書籍『国家はいかに思考するか:外交政策の合理性』ジョン・J・ミアシャイマー、他 2023

LGBTQ、ジェンダー、リベラル、ウォークネスジョン・ミアシャイマー戦争・国際政治新世界秩序(NWO)・多極化・覇権科学主義・啓蒙主義・合理性

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英語タイトル:『How States Think: The Rationality of Foreign Policy』John J. Mearsheimer and Sebastian Rosato 2023

日本語タイトル:『国家はいかに思考するか:外交政策の合理性』ジョン・J・ミアシャイマー、セバスティアン・ロサート 2023

目次

  • 序文 / Preface
  • 第1章 合理的行為者の仮定 / The Rational Actor Assumption
  • 第2章 戦略的合理性と不確実性 / Strategic Rationality and Uncertainty
  • 第3章 戦略的合理性の定義 / Defining Strategic Rationality
  • 第4章 対立する定義 / Contending Definitions
  • 第5章 合理性と大戦略 / Rationality and Grand Strategy
  • 第6章 合理性と危機管理 / Rationality and Crisis Management
  • 第7章 非合理的国家行動 / Nonrational State Behavior
  • 第8章 目標合理性 / Goal Rationality
  • 第9章 国際政治における合理性 / Rationality in International Politics

本書の概要

短い解説

本書は、国際関係理論の中核的仮定である「国家は合理的行為者である」という命題を理論的・実証的に検証し、その妥当性を論証することを目的としている。

著者について

著者ミアシャイマーは攻撃的リアリズムの代表的理論家として知られ、シカゴ大学教授を長年務めた。共著者ロサートはノートルダム大学教授。両者は現実主義的視点から国際政治を分析し、理論と歴史的事例を組み合わせた実証研究を重視する立場を取る。

主要キーワードと解説

  • 主要テーマ:国家の戦略的合理性

本書の要約

本書は国際関係理論の根幹をなす「合理的行為者の仮定」を擁護する包括的研究である。近年、政治心理学や行動経済学の影響により、国家指導者は認知バイアスや感情に支配され、非合理的決定を頻繁に行うという見解が広まっている。しかし著者らは、こうした批判は合理性の定義そのものに問題があると主張する。

著者らが提示する合理性の定義は二つの要素から構成される。個人レベルでは、政策決定者が「信頼できる理論」(realistic assumptions、論理的一貫性、実証的証拠に基づく理論)を用いて世界を理解し、政策を選択することである。国家レベルでは、こうした個人の見解が「熟議的過程」(活発で制約のない議論と最終決定者による選択)を通じて集約されることである。

この定義に基づき、著者らは10の歴史的事例を詳細に検証する。第一次大戦前のドイツ、第二次大戦前の日本とフランス、冷戦後のアメリカのNATO拡大と自由覇権戦略、1914年7月危機でのドイツ、真珠湾攻撃での日本、バルバロッサ作戦でのドイツ、キューバ危機でのアメリカ、チェコ侵攻でのソ連である。これらはいずれも「非合理的」とされてきた事例だが、著者らの分析では全て合理的決定であったことが示される。

一方で、真に非合理的な4事例も検討される。20世紀初頭ドイツの海軍建設、第二次大戦前英国の大陸不関与政策、1961年のピッグス湾侵攻、2003年のイラク侵攻である。これらは信頼できない理論や感情的思考に基づき、かつ熟議過程を欠いていた。

期待効用最大化理論についても批判的検討を加える。この理論は確実性や危険の世界では有効だが、情報が不足し不確実性が支配する国際政治では適用不可能である。政策決定者は客観的確率を算出できないため、主観的確率に頼らざるを得ないが、これでは合理的選択は不可能である。

政治心理学者が強調するアナロジーやヒューリスティクスの使用についても疑問を呈する。日常生活では有用な認知的ショートカットも、国家安全保障という高い賭けが伴う状況では、指導者は理論的思考を行う強いインセンティブを持つ。

目標合理性についても論じ、合理的国家は生存を最優先目標とし、他の全ての目標をそれに従属させると主張する。歴史的事例は、国家が繁栄やイデオロギーより生存を重視してきたことを示している。

結論として、著者らは国家の合理性が国際政治の常態であり、リアリズムやリベラリズムといった主要理論の基盤は依然として堅固であると結論づける。ただし、合理性は道徳性と同義ではなく、合理的行為者も時として暴力的行動を選択することを認める。

各章の要約

第1章 合理的行為者の仮定
「理論的基盤の危機」

近年、アメリカの指導者らは外国の敵対者を「非合理的」と形容することが常態化している。学術界でも行動革命により、人間は合理的決定を頻繁に誤るという見解が広まった。しかし国際関係理論の多くは合理的行為者仮定に基づいており、この仮定が誤りなら理論体系全体が危機に瀕する。本章では合理性の定義と国家の実際の行動パターンという二つの根本問題を設定し、信頼できる理論と熟議という新たな合理性定義を提示する。

