書籍要約『影のエリート:世界の新たな権力者たちが民主主義、政府、自由市場をいかに弱体化させるか』2009年

官僚主義、エリート

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Shadow Elite: How the World’s New Power Brokers Undermine Democracy, Government, and the Free Market

目次

  • 第一部 新しい権力ブローカーの登場とその生態
  • 第1章 自信家たちとそのフレックスな生活 / Confidence Men and Their Flex Lives
  • 第2章 民営化と「真実らしさ」が出会うとき / When Privatization Meets Truthiness
  • 第3章 狂乱の東欧におけるフレックス・パワー / Flex Power in the Wild East
  • 第二部 アメリカにおける制度の侵食
  • 第4章 株式会社U.S.政府 / U.S. Government, Inc.
  • 第5章 民営化者たち / The Privatizers
  • 第6章 権力乗っ取り者たち / The Commandeers
  • 第三部 フレックス・ネット時代の説明責任
  • 第7章 フレックス・ネット時代の説明責任 / Accountability in the Age of Flex Nets

本書の概要

短い解説:

本書『SHADOW ELITE』は、冷戦終結後のグローバル化と情報技術の進展、国家の民営化と行政改革、「真実らしさ(truthiness)」の蔓延といった四つの構造的変化の中で、公的機関と民間の境界を曖昧にし、民主主義と自由市場を蝕む新たな権力ブローカー「フレクシアン」と彼らのネットワーク「フレックス・ネット」の実態を、米国とポスト社会主義諸国の比較を通じて分析する。グローバル化する政治・経済の裏側で、民主的統制の及ばない影響力がどのように行使されているかを理解したい読者に向けて書かれている。

著者について:

著者のジャニン・R・ウェデルは、社会人類学者で、ジョージ・メイソン大学公共政策学部教授。長年にわたりポーランドを中心とする東欧の政治・経済変動をフィールドワークし、共産主義体制下および「移行期」における非公式な社会的ネットワークと腐敗の実態を研究してきた。冷戦終結後に旧ソ連圏で観察された「制度のノマド」や「クラン」の活動が、米国を含むグローバルな舞台で新たな形で現れたことに着目し、その比較分析を通じて現代の権力構造を批判的に描き出す。

テーマ解説

  • 主要テーマ:公的領域と私的領域の融合による新しい権力構造の形成。 [透明性と民主的説明責任の危機。]
  • 新規性:「フレクシアン」と「フレックス・ネット」という分析概念。 [従来の「ロビイスト」や「利益団体」を超える、柔軟で曖昧な役割を演じる影響力行使者の形態を提示。]
  • 興味深い知見:東欧のポスト社会主義的「移行」の経験が、米国の「民営化」改革と構造的に相似し、相互に影響を与えている点。 [「狂乱の東欧」が先進国の未来を先取りする可能性。]

キーワード解説(1~3つ)

  • フレクシアン:組織への忠誠ではなく、自らのネットワークやイデオロギーへの忠誠を第一とし、官民の境界を跨ぎ、複数の曖昧な役割(政府顧問・業界コンサルタント・メディア・コメンテーターなど)を柔軟に使い分けて影響力を行使する個人。
  • フレックス・ネット:長期的な人的繋がりと共有された信念で結ばれた非公式な集団。メンバーが官民の様々なポジションを相互に補完し合うように配置されることで、個々の役割を超えた集合的な影響力を発揮し、政策を「民営化」する。
  • 真実らしさ(Truthiness):客観的事実や確証よりも、個人的な確信や感情、見かけの印象に基づいて「真実らしさ」を構成し、信じようとする社会的傾向。フレクシアンが自らの活動や信念を演出・宣伝する上で利用する環境。

3分要約

冷戦の終結は、二極構造の消滅とグローバルな権力の拡散をもたらした。同時に、米国を中心に「大きな政府」批判と効率化の名のもとに進められた行政改革(民営化、アウトソーシング、規制緩和)は、政府機能を民間企業や非政府組織(NGO)に委ねる「シャドー・ガバメント」を巨大化させた。さらに、情報技術の複雑化は、金融派生商品など監視の及ばない新たな闇市場を生み出し、複雑な意思決定の責任所在を曖昧にした。こうした構造変化に、「真実らしさ(truthiness)」──事実よりも印象や信念を重視する文化的傾向──が重なり、権力と影響力の行使のあり方を根本から変容させた。

この新たな環境で台頭したのが「フレクシアン」とそのネットワーク「フレックス・ネット」である。彼らは、国家官僚制や企業組織への忠誠ではなく、自らのイデオロギーや個人的なネットワークへの忠誠を最優先する。政府高官、業界コンサルタント、シンクタンク研究員、メディア・コメンテーターなど、複数の公的・私的な役割を同時に、あるいは次々と演じることで、組織間の壁を自在に横断し、情報とアクセスを独占する。この「役割の柔軟性」こそが彼らの最大の武器であり、また説明責任を回避する盾ともなる。

