軍事書『 国家安全保障と防衛における神経技術(神経技術の進歩)』2024年

情報戦・認知戦・第5世代戦争・神経兵器・オムニウォー

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Neurotechnology in National Security and Defense (Advances in Neurotechnology)

「国家安全保障と防衛における神経技術:実践的考察と神経倫理的懸念」は、『神経技術の最前線』シリーズの第2巻である。本書は、国家安全保障と防衛の政策や応用において神経技術の利用から生じる神経倫理的、法的、社会的課題に焦点を当てている。特に懸念されるのは、軍事および諜報活動の訓練におけるさまざまな神経技術の利用、諜報および安全保障のための神経生物学的および認知データの取得、軍事医療活動、戦闘員の能力強化、神経科学および神経技術の兵器化などだ。寄稿者は、これらの応用によって生じる神経倫理上の問題や課題、および必要となる可能性のある解決策について論じている。

本書は、国家安全保障と防衛政策における神経技術の進展が、倫理的価値や概念、法的考慮事項、および社会全体の行動にどのように影響を与え、また影響を受けるかを分析している。統合的な視点から、国際的な専門家が科学的基盤を確立し、国家安全保障と防衛における神経技術の倫理的側面を理解するための前提条件を明確にしている。

問題は「神経技術がこのような用途に用いられるか」ではなく、「いつ、どのように、どの程度用いられるか」である。したがって、神経技術、その国家安全保障と防衛分野での利用から生じる問題と議論、およびこれらの課題がどのように対処できるか、すべきかを深く理解することが不可欠である。これにより、倫理的な責任を保持する形で、これらの革新的な神経技術の活用を導き、規制することが可能になる。

各章の要約

第1章 神経技術、国際関係、国家安全保障:変化する文脈と神経倫理的要求

Neurotechnology, Global Relations, and National Security: Shifting Contexts and Neuroethical Demands

神経科学・神経技術の急速な発展が社会に強力な影響を与え、国家安全保障・情報・防衛(NSID)分野での応用可能性が拡大している。文化的要因が生物心理社会的な人間機能に与える影響を理解することで、協力・利他主義・対立・攻撃といった行動の神経基盤を解明できる。神経技術は敵対行動の認知的・感情的・行動的基盤を評価・アクセス・標的化し、人間の攻撃性・対立・戦争の神経生物学的要因に影響を与える可能性を持つ。これらの応用には厳格な倫理的・法的枠組みが必要である。(286字)

第2章 脳研究の移行:研究室から戦場へ

Transitioning Brain Research: From Bench to Battlefield

脳研究は人間の認知能力向上、訓練効率化、医療治療・リハビリテーション、チーム性能向上、システム工学の分野で国家安全保障に貢献する。しかし、実用化には技術準備レベル(TRL)モデルに基づく段階的評価が必要で、効果性・適合性・費用・スケジュール・品質・信頼性・生産性・支援可能性を満たす必要がある。脳ベースシステムは従来のアプローチとは異なる混乱的影響を与え、責任の所在・透明性・社会技術的文脈への配慮が重要となる。(249字)

第3章 情報収集・訓練応用における神経システム

Neural Systems in Intelligence and Training Applications

情報コミュニティは分析需要と個別志向的要素の不均衡に直面している。情報分析は情報収集(foraging loop)と意味形成(sense-making loop)という相互関連プロセスで構成される。神経技術はこれらのプロセスの測定・診断・調整に活用できる。情報収集では関連性判断と証拠抽出の監視、意味形成では認知状態と精神モデルの適切性評価が可能である。事例研究として、眼球追跡とEEG技術を用いたADAPTシステムが異常検出訓練での応用例を示している。(245字)

第4章 システム開発のための神経認知工学

Neurocognitive Engineering for Systems’ Development

情報集約的安全保障環境では、情報支配と意思決定優位性が重要である。情報技術の急速な発展により情報処理能力は向上したが、人間の認知能力には限界がある。情報過負荷は性能低下を引き起こし、USS Vincennesのイラン航空機撃墜事件のような悲劇的結果をもたらす可能性がある。神経認知工学アプローチは、人間の脳機能と調和するシステム設計を目指し、EEG技術を用いた実環境での認知評価により、個人差・訓練・経験・曝露の影響を考慮したシステム開発を可能にする。(253字)

