
英語タイトル:『The LDN Book: How a Little-Known Generic Drug — Low Dose Naltrexone — Could Revolutionize Treatment for Autoimmune Diseases, Cancer, Autism, Depression, and More』Linda Elsegood (Editor) 2016
日本語タイトル:『LDNブック:あまり知られていないジェネリック医薬品――低用量ナルトレキソン――が自己免疫疾患、がん、自閉症、うつ病などの治療に革命をもたらす可能性』リンダ・エルセグッド(編集)2016年
目次
- 序文 / Preface
- はじめに / Introduction
- 第1章 LDNの歴史と薬理学 / The History and Pharmacology of LDN
- 第2章 多発性硬化症と狼瘡 / Multiple Sclerosis and Lupus
- 第3章 炎症性腸疾患 / Inflammatory Bowel Disease
- 第4章 慢性疲労症候群と線維筋痛症 / Chronic Fatigue Syndrome and Fibromyalgia
- 第5章 甲状腺疾患 / Thyroid Disorders
- 第6章 むずむず脚症候群 / Restless Legs Syndrome
- 第7章 うつ病 / Depression
- 第8章 自閉症スペクトラム障害 / Autism Spectrum Disorder
- 第9章 がん / Cancer
- 付録A 会話を始める / Starting the Conversation
- 付録B LDNに関するよくある質問 / Frequently Asked Questions about LDN
本書の概要
短い解説
本書は、低用量ナルトレキソン(LDN)という既存薬の新しい使用法について、自己免疫疾患やがん、精神疾患などの患者と医療従事者に向けて、科学的根拠と臨床経験を総合的に解説することを目的としている。
著者について
編集者リンダ・エルセグッドは2000年に多発性硬化症(MS)と診断され、2003年にLDN療法を開始して劇的な改善を経験した。その後、2004年に英国でLDN研究トラスト(慈善団体)を設立し、世界中の患者、医師、薬剤師を結びつける活動を続けている。本書には各分野の専門医や研究者が執筆者として参加している。
主要キーワードと解説
- 主要テーマ:免疫調整作用 – LDNは通常用量の10分の1以下で使用することで、オピオイド受容体を一時的にブロックし、内因性エンドルフィンの産生を増加させ、免疫系のバランスを回復させる。
- 新規性:トール様受容体(TLR)への作用 – LDNはオピオイド受容体だけでなく、TLR4やTLR9などの免疫受容体にも作用し、炎症性サイトカインの産生を抑制する可能性がある。
- 興味深い知見:用量依存性の逆説的効果 – 高用量(50mg)では受容体を24時間ブロックし続けるが、低用量(1.5-4.5mg)では数時間のみブロックすることで、リバウンド効果により内因性オピオイドが増加し治療効果を発揮する。
3分要約
低用量ナルトレキソン(LDN)は、もともとアルコールやオピオイド依存症の治療薬として承認されたナルトレキソンを、通常用量の10分の1以下(1.5-4.5mg)で使用する治療法である。1980年代にバーナード・ビハリ医師がHIV/AIDS患者の免疫機能改善のために使用を始めたのが臨床応用の始まりであり、その後、多発性硬化症、炎症性腸疾患、がん、自己免疫疾患など幅広い疾患に対する効果が報告されてきた。
LDNの作用メカニズムは複雑だが、主要な理論は以下の通りである。低用量のナルトレキソンは、オピオイド受容体(主にμ、δ、κ受容体)を数時間だけブロックする。この一時的なブロックに対して、身体は代償的に内因性オピオイド(エンドルフィンやエンケファリン)の産生を増加させる。受容体からナルトレキソンが消失した後、増加した内因性オピオイドが受容体に作用し、免疫調整、抗炎症、鎮痛などの効果を発揮する。さらに最近の研究では、LDNはトール様受容体(TLR4、TLR9)にも作用し、炎症性サイトカインの産生を抑制することが示されている。
