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概要
カルシウム(Ca2+)の調節不全が、神経変性疾患を引き起こすという説は1980年代に、Khachaturian博士によって最初に提案された。
その後30年にわたって、様々な種類のカルシウム恒常性メカニズムの破綻が報告されてきたが、アミロイド、タウ仮説が主流となる中で埋没してきたという経緯がある。
カルシウムイオンの役割
カルシウムイオン(Ca2+)は、非常にさまざまな細胞機能に関与するセカンドメッセンジャー。
神経伝達物質の放出、シナプス可塑性の誘導などの生理機能に関わる一方で、細胞死をはじめとする病態にも関与している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8036248/
カルシウム貯蔵庫である小胞体
細胞内の小器官のひとつである小胞体は多くの機能を有するが、そのひとつとして細胞内のカルシウムを貯蔵するカルシウムストアとしての役割を担っている。
基底細胞の小胞体カルシウム濃度は300μM程度であるのに対し、細胞質カルシウム濃度は5~50nMと数千倍低く抑えられている。(細胞外カルシウムは1~2μM)
カルシウムイオンは小胞体の内腔に貯蔵され、一定の条件下でカルシウムイオンを細胞質に放出する機能をもつ。
bsd.neuroinf.jp/wiki/細胞内カルシウムストア
アルツハイマー病のカルシウム恒常性破綻
カルシウム恒常性の破壊には、カルシウム緩衝能の変化、カルシウムチャネル活性の調節解除、または興奮毒性などのいくつかのメカニズムがありうる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15295589/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11274343
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18675468
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17328689/
家族性アルツハイマー病とカルシウム恒常性破綻
これまでの証拠は家族性アルツハイマー病が、細胞内カルシウム恒常性の不均衡に関連していることを示唆する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18035450/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20332425/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19382908/
プレセニリンは小胞体内のカルシウム濃度制御に重要な役割を果たす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20332425
プレセニリン1、プレセニリン2遺伝子は、MAMに局在しMAM機能の維持に役割を果たしている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20421691/
アミロイドβ凝集
アルツハイマー病におけるCa2+調節異常の原因には、アミロイドβ凝集と変異型プレセニリン(PS1)が含まれる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22177709
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18604209
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18591429/
パーキンソン病
αシヌクレイン凝集によって引き起こされる重要な病理学的特徴に、カルシウム恒常性のは破綻が報告されている。
Ca2+代謝に関わる遺伝子変異とパーキンソン病との関連
いくつかのパーキンソン病関連遺伝子は、小胞体カルシウムストアの枯渇と関与している。例えば、遺伝子BST1(骨髄間質細胞抗原-1)は、ヨーロッパの散発性パーキンソン病と関連している。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21084426/
SOCEの喪失
原形質膜と会合しているCa2+依存性ホスホリパーゼA2、(PLA2G6)の常染色体劣性突然変異は早発性のジストニア – パーキンソニズムを引き起こす。
PLA2G6の機能喪失はSOCEを損なう。SOCEは正常な脳において適切なレベルのドーパミンを維持するために重要な役割を果たす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21368765/
ロテノン・MPTPによるCa2+恒常性破綻
ロテノン、MPTPなどの環境毒素にさらされた細胞は、ミトコンドリアCa2+流入が低下し、細胞質Ca2+が増加する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15698934/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12753929/
MAMの機能低下
ミトコンドリアのCa2+レベルはMAMを介して小胞体によって厳密に制御されている。
αシヌクレインはミトコンドリアではなくミトコンドリア関連小胞体膜(MAM)に存在する。αシヌクレインの突然変異はMAM機能を低下させ、ミトコンドリアの断片化を促進する。MAMの破壊はパーキンソン病の重要な病因の一因となりえる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24381286/
Ca2+緩衝たんぱく質の発現低下
パーキンソン病の黒質緻密部ドーパミンニューロンの脆弱性は、カルビンジンやパルブアルブミンなどのCa2+緩衝タンパク質の発現低下により、Ca2+増加による緩衝ができなくなることが、重要な要因のひとつとしてある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5451174/