本書は、この現象を理解するための格好の事例として、1990年代のロシア経済改革を舞台にした「チュバイス・ハーバード・ネットワーク」と、2003年のイラク戦争への道筋を作った「ネオコン・コア」の二つのフレックス・ネットを詳細に分析する。前者では、米国政府の援助プログラムを一手に引き受けたハーバード大学の研究者らが、ロシアの「青年改革派」と密接に連携し、民営化政策を「民営化」して自らの利益とイデオロギーを追求した。後者では、リチャード・パールを中心とするネオコンサーバティブの小集団が、政府内外のポジションを占め、正規の情報機関を迂回する「代替インテリジェンス」を作り上げ、メディアを動員して開戦を正当化する大規模な情報操作を行った。いずれのケースでも、彼らは公式の組織や民主的プロセスを形骸化させ、政策決定を「民営化」した。

これらの事例が示すのは、かつて共産主義圏で見られた非公式なネットワークによる資源の収奪や「クラン」的な統治が、民主主義の本家とされる米国においても、洗練された形で再生産されているという皮肉な現実である。アウトソーシングされた政府、複雑化する金融技術、「真実らしさ」への傾倒は、フレクシアンに理想的な活動環境を提供し続けている。2008年の金融危機とその後の救済策は、国家と巨大金融機関の融合を一層進め、新たなフレックス・ネットの温床となった。

本書の結論は明快である。公と私の境界が溶解するこの新しいシステムにおいて、従来型の「利益相反」や「腐敗」の概念、断片的な監査の手法では、フレクシアンやフレックス・ネットの活動を捕捉し、民主主義への脅威に対抗することはできない。彼らの影響力は、個々の役割の総和ではなく、それらの「接合」によって生まれる。したがって、彼らを説明責任の埒内に収めるためには、彼らの相互接続された活動全体を俯瞰し、官民の複雑に絡み合った新しい権力構造そのものの透明性と民主的統制を求める、根本的な制度的革新が必要とされる。

各章の要約

第一部 新しい権力ブローカーの登場とその生態

第1章 自信家たちとそのフレックスな生活

本章では、現代の新しい権力ブローカーである「フレクシアン」の定義とその特徴を提示する。引退したバリー・R・マッカフリー将軍の事例は、彼が退役軍人、国防総省との特別な関係を持つ「メッセージ増幅者」、軍事アナリスト、防衛産業コンサルタント、大学教授といった複数の役割を同時に演じ、各役割で得た情報とアクセスを相互に利用していたことを示す。このような「利害の一致」を意図的に構築するプレイヤーは、冷戦終結、行政改革(民営化・規制緩和)、情報技術の複雑化、「真実らしさ」の文化という四つの構造的変化によって生み出された環境で繁栄する。彼らは組織への忠誠ではなく、自らのネットワークへの忠誠を第一とし(第一の特徴)、非公開情報を私有化しながら強い信念を「ブランド化」する(第二の特徴)。複数の役割と自己演出を巧みに使い分け(第三の特徴)、公的機関と私的機関の隙間でルールを緩め、新たな制度ハイブリッドを創出する(第四の特徴)。彼らの活動は従来の「利益相反」や「ロビー活動」の枠組みでは捉えきれず、民主的説明責任を空洞化させる新たなシステムを構成している。

第2章 民営化と「真実らしさ」が出会うとき

本章では、フレクシアンを生み出す四つの構造的変化について、その相互作用と帰結を詳述する。第一の「統治の再設計」は、新自由主義的な民営化・アウトソーシングの潮流であり、小さな政府という建前の下で「シャドー・ガバメント」を巨大化させ、政府の情報・権威・専門性を民間に流出させた。第二の「冷戦の終結」は権力の拡散をもたらし、国家の監視が及ばない新たな活動領域(金融、犯罪ネットワークなど)を創出した。第三の「高度な技術」、特に情報技術と複雑な金融商品は、透明性と責任所在を一層曖昧にした。そして第四の「真実らしさ」の受容は、客観的事実よりも印象や演技が重視される文化的環境を作り出し、フレクシアンが自己を都合よく演出することを容易にした。これらの変化は相互に強化し合い、公的領域と私的領域の境界を溶解させ、フレクシアンが新たな権力形態を編み出す肥沃な土壌を提供している。

第3章 狂乱の東欧におけるフレックス・パワー

著者のポーランドでのフィールドワーク経験に基づき、共産主義体制下およびその崩壊後の「移行期」における非公式なネットワークの役割を分析する。共産主義時代、人々は不足経済を生き抜くため、信頼できる限られた人間関係(「不浄な共犯関係」)に依存し、官僚制を「個人的関係」で迂回する術を身につけた。この「縁故主義(ブラット)」の伝統は、体制崩壊後の法的・制度的空白地帯「狂乱の東欧」において、「制度のノマド」や「クラン」といったフレックス・ネットの原型として開花した。彼らは、民営化政策や国際援助を支配し、国家の資源を収奪した。ポーランドの「リウィンゲート」事件や国家予算の「代理機関」への横領は、こうしたネットワークが立法過程すら私物化し、国家を「私有化」する過程を暴き出した。東欧の経験は、国家と私的権力の融合、情報の私有化、制度化された曖昧さといった現象が、その後、より洗練された形で米国を含むグローバルな舞台に現れる「予行演習」であったことを示している。