自己免疫疾患における効果は特に顕著である。多発性硬化症では、患者の約80%が再発や進行を経験せず、症状の改善が報告されている。狼瘡患者では、TH1/TH2バランスの改善、炎症性サイトカインの減少、自己抗体の低下が観察されている。炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)では、粘膜治癒や症状の寛解が確認されており、一部の患者では生検レベルでの炎症改善も示されている。
慢性疲労症候群や線維筋痛症では、約75%の患者が有意な改善を示し、エネルギーレベルの向上や疼痛の軽減が報告されている。これらの疾患における免疫機能障害、特にTH1/TH2バランスの異常やナチュラルキラー細胞機能の低下が、LDNによって改善される可能性がある。
甲状腺疾患、特に橋本病やバセドウ病などの自己免疫性甲状腺疾患では、LDNが抗甲状腺抗体を減少させる効果が観察されている。また、LDNは甲状腺ホルモンの細胞内取り込みや末梢でのT4からT3への変換を改善する可能性もある。
精神疾患への応用も注目されている。うつ病では、LDNによる内因性オピオイドの増加がドーパミン放出を促進し、抗炎症作用と相まって症状改善に寄与する。自閉症スペクトラム障害では、約45%の患者でコミュニケーション能力の向上や攻撃的行動の減少が報告されている。
がん治療におけるLDNの役割も研究されている。ビハリ医師は354名のがん患者を治療し、約20%で客観的反応、25%で病状安定を報告している。LDNは、オピオイド成長因子受容体(OGFr)を介した細胞増殖抑制、免疫機能の強化、血管新生の抑制などを通じてがん細胞に作用する可能性がある。
LDNの最大の利点は、その安全性にある。副作用は一般的に軽微で一過性であり、最も多いのは睡眠障害(約8-20%)だが、多くは数週間以内に解消する。肝機能障害のリスクがあるため、定期的なモニタリングが推奨されるが、低用量では重篤な副作用はほとんど報告されていない。オピオイド鎮痛薬との併用は禁忌であるが、他の多くの治療法と併用可能である。
本書は、LDNが多様な疾患に効果を示す理由として、炎症の抑制、免疫調整、ホルモンバランスの改善、ミトコンドリア機能の向上など、複数の生理学的経路への作用を挙げている。特に、現代の慢性疾患の多くに共通する炎症と免疫機能障害に対して、LDNが根本的なレベルで作用する可能性を示唆している。
各章の要約
序文
編集者リンダ・エルセグッドの個人的な経験が語られる。1969年に腺熱に罹患して以降、慢性的な健康問題に悩まされ、1999年に母親の心臓発作のストレスから体調が急激に悪化した。2000年に多発性硬化症(MS)と診断され、車椅子生活を余儀なくされるまで症状が進行した。標準治療では改善せず、2003年にLDNを開始したところ、わずか3週間で顕著な改善を経験し、1年半後にはほぼ完全に機能を回復した。この経験からLDN研究トラストを設立し、現在は19,000人以上の会員を持つ組織となっている。
はじめに
ジル・コッテル医師の視点から、LDNとの出会いと臨床経験が紹介される。当初は懐疑的だったが、MSの若い患者の劇的な改善を目の当たりにし、LDNの研究を開始した。100人以上の患者にLDNを処方し、約70-80%で臨床的改善を確認している。LDNは自己免疫疾患、慢性疼痛、線維筋痛症、炎症性腸疾患など多様な疾患に効果を示し、30%の患者では劇的な改善(レベル5/5)を経験している。著者は、LDNが複雑な慢性疾患の根本原因に作用することで、医師が患者ケアに専念できる環境を取り戻す可能性を示唆している。
第1章 LDNの歴史と薬理学
ナルトレキソンは1960年代に開発されたオピオイド拮抗薬であり、1984年にヘロイン依存症、1994年にアルコール依存症の治療薬として承認された。1980年代にビハリ医師がHIV/AIDS患者の免疫機能改善のために低用量で使用を始めた。LDNの作用機序は、μ、δ、κオピオイド受容体の一時的なブロックにより内因性オピオイド(エンドルフィン、エンケファリン)の産生を増加させることである。さらに、トール様受容体(TLR4、TLR9)への作用により抗炎症効果を発揮する。用量が重要であり、低用量(1-4.5mg)では断続的な受容体ブロックにより治療効果が得られるが、高用量(50mg)では持続的なブロックにより逆効果となる可能性がある。
第2章 多発性硬化症と狼瘡