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋萎縮性側索硬化症の神経病理学的特徴として、カルシウム恒常性、酸化ストレス、小胞体ストレスおよびUPRの調節不全が同定されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26635528/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26635528/
小胞体ストレス/小胞体カルシウムの枯渇
小胞体の低カルシウム
小胞体ストレスの主な原因は、小胞体の低いカルシウムレベルであると認識されている。
link.springer.com/article/10.1007%2Fs11010-009-0142-1
stke.sciencemag.org/content/3/143/eg9
小胞体カルシウム枯渇 → たんぱく質ミスフォールディング
小胞体シャペロンは、たんぱく質の折りたたみに最適なカルシウム濃度を必要とする。神経変性疾患においてニューロンたんぱく質の折りたたみ能力の低下に、小胞体カルシウムの枯渇が重要な要素として関連していることが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11162742/
細胞質カルシウム過剰 → ミトコンドリア細胞死
サイトゾルカルシウム濃度が高いと、ミトコンドリアはカルシウムイオンを吸収する。ミトコンドリアカルシウムユニポート(MCU)
www.nature.com/articles/nature10234/
www.nature.com/articles/nature10230
サイトゾル(細胞質内)カルシウムの持続的な増加は、カルシニューリンのようなタンパク質の活性化を介して、またはミトコンドリアカルシウムの過負荷によってミトコンドリア媒介のアポトーシスも誘導し得る。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10195903
小胞体カルシウムポンプ
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167488912002467
小胞体カルシウムイオンの取り込み/SERCA
小胞体内腔へのカルシウムイオン取り込みを担うカルシウムイオンポンプは、筋小胞体(サルコ)/小胞体カルシウムATPアーゼ、英語の頭文字をとってSERCA(sarco/endoplasmic reticulum Ca2+-ATPase)(英語発音はサルカ)と呼ばれる。
SERCAは小胞体膜に局在し、ATPを分解することによってカルシウムイオンを濃度勾配に逆らい取り込む。
脊椎動物では、3つの主要なSERCAタンパク質が3つの異なる遺伝子(ATP2a1 / SERCA1、ATP2a2 / SERCA2、ATP2a3 / SERCA3)によってコードされている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9642673
- SERCA-1 速筋骨格筋に発現、
- SERCA-2a 心筋、遅筋
- SERCA-2b 平滑筋組織、非筋肉組織、脳、ニューロンで発現する主要な形態。
- SERCA-3 内皮細胞、上皮細胞、リンパ球細胞、血小板
www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780123749475000031
SERCA-2bを介したUCP1非依存性のベージュ細胞細胞の熱発生とグルコース恒常性の調節。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29131158
GDF11
成長分解因子11(GDF11)は、骨形成たんぱく質(BMP-11)としても知られる。
GDF11処置は老齢マウスの海馬、皮質の血管構造を改善し、その結果神経新生が増強される。議論の段階にあるが、アルツハイマー病治療や、アンチエイジング(抗加齢)作用をもつ候補のひとつとして一部の研究者から期待されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29480172/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6423340/
GDF11の回復は、高齢マウスSERCA2のアップレギュレーションすることが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4686040/
GDF11の補給は筋肉再生を阻害する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4497834/
循環GDF11は、認知症の重症度、加齢とは関連しない。β2-MGが脳の発達、神経新生への役割を果たしている可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5869852/
小胞体カルシウムイオンの放出/InsP 3 R・RyR
InsP3R (イノシトール三リン酸受容体)
InsP3RからのCa2+放出はInsP3の結合によって引き起こされる。
RyR (リアノジン受容体)
RyRを介したCa2+の放出は、Ca2+のわずかな増加によって活性かされる。
RyR(RyR2)は主に大脳皮質、海馬及び小脳のプルキンエ細胞に発現しているが、3型アイソフォーム(RyR3)は主に海馬領域、大脳基底核、及び嗅球に分布している。
jcb.rupress.org/content/128/5/893
アルツハイマー病遺伝子ApoE4がRyRを介したER Ca 2+放出を増強している可能性があり、このことは受容体のアミロイド斑および神経原線維変化の形成を促進するかもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2029618
家族性アルツハイマー病プレセニリン遺伝子の突然変異は、RyRを介したCa 2+放出を増加させるが、これはプレセニリン-RyRタンパク質の相互作用によるチャネルタンパク質の発現増強またはチャネル活性の増感による可能性がある。
アミロイドβ凝集
