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概要
エクソソームとは
エクソソームは、あらゆる細胞によって分泌される単一の脂質膜小胞の一種で、細胞および細胞外液中に広く存在する。
エクソソームにはタンパク質、脂質、miRNA、RNA、DNAが含まれ、血液、脳脊髄液、唾液、尿など様々な体液に見いだされ、一人の体には100兆個以上ある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21235781/
最小の小胞
小胞にはエクソソームの他にもマイクロベシクル、アポトーシス小体があり、産生メカニズムやサイズが異なる。
エクソソームの直径は細胞外小胞の中でもっとも小さく40〜100 nmのナノスケールで、体液中に広く分布している。
- エクソソーム 40~100nm
- マイクロベシクル 100~1000nm
- アポトーシス小体 1000~4000nm
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21235781/
中枢神経系でのエクソソームの役割
神経細胞、グリア細胞、幹細胞、腫瘍細胞などの様々な種類の細胞は、多胞体と原形質膜の直接融合を通じて細胞外液にエキソソームを放出する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16877764/
エクソソームは血液脳関門を通過することができる。
エクソソーム分泌は、神経活動によって調節されていることが示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21111824/
メッセージ物質を運ぶ
ニューロンを含む様々な細胞間の情報コミュニケーションに関与し、低分子遺伝物質とタンパク質を運ぶことができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16446100/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19442504/
細胞恒常性・老廃物の除去
細胞ストレスと老化の両方がエクソソーム分泌を増加させる。
エクソソームの分泌増加は、神経細胞内ストレスに対する細胞保護効果への関連が示されており、エクソソーム分泌によって老廃物の除去に寄与する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28733901/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30015535/
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)とマクロファージから分泌されるエクソソームのクロストーク
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30380647/
炎症反応の調節
エクソソームから放出されたmiRNAは、外部環境の変化に対応して炎症反応を調節することが示されている。
www.nature.com/articles/s41413-018-0039-2
エクソソーム炎症性分子を輸送することから、炎症性メディエーターとしての機能も果たし、ニューロンとグリア細胞間の情報コミュニケーションによって神経炎症を誘発する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24694258
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24933428
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4643411/
中枢神経系細胞由来エクソソームの貨物
エクソソームの内容物(貨物)は不均一で、脂質、タンパク質、核酸が存在する。
それらの組成は細胞の種類、細胞の状態の両方に依存する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26858453/
エクソソームの長距離コミュニケーションでは、サイトカイン、ホルモン、成長因子、転写因子が重要な貨物となることがある。
エクソソームは免疫応答を引き起こさず、エクソソームタンパク質は一般的にユビキチン化されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6359416/figure/ijms-20-00434-f001/
ニューロン由来エクソソーム(NDE)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30926143/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30669512/
タンパク質
GluR2 / 3、AMPA受容体、L1CAM2、NCAM1、NCAM2、Arc、MAP1B、Syt4、Evi / Wntless、エフリン、APP、アミロイドβA4前駆体タンパク質結合タンパク質、NEDD4、シスタチンC
RNA分子
miR-125a、miR-124a、miR-132、let-7C、miR-21、miR-1973
シスタチンC
様々な組織で発現する内因性システインプロテアーゼ阻害剤であるシスタチンCは、ニューロン由来エクソソームによって分泌され、アルツハイマー病などの神経変性疾患で神経保護の役割を果たす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25356866/
PS遺伝子の変異は、エクソソームのシスタチンCをダウンレギュレートする可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19773092/
低レベルの血清シスタチンCは、高齢男性のアルツハイマー病リスクを高める可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18824671/
リソソーム機能障害は、神経変性疾患の神経細胞からのエキソソーム分泌を促進し、細胞外毒性タンパク質の蓄積を悪化させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21303699/
活性調節細胞骨格関連タンパク質(Arc)
Arcは、シナプス活性に応じてAMPA受容体(AMPAR)のエンドサイトーシスを促進することにより、シナプス可塑性を調節する。
ニューロンとミクログリア間のコミュニケーションは双方向であり、エクソソームは神経免疫コミュニケーション経路の新しい微調整因子かもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29328916/
miRNA
皮質ニューロンからのエクソソームmiRNAは、アストロサイト(miR-124a)などのさまざまな中神経系の細胞に取り込まれ、細胞外グルタミン酸レベルを調節し、シナプス活性化を調節する。
