
『テクノ封建主義:資本主義を殺したもの』ヤニス・バルファキス 2023年
『Technofeudalism: What Killed Capitalism』Yanis Varoufakis 2023年
目次
- はじめに:ヘシオドスの嘆き – Hesiod’s Lament
- 第1章 資本主義の変貌 – Capitalism’s Metamorphoses
- 第2章 クラウド資本 – Cloud Capital
- 第3章 クラウド主義者の台頭と利潤の終焉 – The Rise of the Cloudalists and the Demise of Profit
- 第4章 言葉に込められたもの – What’s in a Word?
- 第5章 テクノ封建主義の世界的影響:新冷戦 – Technofeudalism’s Global Impact: the New Cold War
- 第6章 テクノ封建主義からの脱出 – Escape from Technofeudalism
全体の要約
本書は、インターネットが資本主義を不死身にするか、それとも致命的な弱点を露呈させるかという父親からの質問に答える形で書かれている。著者バルファキスは、資本主義が死に、それに代わって「テクノ封建主義」という新たなシステムが誕生したと論じる。
資本主義の変貌は、第二次世界大戦後のテクノストラクチャーの台頭から始まった。政府と大企業が融合し、計画経済的な色彩を強めた。1971年のニクソン・ショックによりブレトン・ウッズ体制が崩壊すると、アメリカは「グローバル・ミノタウロス」として世界の黒字を吸収する構造を築いた。
この過程で、インターネットという公共財が私有化され、「クラウド資本」が誕生した。これは従来の資本とは異なり、人々の行動を修正する力を持つ。GoogleやAmazonなどのプラットフォームは市場ではなく「クラウド封土」として機能し、利用者を「クラウド農奴」に、従来の資本家を「従属資本家」に変える。
2008年の金融危機後、中央銀行が大量の資金を供給したことで、クラウド主義者たちは利潤を度外視して巨大なクラウド資本を構築できた。従来の資本主義の二本柱である「利潤」と「市場」が、「クラウド地代」と「クラウド封土」に置き換わったのである。
この変化は地政学にも影響を与えている。中国もクラウド資本を蓄積し、アメリカとの「新冷戦」が始まった。世界は二つの超クラウド封土に分裂しつつある。ウクライナ戦争とそれに続く制裁は、この分裂を加速させている。
テクノ封建主義下では、従来の社会民主主義は機能しない。プライバシーやデジタル通貨も真の解決策にはならない。著者は民主化された企業、中央銀行によるデジタル通貨、土地の共有化などを含む包括的な変革を提案する。
重要なのは、クラウド農奴、クラウド・プロレタリア、従属資本家が連合して「クラウド反乱」を起こすことだ。これは最小限の個人的犠牲で最大の集合的利益を得る新しい形の集団行動である。テクノロジーが人類を解放するか奴隷化するかの分岐点に立つ今、希望を持って行動することが求められている。
各章の要約
はじめに:ヘシオドスの嘆き
父親が1966年の冬、暖炉の前で金属の性質を教えてくれた思い出から始まる。錫、青銅、そして鉄を熱して冷やす実験を通じて、鉄が鋼鉄に変化する「大変革」を学んだ。これは歴史的唯物論への導入でもあった。父は技術の二面性を教え、アインシュタインの光の波動・粒子二重性から、労働、資本、貨幣の二重性を理解させた。1993年、インターネット接続を手伝った際、父から「コンピューターが互いに話し合う今、このネットワークは資本主義を打倒不可能にするか、それとも致命的弱点を露呈させるか」という質問を受けた。
第1章 資本主義の変貌