アミロイドβ凝集体は、InsP3RとRyRを介して、小胞体カルシウムストアからのCa2放出を引き起こすことができる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17050533
RyRによるER Ca 2+放出の増強はAβ産生を増加させる
europepmc.org/abstract/med/17901262
タウのリン酸化とNFTの増加
多くのキナーゼ活性は、Ca 2+によって活性化される。プレセニリン突然変異によるカルシウム恒常性の調節不全は、タウのリン酸化を有意に増強し、神経原線維変化の形成を誘導する可能性がある。
www.pnas.org/content/110/37/15091
RyR阻害剤
RyR阻害剤ダントロレンによる短期間の治療は、様々なADマウスモデルにおいて、Ca2+シグナルを安定化し、認知機能低下、神経病理学、アミロイド負荷および記憶障害を軽減する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23284867/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22915123/
ミトコンドリアカルシウムユニポーター(MCU)
SOCE(ストア作動性カルシウム流入)
SOCEの役割
小胞体へのカルシウム補給
SOCEはストア作動性カルシウム流入(store-operated calcium entry)の頭文字をとった略。
小胞体のカルシウム貯蔵量の減少を感知して、細胞外のCa2+から(形質膜Ca2+チャネルを介して)細胞質へCa2+の流入を促進するメカニズムのこと。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3112236/
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0143416017300593
シナプス可塑性・記憶形成
SOCEとシナプス可塑性との間には、強い相関関係を示唆する証拠がある。
AMPAやNMDA受容体などのグルタミン酸受容体からのCa 2+流入は、記憶およびシナプス可塑性において極めて重要な役割を果たしているが、SOCEも同様の大きさのCa 2+流入を提供する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27393042
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11182091
脂質代謝恒常性
SOCEは、cAMP産生、中性リパーゼの発現、脂質代謝転写調節因子PGC-1α、PPARαを調節する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5342942/
ミトコンドリア機能と炎症
stke.sciencemag.org/content/12/583/eaay1437
神経変性に寄与するメカニズム
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5874322/
SOCE障害による神経細胞死
神経突起スパインの形態を維持し記憶を形成するためには、持続的なCa 2+流入を必要とする。SOCEの障害は小胞体の持続的なCa2+枯渇を引き起こし神経細胞死を誘導するかもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11836247
低酸素・虚血性損傷
虚血後のラット海馬ではORAI1、STIM1の発現が増加によるCa2+蓄積が根底にあり、神経細胞死をもたらすことが示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24509424/
アルツハイマー病カルシウム仮説
SOCE経路によるアミロイドβ分泌
APPプロセシングの運命決定は、ニューロン内のSOCE経路を介したCa2+濃度によって決定および調節されることが示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18585350
SOCE(STIM1発現)を増強させたCa2+流入が、アルツハイマー病のアミロイドβ分泌を減少させることを示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23902769
ER Ca 2+過剰充填仮説 SOCEの障害は、小胞体カルシウム貯蔵への過剰なCa2+充填から生じ得るという提案がなされているが、反対意見も多く議論の段階にある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4408853/
メマンチン
メマンチンはNMDA受容体の過剰刺激を遮断することに加えて、HEK細胞のSOCEを上昇させることも示されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18769047/
パーキンソン病
SOCE機能の低下は、パーキンソン病モデルでは小胞体ストレスとドーパミン作動性ニューロンの機能不全または変性を引き起こす。
アルツハイマー病マウスモデル、散発性ヒト脳サンプルの両方においてSOCEの機能低下が認められ、シナプス喪失と認知機能の低下の一因となる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29623030
ハンチントン病・ALS
アルツハイマー病と異なり、ハンチントン病ではシナプスSOCEの上昇(STIM2発現の増加)が引き起こされることにより、線条体のシナプス喪失が生じていることがHDマウスで示唆されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3124661/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29623030
STIM/Orai 小胞体カルシウムセンサー
STIMおよびOraiは、SOCE機構を支える小胞体センサーのひとつ。
STIMとγセクレターゼ切断
SOCE障害は、APPプロセシングのγセクレターゼ切断と同様に、STIM1によるγセクレターゼ切断の変化に起因する可能性がある。