第5章 戦闘員の回復力と最適性能の潜在的標的としての神経メカニズム

Neural Mechanisms as Putative Targets for Warfighter Resilience and Optimal Performance

軍事展開、特に戦闘展開は精神的健康に深刻な影響を与え、精神障害の発症率を増加させる。内受容(interoception)は身体関連信号の受信・処理・統合プロセスで、動機付けられた行動に影響を与える。島皮質が内受容処理の中心的役割を果たし、前帯状回が認知制御に重要である。回復力の高い個人は内受容システムをより効率的に活用し、身体予測誤差(body prediction error)を生成して極限環境に適応する。この神経メカニズムの理解により、戦闘員の最適性能と回復力向上が期待される。(257字)

第6章 神経技術と作戦医学

Neurotechnology and Operational Medicine

作戦医学は災害救援・人道支援における医療・公衆衛生資源の投射である。状況認識(situation awareness)は適応的で動的な神経認知プロセスの産物として定義される。神経技術アプローチは、感覚運動処理・内受容・認知処理の3つの基本的脳プロセスを区別する枠組みを提供する。この枠組みは個人の健康状態評価から大規模作戦シナリオまで拡張可能である。ハイブリッドエージェントベースモデルと連続時間シミュレーション手法により、意思決定支援システムの構築が可能となる。(246字)

第7章 「NEURINT」と神経兵器:国家情報・防衛における神経技術

“NEURINT” and Neuroweapons: Neurotechnologies in National Intelligence and Defense

神経兵器は「他者と対抗する手段」として定義され、情報インフラ・人間戦術・戦略的努力への影響により情報活動を支援する。生理模倣計算ハードウェア・脳機械インターフェース・人工知能システムが情報処理能力を向上させる。新しい情報収集分野「NEURINT(神経情報)」は、生体認証データと神経活動の相関により、対象の主観的現象への洞察を提供する。戦闘シナリオでは神経向性薬物・神経微生物学的薬剤・神経毒素が認知・感情・行動機能に影響を与える。これらの技術は準備と予防策を必要とする現実的脅威である。(262字)

第8章 脳のブリンクマンシップ:戦場空間・ドクトリン・戦略を見据えた神経兵器の考案

Brain Brinksmanship: Devising Neuroweapons Looking at Battlespace, Doctrine, and Strategy

神経兵器は生物物理学・ナノ化学・サイバーダイナミクス・関連要素の統合システムにより、人間の思考・脳波機能・知覚・行動に影響を与える兵器である。21世紀の兵器開発において、中国・ロシア・インド・イスラエル・イランなど多くの国家が米国と対等な軍事力を追求している。神経兵器の開発は地政学的パワーバランスを根本的に変革し、従来の戦場空間概念を超越する第7次元の戦場を創出する。ブリンクマンシップ戦略において、神経兵器の存在自体が戦略的影響力を行使する手段となる。(251字)

第9章 神経科学技術発展によって生じる法的問題

Issues of Law Raised by Developments and Use of Neuroscience and Neurotechnology in National Security and Defense

神経技術の軍事利用は深刻な法的課題を提起する。使用者の同意、指揮官の責任、設計者・製造者の義務、自己不利益供述拒否権との関係など複雑な問題群が存在する。ニュルンベルク綱領は医学実験の基準を示すが、神経技術の軍事応用にはより具体的な法的枠組みが必要である。証拠能力についても、fMRI嘘発見技術などの新技術が法廷で認められるかはDaubert基準下でも議論が分かれる。国際法においても、神経技術を用いた攻撃が「武力行使」に該当するか、戦争犯罪を構成するかなど未解決の問題が多い。現行法は神経技術の軍事利用に対応しきれておらず、新たな国際的規範の策定が急務である。

