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ケトンサプリメント・βヒドロキシ酪酸・βHB
概要
はじめに
ケトンサプリメントはケトン体を外因的に投与することで、炭水化物を制限せず普通の食事をしていてもケトン濃度の増加を促進してくれる。またはケトンダイエットなどと併用することで、より高い体内のケトン濃度に達することが可能になる。
MCTオイルやココナッツオイルは、容易にβヒドロキシ酪酸などのケトン体に代謝される形態の脂肪酸だが、ケトンの直接投与ではないため、それらをケトンサプリメントと呼ぶかどうかは定義次第といったところ。
糖質制限
体内のケトンレベルを高めていく方法として、糖質制限ダイエットがよく知られている。
炭水化物を制限し高脂肪食にすることで、脂質からケトン(内因性ケトン)が代謝されることによって、体内のケトン濃度を高めていく方法だ。
認知症改善プログラムであるリコード法でもこのケトンダイエットによって、体内のケトン濃度を緩やかに上昇させることを目論んでいる。
中鎖脂肪酸
一方で、ケトンダイエットでそういったケトジェニックな体質に移行するまでの間に、低血糖により認知機能の低下を引き起こす可能性もある。
そのため、リコード法ではそれまでの間ココナッツオイルやMCTオイルなどの中鎖脂肪酸を使ってケトン値を上昇させることで、リスクを回避する。
外因性ケトン
しかし、このココナッツオイルやMCTオイルの補給であっても、それらを代謝する肝機能の衰えだったり、糖質制限そのものがうまくできていない場合にはケトンを上昇させることがむずかしい。
そこで、さらに一歩進んで代謝による産生が不要なケトン体そのものを直接補給してしまうことで、強制的にケトンを上昇させる手段が検討されている。
ケトンによる違い
ケトン値増加の強制力を図式化すると、
糖質制限 <ココナッツオイル <MCTオイル <C8オイル(オクタンオイル)<ケトンソルト< ケトンエステル
といったようになり、左側ほど緩やかで持続的であり、右側ほど急速で短期的、強制的な傾向になる。
ケトン体質への移行を試みる際も、この図の左側から試みていくべきで、いきなり右側へ飛びつくべきではない。
しかし、それぞれ特性が異なるため、これらの使い分けや、組み合わせがケトンダイエットによる認知機能改善により効果的である場合もある。
欧米では、MCTオイルなどに替わるケトンサプリメントとして近年広がりを見せ始めている。
認知症患者へ適用された研究も存在するが非常に限られており、治療薬としての外因性ケトン投与はまだ研究途上にある。
ケトンとケトン体
ケトンとケトン体は混同されやすいがそうではなく、
ケトンとは化学においてアルキル基の化学式で表される有機化合物群を意味する。
ケトン体とは、そのうちβヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの3つをの総称を意味する。
ケトンサプリメント
さらに、ここで取り上げるケトンサプリメントとは、体内で代謝されるケトンを直接補給できるようにした「βヒドロキシ酪酸(βHB)」が含まれているものを意味する。
ケトンエステルとケトンソルト
βヒドロキシ酪酸にはβHBにアルコール基を結合させたケトンエステル、βHBにミネラルと結合させたケトンソルトの2つが存在する。
ケトンエステル
ケトンエステルは、アルコール基と結合されたβヒドロキシ酪酸。
ケトンエステルはケトンソルトより素早くケトンを吸収することができるため、ケトン値の上昇幅も大きい。脳へのケトン補給は血中のケトン濃度に依存するため、認知機能への効果という点ではケトンエステルが理想かもしれない。
また価格も加工の必要がないため一般的にはケトンソルトよりも低価格。
しかし味はかなりまずく、胃腸症状の副作用もケトンソルトよりも一般的に見られる。
そのため多くの市販品はケトンソルトとして販売されており、ケトンエステルは主に研究などで用いられている。
ケトンエステルは純粋なケトンであるため、一日に複数回摂取する場合においてケトンソルトのように結合ミネラルを過剰摂取しなくて良い点もメリットとなる。
味をごまかすために食事に混ぜて摂取したほうが良いかもしれない。
ケトンソルト
一般的に市販されているサプリメントはすべてケトンソルト。
ケトンソルトは、ケトンの吸収速度の改良のためにナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、アミノ酸、クレアチンなどと結合させてキレート加工されている。多くの種類があり、必ずしもケトンソルトと呼ばれるからといってナトリウムと結合しているわけでない。
常用するなら100%ナトリウムフォームのケトンソルトは塩分過多となる可能性があるため避けておいたほうが無難かもしれない。
ケトンダイエットの実践者ではマグネシウム不足が見られやすいため、マグネシウムフォームのケトンソルトが良いだろうという専門家の意見がある。
ケトン値の上昇はケトンエステルよりも若干劣る。しかし化合物と結合されていることによって、ケトンエステルにある胃腸症状などの副作用がかなり軽減され、ケトンエステルの激まずな味も緩和されている。
外因性ケトン 研究
