
書誌情報
英語タイトル:『Corporate Coup:How America’s Attempted Regime Change in Venezuela Ended in a Spectacular Failure』 Anya Parampil 2024
日本語タイトル:『コーポレート・クーデター:ベネズエラでのアメリカの体制転換試みはいかにして劇的な失敗に終わったか』 アニャ・パランピル 2024年
目次
- はじめに:新アメリカ世紀プロジェクト / Introduction:Project for the New American Century
- 第1章 中世の包囲網 / ONE The Medieval Siege
- 第2章 アレックス・サーブの物語 / TWO Alex Saab’s Story
- 第3章 情報戦争の「魅惑的なトリック」 / THREE The “Sexy Tricks” of Information War
- 第4章 フアン・グアイド、帝国の試験管ベビー / FOUR Juan Guaidó, Imperial Incubator Baby
- 第5章 ボルトンの逆火、モンローの憂鬱 / FIVE Bolton’s Blowback; Monroe’s Morose
- 第6章 国境でのセックス、ドラッグ、無秩序 / SIX Sex, Drugs, and Disorder on the Border
- 第7章 アメリカ衛星国家機構 / SEVEN The Organization of American Satellite States
- 第8章 ワン・タフ・クッキー / EIGHT One Tough Cookie
- 第9章 カルロス・ベッチオ:エクソンから大使へ / NINE Carlos Vecchio:From Exxon to Ambassador
- 第10章 善良な者、悪しき者、そしてリカルド・ハウスマン / TEN The Good, the Bad, and Ricardo Hausmann
- 第11章 人権と人権侵害 / ELEVEN Human Rights, Human Wrongs
- 第12章 歴史の始まりと最初の男 / TWELVE The Beginning of History and the First Man
- 第13章 大勝負 / THIRTEEN Swing for the Fences
- 第14章 シトゴの陰謀 / FOURTEEN The Citgo Conspiracy
- 第15章 ギデオン作戦 / FIFTEEN Operation Gideon
- 第16章 選挙例外主義 / SIXTEEN Election Exceptionalism
- 第17章 黄金の恍惚 / SEVENTEEN The Ecstasy of Gold
- あとがき:多次元のチェス盤 / AFTERWORD The Multidimensional Chessboard
本書の概要
短い解説:
本書は、2019年にアメリカ合衆国を中心とする勢力がベネズエラの合法政府の転覆を試みた「コーポレート・クーデター」の全貌を、調査報道を通じて明らかにすることを目的とする。現代の地政学、情報戦、経済戦争に興味を持つ読者や、米国の介入主義の実態を知りたい読者に向けて書かれている。
著者について:
著者アニャ・パランピルは、調査報道ジャーナリストである。彼女は、ウクライナ、パレスチナ、ベネズエラなどにおける米国の外交政策と帝国主義的介入を批判的に追及する報道で知られる。本書では、広範な現地取材と一次資料に基づき、グローバルな企業権益がいかに政権転覆の陰で動いたかを暴露する。
テーマ解説
- 主要テーマ:帝国主義と抵抗。新自由主義的グローバル秩序が、資源を持つ主権国家を屈服させようとする際の手段と、それに対する民衆の抵抗を描く。
- 新規性:陰謀論ではなく、文書と関係者の証言に基づき、政権転換を目指す影の「パラレル政府」の構造と、そこに絡む多国籍企業の利益を具体的に提示する。
- 興味深い知見:米国政府の「承認」が、現実の政権交代が起きる前に先行して行われ、国際法の前例を破った点。その「承認」自体が国外資産の略奪を可能にする法的ツールとして機能した。
キーワード解説(2~7)
