
『小企業への戦争:政府がいかにして中央集権を推進し、起業家精神とアメリカンドリームを破壊したか』キャロル・ロス 2021年
英語タイトル:『The War on Small Business: How the Government Used the Pandemic to Crush the Backbone of America』Carol Roth 2021年
目次
- 序論 / Introduction
- 第1章 政府の黒い白鳥:予測不可能で前例のないパンデミック対応 / The Government Black Swan: An Unpredictable, Unprecedented Pandemic Reaction
- 第2章 後知恵は2020:政府依存の過度な信頼がいかに歴史的失敗を導いたか / Hindsight Is 2020: How Overreliance on Government Led to History-Making Mistakes
- 第3章 感染拡大を遅らせるための15日間:「非必須」企業という神話を通じた政府による勝者と敗者の選別 / Fifteen Days to Slow the Spread: Exploring Government Choosing Winners and Losers via the Myth of “Non-Essential” Businesses
- 第4章 アメリカの基盤を破壊する:取り巻きへの1兆ドル以上、リスクの高い小企業へのコロナ対策のかけら / Breaking America’s Backbone: More Than a Trillion Dollars for Cronies, COVID Crumbs for At-Risk Small Businesses
- 第5章 メインストリートをウォール街に売り渡す:連邦準備制度の数十年にわたる政府の最富裕層への富の移転への役割 / Selling Out Main Street to Wall Street: The Federal Reserve’s Decades-Long Role in Helping Government Transfer More Wealth to the Wealthiest
- 第6章 社会正義と社会的コスト:政府の経済・市民的不正義により小企業が負担した重大なコスト / Social Justice and Social Costs: How Small Businesses Bore Significant Costs Due to Government’s Economic and Civil Injustice
- 第7章 「感染拡大を遅らせるための15日間」の数百日分:権力と富の急速で歴史的な集約 / A Couple Hundred Days’ Worth of “Fifteen Days to Slow the Spread”: A Rapid and Historic Consolidation of Power and Wealth
- 第8章 最小の少数派を守る:個人の権利と資本主義が経済的自由の基盤をいかに築くか / Protecting the Smallest Minority: How Individual Rights and Capitalism Set the Foundation for Economic Freedom
- 第9章 アメリカ最悪の貿易協定:中央計画が失敗する運命にある理由 / America’s Worst Trade Deal: Why Central Planning Is Doomed to Fail
- 第10章 資本主義のブランド力を失う:言葉の戦争がいかに個人の権利を弱め中央集権的権力を強化したか / Losing the Branding on Capitalism: How a War of Words Led to Weakened Individual Rights and Centralized Power
- 第11章 資本主義を縁故主義と交換する:「ゲームが不正操作されている」理由が資本主義ではなく政府から来る理由 / Trading Capitalism for Cronyism: Why the “Game Being Rigged” Is Coming from Government, Not Capitalism
- 第12章 立場の交換:中国とアメリカのそれぞれの資本主義への・からの転換 / Trading Places: China’s and the United States’ Respective Shifts to and from Capitalism