STIMおよびAPPは両方とも1型膜貫通タンパク質であり膜貫通ドメイン配列は非常に類似していることから、STIMタンパク質がγ-セクレターゼの基質となりうる可能性がある。
europepmc.org/abstract/med/19114088
過剰なγ-セクレターゼ開裂により減少したSTIM1シグナルは、Oraiチャンネルに伝達できず、細胞外Ca 2+流入の減弱を導くことが示された。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27601731
長期増強調節作用
STIMは長期増強(LTP)を調節することができ、シナプス可塑性および空間記憶形成において役割を果たす。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26236206
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27913207
小胞体-ミトコンドリア-カルシウムサイクル(ERMCC)
細胞内カルシウム濃度は、小胞体-ミトコンドリア-カルシウムのサイクルによって部分的に制御されている。小胞体はMAMを通して、ミトコンドリアにカルシウムを補給する。
www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/17482968.2011.641569?journalCode=iafd19
シグマ1受容体
MAMでのカルシウム移動
シグマ1受容体はERMCCの調節因子として、MAMにおいてカルシウムをミトコンドリアに移動させる。シグマ1受容体の活性は細胞質内のカルシウム濃度を減少させることが示されている。
シグマ1受容体とアルツハイマー病
シグマ1受容体の遺伝子多型はアルツハイマー病と相関を示す。
シャペロン機能、ミトコンドリアへのCa2+輸送の促進、ATP産生量の増加、
変異型はユビキチンプロテアソーム系の活性が低下することでTDP-43が細胞質に蓄積
シグマ1受容体アゴニスト臨床試験
アルツハイマー病 フェーズ2二重盲検無作為化プラセボ対照試験
ADCS-ADLスコア、MMSEスコア、機能的活動アンケートスコア、神経精神医学的インベントリースコア、ADAS-cog、ADCSのいずれについても、プラセボとの間に有意差はなかった。MMSEおよび神経精神医学的インベントリを用いた回答では、プラセボに対して名目上有意な効果を示した
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31282954
ALSとシグマ1受容体
シグマ1受容体は、ALSにおいて中心的役割を果たしていることを示している。
www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306452217304827
seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890106/data/index.html
リソソームCa2+
リソソームへのCa2+補充は、小胞体のCa2+に大きく依存する。
リソソームのCa2+はオートファジーの調節に重要な役割を果たすリソソームTRPML(ムコリピン1(MCOLN1)しても知られる)を通して放出される。
TRPMLを介したCa2+放出は、転写因子EB(TFEB)を脱リン酸化する。
オートファジー促進因子TFEB(転写因子EB)10の活性方法
カルシウムチャネルTPCの過剰活性
NAADP(ニコチン酸アデニンジヌクオチドリン酸)は、最も強力にCa2+を動員するセカンドメッセンジャー。TPCはこのNAADPの応答を仲介する重要なカルシウムチャネル。
オートファジー調節因子であるmTORC1の阻害に応答して、TPC2は活性化される可能性があり、その結果リソソームCa2+の放出を活性化するかもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29636391
リソソームphのアルカリ化
リソソームCa2+の過剰放出はリソソーム内のCa 2+含有量を減少させ、H +を排出する可能性がある。その結果、リソソームpHのアルカリ化が起こり、それによって加水分解酵素とプロテアーゼの活性に最適なpHを破壊するカテプシンBやDのようなカテプシンファミリーの活性(Aβとタウのクリアランスを担う重要なリソソームプロテアーゼ)が減少することを示す証拠がある。
リソソームphのアルカリ化はリソソーム機能を破壊するだけでなく、カルシウム恒常性も損なう可能性がある。その結果、アルツハイマー病に生じるあらゆる病理学的効果をもたらす仮定が可能であることが報告されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24256243
軸索輸送障害
リソソームのアルカリ化は、過剰活性化されたCa 2+排出がダイニン中間鎖サブユニットの過剰リン酸化を誘導し、それによって軸索逆行性貨物輸送を損なう可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6381838/
カルパイン活性過剰
カルパインは細胞内Ca 2+シグナルのエフェクターとして機能している。
カルパインはアルツハイマー病患者の脳では非常に高い活性が報告されており、Ca2+調節不全およびアルツハイマー病病理に反映している可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7847693
カルパイン阻害または下方制御が、たんぱく質の凝集および毒性に対する治療効果を示すかもしれない。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25257175
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24619358
SERCA
SERCA機能不全による小胞体ストレス
小胞体ストレスは、小胞体ストレスセンサーの活性化を導き、ニューロンの障害、神経細胞死を引き起こす。小胞体ストレスはSERCAの機能不全が原因と考えられている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16691116
