貢献する。
視覚野の応答
アセチルコリンは、組織および視覚野に対するニューロンの反応機能を有する。[R]