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SIBO(小腸内細菌増殖症)情報/腸内の健康
概要
SIBOとは
SIBO(シーボ)とは、Small Intestinal Bacterial Overgrowthの頭文字をとったもので、日本語で小腸内細菌増殖症と呼ぶ。本来は大腸に存在する腸内細菌が過剰に小腸で繁殖してしまうことで生じる病気と定義される。
悪玉菌か善玉菌かは関係なく、いなくて良い場所に腸内細菌が多く住んでしまうことによって生じる病気。
SIBOという概念は30年ほど前から欧米で提唱されていたが、小腸は内視鏡が入りにくい場所でもあり、研究はなかなか進まなかった。
近年になって小腸細菌のサンプル採取が可能になったことから研究が進み、IBSや不定愁訴との関連とも相まって日本でも話題となってきている。
潜在的には多くの人々、特に高齢者とSIBOが関連している可能性があり、予備的証拠ではあるもののアルツハイマー病患者、パーキンソン病患者でも高いSIBO有病率を示し、それぞれの疾患との関連を疑うことができる理由が存在する。
SIBOの症状
症状
- 下痢や便秘
- 腹部満腹感、鼓腸
- ブレインフォグ
- 意図しない体重減少
SIBOの合併症
- ビタミンの吸収障害(脂溶性ビタミン、ビタミンB12、鉄)
- ビタミン過剰(葉酸)
- 低タンパク血漿、低アルブミン血症
- キシロース吸収の減少
- 脂肪吸収不良
- 免疫システムの異常
- 骨粗鬆症
SIBOでは胆汁の働きが悪くなるため、脂肪が吸収できず、脂溶性のビタミン吸収が上手くゆかずビタミン欠乏を起こすことがある。
またアミノ酸、タンパク質の吸収も低下するため、その結果セロトニンが作られなくなることで、うつや不眠につながることもある。
SIBOの患者数・疾患との関連
高齢者の高い有病率
一般健常者のSIBOの有病率を特定する大規模な研究はまだない。高齢者ではより多くのSIBO患者が存在する可能性がある。
294名のドイツの健康な一般被験者を対象とした研究では非高齢者で5.9%、高齢者では15.6%の有病率であった。[R]
日本の少数の健康高齢者でのグルコース呼気を用いた検査では、SIBO患者は見つからなかった。[R]
身体障害のある高齢者
身体障害のある高齢者では33%がSIBOを患っていることが見出された。[R]
消化器疾患
セリアック病患者
細菌の異常増殖する小腸では(生検で)セリアック病を模倣することがあるため、診断がむずかしくなる。
セリアック病患者の66%がSIBOを示した。[R]
IBSとの関連
IBS患者の4~78%でSIBOが見出され有意な関連が疑われている。一部の研究では水素呼気検査によりIBS患者の80%がSIBOであることが示されている。
高齢者、女性ではより高い有病率であると考えられている。[R]
SIBO治療後にIBS症状が有意に減少を示した。[R]
アルコール
アルコール中毒患者の90%で下痢、吐き気、腹痛などが見られた。十二指腸生検では対照の2.6倍多い異常増殖が観察された。[R]
SIBOの診断・種類
診断方法は確立されておらず、一般の病院ではまだ認知そのものがなされていない。過敏性腸症候群など他の疾患と誤診されることも多い。
臨床症状に加えグルコースまたはラクツロース負荷試験後の水素およびメタン呼気試験がもっとも一般的に使用されている。(理想的には空腸内溶液の細菌学的検査)
ラクツロースを摂取した後に、呼気に含まれる水素とメタンの量を分析する。
呼気検査自体の手順は簡単だが、解釈がむずかしい。感度は52%、特異度は86%
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3155069/
呼気検査の現在の合意文書 呼気検査準備[R]
下痢型 SIBO
下痢型は、炭水化物などの摂取により多情な水素が発生する。小腸は水素ガスに敏感なため、水素ガスによってお腹が張ったり下痢になる。痩せ型に多い。
便秘型 SIBO
便秘型は、小腸の中では古細菌によってメタンガスが発生している。炭水化物、食物繊維の摂取によって発生した水素を古細菌が消費することでメタンが発生する。肥満型の体型に多い。
硫化水素SIBO(hydrogen sulfide SIBO)