- 第13章 分散化対集中化:小企業への更なる中央計画攻撃を防ぐ方法 / Decentralization Versus Centralization: How to Prevent Further Central Planning Attacks on Small Business
- 結び / Epilogue
全体の要約
本書は、2020年のコロナ禍において、アメリカ政府がいかに小企業を犠牲にして大企業と既得権益層を優遇したかを詳細に分析した作品である。著者キャロル・ロスは投資銀行出身で小企業アドバイザーとしての経験を持ち、政府の対応を「小企業への戦争」として厳しく批判している。
コロナ禍は確かに予期せぬ出来事だったが、真の「ブラック・スワン」は政府の対応そのものだったと著者は論じる。政府は「感染拡大を遅らせるための15日間」と称して経済活動を制限したが、この期間は数百日に及び、その間に小企業の3分の1が閉鎖される一方で、アマゾンやアップルなどの大企業は史上最高益を記録した。
この格差は偶然ではなく、長年にわたる政府の中央集権化政策の必然的結果であると著者は主張する。小企業は本質的に分散的で統制が困難であり、政府にとって権力集中の障害となる存在である。一方、少数の大企業や組合との取引は政府にとって遥かに容易である。
連邦準備制度の役割も重要な問題として取り上げられる。FEDは市場介入を通じてウォール街を支援し続け、特に2020年には前例のない規模で大企業の株価を押し上げた。その一方で、メインストリートの小企業は政府の支援を得られずに苦境に陥った。
CARES法による支援も問題が多かった。総額2.3兆ドルの予算のうち、小企業向けの給与保護プログラム(PPP)は全体の20%未満に過ぎず、その多くが本来対象ではない大企業に流れた。ケネディセンターや富裕な大学への直接給付が行われる一方で、小企業は煩雑な手続きを強いられた。
著者は資本主義の本質的価値を擁護し、現在の問題は資本主義の失敗ではなく政府の介入と縁故主義の結果であると強調する。真の資本主義は個人の権利と選択の自由に基づく制度であり、政府の役割は市場に介入することではなく個人の権利を保護することに限定されるべきだと論じる。
中国との関係も興味深い視点で分析される。アメリカが中国に資本主義を輸出する一方で、自国では中央集権化が進行し、皮肉にも両国が「立場を交換」する状況が生まれているという。
最終的に著者は、小企業と個人の権利を守るためには政府の規制を減らし、最低賃金法やギグワーカーの雇用分類などの有害な政策に反対し、真の自由市場を復活させる必要があると主張している。分散化と個人の選択の自由こそが、中央集権的支配に対抗する唯一の方法だと結論付けている。
各章の要約
第1章 政府の黒い白鳥:予測不可能で前例のないパンデミック対応
The Government Black Swan: An Unpredictable, Unprecedented Pandemic Reaction
コロナウイルス自体は「ブラック・スワン」ではなく、真のブラック・スワンは政府の前例のない経済封鎖対応だった。政府は初期封じ込めに失敗した後、抑制戦略を選択したが、明確な終了基準や費用対効果の検討なしに実行された。その結果、2020年7月までにYelpプラットフォームだけで16万3千以上の企業が閉鎖し、そのうち60%が永久閉鎖となった。一方でアマゾンやフェイスブックなどの大企業は記録的な収益を上げ、株式市場は新高値を更新した。
第2章 後知恵は2020:政府依存の過度な信頼がいかに歴史的失敗を導いたか
Hindsight Is 2020: How Overreliance on Government Led to History-Making Mistakes
2020年1月のダボス会議で世界のエリートたちは中国との貿易協定に注目していたが、新型ウイルスへの対策は軽視された。政府は中国からの情報を鵜呑みにし、マスク着用を否定するなど一貫性のない政策を展開した。検査体制の構築では、政府が市場参入を阻害し、韓国が民間企業と協力して迅速に検査能力を拡大する間に、アメリカは官僚的手続きに縛られた。その結果、同時期に韓国が29万人を検査する間、アメリカはわずか6万人しか検査できなかった。
第3章 感染拡大を遅らせるための15日間:「非必須」企業という神話を通じた政府による勝者と敗者の選別
Fifteen Days to Slow the Spread: Exploring Government Choosing Winners and Losers via the Myth of “Non-Essential” Businesses