第10章 神経科学と国家安全保障における逆二重使用ジレンマ

Neuroscience, National Security, and the Reverse Dual-Use Dilemma

従来の「二重使用」問題が民生技術の軍事転用を懸念するのに対し、「逆二重使用」問題は軍事開発技術の民生流出による悪影響を指す。軍事神経科学は特にこの問題を抱えやすい。遠隔脳スキャン技術、行動操作薬物、脳刺激技術などが軍事目的で開発されても、民間に流出すればプライバシー侵害や社会統制の道具となりうる。UAV(無人航空機)技術の急速な民間普及が示すように、軍民技術移転の時間差は大幅に短縮している。この問題への対処として、環境影響評価に倣った「民間影響評価書」(CIAS)の導入を提案する。軍事機関は技術開発時に民間への悪影響を事前評価し、軽減策を検討すべきである。

第11章 神経懐疑主義:神経科学と国家安全保障の倫理を再考する

Neuroskepticism Rethinking the Ethics of Neuroscience and National Security

神経科学の国家安全保障応用には健全な懐疑主義が必要である。「真実血清」や「嘘発見器」といった用語は科学的根拠を誇張し、政策決定者を誤導する危険がある。脳画像技術も同様に、専門用語と視覚的説得力により実際の能力以上の信頼性があるかのように見せかける。対テロ戦争での拷問技術の濫用は、疑似科学的手法が人権侵害に悪用される危険性を示している。特に被拘禁者のような脆弱な集団に対する神経技術の使用は、科学的妥当性と人権保護の両面から厳格な検証が必要である。神経科学界は技術の限界と危険性について率直に公表し、政策決定者と市民社会との対話を促進すべきである。

第12章 監獄収容所か「監獄診療所」か?:生政治、神経倫理、国家安全保障

Prison Camp or “Prison Clinic?” Biopolitics, Neuroethics, and National Security

フーコーの生権力(バイオパワー)概念を用いて、グアンタナモ湾での神経技術使用を分析する。近代国家は人口の健康管理を通じて統治権力を行使し、医療技術が政治的目的に動員される。グアンタナモの被拘禁者は生物学的脅威として位置づけられ、国家が人口の健康を維持するため隔離・研究される対象となる。この文脈では、fMRI嘘発見技術の使用は「非医療的」ではなく、国家の臨床的性格の表れとして理解される。被拘禁者は病原体のように扱われ、その「診断」と「治療」が国家安全保障の名目で正当化される。従来の医療倫理と政治権力の境界は曖昧化し、「監獄診療所」という新たな統治空間が創出される。この状況への対処には、生権力構造そのものへの根本的批判が必要である。

第13章 神経懐疑主義と神経軽信の間で:国家安全保障・防衛における神経技術の規制と軽減における神経倫理の重要な役割

Between Neuroskepticism and Neurogullibility The Key Role of Neuroethics in the Regulation and Mitigation of Neurotechnology in National Security and Defense

神経科学の軍事応用に対する態度は「神経懐疑主義」と「神経軽信」の両極に分かれる。前者は神経技術の実用性に疑問を呈し、後者は技術革新による軍事的優位性を過度に期待する。両者とも神経科学を均質な分野として扱う還元主義的見方に陥っている。真の神経倫理的評価には、神経科学・神経技術・神経倫理を統合的に理解する必要がある。技術の人工物レベル、価値観レベル、基本的前提レベルという多層分析により、神経技術の文化的・社会的含意を把握できる。現行の倫理評価パラダイム(不確実性への恐怖、平等と幸福の追求、政策重視)は不十分であり、参加型ガバナンスを通じた市民社会の関与が不可欠である。国際的諮問委員会の設立により、神経技術の規制と軽減を図るべきである。

第14章 神経科学者が誓約を立てる理由:神経科学の誤用に対する集団的アプローチ

Why Neuroscientists Should Take the Pledge A Collective Approach to the Misuse of Neuroscience

神経科学者は人権と国際法に違反する神経科学の応用を拒否する誓約を立てるべきである。この誓約は二つの要素からなる:(1)自分や他者の研究が拷問や侵略戦争などに応用される可能性への認識、(2)そうした違法行為への意図的な参加の拒否。歴史的に科学者や医療従事者は社会的責任を果たしてきた例があり、1945年の原爆開発科学者の請願、人類学者の対テロ戦争反対誓約、医師会の拷問参加禁止声明などがある。神経科学の軍事応用は評価(脳活動監視)と介入(薬物・刺激による制御)に分類され、嘘発見、記憶操作、行動制御などが含まれる。二重使用問題と逆二重使用問題の両方が存在し、軍事技術の民間流入も懸念される。個人の良心に基づく行動が科学倫理文化の構築には不可欠である。