ミクログリア由来エクソソーム(MDE)
ミクログリア由来エクソソームは、シャペロン、テトラスパニン、膜受容体など多くの酵素を含み、強化されたスフィンゴ脂質代謝を介して神経活動を調節することができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16081791/
ミクログリア由来エクソソームからのαシヌクレイン放出は、パーキンソン病のタンパク質凝集を促進する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30787269/
脂質
ホスファチジルセリン(PS)
タンパク質
トロンボスポンジン-1および-4、TNF-α、IL-1B、IL-10、CCL2、P2X7R、GRIN2D、CD13
その他の分子
セロトニン(5HT)、エンドカンナビノイド。
RNA分子
miR-155、miR-146-5p
アストロサイト由来エクソソーム(ADE)
アストロサイト由来エクソソームは恒常性と病原性両方の役割を果たす可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22339481/
ショックタンパク質(HSP70)が豊富にあり、ニューロンの生存を促進する。
隣接細胞の活性を調節するFGF2、VEGF、血管新生阻害剤エンドスタチンなどの成長因子を含む多くの異なる因子が、アストロサイトサイト由来エクソソームに含まれている。
アストロサイト由来のエクソソームは、酸化的ストレスおよび熱ストレス、病的状態で放出される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22532571/
タンパク質
シナプシン-1、FGF-2、VEGF、エンドスタチン
RNA分子
miR-29b
オリゴデンドロサイト由来エクソソーム(ODE)
オリゴデンドロサイト由来エクソソームは、神経伝達物質であるグルタミン酸を刺激すると生成される。ミクログリアを介してミエリン破片のクリアランスに関与する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21136642/
タンパク質
GTPase Rab35、ミエリンプロテオリピッドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MPB)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、2’3′-サイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ(CNPase)ストレス保護タンパク質、SOD、カタラーゼ、DM20
RNA分子
miR-219
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6747137/
エクソソームの神経保護
ニューロン
神経系では、エクソソームは活発なメッセンジャーであり、ニューロンを酸化ストレスから保護し、神経突起伸長と神経細胞の生存を促進する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21593312/
アミロイドβの分解
外因性エキソソームは、アミロイドβ1–42の分解を促進することができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24458787/
プリオンの隔離
エクソソームは、プリオン(PrPC)などの隔離によりアミロイドβによって誘発されるシナプス可塑性の破壊活性を中和することができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24284042/
分子シャペロンの伝播
分子シャペロンはエクソソームによって細胞間を伝播し、周辺細胞のタンパク質凝集を防ぐ。
www.jst.go.jp/pr/announce/20150428/index.html
アルツハイマー病におけるエクソソームの役割
エクソソームは、パーキンソン病、アルツハイマー病などの多くの神経変性疾患に関与していると考えられている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20484626/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29934584
エクソソームによるエンドソーム経路のハイジャック
ニューロンに取り込まれたエクソソームは、エンドソーム経路をハイジャックし、相互接続されたニューロンへと拡散する。
病原性エクソソームの増加は、エンドソーム輸送の交通渋滞に繋がり、微小胞内のナノベシクルの数を増加させ、それによって放出されるエクソソームの数が増加する可能性がある。
またはタウやアミロイドβの増加がエクソソームの含有量を増やし、病気の拡散を加速化させる。
エンドソーム活性によって生成された巨大なエンドソームは軸索に沿って輸送することが難しく、交通渋滞を引き起こす可能性がる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5815204/
アストロサイト
神経細胞のエクソソームはアストロサイトのエクソソームも悪化させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22532571/
ApoE4でのエクソソーム産生障害と減少
ApoE4発現は、ヒトおよびApoE4マウスの両方で脳エクソソームレベルを低下させることが示されている。
加齢依存性であることが示唆されており、エキソソーム生合成の障害によってエクソソームレベルの減少引き起こされることが実証されている。
ApoE4の細胞外小胞膜キャリアは非キャリアよりも高いレベルのコレステロールとセラミドを含んでおり、ApoE4を介したコレステロールレベルの変化と関連して脳エクソソーム産生が損なわれている可能性が示されている。
エクソソームを介して細胞外空間に放出されるエンドソーム物質は、神経細胞が破片を除去する重要なメカニズムである。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28851452/
毒性タンパク質の輸送
この小胞による輸送は、αシヌクレインやアミロイドβプリオンなど神経変性疾患に寄与する毒性タンパク質の生成、輸送、排出、分解プロセスに関連している可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18171695/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22303002/
エクソソームがミスフォールディングされたタンパク質の潜在的な輸送体として神経変性障害に関与していることを示す証拠が増えている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23999871
アミロイドβを伝播
