書籍『グレート・デバリュエーション/偉大なる切り下げ:来るべき世界通貨リセットをいかに受け入れ、準備し、利益を得るか』アダム・バラッタ

政治・思想環境危機・災害金融危機・金融崩壊・インフレ

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The great devaluation : how to embrace, prepare, and profit from the coming global monetary reset / Adam Baratta.

概要

アダム・バラッタの『The Great Devaluation』は、世界経済と金融システムの危機的状況と今後の通貨リセットについて論じた著作である。著者は連邦準備制度(FRB)による金利操作と過剰な貨幣供給が、巨大な債務バブルと格差社会を生み出したと主張する。特に注目すべきは、著者の「通貨の大幅な切り下げ」予測であり、金(ゴールド)が重要な避難先資産になると説く。

本書は2020年2月に完成し、その直後にCOVID-19危機が発生したため、著者は各章に「28日後」という追記を加えている。危機への政府・中央銀行の対応は著者の予測通りとなり、FRBのバランスシートは急激に拡大し、金価格は上昇している。

著者はエンターテイメント業界出身というユニークな視点から、過去の経済危機、特に1930年代の大恐慌と現在の状況を比較し、約90年周期の「スーパーサイクル」理論を展開する。重要な主張として、株式市場の名目上の成長は実質的な富の成長を意味せず、通貨価値の下落を考慮すると実質的には富が失われている可能性を指摘している。

解決策として著者は、金価格の意図的な引き上げ(1オンス10,000ドル程度へ)を提案している。これにより世界中の中央銀行のバランスシートが強化され、新たな通貨システムの基盤となると主張している。

目次

  1. 寄生虫(Parasite)
  2. トレーディング・プレイス(Trading Places)
  3. 少しのお金のために(For a Few Dollars More)
  4. ハッスル・アンド・フロー(Hustle and Flow)
  5. フリー・ウィリー(Free Willy)
  6. 子育て(Parenthood)
  7. ネバーエンディング・ストーリー(The Never-Ending Story)
  8. ゴールドフィンガー(Goldfinger)
  9. プロメテウス(Prometheus)
  10. 銀行家(The Banker)
  11. ライオン・キング(The Lion King)
  12. マネー・ピット(The Money Pit)
  13. 素晴らしき人生(It’s a Wonderful Life)
  14. 兆候(Signs)
  15. ブラック・スワン(Black Swan)
  16. サークル(The Circle)
  17. 感染(Contagion)
  18. ビッグ・ショート(The Big Short)
  19. メカニック(The Mechanic)
  20. ホワイト・メン・キャント・ジャンプ(White Men Can’t Jump)
  21. マトリックス(The Matrix)
  22. バック・トゥ・ザ・フューチャー パート2(Back to the Future—Part II)
  23. インクレディブル・ハルク(The Incredible Hulk)
  24. ボビー・フィッシャーを探して(Searching for Bobby Fisher)

各章の要約

第1章 寄生虫(Parasite)

2020年3月3日、FRB議長ジェローム・パウエルは緊急利下げを発表した。これを皮切りに株式市場は激しく変動し、COVID-19パンデミックが広がる中で経済危機が急速に深刻化していった。トランプ大統領は「史上最高の経済」と主張し続けたが、実際には世界経済は巨額の債務に支えられた「カード城」だった。中央銀行は流動性を提供し続け、債務危機を先延ばししていた。わずか数週間で、世界中の中央銀行は前例のない規模の金融・財政刺激策を導入。大幅な通貨価値の切り下げが始まったのである。著者は今後10年間で歴史上最大の富の移転が起こると予測している。

第2章 トレーディング・プレイス(Trading Places)

過去30年間で、トップ1%の富裕層は21兆ドルの富を得た一方、下位50%は9,000億ドルの富を失った。今日、CEOは平均的従業員の360倍の収入を得ている。この格差は単なる数字ではなく、持続不可能な数学的問題を表している。ミレニアル世代は、親世代より裕福になれない初めての世代となっている。学生ローン債務が若者の投資やキャリアの妨げとなる一方、富裕層は無制限の低金利融資を受けられる。ヘッジファンドマネージャーは年間10億ドル以上を稼ぐ一方、若者は8%の金利でローンを返済している。この不平等は社会主義的政策への支持を高め、世代間の対立を生んでいる。FRBの政策がこの格差を作り出し、システムは崩壊への道を進んでいる。