戦後アメリカでは、政府と大企業が融合した「テクノストラクチャー」が形成された。ドン・ドレイパーに象徴される広告業界は、人々の注意を商品化し、欲望を製造する新市場を創造した。1971年のニクソン・ショックでブレトン・ウッズ体制が崩壊すると、アメリカは貿易赤字国となりながらも、世界の黒字を吸収する「グローバル・ミノタウロス」として機能した。金融化が進み、ネオリベラリズムとコンピューターが金融界の暴走を支えた。2008年の金融危機でミノタウロスは死に、資本主義は最終的な変貌を遂げることになった。
第2章 クラウド資本
資本の本質は生産手段であると同時に、他者を支配する力でもある。インターネットは当初、資本主義の外部にある公共財だったが、デジタル・アイデンティティの私有化という「新囲い込み」により、巨大テック企業がクラウド資本を構築した。AlexaやGoogleアシスタントに象徴されるクラウド資本は、従来の資本と異なり、人々の行動を修正する第三の性質を持つ。機械学習と強化学習により、アルゴリズムは人間の行動を予測し、操作する能力を獲得した。その結果、労働者は「クラウド・プロレタリア」に、一般の人々は「クラウド農奴」となり、無償労働でクラウド資本の再生産に貢献している。
第3章 クラウド主義者の台頭と利潤の終焉
2020年8月、英国経済が史上最悪の後退を記録したにもかかわらず、ロンドン株式市場が上昇した。これは資本主義的論理の破綻を示していた。2008年以降、中央銀行の大量資金供給により、従来の「利潤動機」に代わって「中央銀行マネー」が経済の推進力となった。ベゾスやマスクなどのクラウド主義者は、利潤を度外視してクラウド資本の構築に専念できた。一方、プライベート・エクイティや巨大投資会社(ブラックロック、バンガード、ステート・ストリート)が台頭し、従来の資本主義企業を資産剥奪の対象とした。利潤が任意となった世界で、クラウド主義者は新たな支配階級として確立された。
第4章 言葉に込められたもの
システムの名称は重要である。現在の体制を「テクノ封建主義」と呼ぶべき理由は、「利潤」に対する「地代」の勝利にある。資本主義下では利潤が地代を圧倒していたが、現在は逆転している。AppleのApp StoreやAmazonのようなプラットフォームは市場ではなく「クラウド封土」であり、第三者開発者や販売業者から「クラウド地代」を徴収する。これらは競争ではなく封土間の対立である。イーロン・マスクのTwitter買収も、クラウド主義者階級への参入を目指したテクノ封建的論理の表れだった。大インフレもテクノ封建主義の文脈で理解でき、電気自動車やグリーンエネルギーへの移行がクラウド資本の優位性を高めている。
第5章 テクノ封建主義の世界的影響:新冷戦
トランプとバイデンが中国のテック企業に対する制裁を強化した背景には、従来の地政学的懸念ではなく、クラウド資本をめぐる覇権争いがある。戦後の国際システムは「ダーク・ディール」に基づいていた。アメリカが貿易赤字を通じて需要を提供し、アジア諸国がその利益をウォール街に投資する循環である。しかし中国のクラウド資本、特にWePayなどのクラウド金融は、この循環に依存せずに直接収益を上げることができる。ウクライナ戦争後、アメリカがロシア中央銀行の資産を凍結したことで、中国は独自のデジタル人民元システムの構築を加速させた。世界は米ドル圏と人民元圏という二つの超クラウド封土に分裂しつつあり、欧州や途上国はどちらかを選択せざるを得なくなっている。
第6章 テクノ封建主義からの脱出
テクノ封建主義下では、リベラルな個人の概念が消失し、社会民主主義も機能しない。暗号通貨も真の解決策にはならない。著者は「もう一つの現在」として、企業の民主化(従業員一人一株一票制)、中央銀行によるデジタル通貨とベーシック・インカム、土地の共有化などを提案する。国際的には新しい会計単位「コスモス」による貿易不均衡の是正を構想する。これらの変革を実現するには、クラウド農奴、クラウド・プロレタリア、従属資本家が連合した「クラウド反乱」が必要である。個人的犠牲を最小化しながら集合的利益を最大化する新しい形の集団行動により、テクノロジーを人類解放の手段に転換できる可能性がある。
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