SERCA
プレセニリン1,2遺伝子欠損では線維芽細胞において、カルシウムポンプであるSERCA活性の低下を示す。
SERCAの過剰発現はAβ40産生の著しい増加を引き起こすが、RNAiノックダウンを介したSERCA発現の減少またはタプシガルギンによる活性の阻害は、Aβ40およびAβ42レベル両方の有意な減少をもたらし得る。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3026092/
SERCA活性による小胞体機能の維持
SERCAの活性は細胞質カルシウムイオンの除去によるカルシウムシグナル形成のみならず、小胞体内腔の高いカルシウムイオン濃度の維持に不可欠である。
SERCA活性化は、小胞体カルシウムストアの補充により小胞体ストレスを軽減する。
SERCA活性化は、多くのサイトゾルCa2+を隔離し、ミトコンドリアシグナル伝達によって誘導されるアポトーシスを防ぐことができる。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960894X18302452
カルシウム恒常性の回復
小胞体Ca2+の取り込み活性
アストラガルス
アストラガロシドIVの処理は心筋細胞のSERCA2aの発現を有意に増強し、カルシウムの放出を促進する。in vitro
www.nature.com/articles/s41598-017-02360-5
www.hindawi.com/journals/ecam/2016/7831282/
ニトロキシル(次亜硝酸)
ニトロキシル(HNO)は、S-グルタチオン化を介して、SERCAの活性する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3046805/
Shuang-Huang-Lian 漢方薬
ミトコンドリアカルシウムユニポーター(MCU)の活性によるカルシウムの取り込み増加
www.nature.com/articles/srep38736
Schefflera kwangsiensis 漢方薬
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30995564
CDN1163
SERCA2b活性剤
www.jbc.org/content/291/10/5185.full
イスタロキシム
特異性が低い。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19238540
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3753840/
ピリドン誘導体
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19238540
シグマ1受容体活性
プロゲステロン
プロゲステロンはシグマ1受容体の活性化を介して、神経保護効果をもつ可能性。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16945406/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12871086
DHEA
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15089113
プレグネノロン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12871086
フルボキサミン・フルオキセチン・セルトラリン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8831113
シタロプラム
メマンチン
メマンチンは、NMDA状態の遮断効果に加え、細胞内Ca2+の基底レベルを低下させ、SOCEを増強することができる。
www.karger.com/Article/Abstract/149798
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15090047
ドネペジル
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10027686
DMT
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19213917
コカイン・メタンフェタミン
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12871086
SOCE活性
セントジョーンズワード(ヒペリフォリン)
TRPC6活性を直接活性化できる天然化合物
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17666455
journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0136313
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3309512/
NSN21778
TRPC6を介したOAG(ジアシルグリセロールの細胞透過性類似体)誘導性Ca 2+流入を促進することによる、SOCEの調節剤。
ガストロジン
ガストロ人はorai1およびSTIM1発現への作用を介してSOCEを抑制する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5404510/
TRPML1阻害剤
TRPML1やTPC2などのリソソームのCa 2+チャンネルはオートファジーを調節することができるため、チャンネル特異的阻害剤によってそれらの活性を制御することはアルツハイマー病に有益である可能性がある。
TPC2阻害剤 テトランドリン
テトランドリン(Tetrandrine)は、中国のハーブ、Stephania tetrandraの根から抽出されたアルカロイドの一種
テトランドリンは、リソソームのTPC2チャネルを阻害することが最近示されている。
europepmc.org/abstract/med/24711693