外因性ケトンのメリット(MCTオイルとの比較)
・MCTオイルでケトン値上昇ががむずかしい人でもケトン値を増やすことができる。
・パウダーは、オイルよりも簡単に飲み物などに混ぜやすい。プロテインなどに混ぜておくこともできる。
・ケトンソルトは摂取に伴う消化器症状がMCTオイルよりも少ない。
・MCTオイル摂取に伴う過酸化脂質などの影響がより少ない。
ケトン補給の副作用・デメリット
長期ケトンダイエットによるアテローム発生
長期的なケトンダイエットは、副作用としてアテロームを発生させる脂質レベルを増加させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25301680
胃腸系の副作用
アルツハイマー病患者への投与試験では胃腸系に副作用が見られ、12.5%がその副作用のために参加を中止した。
ApoE4遺伝子をもつ患者では、ADAS-cogの認知機能テストでは有意な差が示されなかった。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19664276/
持続しない
血中濃度を即座に上昇させるが、それだけ早く低下するため、持続的なケトン濃度レベルの高さを維持することはできない。
ケトンエステル投与の安全性評価
最大714 mg / kg体重で単回投与した参加者に悪影響を及ぼさなかった。
血清半減期
ケトンモノエステルの最高血中濃度は15分以内に達し、半減期が短い(女性で6.5分、男性で14分)
血液ケトンレベルは容易に上昇し、D-β-ヒドロキシ酪酸は9〜12mMの最大レベルに達し、アセトアセテートは30分以内に6mMに達した。
ケトンの危険性域
過剰のケトンは、生命を脅かす可能性のある代謝性アシドーシスを引き起こす可能性があるが、そのような影響は10-20mM以上に達する場合のみに観察される。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22561291/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3810007/
ケトンエステル投与
ミトコンドリア機能の増強
ケトンエステルの投与は、マウスの血中ケトン濃度を増加させ褐色脂肪細胞に含まれるミトコンドリアの量を増加させる。このメカニズムは寒冷曝露によるcAMPレベルの増加と同様である。
またADマウスのインスリン抵抗性を部分的に改善し、リン酸化タウタンパクの蓄積と、認知機能を改善する可能性が報告されている。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23909803
ミトコンドリア機能の改善・抗アルツハイマー病
ケトンエステルによって誘導される血漿ケトン体濃度の上昇は、AD動物モデルのミトコンドリア代謝を改善し、アルツハイマー病様病変の進行を予防または遅らせる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25468143
抗不安作用・記憶改善・タウの除去
ADマウスへのケトンエステルの投与は、マウスの不安を有意に低減させ、学習及び記憶試験で有意な改善を示した。海馬および扁桃体領域においてアミロイドβの沈着が減少し、海馬、扁桃体、および皮質領域においてリン酸化されたタウの沈着の低下を示した。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23276384/
抗酸化ストレス作用
D-β-ヒドロキシ酪酸(βOHB)は、ヒストンデアセチラーゼ1の特異的な内因性阻害剤であることが示されている。
β-ヒドロキシ酪酸の外因的投与によって、FOXO3経路およびMT2プロモーター部位のアセチル化が増加し、FOX1経路および酵素スーパーオキシドの誘導による酸化ストレスに対する保護がもたらされる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23223453
古くて新しい治療法 神経ケトセラピー
ケトン治療は5mMまで
ケトン治療は5mMまでののケトーシスを維持する。
ケトアシドーシスは10~25mMの範囲あり、この区別を認識する必要がある。
HMG-CoAリアーゼの欠損はケトン生成を防ぎHMG-CoAリアーゼ欠乏の期間を過ぎると、低ケトックス性低血糖の病的状態が生じる
脳(アストロサイト内)でのケトン合成
肝臓はケトン体生成の主要臓器だが、他の部位でもケトン体を生成する。
中鎖脂肪酸による補給が、アストロサイトにおいてケトン生成を行うことが明らかになっている(Le Follら、2015a; Le Follら、2014,2015b; Le Foll and Levin、2016)
アストロサイトが生成したケトン体は、ニューロンへ移動する(Guzman and Blazquez,2001)
グルタチオンレベルの上昇
3週間ケトンダイエットでラットに食餌すると、フリーラジカルスカベンジャーであるグルタチオン(GSH)のレベルが上昇した。この増加は、GSH合成における律速酵素であるグルタミン酸システインリガーゼ(GCL)の増加と関連していた(Jarrett et al,2008)