- コーポレート・クーデター:政権転覆の目的が、純粋な地政学的野心ではなく、多国籍企業による資源と資産の掌握にあることを示す概念。
- 影の政権/パラレル政府:公式の政権交代なしに米国が「承認」したフアン・グアイドを首班とする政権。領土も行政機構も持たないが、国外資産へのアクセスを主張した。
- シトゴ略奪:ベネズエラ国営石油会社PDVSAの米国子会社であるシトゴ・ペトロリアムの支配権を、グアイド「政権」を通じて奪取しようとした計画。
- 多極化世界:米国主導の一極支配が、ベネズエラのような抵抗や中国・ロシアなどの台頭により、終焉を迎えつつある国際秩序の変化。
- 情報戦/ハイブリッド戦争:伝統的な軍事力に加え、偽情報、経済制裁、NGO、人権レトリックを複合的に用いて他国を弱体化させる現代的な戦争形態。
3分要約
2019年1月、トランプ政権はベネズエラの無名の野党議員フアン・グアイドを「大統領」と承認した。これは、実際に政権交代が起きる前に米国が他国の新政府を承認するという、国際法上の前例のない行為だった。その目的は、ウゴ・チャベスが始めた「チャビスタ革命」後の社会主義政権、ニコラス・マドゥロ大統領を転覆させることにあった。
米国政府は、情報戦と「魅惑的なトリック」を用いて、グアイドを国際的に認知させようと画策した。また、厳しい経済制裁という「中世の包囲網」を敷き、国民生活を苦しめて不満を煽った。エリオット・エイブラムス特使らは、54か国がグアイドを承認したと宣伝したが、国連の大多数の国はこのクーデター試みを拒否した。
著者は、グアイドの「影の政権」が、いかに多国籍企業、特に石油・金融業界と深く結びついた人物たちで構成されていたかを暴く。彼らの主な目的の一つは、ベネズエラが保有する最も価値のある海外資産である米国子会社「シトゴ・ペトロリアム」の支配権を奪うことにあった。グアイドへの「承認」は、カラカスでの現実を変えることには失敗したが、この資産を押収し、ベネズエラの多額の海外準備金を略奪する法的口実として機能した。
クーデターの試みは、カラカスでの「ギデオン作戦」のようなお粗末な傭兵侵攻の失敗に象徴されるように、最終的には「劇的な失敗」に終わった。ベネズエラの軍、領土、政府機関はすべてマドゥロ政権の下に留まった。しかし、この過程は、米国外交政策が民主的規範を踏みにじる「陰鬱で影の多い性格」を浮き彫りにした。
本書は、この失敗が単なる外交的失策ではなく、米国帝国主義の衰退と、中国やロシアなどが台頭する「多極化世界」の幕開けを示す劇的な帰結であると結論づける。ベネズエラの抵抗は、新しい国際秩序の形成における重要な分岐点となったのである。
各章の要約
はじめに:新アメリカ世紀プロジェクト
本書は、米国によるベネズエラへの介入が、単なる外交政策の一環ではなく、「新アメリカ世紀プロジェクト」に代表される新保守主義的帝国構想の延長線上にあることを示唆する。これは、米国の世界的支配を維持・強化することを目的としたプロジェクトである。ベネズエラは、その抵抗と豊富な石油資源ゆえに、この構想に対する障害と見なされていた。著者は、2019年のクーデター試みを、この長期的な戦略的文脈に位置づける。
第1章 中世の包囲網
米国がベネズエラに対して課した包括的かつ極めて厳しい経済制裁を「中世の包囲網」と表現する。この制裁は、政府だけでなく一般市民の生活に壊滅的打撃を与え、食料・医薬品不足を引き起こし、人道的危機を悪化させた。その目的は、国民の不満を高め、マドゥロ政権への支持を削ぐことにあった。著者は、この制裁を、敵対する都市を兵糧攻めにする中世の戦術になぞらえ、それが国際法違反の集団懲罰であると批判する。
第2章 アレックス・サーブの物語
コロンビア生まれのビジネスマン、アレックス・サーブは、ベネズエラ政府と契約を結び、制裁下で食料や必需品を調達するための重要な仲介者となった。彼は米国政府から「マドゥロ政権の資金洗浄役」として指名手配され、カーボベルデで拘束された後、米国に移送され、起訴された。著者は、サーブの逮捕が、ベネズエラに対する制裁体制を維持し、政府の生命線を断つための作戦の一環であったと論じる。彼の物語は、経済戦争の前線で標的とされる民間人の実例である。
第3章 情報戦争の「魅惑的なトリック」