第3章 少しのお金のために(For a Few Dollars More)

米国の国家債務は23.25兆ドルに達し、毎分200万ドルのペースで増加している。年間予算赤字は1.2兆ドルを超え、GDP成長率2%では到底返済できない水準となっている。さらに未払いの債務(主に社会保障と医療保険の約束)を含めると、総債務は122兆ドルに達する。世界中の主要国がゼロ金利または負の金利政策を採用し、支出を増やしているのに、債務問題が議論されていない。通貨システムは根本的に壊れており、中央銀行の金利操作が原因である。この債務危機はすでに制御不能な段階に達しており、経済成長で解決することは不可能だ。全体像を見失い、債務の山に近すぎて正しい判断ができなくなっている。

第4章 ハッスル・アンド・フロー(Hustle and Flow)

お金は最高のリターンを求めて流れる。金利が低下すると、資金は固定リターンから借り入れに流れ、金利が上昇すると逆のことが起きる。これが健全な経済におけるビジネスサイクルだ。しかし2008年の金融危機以降、FRBは量的緩和政策を導入し、金利を人為的に低く抑え続けた。この新しいお金はどこに流れたのか?銀行はサブプライム企業に融資し、大企業はこのほぼ無料の資金を使って自社株買いを行った。CEOたちは株価を上げて自身の報酬を増やした。企業のバイバックは過去10年間の株式市場リターンの50%以上を占めている。この仕組みは、銀行や企業の経営陣を潤わせる一方、経済全体の投資と成長を阻害している。2008年の住宅危機を引き起こした有毒な貸付と同じパターンが、今度は企業債務市場で繰り返されており、サブプライム企業債務市場は住宅サブプライム市場の5倍の規模に膨れ上がっている。

第5章 フリー・ウィリー(Free Willy)

無料のお金は投資家の行動を完全に変えた。かつてはバランスのとれたポートフォリオが理にかかなったが、今や「何も意味のある配当を支払わないため、すべては成長に関するものである」という考え方に変わった。債券市場は株式市場よりもさらに大きなバブルとなっている。米国債は「安全資産」と見なされてきたが、現在の利回りで投資家が豊かになるのは不可能だ。10年物国債の利回りは1.5%で、投資額が倍になるには48年かかる。一方、1980年代の平均利回り7%では投資額が倍になるのに10年しかかからなかった。市場評価の主要指標は危険信号を発している。ウォーレン・バフェットの時価総額対GDP比率は156%に達し、歴史上最も過大評価されている。シラーのCAPE PEレシオも32倍と危険水域にある。投資家はTINA(There Is No Alternative:他に選択肢がない)シンドロームに陥り、高リスク資産を保有することを強いられている。

第6章 子育て(Parenthood)

連邦準備制度とアメリカ経済の関係は、親と子供の関係に似ている。iPadに依存した3歳児が、取り上げられると激しく泣き叫ぶように、金融市場も「簡単なお金」という麻薬に中毒になっている。バーナンキ議長が2013年に量的緩和の縮小を示唆すると、市場は「テーパータントラム」を起こした。イエレン議長は市場に甘く、パウエル議長は当初厳格だったが、2018年末の株価急落後、彼も降参し、利下げを始めた。FRBのバランスシート拡大と株式市場の上昇には驚くべき相関関係がある。2008年以降、FRBのバランスシートは4.4倍に拡大し、ダウ平均も同じく4.4倍上昇した。FRBがバランスシートを19%縮小した時、株式市場も19%下落した。問題は、次の景気後退時に使える政策手段がないことだ。通常、FRBは景気後退時に金利を5%引き下げるが、現在の金利は1.5%しかない。次の景気後退時には、10〜18兆ドルの追加量的緩和が必要になるだろう。

第7章 ネバーエンディング・ストーリー(The Never-Ending Story)