第2章 戦略的合理性と不確実性
「不確実世界での思考」

戦略的合理性は不確実な世界で意味を理解し航行するための概念である。個人レベルでは合理性は思考過程の属性であり、合理的個人は批判的能力を用いて世界の仕組みを理解し決定を下す。集団レベルでは、政策決定者の見解を体系的に検討し最終選択を行う仕組みが必要となる。国際政治は情報不足と不確実性が支配する領域であり、政策決定者は常に限られた信頼性の低い情報に基づいて判断せざるを得ない。四つの歴史的事例を通じて、不確実性が政策決定に与える影響を具体的に示す。

第3章 戦略的合理性の定義
「理論主導の思考」

合理的政策決定者は「理論人間」(homo theoreticus)であり、信頼できる理論を用いて世界を理解し政策を決定する。信頼できる理論とは現実的仮定、論理的一貫性、実証的証拠に基づく確率的説明である。国家レベルでは熟議的過程、すなわち活発で制約のない議論と最終決定者による選択が必要である。理論と政策は不可分の関係にあり、実務家も理論に基づいて行動している。信頼できる理論の目録にはリアリズムとリベラリズムの諸理論が含まれる。合理性は過程に関わる概念であり、結果とは区別される。

第4章 対立する定義
「期待効用の限界」

合理的選択理論者と政治心理学者は合理性を期待効用最大化と定義するが、これは欠陥のある定義である。合理的選択理論者は個人が「あたかも」効用を最大化するように行動すると仮定するが、実際の思考過程については何も語らない。政治心理学者は期待効用計算の失敗を非合理性の証拠とするが、不確実な国際政治では期待効用最大化は不可能である。彼らが主張するアナロジーやヒューリスティクスの使用も、高い利害が関わる外交政策決定では稀である。両学派とも国家レベルの集約過程について十分に論じていない。

第5章 合理性と大戦略
「歴史的検証」

大戦略決定における5つの「非合理的」とされる事例を検証する。第一次大戦前ドイツの三国協商対処戦略、第二次大戦前日本の対ソ連戦略、第二次大戦前フランスのナチス脅威対処戦略、冷戦後アメリカのNATO拡大、冷戦後アメリカの自由覇権戦略である。全ての事例で、政策決定者は信頼できるリアリスト理論(ドイツ、日本、フランス)またはリベラル理論(アメリカ)に基づいて行動していた。熟議過程も、初期合意、議論後の合意、最終決定者の裁定という形で機能していた。構造的説明も可能で、多極世界ではリアリスト思考、単極世界ではリベラル思考が優勢となる。

第6章 合理性と危機管理
「危機下の合理性」

5つの危機決定事例を検証する。1914年ドイツの開戦決定、1941年日本の真珠湾攻撃、1941年ドイツのソ連侵攻、1962年アメリカのキューバ危機処理、1968年ソ連のチェコ侵攻である。全て合理的決定であった。ドイツは予防戦争論理に基づき、日本は勢力均衡維持のため、ナチスドイツは覇権確立と予防戦争のため決定した。アメリカは軍事行動と強制外交の理論を検討し、ソ連はリアリストとイデオロギー理論に基づいて行動した。朝鮮戦争とベトナム戦争のエスカレーション決定も、ジャニスの「集団思考」論に反して合理的であった。時間的制約は熟議を妨げない。

第7章 非合理的国家行動
「例外的な失敗」

4つの真に非合理的事例を検証する。20世紀初頭ドイツのリスク艦隊建設、1930年代後半英国の無責任戦略、1961年アメリカのピッグス湾侵攻、2003年アメリカのイラク侵攻である。全て信頼できない理論に基づき、非熟議的過程の産物であった。ティルピッツのリスク理論は勢力均衡論に反し、チェンバレンは恐怖と希望に駆られた感情的思考に陥った。CIAは成功不可能な作戦を情報操作により推進し、チェイニー陣営は批判を抑圧し強制により政策を推進した。非合理性の原因は「支配者」型指導者の存在にある。「促進者」型なら熟議が機能するが、支配者は議論を封じ込める。

第8章 目標合理性
「生存の最優先」

目標の合理性について論じる。合理的国家は生存を最優先目標とし、他の全ての目標をそれに従属させる。これは論理的・実証的に証明可能で、生存なくして他の目標達成は不可能である。三十年戦争では宗教目標より勢力均衡が重視され、1914年ドイツは繁栄より生存を選択した。第二次大戦中英国は反共主義よりソ連との同盟を選び、民主国家も生存が脅かされれば平和主義を放棄する。過剰拡張や過小均衡は生存軽視ではなく、生存確保のための戦略的選択である。中国の核武装も生存確保の証拠であり、EU統合も主権放棄ではなく権限委譲による生存戦略である。

第9章 国際政治における合理性
「理論と実践への含意」

国家の合理性は国際政治の常態であり、この発見は理論と実践に重要な含意を持つ。学術界では、リアリズムとリベラリズムの理論的基盤が確認され、合理的行為者仮定への批判は根拠を失う。政策実務では、他国の行動予測が可能となり効果的な外交政策立案の基盤が提供される。ただし合理性と道徳性は異なる概念であり、合理的行為者も時として暴力的行動を選択する。合理性は平和を保証しないが、国際政治を理解し航行するための最良の手段である。批判者らの主張とは異なり、国家指導者は理論的思考を行い熟議を重視している。


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