米国とその同盟国は、ベネズエラ政府を転覆させるために、大規模な情報戦・宣伝戦を展開した。これには、主流メディアによる政府批判の一方的な報道、ソーシャルメディアを利用した偽情報の拡散、「人権」や「民主主義」を旗印にしたNGOの活動が含まれる。著者は、これらの手段を「魅惑的なトリック」と称し、世論を操作し、介入を正当化するために利用されたと指摘する。「情報戦争は現実を変えなくても、現実に対する認識を変えることができる」という原則が、この作戦の根底にあった。
第4章 フアン・グアイド、帝国の試験管ベビー
野党議員に過ぎなかったフアン・グアイドが、いかにして一夜にして「大統領」に祭り上げられたかを追う。著者は、グアイドが米国政府、特に国際共和党研究所(IRI)や国家民主主義基金(NED)などの組織と長年にわたり緊密な関係を築いてきたことを明らかにする。彼は、反政府活動家として訓練され、米国が望む「若く、カリスマ的で、従順な顔」として選ばれた「帝国の試験管ベビー」であった。彼自身の政治的力量というより、外部からの支持がその地位を支えていた。
第5章 ボルトンの逆火、モンローの憂鬱
ジョン・ボルトン国家安全保障顧問やマイク・ポンペオ国務長官ら、トランプ政権内の強硬派がクーデターを主導した。彼らは「モンロー主義」を現代に復活させ、ラテンアメリカを米国の「裏庭」として支配することを公言した。しかし、彼らの威圧的で性急なアプローチは、ラテンアメリカ諸国における反米感情をかえって煽り、作戦に必要な地域の結束を得られない「逆火」を招いた。ボルトンの「今日は本当に歴史的な日だ」という宣言は、その後の失敗を前に空虚に響く。
第6章 国境でのセックス、ドラッグ、無秩序
コロンビアとの国境地帯は、クーデター作戦の最前線かつ混乱の舞台となった。米国とコロンビアは、偽装した「人道支援」トラックを国境に送り込み、ベネズエラ軍に通過を強要しようとした。このパフォーマンスは、政府が国民を飢えさせているというイメージを作り出すためのものであった。同時に、国境地帯は、傭兵の出入りや、混乱に乗じた麻薬取引など、無法地帯と化していった。この章は、介入が実際にもたらした無秩序と危険を描く。
第7章 アメリカ衛星国家機構
米州機構(OAS)は、米国のベネズエラ政策を支持する主要な国際舞台となった。アルマ・オルガンズ事務局長は、2018年の大統領選挙を「不正」と非難し、グアイド「政権」承認を後押しした。著者は、OASが米国の影響を強く受ける「衛星国家機構」として機能し、地域の民主的正統性を装うために利用されたと批判する。しかし、カリコムや非同盟運動など、多くの国家・地域機構が米国の立場を支持せず、国際的な分断を露呈した。
第8章 ワン・タフ・クッキー
エリオット・エイブラムスがトランプ政権のベネズエラ特使に任命された。彼は、1980年代のコントラ戦争やエルサルバドルでの死部隊関与で知られる、論争的な人物である。著者は、エイブラムスを「ワン・タフ・クッキー(したたかな人物)」と表現し、彼が過去の汚点にもかかわらず、ラテンアメリカでの「政権転換」の専門家として再登板したことを指摘する。彼の関与は、米国の介入主義の持続性と、手段を選ばない姿勢を象徴していた。
第9章 カルロス・ベッチオ:エクソンから大使へ
グアイドが「駐米大使」に任命したカルロス・ベッチオは、エクソンモービルなどの石油メジャーで長年ロビイストとして働いていた人物である。彼の経歴は、グアイド「政権」と多国籍石油資本との深い癒着を如実に物語る。ベッチオの主な役割は、米国政府と企業界の間に立って、将来のベネズエラ石油利権の再分配を保証することにあった。彼の存在は、クーデターの背後にある経済的動機を明確に示す。
第10章 善良な者、悪しき者、そしてリカルド・ハウスマン
ハーバード大学で教鞭を執る経済学者リカルド・ハウスマンは、グアイド「政権」の「経済政策」の策定者としての役割を担った。彼は、「ハイパーインフレの終焉」と「経済再建」を公約したが、その内容は国有資産の大規模な民営化と外資への開放という新自由主義的正統派の処方箋であった。著者は、ハウスマンを「善良な者」としての学者の仮面を被った「悪しき者」のイデオローグとして描く。彼の計画は、ベネズエラの経済的主権を完全に放棄し、外国資本に従属させるものだった。
第11章 人権と人権侵害
