Anaphylaxis
Liverpool: University Press, 1913
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目次
第1章 歴史的経緯(Historique)
第2章 アナフィラキシーの境界(Délimitation de l’anaphylaxie)
第3章 潜伏期間(Période d’incubation)
第4章 アナフィラキシーの持続期間(Durée de l’anaphylaxie)
第5章 アナフィラキシーの症状(Symptômes de l’anaphylaxie)
第6章 アナフィラキシー誘発物質一般(Des substances anaphylactisantes en général)
第7章 個別のアナフィラキシー誘発物質(Des substances anaphylactisantes en particulier)
第8章 受動的アナフィラキシー(Anaphylaxie passive)
第9章 試験管内アナフィラキシー(Anaphylaxie in vitro)
第10章 アナフィラキシーと沈降反応・補体結合反応との関係(Rapports de l’anaphylaxie avec la formation de précipitine et la déviation du complément)
第11章 抗アナフィラキシー(Anti-anaphylaxie)
第12章 医学におけるアナフィラキシー(Anaphylaxie en médecine)
第13章 局所アナフィラキシー(Anaphylaxie locale)
第14章 慢性アナフィラキシー(Anaphylaxie chronique)
第15章 食物性アナフィラキシー(Anaphylaxie alimentaire)
第16章 全身性アナフィラキシー(Anaphylaxie générale)
第17章 理論と結論(Théorie et conclusions)
各章の要約
第1章 歴史的経緯
Historique
リシェは1902年にアナフィラキシーという概念を初めて提唱した。モナコ大公のヨットでの航海中にクラゲ毒の研究を行い、帰国後アクチニアの触手毒で実験を継続した。犬ネプチューンに0.1の毒液を注射後22日目に同量を再注射したところ、数秒後に重篤な症状が現れ25分で死亡した。過去にもマジャンディ(1839年)やフレクスナー(1894年)が類似現象を観察していたが、体系的記述はリシェが最初である。コッホの結核菌素による反応も本質的にアナフィラキシーと同様だが、証明は不十分である。1902年から1910年にかけて多くの研究者がこの分野の発展に貢献した。
第2章 アナフィラキシーの境界
Délimitation de l’anaphylaxie
同種動物でも毒物への感受性には個体差があり、極めて敏感な個体が存在する。これを自然発生的アナフィラキシーと呼べるかは疑問である。食物摂取によるアナフィラキシーも確認されているが、すべての個体差をアナフィラキシーとして説明することは困難である。アナフィラキシーの遺伝的伝達も観察されており、母親から子に伝わるが父親からは伝わらない。これは受動的アナフィラキシーの一種と考えられる。生理的な状態変化(出血など)によっても毒物への感受性は変化するため、真のアナフィラキシーとの区別が重要である。
第3章 潜伏期間
Période d’incubation
アナフィラキシーが発現するまでには一定の潜伏期間が必要である。ルイスは6日目に確認したが、ローゼナウとアンダーソンの精密な研究では最初の6日間は反応なく、7-10日目から強度が増し、14日目に最大となる。リシェの毒素実験では、ミチロ毒素で10日目、アクチノ毒素で12日目、クレピト毒素では28日目に開始し、毒性の発現時期と相関している。強い初回投与量は潜伏期間を遅延させる。これは抗原が血中から完全に消失してから毒素産生体が現れるためと考えられる。一般的には最低10日間の潜伏期間が必要で、20日頃に最大強度に達する。
第4章 アナフィラキシーの持続期間
Durée de l’anaphylaxie
アナフィラキシー状態は極めて長期間持続する。リシェは1903年に1年後でも確認できることを報告した。ローゼナウとアンダーソンはモルモットで1096日(3年以上)の持続を観察し、生涯続く可能性を示唆した。人間では1817日後の反応例も報告されている。毒素の種類により持続期間は異なり、ミチロ毒素では40-50日で消失するが、アクチノ毒素やクレピト毒素では100日以上持続する。この長期持続は生物学上最も特異な現象の一つで、個体の分化に重要な要素となる。過去の軽微な中毒でも個体の体液的個性を永続的に変化させ、心理的個性と同様に体液的個性を形成する。
第5章 アナフィラキシーの症状
Symptômes de l’anaphylaxie