一般的なSIBO呼気検査では見逃されるタイプのSIBO。IBS疾患とSIBOが複雑に絡み合うことで生じており、IBS検査で陽性だがSIBO検査では陰性である場合にその可能性がある。硫化水素をチェックすると陽性となるが、呼気検査では硫化水素は測定できない。
硫化水素は、水素を硫化水素に代謝させる特殊なバクテリアによって産生される。
少量であれば抗炎症性作用もあるが過剰に増加することによって問題を引き起こす。
硫化水素SIBOの症状
げっぷと鼓腸。往々にして腐った卵の匂いがするが必ずというわけではない。
吐き気は一般的。SIBOと診断されれば硫化水素SIBOは除外される。[R]
硫化水素SIBOの治療
硫化水素SIBOは、一般的なSIBOの治療法とは大きく異なることがある。
より多くの炭水化物、少ない脂肪、高FODMAP食が硫化水素SIBOの改善につながるかもしれない。
硫黄を避ける低硫黄食が効果的であるかもしれない。赤みの肉、卵、アブラナ科の野菜、ケール、玉ねぎなどを避ける。
食事療法は、SIBOを含め腸内細菌叢は非常に複雑にバランスを取り合っており、実際に身体がどのように反応する症状を見ながら調節していくしかないようだ。
水素を産生する腸内細菌を殺せば、硫化水素を産生する腸内細菌への栄養を断つため理論的にはリファンキシミンが治療として有効である可能性がある。
亜鉛、ビスマス、オレガノ油を4~6週間
エクオール産生菌はメタンと硫化水素の両方を減らすのに役立つため、一部のヒトでは大豆イソフラボンが有効。
SIFO(小腸真菌増殖症)
Small Intestine Fungal Overgrowth (SIFO)の略
SIFOとは、小腸でカンジダ菌などの真菌が異常増殖し、腹痛や満腹感、吐き気、下痢、ガスなどSIBOと同じ症状を示す。
運動障害、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸を抑える薬を服用する人でもっとも多く研究されているが、腸内細菌叢のバランスを乱す要因はすべからくSIFOにつながる可能性がある。
原因不明の消化器症状を示す患者の4人に一人がSIFOを有していた。[R]
SIFOの一般的症状
- ガス
- げっぷ
- 膨満感
- 下痢
- 吐き気
- 消化不良
- 肛門のかゆみ
- 舌の上に白いコケのような膜(カンジダ菌)で覆われている
SIFOリスクの要因
- 胃不全麻痺などの運動障害
- セリアック病、子宮内膜症、放射線療法など、運動障害を引き起こす可能性があるその他の障害
- 甲状腺機能低下症や橋本病などの甲状腺疾患
- プロトンポンプ阻害薬(PPI)のような胃酸分泌抑制断薬の長期使用
- 低塩酸症または少ない胃酸
- 抗生物質の頻繁な使用、または乱用
- 避妊薬のようなホルモン補充
- 慢性的ストレス
- 水銀を含む環境毒素、カビまたはマイコトキシンへの暴露
- プレドニゾンまたは免疫抑制薬の長期使用
- 自己免疫疾患、糖尿病、食物過敏症、アルコール依存症、妊娠、慢性的な衰弱性疾患を含む、免疫系のリスクがある人
- 結腸摘出術
運動障害、PPI [R]
神経変性疾患との関連
パーキンソン病
パーキンソン病患者の高いSIBO有病率
パーキンソン病患者(54.17%)の健常者(8.33%)より有意に高いSIBO罹患率
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21520278
パーキンソン病患者の25.3%がSIBO陽性(ラクツロース – 水素呼気検査)
SIBO治療による運動症状の改善
SIBOの治療として一般的に用いられる抗生物質リファンキシミン投与は、パーキンソン病患者の胃腸症状を改善するだけではなく、運動症状をも改善した。[R]
アルツハイマー病
アルツハイマー病における小腸内細菌の異常増殖
Kowalski K, Jasinska M, Mulak A. Small intestinal bacterial overgrowth in Alzheimer’s disease – a pilot study. [abstract book] Archives of International Society of Microbiota. 2017;4:91.