世界経済は負債という悪魔との取引を結んだ。短期的な痛みを回避するために容易な道を選び、下り坂を走り続けてきたが、最後の1マイルは不可能な課題となっている。経済が成長すれば成長するほど、債務の利息支出は増加し、より急な上り坂を登らなければならない。米国財政予算責任委員会によると、2029年までに利息支出だけで9,280億ドルに達すると予測されている。ドルが他の通貨に対して強すぎるため、資本が米国債に殺到している。イールドカーブの逆転は差し迫った景気後退の兆候である。著者は「2つの木の物語」を通じて、国の成長(良い木)と債務(悪い木)の関係を説明する。米国の成長の木は過去20年で2倍になったが、債務の木は7倍に成長した。2025年までに、債務の木は成長の木を大きく上回り、窒息させることになる。歴史上のすべての偉大な国家は、債務の木が成長の木を上回った時に衰退した。

第8章 ゴールドフィンガー(Goldfinger)

金は多くの人に「終末、保険、崩壊、恐怖」と関連付けられているが、これは普遍的な誤解だ。過去20年間、ダウ平均は2.5倍になったが、金は6倍に上昇した。「世界の終わり」が来ていないにもかかわらず、金は株式市場を大きく上回っている。90年前、20ドル紙幣と1オンスの金は交換可能だった。今日、1オンスの金(1560ドル)は高級スーツを購入できるが、20ドル紙幣ではポケットチーフさえ買えない。金は真のお金の形態であり、ドルは希薄化された通貨だ。金の価値を理解する最も簡単な方法は、それをドルの将来価値に対する投票と見なすことだ。ドルの価値が上がると予想するなら金を買わないほうがよいが、ドルの価値が下がると予想するなら金は最良の所有物かもしれない。「黄金律」は「金を持つ者がルールを作る」というものだ。1944年のブレトンウッズ協定は米ドルを世界準備通貨として確立したが、1971年にニクソンは金本位制を廃止した。それ以来、ドルは「アメリカ合衆国の完全な信頼と信用」によってのみ支えられている。

第9章 プロメテウス(Prometheus)

連邦準備制度は100年以上前に、J.P.モルガンやジョン・D・ロックフェラーなど少数の富裕層の利益を守るために創設された。1910年11月、ジキル島で秘密の会合が開かれ、米国の銀行システムを再構築するための計画が立てられた。この計画は、政府の監督から独立した民間銀行家によって支配される中央機関の創設を求めるもので、1913年に連邦準備法として承認された。この法律は、連邦準備銀行が発行する通貨の40%に相当する金準備を保有することを義務付けた。J.P.モルガンは「真の唯一のお金は金である」と主張し、新しい通貨が金に裏付けられることを確実にした。モルガンの目標は、政治家や政府の手に負えない、完全に独立した中央銀行を作ることだった。FRBの独立性は、その創設者が最も重要視した要素だった。今日、FRBは金が現代の通貨制度で重要な役割を果たさないと主張しているが、世界中の主要な中央銀行は依然として金を持ち、積極的に購入している。

第10章 銀行家(The Banker)

第一次世界大戦が勃発したとき、中央銀行としてのFRBは初めての危機に直面した。アメリカは当初は中立を保っていたが、モルガン銀行は連合国側に大規模な融資を行った。1915年5月、ドイツの潜水艦による「ルシタニア号」撃沈事件で多くのアメリカ人が死亡したことで、アメリカの感情は連合国側に傾いた。ある説によれば、銀行家たちは連合国への融資を保護するためにウィルソン大統領に戦争参加を促したという。アメリカが正式に参戦した後、連合国への貸付金は米国債の購入という形で返済された。しかし、モルガンへの過剰融資はまだ4億ドル不足していた。FRB初代議長のベンジャミン・ストロングは「マンドレイク法」という解決策を提案し、債券を購入して通貨を創出した。第一次世界大戦の終結後、アメリカは世界最大の債権国となり、ヨーロッパの超大国が枯渇する中、金保有量を大幅に増やした。モルガン銀行は最大の受益者となり、FRBを支配する銀行家たちは世界史上最も強力な個人グループとなった。今日でも、FRBは同じ手法で通貨を創出している。過去10年間でバランスシートを5倍以上に拡大し、8000億ドルから4.1兆ドルに増やした。