多発性硬化症(MS)と狼瘡は複雑な自己免疫疾患であり、遺伝とエピジェネティクスの相互作用により発症する。環境因子としては、腸内細菌叢の変化、グルテン感受性、食事、病原体、栄養欠乏、環境毒素、ホルモンバランス、睡眠障害、ストレスなどが関与する。標準治療は症状を緩和するが疾患進行を止めることはできない。LDNは免疫調整作用により、TH1/TH2バランスを改善し、炎症性サイトカインを減少させ、エピジェネティックな変化を逆転させる可能性がある。MSでは約94%の患者が改善し、75%が有意な改善を報告している。著者は、LDNを中心とした包括的な治療アプローチ(食事、デトックス、ホルモン調整、栄養補給、ストレス管理)の重要性を強調している。
第3章 炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)には、クローン病と潰瘍性大腸炎が含まれる。オピオイド受容体は腸管全体に存在し、免疫細胞にも発現している。LDNは、内因性エンケファリン(OGF)の増加を介して免疫調整作用を発揮し、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-12)を減少させる。動物実験では、低用量ナルトレキソンが炎症を軽減し組織サイトカインを減少させることが示されている。クローン病の二重盲検試験では、LDN群の88%が有意な改善を示し、78%で内視鏡的改善、40%で内視鏡的寛解が達成された。潰瘍性大腸炎でも同様の効果が報告されている。副作用は軽微で、主に不眠(約10%)であり、肝機能の定期的モニタリングが推奨される。
第4章 慢性疲労症候群と線維筋痛症
慢性疲労症候群(CFS)と線維筋痛症(FM)は、人口の4-7%に影響を与える衰弱性疾患である。標準治療では10%未満の患者しか有意な改善を示さない。これらの疾患の根本原因は免疫機能障害であり、TH1/TH2バランスの異常、ナチュラルキラー細胞機能の低下、炎症性サイトカインの増加が特徴である。著者の多施設研究では、LDNを含む統合的治療アプローチにより、85%の患者が改善し、56%が有意な改善を報告した。治療は、疼痛と睡眠の安定化、ミトコンドリア機能の強化、ホルモンバランスの調整、免疫機能障害の治療、感染症への対処、重金属毒性などの特有の病因への対処を含む多段階のプロセスである。LDNは免疫調整の中核として機能する。
第5章 甲状腺疾患
LDNは自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)に効果を示すが、より広範な甲状腺機能障害にも有用である。現代の慢性疾患の多くは、細胞レベルでの甲状腺ホルモン低下を伴うが、標準的なTSH検査では検出されない。ストレス、うつ病、ダイエット、肥満、糖尿病、炎症などにより、脱ヨード酵素(D1、D2、D3)の活性が変化し、末梢組織ではT4からT3への変換が低下する一方、下垂体ではD2活性が増加してTSHが正常範囲に保たれる。LDNは、免疫調整と抗炎症作用により、甲状腺ホルモンの細胞内取り込みを改善し、T4からT3への変換を促進し、リバースT3を減少させる。著者は、症状のある患者では、TSHが正常でもLDNの試用を検討すべきだと主張している。
第6章 むずむず脚症候群
むずむず脚症候群(RLS)は、安静時に下肢を動かしたいという強い衝動を特徴とする。従来はドーパミン機能障害と中枢性鉄欠乏が原因とされていたが、最近の研究では炎症と免疫機能障害の関与が示されている。小腸細菌異常増殖症(SIBO)との関連が注目されており、RLS患者の69%でSIBOが検出された。SIBOによる炎症性サイトカインや脂質多糖類の循環が、ヘプシジンを介して中枢性鉄欠乏を引き起こす可能性がある。リファキシミンによるSIBO治療とLDNの併用により、多くの患者で長期的な症状改善が得られている。著者の後ろ向き研究では、42名の患者中21名(50%)で顕著な改善が見られた。
第7章 うつ病
うつ病は一般人口の8-12%に影響を与え、慢性疾患患者では約33%に達する。LDNは、オピオイド受容体(μ、δ、κ)への作用を通じて、内因性エンドルフィンとエンケファリンを増加させ、抗うつ効果を発揮する。特にδ受容体の活性化は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生を促進し、うつ病に伴う海馬萎縮を防ぐ可能性がある。さらに、LDNはトール様受容体(TLR4)を拮抗することで抗炎症作用を示し、炎症性サイトカインによる「病気行動」を軽減する。ドーパミン増強作用も重要であり、特にドーパミン欠乏型うつ病(無快感症、疲労、動機づけの欠如)に有効である。LDNは単独療法または既存の抗うつ薬との併用療法として使用され、標準治療で改善しない治療抵抗性うつ病にも効果が期待される。
