
https://www.thefocalpoints.com/p/forgetting-the-trials-and-triumphs
英語タイトル『Forgetting』
日本語タイトル『忘却』
対談の基本内容
短い解説:
本書は、複雑な母子関係の中、アルツハイマー病を患う母親の介護を引き受けた著者の実体験を綴ったものである。認知症の家族を在宅で看取ることを考えている人、特に親子関係に課題を抱える読者に、その心理的・現実的側面を伝えることを目的としている。
著者について:
著者ジョシュ・ヒックマン(Josh Hickman)は、米国テキサス州ダラスを拠点とするアーティスト兼作家である。高校はパフォーミング・アーツスクールに学び、当初は画家を志すも、後に映画業界でも活動。ロサンゼルスで14年間過ごした後、父親の死、長年の恋愛関係の破綻、仕事の喪失など、人生の様々な困難を経て故郷に戻り、認知症が進行する母親の介護を担うことになる。その体験が本書『Forgetting』に結実している。
主要キーワードと解説
- 主要テーマ:アルツハイマー病と家族介護:複雑な過去を抱える親子関係の中で、認知症の母親の介護に直面する息子の精神的・身体的葛藤と成長を描く。
- 新規性:「忘却」の二重性:母親の「記憶を失う」過程と、介護者が過去のトラウマを「忘れ、許す」ことの必要性という、二つの「忘却」の意味を探る。
- 興味深い知見:人格の変容:認知症の進行とともに、それまで攻撃的だった母親の人格が穏やかになり、介護後期にはこれまでにない温かい関係が築かれるという逆説的体験。
本書の要約:
ジョシュ・ヒックマンは、海軍の父とカナダ人看護師の母を持つアーティストであった。人生の大半をダラスとロサンゼルスで過ごし、創作活動に励んでいたが、40代後半から50歳にかけて、父親の癌による死、13年に及ぶ恋愛関係の破綻、仕事の喪失、そしてロサンゼルス生活への燃え尽き症候群が重なり、故郷のダラスに戻ることを余儀なくされる。ダラスでは高校時代の恋人と同棲を始め、一人暮らしを始めた母親を時折訪ねる生活を送っていた。しかし、恋人に突然別れを告げられ住居を失ったことをきっかけに、母親との同居が始まる。これまで母親とは「厄介な(fraught)」関係にあり、彼女はほぼ全ての人と難しい関係を築く性格であった。同居を始めて初めて、母親の繰り返し質問や理解力の低下が、単なる難聴や年老いたせいではなく、認知症の症状であることに気づく。母親は自分が認知症であることを終生認めようとせず、運転免許の取り上げや通院など、あらゆる面で抵抗を示した。
ジョシュ自身も、これら一連の人生のどん底で、長年抱えてきたアルコール依存症に直面し、離脱症状に苦しみ、一時は精神科病棟に入るほどの状況に追い込まれる。その中で自殺も考えたが、生きることを選択し、同時に酒も断つ。そして、他に頼れる人のいない母親の介護を、自分の人生を犠牲にしてでも引き受けることを決意する。介護生活は、自身の創作活動や社会生活を完全に停止させるものであり、特に同じ質問への対応など、忍耐力を試される日々の連続であった。過去の複雑な母子関係の記憶がよみがえることもストレスとなった。しかし、愛犬の存在や、時に芸術活動に没頭することが、彼の心の支えとなった。
母親の状態は、当初は緩やかだったが、時間の経過とともに加速的に悪化する。ジョシュは、母親が接種したCOVID-19ワクチンが、その急激な進行に関与した可能性について言及している。介護の最終段階では、母親の人格は一変し、それまでの攻撃的で不平の多い態度は影を潜め、穏やかで感謝の言葉を口にするようになる。この「別人」のような母親との関係を通じて、ジョシュは過去を「忘れ」、現在の関係を受け入れることを学んでいく。最期は、夜中の徘徊中の転倒をきっかけにホスピスに移り、そこで静かに息を引き取った。本書は、アルツハイマー病という病気の現実と、それに直面する家族の愛、忍耐、そして「忘却」を通じた癒しを描いた体験記である。(約1,200字)
特に印象的な発言や重要な引用
「あなたの心は常に子供の頃に戻り、彼女が全く我慢強くなかったことを思い出す。そして、それらの考えと戦わなければならない。」
「認知症の闘いの中で、彼女はほとんど徘徊しなかったが、終盤の3日前から夜中に徘徊するようになった。」
「彼女は認知症やアルツハイマー病があることを決して認めなかった。決して、決して、決してである。」
サブトピック
人生の暗転と「どん底」の体験
ジョシュ・ヒックマン氏は、父親の死、長期恋愛の破綻、仕事の喪失、そしてロサンゼルス生活への疲れが重なり、ダラスに戻る。そこで待ち受けていたのは、恋人からの突然の別れと住居喪失というさらなる打撃だった。これら一連の出来事は短期間で起こり、彼は「どん底」を体験する。長年抱えていたアルコール依存症もここで爆発し、離脱症状で入院、精神科病棟で「紙の下着」を着用する状況にまで追い込まれる。この絶望的な状況下で、自死も考えたが、生きることを選び、同時に禁酒も決意する。
認知症の兆候との気づきと受容
住居を失ったジョシュ氏は、やむなく母親との同居を始める。そこで初めて、母親の「聞こえていないふり」や繰り返し質問が、実は認知機能の低下によるものであることに気づく。母親はかねてより難しい性格だったが、その行動が「年老いたせい」以上のものであることを理解する。彼女は過去に受けた認知テストの不良な結果を隠しており、運転が危険な状態であることも判明する。しかし、母親自身は終始、自身が認知症であることを認めようとせず、これが後の介護における大きな障壁となる。
介護という試練と「忍耐」の獲得
ジョシュ氏は、自分以外に母親の面倒を見る人がいないという現実から、介護を引き受ける。これは自身の創作活動や社会生活、新たな人間関係の構築をすべて犠牲にする決断だった。特に、一日に何十回も同じ質問に答えることへの忍耐は、大きな試練だった。過去の複雑な母子関係の記憶がよみがえり、内心では苛立ちを感じつつも、表面上は平静を保つ努力を続ける。彼にとって、愛犬の存在と、わずかな時間を割いて行う芸術活動が、心の平衡を保つための命綱だった。
「忘却」の二重性と母子関係の変容
本書の核心となるテーマが「忘却」の二重の意味である。一つは母親が経験する「記憶の喪失」である。もう一つは、介護者であるジョシュ氏が、過去の傷ついた関係やトラウマを「忘れ」、「手放す」ことである。驚くべきことに、認知症が進行する後期になると、母親の人格はそれまでの攻撃的で不平の多い性格から一変し、穏やかで感謝の気持ちを表す「別人」のようになる。この変化により、ジョシュ氏は過去の母ではなく、眼前にいる「現在の母」と向き合うことが容易になり、結果的に介護が心理的に楽になっていく過程が描かれている。
最期の時と「忘却」を越えたもの
母親の最期は、突然始まった夜間の徘徊がきっかけだった。極度に衰弱していた彼女が転倒し、それは見た目には軽いものだったが、もはや限界に近かった身体には致命傷となった。ホスピスに移され、そのまま意識が戻ることなく息を引き取る。ジョシュ氏は、この突然の別れに衝撃を受けつつも、母親が最期の時期に「私は死んでいると思う」と口にしていたこと、そしてこれまでになく愛情のある言葉をかけてくれたことを回想する。アルツハイマー病という「忘却」の果てに、かつてない温かい母子の絆が確認されるという、皮実でありながらも希望を含んだ結末を迎える。
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