第11章 ライオン・キング(The Lion King)

第一次世界大戦後のアメリカは、若いライオンが自分の無敵の強さと王としての地位を初めて自覚したようなもので、「我こそが我が運命の支配者なり」という意識を持っていた。ヨーロッパが荒廃する中、アメリカは繁栄し、ニューヨークは国際金融の新しい中心地となった。モルガン銀行は勝者連合国に融資したことで大きな富を得た。自動車、電気、電話など新技術の普及により、中産階級の消費が拡大した。「今買って、後で払う」が新しい信条となり、分割払いが一般的になった。企業は連邦準備制度が可能にした安い金利で借り入れ、株式を買い戻した。ウォール街への資金流入が増え、株式市場は1920年代に4倍に膨らんだ。しかし、この繁栄は全米で平等に共有されたわけではなく、富の格差は拡大した。1929年10月24日「暗黒の木曜日」、株式市場は崩壊し始めた。レバレッジの自己複製ループが流動性危機を引き起こし、売りが売りを呼んだ。1929年の市場崩壊は大恐慌の引き金となり、1933年までに国内銀行の半数近くが破綻し、1,500万人のアメリカ人が失業した。金融緩和政策の暗い側面は、富の不平等を加速させることだ。恐慌の苦しみは集団的意識の変化をもたらし、FRBは最も重要な資産である独立性を失った。

第12章 マネー・ピット(The Money Pit)

1929年の崩壊に対するFRBの対応は、現代の中央銀行家から批判されている。FRBの初代議長ベンジャミン・ストロングは1928年に死去し、リーダーシップが欠如していた。FRBは「最後の貸し手」としての機能を果たすことができず、1933年までに5,000以上の銀行が破綻した。当時のFRBは弱小銀行の淘汰は必要なことだと考えていた。危機の核心は、ドルと金の価値の乖離だった。FRBの規則では、ドルは金と同等に維持されることが義務付けられていたが、1920年代の信用拡大により、金の供給量に見合わない膨大な通貨が供給されていた。ドルの価値が下がると、より多くの預金者が現金を金に交換し始めたが、銀行は需要に応えられず、次々と倒産した。通貨の品質低下は富を市民から奪う。グレシャムの法則によれば、「悪貨は良貨を駆逐する」。純度の低い硬貨が流通すると、人々は純度の高い硬貨を退蔵し、税金の支払いには悪貨を使う。1930年代初頭、預金者はドルを金に交換し、金を退蔵した。これにより経済における通貨流通が止まり、不況が深刻化した。

第13章 素晴らしき人生(It’s a Wonderful Life)

大恐慌を背景に、1932年にフランクリン・D・ルーズベルトが圧倒的勝利を収めた。彼の「ニューディール」は財政改革、公共事業、規制を通じて大恐慌の解決を約束した。就任直後の1933年3月、ルーズベルトは全国銀行休業を宣言し、緊急銀行法を可決させた。これにより連邦準備制度は再開銀行に無制限の通貨を発行し、すべての預金に100%の保険を付けることになった。ラジオ放送を通じて国民に直接語りかける「炉辺談話」で、ルーズベルトは政策を説明し、噂を鎮静化させた。銀行が再開すると、預金者は引き出した現金の半分以上を再預金し、株式市場は一日で15%上昇した。しかし、金の退蔵問題は続いていた。1ヵ月後、大統領令6102号により、民間市民による金の所有が違法化された。これにより、連邦準備制度は自己防衛に努め、お金の供給を増やすことができるようになったが、その代償としてFRBは独立性を失うことになった。ペコラ委員会の調査結果が、ウォール街の銀行家とFRBに対する感情を悪化させた。グラス・スティーガル法案は商業銀行と投資銀行を分離し、預金銀行が証券売買を行うことを禁止した。1934年の金準備法は金の価格を20ドルから35ドルに引き上げ、世界通貨の一斉切り下げをもたらした。この法律により、米国は世界の金供給量の4分の3を保有することになった。大恐慌の影響は、FRBのイメージに大きなダメージを与え、1933年の緊急銀行法の可決によりFRBは議会に接収された。

第14章 兆候(Signs)

