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若年性アルツハイマー病 概要
65歳のカットオフ値
若年性アルツハイマー病とは、65歳未満で発症したアルツハイマー病として定義されている。65歳未満というカットオフ値に、何か特定の生物学的な意義はなく、もともとは退職年齢に応じた社会学的区分で設けられたにすぎない。
しかし若くして発症したアルツハイマー病では、臨床的にも病理学的にも平均的には様々な点で老齢期のアルツハイマー病とは異なることが、いくつかの研究においても見出されている。
これは40代50代で多く見られるリコード法における3型プロファイルを有する患者さんとの関連性が疑われる。
アルツハイマー病全体の5%
若年性アルツハイマー病(EOAD)は、65歳以上で発症する老齢期のより一般的なアルツハイマー病とは発症頻度が大きく異なる。
若年性アルツハイマー病はアルツハイマー病全体の約4~6%を占め、年間に10万人中6.3人が発症し、有病率は24.2人/10万人である。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25815299/
見逃される若年性アルツハイマー病診断
若年性アルツハイマー病では、亜種でしばしば見逃され、高齢者のアルツハイマー病患者と比較すると平均で1.6年診断が遅れる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22640548/
若年性アルツハイマー病の主な特徴(老齢期との比較)
・若年性アルツハイマー病では、(高齢期のアルツハイマー病と比べて)頭頂部の萎縮がより大きく、白質の異常があり、海馬容積の損失はより少ない。
・アミロイド負荷よりもタウの負荷と大きさが目立つ。
・若年性アルツハイマー病患者の最大で50%以上が非健忘性、亜型
・デフォルトモードネットワークとは異なる部位での障害
・疫学研究では若年性アルツハイマー病患者の数はアルツハイマー病遺伝リスクをもたない非家族性が多い。
若年性アルツハイマー病(老齢期ADとの違い)
見逃されるアルツハイマー病診断
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22640548/
低い認知予備力
若年性でアルツハイマー病を発症するには、より大きな脳損傷が必要とされる。
より大きな心理社会的問題
予期せぬ喪失と孤独
若くして認知症となり人生の歩調が狂ってしまったことへのショックと悲嘆
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24339066/
仕事と家族への責務を両立させることがむずかしくなる。
症状
うつ・落ち込み
病気に対する高い理解能力ゆえの落ち込み、うつ
攻撃性
より攻撃性の症状を示す。
注意力、実行機能、活動能力、視空間機能
注意力、実行機能、活動能力、視空間機能の相対的な障害の大きさ
意味記憶
若年性アルツハイマー病では意味記憶、老齢期のアルツハイマー病では作業記憶、エピソード記憶が損なわれる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26694580/
・家族性の若年性アルツハイマー病患者では、頭痛、ミオクローヌス、歩行異常
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22460587
content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad141011
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26694580/
認知機能低下の早い速度
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3852569/
早期発症型認知症(AD、レビー、血管性、FTD)は死亡率の増加と関連する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18679029/
若年性アルツハイマー病患者の悪化速度 3つの研究で速く1つで差がない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24989902/
併存疾患・病歴
心血管の低い健康状態
18歳時の低い心血管フィットネスと認知能力は、将来的な早期発症型認知症のリスク増加と関連しいた。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24604561/
糖尿病、肥満、循環器疾患の低い割合
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26778489/
外傷性脳損傷(TBI)の高い罹患率
TBIが認知症発症年齢を低下させる
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26401777/
APOE4アレルである頻度は低い
低いCRP、クレアチニン、BUN
老齢期のアルツハイマー病と比較して有意に低い
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3852569/
神経画像
早期の後部新皮質病変を伴う非健忘性、限局性変異体または表現型の発生率増加
特に頭頂部の大脳新皮質萎縮症と神経画像検査での側頭頭頂接合部溝幅
老齢期アルツハイマー病と比べて少ない海馬、近心側頭葉疾患、海馬体積減少
頭頂部の一時的な代謝低下
ニューラルネットワーク
特に後部連合野および前頭 – 頭頂ネットワークにおけるより大きな白質変化
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24733652/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24617580/
中央ハブ、ノード接続、豊富なクラブネットワークの減少
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19560509/
デフォルトモードネットワーク(DMN)である近心側頭側-帯状回ネットワークの少ない関与。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21813210