テキサス州の美容師シェリー・ルーサーが自分のサロンを営業したことで収監された事例を紹介し、政府の「必須」「非必須」企業の区分けがいかに恣意的で憲法違反だったかを論じる。政府は一貫した科学的基準なしに、大型店舗は営業継続を許可する一方で小規模事業者を閉鎖させた。ペットの毛づくろいは許可されるが人間の美容院は禁止されるなど、論理的一貫性を欠いた政策が横行した。これは真の封鎖ではなく、政府による恣意的な権力行使だった。
第4章 アメリカの基盤を破壊する:取り巻きへの1兆ドル以上、リスクの高い小企業へのコロナ対策のかけら
Breaking America’s Backbone: More Than a Trillion Dollars for Cronies, COVID Crumbs for At-Risk Small Businesses
政府による事業閉鎖は本来なら収用権の行使として適切な補償が必要だったが、CARES法は総額2.3兆ドルのうち小企業支援は20%未満に留まった。ケネディセンターが2500万ドルの直接給付を受ける一方で、小企業は複雑な手続きを要するPPPローンを申請せざるを得なかった。ハーバード大学など数百億ドルの基金を持つ大学も支援を受け、大企業71社が最初の3500億ドルの資金を獲得した。この構造は意図的に大企業を優遇し、最も脆弱な小企業を後回りにするものだった。
第5章 メインストリートをウォール街に売り渡す:連邦準備制度の数十年にわたる政府の最富裕層への富の移転への役割
Selling Out Main Street to Wall Street: The Federal Reserve’s Decades-Long Role in Helping Government Transfer More Wealth to the Wealthiest
FEDは本来ウォール街の金融業者が自らの利益のために作り上げた制度であり、1987年のブラックマンデー以降、市場介入を常態化させた。2020年には前例のない7兆ドルの資産を保有し、ゼロ金利政策と量的緩和により大企業の株価を人為的に押し上げた。その一方で、貯蓄者や年金受給者は低金利により収入を奪われ、小企業は金融支援を受けられなかった。この政策により「ゾンビ企業」が延命され、真の競争が阻害されると同時に、富は既に裕福な投資家に集中することとなった。
第6章 社会正義と社会的コスト:政府の経済・市民的不正義により小企業が負担した重大なコスト
Social Justice and Social Costs: How Small Businesses Bore Significant Costs Due to Government’s Economic and Civil Injustice
ジョージ・フロイド事件後の抗議活動に乗じた暴動と略奪により、小企業はさらなる打撃を受けた。ミネアポリスだけで1500以上の店舗が被害を受け、修復費用は2億ドルに達した。消防士のKBバラが開店予定だったスポーツバーが放火により全焼するなど、既にコロナ禍で苦境にあった小企業経営者の夢が破壊された。政府は財産権の保護という基本的義務を怠り、小企業は政府による閉鎖命令と市民による破壊行為の二重の打撃を受けることとなった。過去の研究では、暴動の経済的影響は10年以上継続することが示されている。
第7章 「感染拡大を遅らせるための15日間」の数百日分:権力と富の急速で歴史的な集約
A Couple Hundred Days’ Worth of “Fifteen Days to Slow the Spread”: A Rapid and Historic Consolidation of Power and Wealth
「15日間」は200日を超えて継続し、小企業の信頼感は過去最低まで落ち込んだ。一方で2020年は史上最多のIPOが記録され、大企業への資本流入は前例のない規模となった。アップルの株価は81%上昇、アマゾンは76%上昇し、テック企業7社だけで3.4兆ドルの価値を創出した。小企業の48%が年末までに破綻リスクを抱える中、NASDAQは43.6%の上昇を記録した。この格差は偶然ではなく、政府の政策により権力と富が史上最速で少数の巨大企業に集約された結果である。
第8章 最小の少数派を守る:個人の権利と資本主義が経済的自由の基盤をいかに築くか
Protecting the Smallest Minority: How Individual Rights and Capitalism Set the Foundation for Economic Freedom