著者は、現在の経済状況が90年前の大恐慌前夜と酷似していると主張する。以下の5つの警告サインを指摘している:

  1. 富の格差:2020年、上位0.1%が米国の富の25%を所有し、上位1%が50%を所有している状況は、1929年と同様である。
  2. ポピュリズム:繁栄と安定は民主主義の前提条件だが、富が不平等に分配されると資本主義システムが危険にさらされる。1920年代と同様に、今日の世界でもポピュリズム運動が拡大している。
  3. 関税:ポピュリスト指導者はしばしば関税政策に頼る。フーバー大統領は1930年にスムート・ホーリー関税法に署名し、125,000以上の輸入品に関税を課した。同様に、トランプ大統領も中国やヨーロッパからの消費財に関税を課している。
  4. 資産バブル:中央銀行が金利を引き下げると、商品や有形資産の価格が金融資産のために下落する。1920年代と同様に、過去10年間の株式市場は4倍に膨らんでいる。
  5. ウォーレン・バフェット指標:市場時価総額対GDP比率は、市場が過大評価されているか判断する指標である。この比率は1929年の崩壊前に141%、ドットコムバブル崩壊前に151%に達したが、2020年1月には154%と史上最高を記録した。

これらの兆候は、サイクルの転換点が近づいていることを示している。著者は2020年代が1930年代の大恐慌と同様に感じられ、人類史上最大の富の移転をもたらすと予測している。

第15章 ブラック・スワン(Black Swan)

ブラック・スワンとは、人類の視点を根本的に変えるほど予想外で壊滅的な出来事を指す。これらの事象は予測不可能に見えるが、振り返ってみれば準備不足だった人々にのみ壊滅的だ。1929年の株式市場崩壊、2000年のドットコム崩壊、2008年の住宅崩壊はすべて、連邦準備制度の緩和通貨政策によって引き起こされた債務バブルだった。再び同じバブルが膨らみ、今度はシステム全体の再構築が必要なほどの力で膨らんでいる。著者はコロナウイルス危機が世界史上の重大な転換点となり、将来の世代が今日の大恐慌を見るのと同じように見られると信じている。

プラトンの「洞窟の寓話」は、人間の認識の限界を説明している。洞窟に縛られた囚人たちは影しか見えないが、一人が解放されて外の世界を見ると、彼の視点が永遠に変わる。同様に、一度経済システムの真実を見ると、二度と古い見方には戻れない。バブルが崩壊する前に認識して準備する人々は大きな富を築くことができる。ウォーレン・バフェットは1999年にテクノロジー株バブルを予見し、今日も同様に過大評価された市場から距離を置いている。

第16章 サークル(The Circle)

投資理論は振り子の概念に基づいている。資産は過小評価から適正価値、過大評価へと振れ、また元に戻る。しかし現代経済理論は機能しなくなり、ビジネスサイクルも壊れている。中央銀行は金利を操作して経済を活性化させようとするが、これはサイクルを歪める。

エトルリア人は90年周期の「サエクルム」という概念で歴史を理解していた。この周期では、約90年ごとに人類は同じ過ちを繰り返し、危機に陥る。これは4つの世代(約22年ごと)から成り、4番目の転換点が危機をもたらす。アメリカ史の大戦争—1776年の独立戦争、1864年の南北戦争、1945年の第二次世界大戦—はこの90年周期に沿っている。

各スーパーサイクル内には2つの重要な転換点がある。最初は周期の始まりに「ターニング」、2つ目は45年後に「覚醒」と呼ばれる。これらは社会的マインドセットを変え、旧世代と新世代の対立が危機を生む。1930年代の危機は集団的マインドセットを個人から集団へと変え、1970年代の危機は逆方向に振れた。今日、個人主義と富の格差は極限に達し、振り子が再び反対方向に向かう時だ。ミレニアル世代は社会主義的政策を支持し、次の10年間で経済政策は財政政策へとシフトする。これはスーパーサイクルの不可避的な現実であり、常に時を刻む時計のようなものだ。

第17章 感染(Contagion)