アナフィラキシーの症状は動物種により異なる。犬では軽症から重症まで段階があり、軽症では掻痒、呼吸促迫、血圧低下、下痢が見られる。重症では嘔吐が特徴的で注射後10秒以内に出現し、血性下痢、運動失調、瞳孔散大、意識障害が続く。最重症では数分で死亡する。症状は突然発現し、同様に急速に回復する場合が多い。ウサギでは偽くしゃみ、不安、多呼吸、便失禁後に側臥位となり死亡する。モルモットでは掻痒、興奮、虚脱、痙攣が特徴的である。人間では蕁麻疹、関節痛、嘔吐、浮腫が見られ、まれに死亡例もある。すべての症状は中枢神経系中毒を示している。
第6章 アナフィラキシー誘発物質一般
Des substances anaphylactisantes en général
アナフィラキシーを引き起こす物質は必ずアルブミノイド(タンパク質)のコロイドである。結晶性物質では確認されていない。血清、乳、卵白、各種臓器抽出物、植物性タンパク質、細菌毒素など、ほぼすべてのタンパク質がアナフィラキシーを誘発する。加熱により毒性は減少するが、アナフィラキシー誘発能は部分的に残存する。準備物質(初回注射で感作する物質)と誘発物質(再注射で症状を引き起こす物質)は必ずしも同一ではなく、化学的処理により分離可能である。特異性は高いが絶対ではなく、近縁種間では交叉反応が見られる。アナフィラキシー誘発物質は極めて安定で、化学的処理に対し高い抵抗性を示す。
第7章 個別のアナフィラキシー誘発物質
Des substances anaphylactisantes en particulier
各種物質のアナフィラキシー誘発能について詳述する。血清では極微量(0.000001)でも感作可能で、特異性は高いが絶対ではない。乳では種特異性があり、牛乳で感作された動物は牛乳にのみ反応する。卵白も同様の特異性を示す。毒素では免疫とアナフィラキシーが並行して進行し、初期には致命的反応を示すが後に免疫により保護される。細菌性アナフィラキシーも確認され、診断への応用が期待される。癌腫瘍抽出物によるアナフィラキシーの研究も進められているが、まだ確定的結果は得られていない。各物質により潜伏期間や持続期間が異なり、個別の特性を示す。
第8章 受動的アナフィラキシー
Anaphylaxie passive
感作動物の血清を正常動物に注射することでアナフィラキシー状態を移転できる。この現象を受動的アナフィラキシーと呼ぶ。血清中の毒素産生体(トキソゲニン)が移転により症状を引き起こす。効果的な血清量は動物種により異なり、犬では相当量が必要だが、モルモットでは少量で十分である。移転は即座に可能で、潜伏期間は不要である。これは毒素産生体が既に血清中に存在するためである。受動的アナフィラキシーは15-20日間持続する。同種間移転(同質)と異種間移転(異質)があり、後者でもある程度可能である。この現象により毒素産生体の実在が証明され、アナフィラキシーの化学的機序解明への道筋がついた。
第9章 試験管内アナフィラキシー
Anaphylaxie in vitro
感作動物の血清と抗原を試験管内で混合すると、即座に毒性を示す液体が生成される。この現象を試験管内アナフィラキシーと呼ぶ。クレピチン毒素を用いた実験では、感作犬の血清と毒素を混合した液体を正常犬に注射すると、直ちに重篤なアナフィラキシー症状が現れた。これは毒素産生体と抗原の化学的結合によりアポトキシンという新毒素が生成されるためである。脳組織からも毒素産生体を抽出でき、アルコール沈殿により精製可能である。この実験により、アナフィラキシーが毒素産生体と抗原の化学反応による中毒現象であることが確実に証明された。ただし常に成功するわけではなく、血清中の毒素産生体濃度に依存する。
第10章 アナフィラキシーと沈降反応・補体結合反応との関係
Rapports de l’anaphylaxie avec la formation de précipitine et la déviation du complément
フリードベルガーはアナフィラキシー反応が沈降素反応と類似することを主張した。アナフィラキシー発現時には補体が消失し、沈降反応と並行して起こる。受動的アナフィラキシーでは補体消失がより顕著だが、症状は能動的アナフィラキシーの方が強い。食塩注射により補体消失を防ぐとアナフィラキシーも阻止される。沈降物は毒性を示し、補体と反応してアナフィラトキシンを生成する。フリードベルガーによれば、アナフィラキシー反応には沈降物質、被沈降物質、補体の3要素が必要である。しかしウサギでは沈降反応が強いがアナフィラキシーは弱く、犬では逆の関係が見られるため、この理論には疑問も残る。
第11章 抗アナフィラキシー
Anti-anaphylaxie
ベズレドカは潜伏期間中に追加の抗原注射を行うことでアナフィラキシーを阻止できることを発見した。この現象を抗アナフィラキシーと呼ぶ。モルモットで確認され、腹腔内注射が脳内注射による致命的反応を防ぐ。この免疫は1時間半で成立し、3か月間持続する。血清による移転は不可能である。加熱により抗原の感作能は保持されるが誘発能は失われる。これは感作物質と抗感作物質が同一物質の異なる機能であることを示唆する。塩化カルシウムも軽度の抗アナフィラキシー効果を示すが、実用的ではない。麻酔薬による神経麻痺もアナフィラキシーを阻止するが、これは真の抗アナフィラキシーではなく神経反応の抑制である。