第二部 アメリカにおける制度の侵食

第4章 株式会社U.S.政府

本章では、米国連邦政府における「シャドー・ガバメント」の拡大とその帰結を詳細に検証する。政府業務のアウトソーシングの急激な増加により、政府職員と肩を並べて働く民間請負業者からなる「混成(ブレンデッド)労働力」が常態化した。その結果、「本質的に政府の機能」とされてきた政策立案、情報分析、契約管理、さらには戦場での活動までもが請負業者の手に委ねられる事態が生じている。政府の監督能力は人員削減で弱体化し、複雑な「請負契約」制度(IDIQなど)は透明性を損ない、ネットワークと個人的関係による随意契約を助長する。このようにして、政府は自らの「魂」(情報、専門性、組織記憶)を失い、政策は実質的に民間企業によって「民営化」されつつある。同時に、大統領権限の強化や諮問委員会の増加は、チェック・アンド・バランスを弱め、フレクシアンが公式の手続きを迂回して影響力を行使する機会を広げている。

第5章 民営化者たち

1990年代のロシア経済改革を舞台に、ロシアの「青年改革派」(アナトリー・チュバイスら)と米国ハーバード大学の研究者(アンドレイ・シュライファー、ジョナサン・ヘイら)からなる「チュバイス・ハーバード・ネットワーク」の活動を分析する。米国国際開発庁(USAID)が委託した改革援助プログラムを独占したこのフレックス・ネットは、相互にゲートキーパーとなり、情報と資源を私有化した。彼らは、民営化政策の設計と実施において重複する役割を演じ(シュライファーはUSAIDのプロジェクト・ディレクターでありながら、ロシア証券委員会の顧問でもあった)、「民営化センター」などの曖昧な組織(公的機能を持つNGO)を創設して国家を迂回し、大統領令を通じて議会を無視した。その結果、形式的には「改革」が進んだが、実態は国家資産のオリガルヒへの集中と、一般市民の窮乏化であり、「クラン」に支配された非民主的な体制の基盤が築かれた。この事例は、フレックス・ネットが国境を越えて政策を「民営化」し、民主的プロセスと説明責任を空洞化させる力を示している。

第6章 権力乗っ取り者たち

リチャード・パールを中心とするネオコンサーバティブの小集団「ネオコン・コア」が、長年にわたる結束と共通のイデオロギーに支えられ、いかにして米国をイラク戦争へと導いたかを分析する。彼らは、政府内外に張り巡らせた人的ネットワーク(「複雑な背骨」)と、冷戦期の「チームB」やイラン・コントラ事件で培った手法(正規の情報機関を迂回した「代替インテリジェンス」の創出、非公式外交)を駆使した。ブッシュ政権内では、ウォルフォウィッツ、ファイスらが国防総省の要職に就き、正規の分析を無視して独自の情報操作拠点(「特別計画室」など)を設置した。外部では、パールらがシンクタンクや「レターヘッド組織」、メディアを動員して開戦を宣伝する巨大な「エコー・チェンバー」を作り上げた。アーメド・チャラビなど非公式のブローカーを利用し、「真実らしさ」に満ちた情報(大量破壊兵器、アルカイダとの関連など)を流布することで世論を形成した。このフレックス・ネットは、国家の正規の政策決定プロセスを乗っ取り、戦争という国家的決定を事実上「民営化」することに成功した。

第三部 フレックス・ネット時代の説明責任

第7章 フレックス・ネット時代の説明責任

結論として、フレクシアンとフレックス・ネットが引き起こす根本的な問題は、現代の「説明責任」の手法が彼らの活動に対応できていない点にある。新自由主義的改革とともに普及した監査の文化は、活動を断片的に評価し、形式上のコンプライアンスを重視するが、政策形成への影響力や、複数の役割にまたがる活動の全体像、そして「公的信用」への真の脅威を捉えることができない。エンロンやアーサー・アンダーセンのスキャンダルは、監査制度自体の限界と崩壊を示した。フレクシアンは、役割の曖昧さや国境を越えた活動を利用して監査をかわし、たとえ問題が発覚しても、政治的ネットワークやメディア操作によってダメージを最小限に抑え、活動を継続する。2008年の金融危機とその後の対応は、国家と金融資本の新たな融合を生み出し、フレックス・ネットの活動領域をさらに拡大させている。最終的に著者は、この新しい権力構造に対抗するためには、断片的な監査ではなく、彼らの相互接続された活動全体を俯瞰し、公的領域と私的領域の新たな関係性そのものに対する透明性と民主的統制を求める、制度的な革新が必要であると主張する。フレクシアンとフレックス・ネットの分析は、民主主義社会が「誰に仕えているのか」を見極め、「公的信用」を取り戻すための第一歩である。



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