人間の条件に深く組み込まれた欠陥があり、それが人類に同じ過ちを繰り返させる。この盲点は「漸近線」という数学的曲線で説明できる。漸近線は指数関数的成長の結果であり、曲線がある点で無限大に向かって急上昇する。人間の脳は指数関数的成長を認識するのが苦手であり、これが危機の根本原因となる。

指数関数的成長の理解しにくさを示す例として、「1セントを毎日2倍にすると1ヶ月後にいくらになるか」という問題がある。多くの人は約500ドルと予想するが、実際には数百万ドルになる。別の例

別の例として、11時にグラスに1つの細菌を入れ、1分ごとに倍増して真夜中にグラスが満杯になるとしたら、グラスが半分になるのは何時か?多くの人は11時30分と答えるが、正解は11時59分、真夜中の1分前である。人間の脳は見えない脅威の指数関数的成長を認識できず、危機が顕在化する直前まで問題に気づかない。これが黒鳥現象が予想外に見える理由だ。米国の国家債務も同様の指数関数的成長を示しており、トランプはオバマの債務を倍増させ、オバマはブッシュの債務を倍増させ、ブッシュはクリントンの債務を倍増させた。国家債務は既に漸近線に達しており、将来が過去と同様であると期待する人間の思考の限界が、この破滅的な軌道を認識できない原因となっている。

第18章 ビッグ・ショート(The Big Short)

危機とはギリシャ語の「krisis」に由来し、「決断する」という意味だ。中央銀行はもう引き返せないほど遠くまで泳いでしまった。唯一の選択肢は前進し続けることだ。パウエルFRB議長は2012年に「なぜ4兆ドルで止めるのか?市場は常により多くを求める」と懸念を表明した。彼が議長になった後、金利を正常化しようとしたが、わずかな利上げで市場は崩壊しかけた。今やFRBは金利を上げることなく市場崩壊を防ぐことができない。

著者は危機に対する3つの可能なシナリオを提示する:

  1. 左回り:次の景気後退に直面して、FRBは金利を0%から負の領域に引き下げ、量的緩和プログラムを大幅に拡大するだろう。バランスシートは20兆ドルに達する可能性がある。
  2. 右回り:政府が大規模な財政刺激策を導入する。現在は極端に見える社会主義的政策が、危機時には必要な解決策となる。民主党も共和党も健全な通貨政策を支持する政治家はいない。ドイツさえも財政緊縮から離れ始めている。
  3. ブロックを飛び越える:一度に通貨の大幅な切り下げが起こる。1933年にFDRが行い、1971年にニクソンが行ったように、次の債務危機でもドルは大幅に切り下げられる可能性がある。トランプ大統領は「無料のお金」を求め、負の金利に向けて動いている。次の危機で、米国政府債務を連邦準備制度に売却し、金利をゼロ以下に引き下げることで、日本と同様に債務を消去する道を選ぶかもしれない。

大規模な通貨切り下げが迫っており、投資家はドルの下落に備えて金などの資産に投資すべきだ。

第19章 メカニック(The Mechanic)

著者は現在の世界通貨システムを、最後の段階にある古い自動車のエンジンに例える。ブレトンウッズ体制が創設された1944年、その経済エンジンは新品で最高のパフォーマンスを発揮した。1971年、ニクソンは金ウィンドウを閉鎖し、通貨をファイアット(法定)通貨に変え、経済エンジンを「スーパーチャージ」した。これにより債務がエンジンオイルのような役割を果たし、パフォーマンスを向上させた。

1987年のブラックマンデーでシステムが崩壊すると、グリーンスパンFRB議長は金利を引き下げるという「新しいオイル」を注入した。その後、経済が減速するたびに、FRB議長たちは金利を引き下げ、信用を拡大し続けた。2006年にバーナンキが議長に就任した時点で、米国の国家債務は8兆ドルに達していた。従来のオイル(金利引き下げ)では不十分となり、バーナンキは量的緩和という「新しいトランスミッション液」を導入した。