第12章 医学におけるアナフィラキシー
Anaphylaxie en médecine
医学分野でのアナフィラキシー応用について論じる。法医学では極微量の組織からでも動物種判定が可能で、数千年前のミイラからも人血清特異性を検出できる。疾患診断では細菌毒素の特異的反応を利用し、結核以外にも癌、エキノコッカス症、チフスの診断が試みられている。病因論では食物アレルギー、薬物過敏症、エクラプシア、喘息、癌の突然死などがアナフィラキシーで説明される。結核におけるアナフィラキシーは特殊で、結核菌素による反応は明確だが、結核菌素自体による感作は不確実である。これは感作物質と誘発物質が異なるためと考えられる。医療における血清注射事故もアナフィラキシーとして理解され、予防法の開発が重要である。
第13章 局所アナフィラキシー
Anaphylaxie locale
アルトゥスはウサギで局所アナフィラキシーを観察した。初回注射部位の近傍組織が再注射により腫脹、発赤、浮腫を呈する。この現象はウサギ以外では確認されておらず、種特異性がある。局所アナフィラキシーは特異性が低く、血清で感作されたウサギがペプトンに反応し、ペプトン感作ウサギがゼラチンに反応する。しかし反応強度には差があり、馬血清が最も強い反応を示す。人間でも血清再注射後に初回注射部位の感作や発赤が観察される。山内の実験では感作ウサギの神経が特異的に興奮性を失うことが示された。ランドゥジーは関節内結核菌素注射後の関節感作を報告している。毒素産生体は全身に拡散するが、特に脳と血清に局在する。
第14章 慢性アナフィラキシー
Anaphylaxie chronique
アナフィラキシー反応は通常急速に消失するが、時として慢性経過をとる。犬では急性ショック後に回復したように見えても、10-48時間後に死亡することがある。この慢性アナフィラキシーは急性期の組織損傷(腸出血や神経細胞障害)による続発的な死亡と考えられる。ウサギでも血清連続注射後に衰弱死することがある。症状の経過は初期の激烈なショック、一時的回復、その後の衰弱と腸出血の増悪、最終的な死亡という段階を辿る。原因となるアポトキシンは既に消失しているが、その際に生じた不可逆的細胞損傷により遅発性死亡が起こる。これは「原因除去後も効果が残存する」という医学的原則の例である。
第15章 食物性アナフィラキシー
Anaphylaxie alimentaire
ローゼナウとアンダーソンが食物摂取によるアナフィラキシーを初めて証明した。馬肉を摂取したモルモットが馬血清注射により症状を呈した。しかし実験成功率は低く、大量摂取が必要である。門脈内注射実験により、肝臓や腸管がタンパク質を無害化するのではなく、胃腸内消化がアナフィラキシー誘発能を破壊することが判明した。大腸内注射では感作が成立するが、小腸や胃内注射では成立しない。人間では卵、乳、魚介類、果物による特異な過敏症が知られている。これらは消化機能の個体差により、一部のタンパク質が未消化のまま吸収されることで起こると考えられる。リシェ自身も卵黄に対する個人的過敏症を有していた。
第16章 全身性アナフィラキシー
Anaphylaxie générale
アナフィラキシー感作動物は特異的抗原以外の毒物に対しても感受性が変化する可能性がある。アポモルフィンの嘔吐誘発量を指標とした実験では、正常犬の22%に対し感作犬では63%が嘔吐を示した。興味深いことに、正常犬では注射後6分で嘔吐したが、感作犬では18分と大幅に遅延した。これは感作動物の体内で特殊な化学反応が遅れて発生することを示唆している。この全身性アナフィラキシーは軽度だが確実に存在し、一つの抗原による感作がすべての毒物への感受性を変化させる可能性がある。今後この現象の詳細な研究により、実用的および理論的に重要な知見が得られると期待される。
第17章 理論と結論
Théorie et conclusions
アナフィラキシーの基本機序は、異種タンパク質により細胞が変化し、同物質への反応性が増大することである。10-40日の潜伏期間後に毒素産生体(トキソゲニン)が形成され、数年間持続する。再注射時にトキソゲニンと抗原が結合してアポトキシンという新毒素を生成し、中枢神経系中毒を引き起こす。この理論は受動的アナフィラキシーや試験管内実験により証明された。準備物質と誘発物質は必ずしも同一ではなく、化学的に分離可能である。アナフィラキシーは個体の体液的個性を形成し、心理的個性と並ぶ生物学的特徴となる。進化論的には、異種タンパク質の侵入から種の化学的同一性を保護する防御機構と解釈される。医学的には診断法、法医学への応用、血清療法の安全性向上に重要である。
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