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25722412
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28108508
リソソームCa2+
酸性ナノ粒子
多くのエビデンスが、オートファジー障害がアルツハイマー病ニューロンの病理学的特徴であり、そして、破壊されたリソソームCa 2+がニューロンオートファジーに関係していることを示している。
リソソームを酸性ナノ粒子で再酸性化すると、リソソームの異常なCa 2+欠乏の回復に役立つ可能性を示す。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26299959
カルパイン阻害剤
ケルセチン
www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14756360802328075
ノニ(ヤエヤマアオキ)
Morinda citrifoliaの根
セリンプロテアーゼとシステインプロテアーゼの両方を阻害するため、選択的ではない。
www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/35/1/35_1_78/_article/-char/ja/
ヨウシュヤマゴボウ(アストラガリン)
※山ごぼうとはまったく異なる。
www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14756360802328075
小胞体ストレス誘導 Ca2+経路
クルクミン
クルクミンは、カルノシン酸と相乗作用して、Ca 2+恒常性の破壊を介して癌選択的細胞毒性様式で急性骨髄性白血病(AML)細胞にアポトーシスを誘導する可能性がある。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5077981/
クルクミンのSERCA阻害作用
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15582601
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26418821
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5904271/#B30
ベルベリン
ベルベリンは活性酸素種(ROS)の産生と細胞内Ca2+濃度を増加させる。 GRP78、ATF6、PERK、eIF2α、CHOPを含むERストレス関連タンパク質がベルベリンによって有意にアップレギュレートされること見出されていることから、細胞質におけるCa 2+恒常性のの破壊は小胞体ストレスによって生じる可能性がある
www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/33/10/33_10_1644/_article
バイカレイン
バイカレインは、Ca2+の上昇、小胞体ストレスの活性化、Bcl-2発現の下方制御、Bax発現の上方制御、およびミトコンドリア膜電位の低下を介して細胞アポトーシスを誘導する
ar.iiarjournals.org/content/28/3A/1701.short
ニコチン
ニコチンは、褐色脂肪組織の摂食量の減少、熱産生の増加により体重が減少すると報告されており、この活動は小胞体ストレスの活性化に関連している可能性がある。
ニコチン治療は、血清インスリン、肝臓脂質の減少、脂肪症、炎症の低下、肝臓における小胞体ストレスを含む、総合的な脂質プロファイルの改善とも関連していた。
academic.oup.com/endo/article/155/5/1679/2423164
アマチャズル
Gynostemma pentaphyllum Makino(アマチャズル)から分離されたジペノシド、トリテルペノイドサポニンは、ヒト肝癌細胞のカルシウム調節小胞体ストレス、ミトコンドリア機能障害を通してアポトーシスを活性化する。
サポニン曝露により、イノシトール1,4,5-トリスリン酸受容体およびSOCのタンパク質レベルがアップレギュレーションされ、SERCAのダウンレギュレーションが示された。
www.liebertpub.com/doi/10.1089/cbr.2012.1327
セラストロール
セラストロール誘発によるプロテアソーム阻害は、IP 3 RとMCUの両方をアップレギュレーションさせ、小胞体からのCa2+の放出と増加、そしてそれに続くミトコンドリアのCa 2+流入に寄与する。
www.oncotarget.com/index.php?journal=oncotarget&page=article&op=view&path%5B%5D=2256&path%5B%5D=3734
セラストロールは、小胞体ストレス活性化およびポリユビキチン化タンパク質蓄積の増加を通じて、口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞の増殖を減少させ、細胞アポトーシスを増加させる。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014482714003425
カンフェン(Camphene)
テレビン油、ヒノキ油、樟脳油、シトロネラ油、ネロリ油、ジンジャーオイル、カノコソウ精油の微量成分として含まれる。
Piper cernuum Vellの精油から分離された。葉は小胞体ストレスの誘導を通してメラノーマ細胞のアポトーシスを活性化することが示されており、これはカルシウム障害およびミトコンドリア機能障害に関連している可能性がある。
www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X15307415
ホノキオール
ホノキオールは、GRP78の上方制御によって細胞質中のCa2+の恒常性を喪失し、小胞体ストレスを引き起こす可能性がある。
www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0304383509006259?via%3Dihub