第8章 自閉症スペクトラム障害
自閉症スペクトラム障害(ASD)は68人に1人、男児では42人に1人の割合で発症している。遺伝的素因に環境因子(化学物質曝露、腸内細菌叢の変化、栄養不足)が作用して発症する。脳と腸の炎症、酸化ストレス、メチル化障害が共通の病理である。標準的な50mg用量のナルトレキソンによる1980-90年代の研究では、自傷行為の減少や行動改善が報告されたが、結果は一貫しなかった。2006年にマッキャンドレス医師が低用量(1.5-3mg)での使用を報告し、15名中8名で肯定的反応を確認した。著者の診療所での53名の症例検討では、45%で有意な改善(コミュニケーション能力の向上、攻撃性の減少)が見られた。LDNは、免疫調整作用、抗炎症作用、内因性オピオイドの正常化を通じてASDの症状を改善する可能性がある。
第9章 がん
ビハリ医師は354名のがん患者にLDNを処方し、約20%で客観的反応、25%で病状安定を報告した。LDNの抗がん作用は、オピオイド成長因子受容体(OGFr)を介した細胞増殖抑制、免疫系の調整、血管新生の抑制など、複数のメカニズムによる。用量が重要であり、断続的な低用量投与(4.5mg/日)が最も効果的である。高用量では受容体が持続的にブロックされ、逆効果となる可能性がある。最近の研究では、LDNがトール様受容体(TLR9)を拮抗することも示されている。LDNは、単独療法よりも他の治療法(化学療法、免疫療法)との併用で効果を発揮する可能性が高い。ビタミンD補充、カンナビノイドとの併用など、シナジー効果が期待される組み合わせも提案されている。今後、適切な臨床試験が必要である。
付録A 会話を始める
患者が医師にLDNについて相談する際の実践的アドバイスが提供されている。「代替医療」「奇跡の薬」などの言葉は避け、科学的根拠に基づいた情報を簡潔に提示することが重要である。医師が知りたい情報(潜在的利益とリスク、薬物相互作用、効果発現までの期間、用量設定、必要な検査)を1ページ以内の箇条書きにまとめ、プレゼンテーション形式で説明する。追加の詳細情報は別の資料として準備する。医師の好む連絡方法(電話、メール、テキスト)を確認し、フォローアップの具体的な時期を設定する。LDNは安全性が高く、適応外使用は医療実践において一般的であることを強調する。
付録B LDNに関するよくある質問
薬剤師スキップ・レンツが、15年間で受けた最も頻繁な20の質問に回答している。主な内容は、充填剤の選択(糖、微結晶セルロース)、効果発現時期(疾患により異なるが3-6ヶ月が一般的)、副作用(約8%で睡眠障害、ほとんどが2週間以内に解消)、服用タイミング(就寝時が理想)、処方の必要性(米国では処方箋が必要)、医師の認知度の低さ(製薬会社による宣伝がないため)、プラセボ効果の議論(大規模調査により効果は確認されている)、免疫抑制剤との併用(短期使用は可能)、トラマドールとの併用(300mg/日以下なら問題なし)、妊娠中の使用(研究は不十分だが不妊治療での使用実績あり)、調剤の必要性(市販の50mg錠では正確な低用量を作れない)、費用、手術前の中止期間、推奨用量(1.5mgから開始し、段階的に3-4.5mgまで増量)などである。
アルツハッカーは100%読者の支援を受けています。
会員限定記事
新サービスのお知らせ 2025年9月1日よりブログの閲覧方法について
当ブログでは、さまざまなトピックに関する記事を公開しています。2025年より、一部の詳細な考察・分析記事は有料コンテンツとして提供していますが、記事の要約と核心部分はほぼ無料で公開しており、無料でも十分に役立つ情報を得ていただけます。 さらに深く掘り下げて知りたい方や、詳細な分析に興味のある方は、有料コンテンツをご購読いただくことで、より専門的で深い内容をお読みいただけます。パスワード保護有料記事の閲覧方法
パスワード保護された記事は以下の手順でご利用できます:- Noteのサポーター・コアサポーター会員に加入します。
- Noteサポーター掲示板、テレグラムにて、「当月のパスワード」を事前にお知らせします。
- 会員限定記事において、投稿月に対応する共通パスワードを入力すると、その月に投稿したすべての会員記事をお読みいただけます。
サポーター会員の募集
- サポーター会員の案内についての案内や料金プランについては、こちらまで。
- 登録手続きについては、Noteの公式サイト(オルタナ図書館)をご確認ください。