パウエルはシステムが修復されたと考え、2018年に金利を引き上げようとしたが、市場は崩壊し始めた。その後、パウエルはレポ市場操作などを含む新たな流動性注入を行った。コロナウイルス危機が起きると、FRBは過去最大の対応を実施し、ゼロ金利、2.6兆ドルの量的緩和、スワップライン、ジャンク債購入など、あらゆる手段を投入した。しかし、実体経済は打撃を受け、3,300万人が失業した。一方で株式市場は上昇し、実体経済との乖離を示した。マネーマシンは加速し続け、国家債務は25兆ドルを超え、2021年末までに30兆ドルに達する見込みだ。著者は、より多くの流動性が必要になるにつれて金価格が上昇し続けると予測している。

第20章 ホワイト・メン・キャント・ジャンプ(White Men Can’t Jump)

著者は投資家に3つの質問をする:①勝ちたいか?②いつまでに勝ちたいか?③どうやって勝っていることがわかるか?最後の質問が最も難しい。「勝つときに負け、負けるときに勝ち、引き分けるときに実際は勝ったり負けたりする」というロージー・ペレスの映画の台詞は、今後の通貨大幅切り下げを理解する上で重要だ。

名目ベースでは、株式市場は常に長期的に上昇するように見える。1929年以降、ダウ平均は69倍に上昇した。しかしインフレ調整後の実質ベースでは、わずか4.6倍、年率1.7%の上昇に過ぎない。さらに衝撃的なのは、1929年から1989年までの60年間、実質ベースのダウ平均は変わらなかった。同様に、大恐慌中(1932-1942年)にダウ平均は名目で2倍になったが、ドル切り下げにより実質では10%下落した。

1964年から1982年の高インフレ期、名目のダウ平均は18年間横ばいだったが、インフレ調整後は70%下落した。ドルの価値が下がったため、株式投資家は富の70%を失った。著者は今後10年間でドルが60%切り下げられ、ダウ平均は名目で50,000ポイントに達する可能性があると予測する。しかし実質ベースでは、10万ドルの投資が2030年には8万ドルの購買力しか持たない可能性がある。金利が長期的に上昇すると金融資産には悪いが金には良く、金利が下がると逆になる。今後45年間で通貨は大幅に切り下げられ、金利は上昇するため、長期投資家は金融資産から金にシフトすべきだ。

第21章 マトリックス(The Matrix)

集合的マインドは自然界で最も強力な力であり、投資の波を決定する。投資戦略は長年、株式と債券のポートフォリオを所有することだった。しかし、もし株式と債券が完全に間違った投資方法だとわかったら?著者は金が強気の資産であり、投資家は成長戦略として金に移行すべきだと主張する。2018年8月以降、金はダウ平均を大きく上回り、45%上昇している一方、ダウ平均は5%下落している。

投資マインドセットの変化は世代を超えて起こる。支持を集め、勢いを増し、最終的に普遍的真理として受け入れられるまでに何年もかかる。コモディティと株式の比率は歴史的に極端な水準にあり、過去の同様の状況では、金がドルの価値をリセットするのに使われた。

連邦予算局は2020年の財政赤字が4兆ドルに達すると予測し、国家債務は5年以内に50兆ドルに達する可能性がある。これはFRBのバランスシートが20兆ドルに達することを不可避にする。著者はコロナウイルスを予測したわけではなく、危機への対応を予測した。お金を刷るマシンがフル稼働し、通貨大幅切り下げが始まっている。

コロナウイルス危機で、株式市場は実体経済との乖離を示している。3,000万人が失業する中、株式は30%上昇した。FRBの魔法の杖は今や誰の目にも明らかで、無条件にFRBに従う投資家は「パブロフの犬」的反応を示している。しかし、FRBは積極的にドルを弱めようとしており、これは金保有者にとって朗報だ。弱いドルは世界経済にとって良いことだ。著者は、FRBが勝利し、ドルが切り下げられ、金が急騰すると信じている。

第22章 バック・トゥ・ザ・フューチャー・パート2(Back to the Future—Part II)

我々は歴史から学ぼうとしている。バーナンキFRB議長は大恐慌の専門家として2006年に選ばれた。彼はFRBが過去の過ちから学び、同じ過ちを繰り返さないと述べた。しかし著者は彼が間違っていると考える。