中央実行系、言語能力、ワーキングメモリ、視空間ネットワークなどのDMNニューラルネットワーク以外と強く関与する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24799341
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26242705
神経病理
特に後部新皮質での神経原線維変化と神経炎症プラークの蓄積が著しい
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26515192/
認知症の各病期、灰白質の萎縮部位でのより大きなタウ、神経原線維変化の蓄積
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25791224/
遺伝
PSD2
TCIRG1
RIN3
RUFY1
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28738127
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26159191
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24951455/
亜型の表現型である若年性アルツハイマー病
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5407192/
若年性アルツハイマー病の将来予測
介護施設入居までの期間・生存期間の違い
上段 アルツハイマー病の診断を受けてから施設へ入居するまでの期間(月)
赤線 若年性アルツハイマー病(65歳未満)
青線 老齢期のアルツハイマー病(65歳以上)
下段 アルツハイマー病の診断を受けてからの生存期間(年)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5471791/
教育年数の少なさと高用量のコリンエステラーゼ阻害剤投与は、晩期発症型のアルツハイマー病患者の日常生活基本動作(IADL)の悪化がより遅くさせた。
日常生活基本動作(IADL)への影響因子
若年性アルツハイマー病患者では、日常生活基本動作(IADL)の悪化がやや早いことが見出されている。
悪化を早める危険因子
一人暮らし
無関心
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23208452/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23123009/
降圧薬、心臓疾患の薬物
高血圧
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20639379/
介護者の能力
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23123009/
低い身体活動性
保護因子
高い教育レベル
若年性アルツハイマー病患者では高いレベルの教育が介護施設への入居をより低下させた。
コリンエステラーゼ阻害剤の最適用量とタイミング
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21056013/
老齢期アルツハイマー病患者の日常生活基本動作
危険因子
抗うつ薬の使用
介護者の能力
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23123009/
若年性アルツハイマー病の脳障害部位
若年性アルツハイマー病のDMN
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4559486/
若年性、老齢期のアルツハイマー、両者とも初期の段階では、萎縮は異なるパターンを示すが、疾患が進行するにつれて、両者とも、デフォルトモードネットワーク領域の一部で灰白質の体積減少が生じる。
病気の早期段階で、後部デフォルトモードネットワークの領域が解離し始め、前部および側部ネットワーク内の領域は接続が強化された。
楔前部、後部帯状皮質
しかし病気の進行につれて、デフォルトモードネットワーク全体を含む広範囲の領域の接続性の低下が観察された。
楔前部及び、後部帯状皮質がアルツハイマー病患者における最も深刻な領域であり、特に若年性アルツハイマー病患者ではそれが顕著である。
老齢期アルツハイマーの萎縮領域
より広範囲の萎縮を示す。若年性アルツハイマーと比較すると、明確な萎縮領域というのは見つからない。
若年性アルツハイマー病 萎縮領域と障害過程
初期の急速な萎縮・1年後の進行速度低下
初期の段階では若年性アルツハイマーは老齢期アルツハイマーよりも脳の萎縮性を見せるが、1年経過後の萎縮率は老齢期よりも緩やか。
最大で5.9%(若年者は認知予備力があるために一定レベルからの進行が緩やかになっているのかもしれない)
神経原線維変化、大きなシナプス喪失
大きな神経原線維変化濃度と大きなシナプス喪失が見られる。
頭頂葉の代謝低下
56歳前後の若いアルツハイマー病患者では、頭頂葉でより大きな代謝低下が見られる。
機能低下 注意力、言語症状の低下
体積の減少 両側側頭葉、頭頂葉
灰白質の萎縮 角回、中側頭回
灰白質の損失 後頭葉後部、両側前頭葉全部(中心前回、下前頭回)
楔前部、帯状回、両側前大脳、海馬後部、楔前部、後帯状皮質、前島
若年性アルツハイマー病に多い亜型
亜型の多い若年性アルツハイマー
若年性アルツハイマーの亜型は32%
老齢期アルツハイマーの亜型は6%
亜型は非ApoE4若年性アルツハイマー病に多い
ApoE4陰性であることと、若年性アルツハイマーの亜型であることは相関する。
ApoE4キャリアでは強い海馬の萎縮
ApoE4キャリアでは、海馬の萎縮が強く見られる。
島皮質コリン作動性経路を伴う併存性大脳白質病変への療法は、コリンエステラーゼ単独療法よりも好ましいかもしれない。
早期発症アルツハイマー病への複数の神経伝達物質標的
早期発症ADは、アセチルコリンに加えて、ノルアドレナリン、γアミノ酪酸、ソマトスタチンレベルに影響する。
複数の神経伝達物質を回復させる併用療法は、コリン作動性単独療法よりも有効である可能性がある。
alzres.biomedcentral.com/articles/10.1186/alzrt155