第15章 軍事神経強化とリスク評価

Military Neuroenhancement and Risk Assessment

軍事神経強化の倫理評価には従来の生命倫理学を超えたリスク評価アプローチが有効である。リスクは確率と危害の積として定義され、統計的犠牲者と特定可能な犠牲者の区別など複雑な要因が関与する。許容可能リスクの判定には5つの要因が重要である:(1)同意・自発性、(2)十分な説明に基づく同意、(3)影響を受ける集団、(4)深刻度と確率、(5)誰が許容可能性を判断するか。軍事環境では民間の生命倫理原則がそのまま適用できない場合があり、任務や国家利益が個人の福利に優先する状況もある。予防原則的アプローチは実用的でない場合が多く、リスク・便益分析による現実的評価が必要である。長期的な安全性試験と段階的導入により、強化戦闘員のリスクを最小化すべきである。

第16章 神経セキュリティを規制できるか(すべきか)?:歴史からの教訓

Can (and Should) We Regulate Neurosecurity? Lessons from History

科学と軍事の関係史から4つの教訓が得られる:(1)それは論争的だが、それ以上でも以下でもない、(2)成功と失敗が混在する、(3)神経セキュリティは完全に独特ではない、(4)正当な懸念が存在する。マンハッタン計画の成功例に目を奪われがちだが、ゲイ爆弾やフェンタニル事件のような設計・実装の失敗例も多い。規制選択肢として5つのオプションがある:(1)全面禁止、(2)強力な規制、(3)弱い規制、(4)積極的教育、(5)継続的議論。歴史の教訓に基づけば、オプション4(責任ある研究実施訓練への軍事目的科学の組み込み)が最低限必要で、オプション3(利益相反委員会に類似した弱い規制)も検討に値する。完全禁止や強力規制は過度であり、議論だけでは不十分である。

第17章 国家安全保障・防衛における神経技術使用によって生じる神経倫理問題への取り組み:プロセス、方法、パラダイムに向けて

Engaging Neuroethical Issues Generated by the Use of Neurotechnology in National Security and Defense

神経技術の国家安全保障利用は不可避であり、それに伴う神経倫理・法・社会問題(NELSI)への対処が急務である。カセビアの「4つのC」(結果・性格・同意・文脈)に加え、国際性・協力・コミュニケーション・秘匿性も考慮すべきである。TASKER特性(時間・任務適応性、科学・状況知識、経験・倫理反応性・責任性)を持つ多分野専門家グループの設立が必要である。HISTORY手法(科学技術の歴史性と含意、調停役割、責任ある実務)により過去の教訓を現在に活用する。倫理的推論修得ルーブリック(MR-ER)は6つの知識・技能・能力(前提知識、道徳問題認識、意思決定枠組み特定、代替行動評価、決定正当化、決定反省)を段階的に評価し、初心者から熟練者までの発達軌道を提供する。参加型ガバナンスと市民関与により透明性を確保すべきである。

あとがき 21世紀の神経科学と国家安全保障の規範的枠組み

A Neuroscience and National Security Normative Framework for the Twenty-First Century

戦争と平和は常に脳と関係してきたが、現在我々は神経科学を国家安全保障に応用する実践的・道徳的問題に取り組み始めている。米軍事ドクトリンの6段階(形成・抑止・主導権掌握・支配・安定化・文民当局支援)すべてにおいて脳の理解が重要である。社会認知神経科学は環境形成や抑止に、意思決定神経生物学は戦闘や復興支援に貢献する。道徳的評価には3つの伝統的枠組みが有効である:徳倫理(人格・性格)、義務論(同意・権利)、功利主義(結果・帰結)。これらは「3つのC」(性格・同意・帰結)として要約でき、国際的文脈を考慮した第4のC(文脈)も重要である。戦略的物語構築の例では、アリストテレスの修辞学(エトス・ロゴス・パトス)と神経生物学の知見を組み合わせ、効果的コミュニケーションが可能となる。


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