アルツハイマー病の アミロイドβはエクソソームによって細胞から分泌され、細胞外空間に放出される可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29495441/
アルツハイマー病ではエクソソームに毒性のあるアミロイドβオリゴマーが含んでおり、ニューロン間の伝達を媒介する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29934873
プリオンを伝播
エクソソームはプリオンを包み込み、感染した細胞から細胞外液に分泌され、膜融合によりプリオンを標的細胞へと送達することでプリオンの放出拡散に寄与している可能性がある。
これはアルツハイマー病やパーキンソン病の病理学的なメカニズムと類似する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15210972/
タウの分泌と伝播
いくつかの研究はタウがエクソソームを介してニューロンから分泌されることが示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26224867/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24899730/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29495441/
エクソソームの総タウレベルは、アルツハイマー病と診断される1~10年前と診断時で有意に高かったことが示された。血清エクソソームレベルは、発症前のアルツハイマー病を予測する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25130657
ニューロンに取り込まれたエクソソームは、エンドソーム経路を乗っ取り、相互接続されたニューロンにタウ凝集体が広がる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29448966
αシヌクレイン
レビー小体型認知症の脳由来エクソソームは、α-シヌクレインの病理を伝播する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28599681
マンガンはα-シヌクレインの凝集とエクソソームを介するプリオン様細胞間伝播を促進する
www.cosmobio.co.jp/aaas_signal/archive/ra-20190312-1.asp
AD治療のための様々なエクソソーム利用方法
アルツハイマー病を予測するバイオマーカー
アルツハイマー病患者の決勝から単離された神経エクソソームには、オートリソソームタンパク質を含み、リン酸化タウ、アミロイドβレベルの変化がアルツハイマー病のの発症前から検出されることから、アルツハイマー病の予測因子として利用可能であることが証明されている。
www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0197018616300614
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30850633
その他、リプレッサーエレメント1サイレンシング転写因子(REST)、熱ショック因子1(HSF-1)、LAMP1、リン酸化1型インスリン受容体基質がアルツハイマー病患者の血漿エクソソームに存在することが発見されている。
これらは、アルツハイマー病診断の~10年前変化する。
www.besjournal.com/en/article/doi/10.3967/bes2018.011
脳への薬物輸送
siRNA、miRNAキャリア
エクソソームは、RNA輸送能力、体液中の安定した存在、BBBを通過する能力により、アルツハイマー病治療としてmiRNAやsiRNAなどの核酸断片を送達するキャリアとして使用することができる。
siRNAを運ぶエクソソームを使用した治療では、ADマウスの脳のアミロイドβを有意に減少することが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21423189/
クルクミンキャリア
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30942233
リポソームとの違い
ウイルス、ポリエチレンイミンナノ粒子、リポソームなどの遺伝子治療の従来の候補ベクターと比較して、エクソソームは治療効果、標的化能力、低い免疫応答、安全性において大きな利点を有する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24022398/
エクソソームとリポソームでは物理化学特性は似ているものの、リポソームと異なり、エクソソームを利用して外因性の親水性高分子を効果的に送達することは現在のところできない。
linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0168-3659(16)30192-4
治療標的
酸化ストレスの軽減
多くの研究が多胞体からのエクソソーム放出が酸化ストレスによって誘導、加速化されることを指摘している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21179422
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24072748
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24860016
リソソームの機能不全
ニューロンのリソソーム機能不全は、アミロイド前駆体タンパク質C末端フラグメント、特定のスフィンゴ脂質、リン酸(BMP)など、未消化のリソソーム基質を豊富に含むエクソソームを放出する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5773483/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28737703/
その他
脂肪由来幹細胞(ADSC)のエクソソームは、ADマウスの神経細胞のアポトーシスを低減
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29625119
カンナビジオール(CBD)
カンナビジオールは用量依存的に微小胞を阻害する。この阻害は選択的でありガン化学療法における癌細胞への感作に使用できる可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6099119/
断食
飢餓によるオートファジーの誘導は、微小胞が分解経路に誘導されオートファゴソームとの融合が増加することで、エクソソーム分泌を減少させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28282924/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25988755/