米国とその同盟国は、マドゥロ政権を「人権侵害」の加害者として非難し、介入の主要な大義名分とした。しかし著者は、この「人権」レトリックが二重基準で用いられていると指摘する。一方で、ベネズエラ政府を糾弾し、他方で、ベネズエラ国民に壊滅的打撃を与える制裁については沈黙する。さらに、グアイド側による暴力や違法行為は見過ごされた。人権は、政敵を非合法化するための政治的武器として機能していた。
第12章 歴史の始まりと最初の男
この章では、ウゴ・チャベスが始めた「ボリバル革命」(チャビスタ運動)の歴史的・思想的ルーツを概観する。先住民や解放者シモン・ボリバルの抵抗の歴史、そして貧困層の政治的覚醒が、チャベスとその後継者たちの基盤を形成したことを説明する。2014年のチャベスの死後、マドゥロが後継者となったが、彼はチャベスのようなカリスマはなかった。しかし、彼は帝国主義的攻撃に対する国家主権の守護者としての立場を固め、「最初の男」としての役割を引き受けた。
第13章 大勝負
2019年4月30日、グアイドは小規模な軍部隊の反乱を呼びかけ、クーデター決行を試みた(「ラ・カーロータの蜂起」)。ジョン・ボルトンは「大勝負」が始まったと宣言した。しかし、この試みはあっけなく失敗し、大多数の軍はマドゥロへの忠誠を維持した。この失敗は、グアイド「政権」が国内にいかなる実力も持たない「ペーパータイガー」であることを世界に示し、転換点となった。著者は、この蜂起が拙速で準備不足であり、米国の過大評価と現実認識の欠如を反映していたと分析する。
第14章 シトゴの陰謀
クーデターが実力行使で失敗した後も、グアイド「政権」には一つの重要な権限が与えられていた。それが、ベネズエラの海外資産、特に米国内の石油精製・販売子会社「シトゴ・ペトロリアム」へのアクセス権である。米国財務省はグアイド側をPDVSAの正当な代表と認め、シトゴの債券発行や売却を可能にした。著者は、これを組織的な資産略奪、「シトゴの陰謀」と呼ぶ。クーデターは地上の政権を変えられなかったが、国外資産の剥奪という点では部分的に「成功」した。
第15章 ギデオン作戦
2020年5月、ベネズエラの海岸に傭兵部隊が侵入し、マドゥロ大統領の拉致や要人の暗殺を企てたが、ベネズエラ軍に直ちに鎮圧された(「ギデオン作戦」)。この作戦は、米国人傭兵を含むお粗末な計画であり、グアイド派の関係者も関与していた。この事件は、クーデター支持者が次第に絶望的になり、荒唐無稽な手段に頼るようになったことを示す。また、米国政府が直接関与を否定したものの、その周辺で非正規戦が進行していた実態を暴露した。
第16章 選挙例外主義
米国とその同盟国は、2020年の議会選挙を不正としてボイコットを呼びかけ、その結果マドゥロ与党が圧勝した。著者はこれを「選挙例外主義」と批判する。つまり、自国に都合の悪い選挙結果は、事前から「不正」のレッテルを貼り、民主的正統性を否定する態度である。この戦略は、国内の野党を分裂させ、グアイド派をさらに無力化する結果をもたらした。民主的手続き自体を否定することは、米国が掲げる「民主主義」の大義自体を空洞化させた。
第17章 黄金の恍惚
ベネズエラが英国のイングランド銀行に預けていた約10億ドル相当の金塊の引き出しをめぐる法的闘争を追う。英国裁判所は、グアイドを「大統領」と認める英政府の立場に従い、マドゥロ政権への金の返還を拒否した。この事例は、「承認」が単なる政治的声明ではなく、他国の資産を凍結・没収する強力な法的武器となることを示す。著者は、国際金融システムが、かつての植民地主義のように、帝国の利益に奉仕するように機能していると指摘する。「黄金の恍惚」とは、略奪される富への帝国の欲望を表している。
あとがき:多次元のチェス盤
最終章は、ベネズエラの事例をグローバルな地政学的変動の中に位置づける。米国の一極支配は、ベネズエラのような抵抗、そして中国やロシアなどの新興勢力の台頭により、終わりつつある。著者は、現代の国際関係を「多次元のチェス盤」に例える。軍事、経済、情報、外交など、複数の局面で同時に戦いが繰り広げられている。ベネズエラでのクーデター失敗は、この新しい多極化世界において、米国がもはやすべての局面を支配できないことを示す重要な事例である。それは帝国の黄昏と、より多様な国際秩序の可能性を告げるものである。
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