SIBOのリスク要因
SIBOが生じる要因、背景は複雑であり多因子的だが、大きく2つのメカニズムが作用すると考えられている。
蠕動運動の低下
腸内の内容物の通過速度が早すぎても遅すぎても起こりうる。
またこの通過障害には、腸管に狭窄がある場合、蠕動運動の障害がある場合、消化管の手術などによって一方の端が閉じている管(盲端(もうかん))がある場合にも生じる。
胃酸低下
胃酸は菌の増殖を抑えるため、胃から十二指腸・空腸はもともと菌がそれほど多くない。
そのため胃酸を抑制する薬の摂取などで胃酸分泌に異常を起こすと小腸細菌の過剰増殖を招きうる。
食生活・ライフスタイル
- アルコールの大量消費
- 単純炭水化物摂取
- 炭水化物の消化不良、食べ過ぎ
- 間食をする生活習慣
- 大きなストレス
医薬
- 抗生物質の乱用
- プロトンポンプ阻害薬の長期投与
- ヒスタミン2型受容体阻害薬
- 制酸薬による胃酸低下
- 避妊薬
疾患
- 膵炎
- 腎不全
- 肝疾患
- 胆のう除去手術
- リーキーガット
- セリアック病
- 糖尿病
- 低酸炎症
- 栄養失調
- 急性胃腸炎
- 大腸のバウヒン弁障害
- 免疫力の低下
- 重金属の蓄積
- 過敏性腸症候群
- Iga欠乏症
- 低ガンマグロブリン血症
解剖学的要因
- 小腸憩室
- 小腸狭窄
- 胃切除
- 回盲弁の切除
- 外科的に作られたブラインドループ
SIBO治療
抗生物質と食事療法
抗生物質を一次治療として用いるべきかどうかについては議論があるが、医療施設でのSIBO治療には抗生物質と食事療法(低FODMAP)を用いられることが多い。
プロバイオティクス
一部の専門家では、一次治療にプロバイオティクスを投与し、SIBOが重症化した場合に抗生物質を用いることを推奨している。
通常一週間の抗生物質投与で治療効果を得られるが、投与しても再発することも多く、耐性を防ぐために周期的に間隔をあけて投与されることがある。(一週間投与、3週間オフの繰り返し)
蠕動運動の障害が疑われる場合は、蠕動運動を促進する薬が処方される。
ダイエット
- 低FODMAP食
- 小麦制限
- レクチンフリーダイエット
- 断食
2週間の低FODMAP食は効果的なSIBOの治療方法[R]
link.springer.com/article/10.1007%2Fs11894-015-0482-9
避けるべき食品 高FODMAP食
フルクトース
果糖、果汁、ハチミツ、コーンシロップ、メープルシロップ、加工糖
ラクトース
乳製品、乳糖を含む食品、ヨーグルト
フルクタン
小麦、ニンニク、タマネギ、アスパラガス、ニラ、ブロッコリー、キャベツ、アーティチョーク
ガラクタン
レンズ豆、ひよこ豆
ポリオール
ソルビトール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、キシリトール(マッシュルーム、カリフラワー、果物)
エリスリトール
無糖ガム、医薬品などに含まれる甘味料
プロバイオティクスの混合成分
ペクチン、イヌリン、タピオカ澱粉、大豆、乳糖、マルトデキストリン
低FODMAP甘味料
フルクトースとグルコースは1対1のペアだと、より小腸で容易に吸収されやすくなる。
てんさい糖、黒砂糖、サトウキビ糖、ココナッツシュガー(少量)、デキストロース、パームシュガー、コーンシロップ、グルコースシロップ、ピュアメープルシロップ、ステビア
ライフスタイル
- 運動
- 迷走神経の刺激
- ストレス管理
- プロトンポンプ阻害の中止
- エプソムソルト浴(SIBOが硫黄の代謝障害によって生じるという説に基づく)
プロバイオティクス
プレバイオティクスの含まれているプロバイオティクスを避けること。少量であれば許容されるかもしれない。
- ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)
- ラクトバシラス・カゼイとリファキシミンの同時投与
- ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)
- バシラス・コアグランス()
- ビフィドバクテリウム()
- ラクトバシラス・プランタラム(actobacillus plantarum) + ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10721914
プロバイオティクスは抗生物質よりもSIBO治療に有効[R]
高齢者へのプロバイオティクスヨーグルトの有効性 4週間後に炎症が低下[R]
ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、サッカロミセス・ボウラルディ(Saccharomyces boulardii)は効果なし[R]
サプリメント
ラクトバシラス・ラムノサス 腸壁バリアの修復
ラクトバシラス・プランタラム 腹痛・満腹感・鼓腸の改善
プリマドフィルス・ロイテリ メタンを減少させる。
ハーブ類・サプリメント
- オレガノ油
- レッドタイム油
- ペパーミントオイル
- レモンバーム
- ベルベリン
- オリーブリーフ
- ヨモギ
- スギナ
- 塩酸ベタイン(HCI)
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24891990
食品
- 生姜
- アリシン
医薬
- リファキシミン(もっとも証拠が多く一般的)
- テトラサイクリン
- ドキシサイクリン
- コトリモキサゾール
- フルオロキノロン
- 低用量ナルトレキソン
- オクトレオチド
- 低用量エリスロマイシン