アメリカ建国の基本原則である個人の権利が2020年に大規模に侵害された。真の資本主義は個人の選択と自由に基づく制度であり、財産権の保護が不可欠である。政府の役割は個人の権利を保護することに限定されるべきで、「社会の利益」という名目での権利侵害は危険な先例となる。カリフォルニア州のパインアップルヒルサルーンが映画撮影のケータリングの隣で営業禁止とされた事例のように、政府の恣意的な判断により憲法上の権利が踏みにじられた。小さな政府は無政府状態を意味せず、権利保護のための限定的な役割を果たすべきである。
第9章 アメリカ最悪の貿易協定:中央計画が失敗する運命にある理由
America’s Worst Trade Deal: Why Central Planning Is Doomed to Fail
アメリカ史上最悪の貿易協定は外国とのものではなく、個人の権利をより大きな中央集権政府と交換した国内での取引である。政府は規模の不経済に陥り、大統領職は実行不可能なほど巨大化した。連邦政府支出は2019年だけで4.4兆ドルに達し、人口増加率15%に対し支出は140%増加した。州レベルでも同様の拡大が続き、複雑性により透明性と説明責任が失われた。マキシン・ウォーターズ議員が政府が学生ローン事業を接収した事実を知らなかった例のように、政策立案者の無知が蔓延している。
第10章 資本主義のブランド力を失う:言葉の戦争がいかに個人の権利を弱め中央集権的権力を強化したか
Losing the Branding on Capitalism: How a War of Words Led to Weakened Individual Rights and Centralized Power
オバマ大統領の「あなたがそれを作ったのではない」発言以降、資本主義への攻撃が激化した。若者の間で社会主義への支持が高まる一方、資本主義の本質は自由と選択である。「不平等」という概念は感情的操作の道具として使われているが、自由社会では異なる選択が異なる結果をもたらすのは当然である。「貪欲」批判も的外れで、資本主義では競争により貪欲さが社会全体の利益に導かれる。教育分野では、アメリカは世界最高水準の支出をしながら成果は他国に劣っており、これは組合支配による中央集権化の弊害を示している。
第11章 資本主義を縁故主義と交換する:「ゲームが不正操作されている」理由が資本主義ではなく政府から来る理由
Trading Capitalism for Cronyism: Why the “Game Being Rigged” Is Coming from Government, Not Capitalism
縁故主義は政府権力の拡大とともに増大し、2019年のロビー活動費は35億ドルに達した。政府が権限を拡大するほど、企業は競争ではなく政治的影響力に投資するようになる。アマゾンのHQ2誘致合戦のように、大企業は政府から特別待遇を獲得する一方、小企業にはそのような機会はない。ドッド・フランク法は大銀行を救済する名目で制定されたが、実際には小銀行を市場から排除し競争を阻害した。最低賃金法も大企業が支持するのは、小規模競合他社を市場から排除できるからである。
第12章 立場の交換:中国とアメリカのそれぞれの資本主義への・からの転換
Trading Places: China’s and the United States’ Respective Shifts to and from Capitalism
1979年の最恵国待遇付与以降、アメリカは中国を資本主義に導こうとしたが、結果的に中国が恩恵を受ける一方でアメリカは製造業雇用を失った。中国は知的財産権を尊重せず、「山寨」(偽造品)文化が蔓延している。年間4000億ドル以上の偽造品が中国で製造され、アメリカ企業は数十億ドルの損失を被っている。トランプ政権の貿易戦争は政府による中央集権的アプローチであり、真の自由市場原則から逸脱していた。皮肉にも、中国が資本主義により近づく一方で、アメリカは中央集権化を進め、両国が「立場を交換」している状況である。
第13章 分散化対集中化:小企業への更なる中央計画攻撃を防ぐ方法
Decentralization Versus Centralization: How to Prevent Further Central Planning Attacks on Small Business
小企業を守るためには最低賃金法、ギグワーカーの雇用分類強制、過度な規制の撤廃が必要である。カリフォルニア州のAB5法は独立契約者の働き方を制限し、多くのフリーランサーが失業した。同様の規定を含むPRO法が連邦レベルで推進されている。ユニバーサルベーシックインカムは政府による雇用破壊の隠れ蓑である。規制改革、特に理髪師や美容師のライセンス要件撤廃も重要である。消費者は財布での投票により真の変化を促すことができる。最終的に、小企業と起業家精神はアメリカンドリームの象徴であり、分散化と個人の選択の自由を守ることで中央集権的支配に対抗できる。