海馬ミトコンドリア機能の増加
ラットにおいて、ケトンダイエットは、海馬歯状回のミトコンドリアの数の増加を実証した(Bough et al,2006)
この現象は、ベータヒドロキシ基の炭素を含まないケトン体とは構造が異なる短鎖脂肪酸である酪酸がヒストンアセチル化に影響する。(Stilling et al.、2016)
Sirt3活性
ケトンは、Sirt3の活性に影響を与える可能性がある(Rardin et al.、2013)
ケトン体-PTM関係の最近のエキサイティングな研究の進展は、β-ヒドロキシ酪酸自体がリジン残基を改変できるという発見である(Xie et al,2016)
ヒストンリジンのβヒドロキシ酪酸化は、ヒストンアセチル化によるる遺伝子発現の変化を生じさせる。
ケトン体代謝関連反応中に生成されるTCA中間体は、エピジェネティック修飾因子としてさらに機能し得る。
抗アルツハイマー病
この能力は、アミロイドβ媒介性の呼吸鎖機能の抑制を改善し、おそらくアルツハイマー病の脳で観察される生体エネルギーの代謝低下をいくらか救済する可能性がある(Swerdlow, 2012c)
中鎖脂肪酸およびケトンエステルサプリメントは、アルツハイマー病患者の血漿ケトン濃度および認知機能の改善を示した。(Henderson, 2008; Newport et al,2015; Reger et al,2004)
ケトセラピーの使用とアルツハイマー病リスクの低下との関連を報告する疫学的研究(Henderson、2008; Morris、2005)
BDNF
抗酸化・BDNF・抗炎症
肝細胞およびアストロサイトにおいて脂肪酸β酸化により生成された一次ケトン体、β-ヒドロキシ酪酸およびアセトアセテートは、ニューロンによって取り込まれ異化した後、酸化的リン酸化を介したエネルギー生成に役立つ。
ケトンはタンパク質の翻訳後修飾に影響を与え、活性窒素種の産生を弱め、抗酸化ストレス応答経路の発現を増強し、短鎖脂肪酸受容体およびBDNFシグナル伝達経路を調節、嫌気性代謝に寄与し抗炎症効果を示す。
外傷性脳損傷
TBIラットモデルにおいて、Akt /GSK3β/β-カテニンシグナル伝達経路の活性化がニューロン生存を増強することが分かった(Zhao et al,2012a)
したがって、Aktシグナル伝達のケトン活性化は、ニューロンの完全性を維持するための潜在的戦略を提供し得る。
βHBのBBB透過性への影響
TBIラットモデル(Orhan et al,2016)において、β-ヒドロキシ酪酸塩が血液脳関門透過性を増加させることが報告されている。これは、血液に含まれる炎症成分に脳へ流入することによる脳の炎症増加を誘導する可能性がある。
そのため、TBIにおけるケトン療法の有用性は慎重に考慮する必要がある。
外因性ケトンの摂取方法
ケトンサプリメントの摂取タイミング
目的によってケトンサプリメントの摂取タイミングは異なってくるが、基本的にはいつ摂取しても良い。
脂肪燃焼目的
食間または午前中
運動のパフォーマンスを上げる
運動の40分前に摂取
運動が2時間以上続く場合には2時間毎に半量を摂取
集中力を高める 認知機能を高める
空腹時に摂取
糖質豊富な食事においてケトーシスを維持する
食後15~30分してから摂取
脳細胞の修復
夜 寝る前
まずくて1日複数回飲むのが苦痛な場合
濃い味の食事や飲料に混ぜる
ケトンダイエットの初期の副作用 ケトフルー
初期の一時的な副作用には、胃痛以外に頭痛、無気力、吐き気、怒りっぽい、物忘れ、ブレインフォグ、やる気の低下、鼻水などがある。
※ケトアシドーシスとは全く異なることに注意。
これらのインフルエンザのような症状はケトンダイエットをはじめた多くの人で見られる。この代謝に適応するには数日を要する。一部の人では2~3週間続くことがある。
ケトフルーの緩和方法
・水分と小さじ半分の塩を補給。
・ケトーシス適応するのを忍耐強く待つ。
・ケトンサプリメントを徐々に増やす。
・脂肪の摂取量を増やす。
・ボーンブロスの摂取
ケトン摂取による胃痛
ケトンの補給はインスリンレベルを低下させることで水分を放出させることにより、胃痛の症状が現れる。
胃痛の緩和方法
・水を飲む。
・水に塩を少量加える。
ケトンサプリメント
ケトンソルト Ca・Na・Mg結合 (ベターな味と副作用軽減)
ケトドライブ オレンジマンゴー味
ケトンソルト カリウム結合(運動・ナトリウム無)
インスタケトンズ 無味(カリウムフォーム)
一回13.8gを水に溶いて飲む。
味は苦まずいためステビアなどノンカロリーのフレーバーを加えたほうが良い。
ナトリウムを含まない。運動向き。
ケトン濃度を2.0mmol/Lまで上昇させることが可能。
ケトンソルト/βHB単体(認知機能・ベターな味)
インスタケトンズ オレンジ味
ナトリウムが含まれるため、摂りすぎに注意。
ケトンエステル/βHB単体(認知機能・コスパ)
インスタケトンズ 味なし
一回14.25gの粉を水に溶いて飲む。
味は非常にまずい。
βHB単体だが、別にナトリウムが添加されているため、やはり過剰摂取には注意が必要。
味のまずさを緩和するために100%のレモンジュースまたはシークワーサージュースに10ccと2回分のステビアを混ぜてみる。
ステビアパウダー