メカニズムは異なるものの、問題は同じだ。今日、我々はさらに大きな債務バブルの中にいる。ポピュリズムと富の不平等が極限に達している。中央銀行は痛みを避け、必要な苦痛を回避するために全力を尽くしている。しかし、ドルを切り下げると別の種類の不況が起きる。これは通貨の切り下げによる不況だ。連邦準備制度は「学習」し、ますます多くのお金を印刷するだろう。これが唯一の解決策だ。時間の経過とともにこれは続き、増加し、通貨は切り下げられる。「FRBと戦うな」は依然として最良の戦略だが、今やFRBはドルの切り下げを望んでおり、その望みは叶えられるだろう。

物理学のニュートンの第三法則によれば、すべての作用には等しく反対の反作用がある。中央銀行の行動は、お金の流れという反応をもたらした。数十年にわたり、この資金は株式市場と債券市場に向けられてきた。FRBの政策は、莫大なリスクを取った銀行家を継続的に救済してきた。これが紙市場の急上昇と最終的に崩壊する資産バブルをもたらした。崩壊すると、FRBは銀行を救済し、一般の人々が苦しむ。すべてが富の格差の拡大につながった。新しいマインドセットの変化が起きている。

金を購入する人にとって、これは朗報だ。流動性がシステムに注入されると、金融資産は浮上し続ける。著者は今後10年間でダウ平均が40,000ポイントに上昇すると予想している。「株式が崩壊するから金を買え」ではなく、「株式が崩壊しないから金を買え」というのが新しい集団的マインドセットを理解する鍵だ。

第23章 インクレディブル・ハルク(The Incredible Hulk)

金は「反ドル」だ。1世紀以上にわたり、連邦準備制度は紙幣を真のお金の形態として宣伝してきた。FRBによれば、金は古代の遺物であり、現在の通貨システムでは役割がない。しかしFRBの存在最初の58年間、金はドルの制約であり続けた。過去40年間、FRBは金に対するキャンペーンで勝利を収めてきた。この間、富の格差は爆発的に拡大した。

1980年、投資可能資産の8%が金または金担保証券に投資されていた。今日、その割合はわずか0.25%だ。一方、FRBのバランスシートは1300億ドルから4.1兆ドルに32倍拡大した。金に対する需要とドルに対する需要の変化は正確に相関している。公式にはFRBは金に役割がないと主張するが、世界中のすべての主要中央銀行が金を保有し、積極的に準備金を増やしている。「黄金律」は依然として関連性がある:「金を持つ者がルールを作る」。

解決策は何か?著者は革命的な提案をする:FRBが金の市場価格を操作し、1オンス10,000ドルに引き上げるのはどうか?FRBは開かれた市場操作を通じてこれを簡単に達成できる。世界中のすべての国が金価格の上昇から利益を得る。すべての中央銀行のバランスシートは同じ問題を抱えており、金は価値のある唯一の資産だ。

10,000ドルの金価格は、世界中のすべての中央銀行のバランスシートを7倍強化するが、FRBのバランスシートは238倍強化される。これにより、米ドルは今後50年間、世界の取引通貨として続けることができる。これは「新しい金本位制」ではなく、中央銀行は金の購入と売却を含む開かれた市場操作を通じて金利と通貨供給を操作できる。金価格の引き上げは1933年に大統領令によって達成され、その後株式市場は3年で3倍になった。1971年、ニクソンは同様の行動を取り、米ドルをフィアット通貨にした。今日、FRBを攻撃し、政治的抵抗に関係なく金融政策を引き継ぐ意思のある大統領がいるかもしれない—ドナルド・トランプやジョー・バイデンだ。

第24章 ボビー・フィッシャーを探して(Searching for Bobby Fisher)

著者は2019年8月14日の年次ゴールドサミットで「グレート・デバルエーション」と題したプレゼンテーションを行った。そこで彼は、来るべき通貨リセットを「マスターに対してチェスをプレイし、ミスを犯す—チェックメイトまであと数手」に例えた。このプレゼンテーションは、本書が基づいている90分のプレゼンテーションである。

コロナウイルス危機は、世界的な債務の蔓延と相まって社会的マインドセットを変化させる予測不可能なパンデミックである。予期せぬ危機ではあったが、まさに時宜を得たものだった。


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