
英語タイトル『Chasing the Sun: The new science of sunlight and how it shapes our bodies and minds』
日本語タイトル『太陽を追いかけて:太陽光の新しい科学と、私たちの心身を形作る仕組み』
https://editor.note.com/notes/ne0fb18780c19
本書の基本内容
短い解説:
本書は、現代の屋内中心の生活で太陽光との関係が希薄になった私たちに向けて、太陽光が心身の健康に与える影響を最新科学に基づき解き明かし、健康的な生活を送るための実践的な知見を提供することを目的としている。
著者について:
著者リンダ・ゲッデスは、生物学、医学、テクノロジーを専門とする科学ジャーナリストである。ニュー・サイエンティスト誌の編集者兼記者として働き、英国科学作家協会賞の最優秀調査報道賞を含む多数のジャーナリズム賞を受賞している。前著に『Bumpology: The myth-busting pregnancy book for curious parents-to-be』がある。本書では、世界中の研究者へのインタビューと自身の実験を通じて、太陽光と人間の生物学の深い関係を探求している。
主要キーワードと解説
主要テーマ:概日リズム:約24時間周期で変動する私たちの体内の生物学的リズム。太陽光がその主要な同調因子である。
新規性:非視覚的な光の影響:光が、ものを見るためだけでなく、体内時計の調整、免疫機能、気分、代謝など、多岐にわたる生理的プロセスに直接影響を与えること。
興味深い知見:光と闇のバランスの重要性:過度の夜間の人工光曝露と日中の日光不足が、睡眠障害、うつ病、肥満、糖尿病、がんなど、多くの現代病の一因となっている可能性。
本書の要約:
本書は、生命の起源以来、太陽が私たちの生物学に深く刻み込まれてきたことを明らかにする。人類は太陽を崇拝し、その治癒力を利用してきた歴史を持つが、現代社会では屋内生活と夜間の人工光曝露により、この自然な関係が歪められている。
私たちの体のほぼすべての細胞には概日リズムを刻む時計遺伝子が存在し、睡眠、ホルモン分泌、代謝、免疫機能など、ほぼすべての生理的プロセスが約24時間周期で変動している。このリズムの統率者である脳の視交叉上核(SCN)は、目の網膜にある特殊な光感受性細胞(ipRGCs)を通じて太陽光を感知し、体内時計を外界の24時間周期に同調させる。しかし、夜間のブルーライトを豊富に含む人工光はこの同調を乱し、メラトニンの分泌を抑制し、睡眠と健康に悪影響を及ぼす。この概日リズムの乱れ(概日ミスアラインメント)は、シフトワークや時差ぼけだけでなく、週末の寝だめ(社会的ジェットラグ)によっても引き起こされ、様々な病気のリスクを高める。
太陽光の影響は体内時計への調整だけにとどまらない。皮膚への紫外線(UVB)曝露はビタミンDの生成を促し、骨の健康や免疫機能の維持に不可欠である。さらに、最近の研究では、太陽光が皮膚で一酸化窒素(NO)を放出させ、血圧を下げる効果や、免疫反応を調整する効果があることもわかってきた。これらの発見は、適度な日光曝露が、ビタミンDサプリメントだけでは代替できない健康効果をもたらす可能性を示唆している。
一方で、太陽光は強力な二面性を持つ。過度の紫外線曝露は皮膚がんのリスクを高めるが、適度な日光は、うつ病(特に冬季うつ病:SAD)、小児の近視、多発性硬化症などの自己免疫疾患に対して予防的な効果を示す証拠が集まっている。鍵は「適度な曝露」と「日焼け(炎症)を避ける」ことにある。
著者は、アーミッシュのコミュニティや、日照時間が極端に短い北欧の人々の生活から、自然な光-闇のサイクルに沿った生活の知恵を学ぶ。また、病院や介護施設での概日照明の導入、がん治療の時間治療(クロノセラピー)、精神科における覚醒療法(睡眠剥奪と光療法の組み合わせ)など、光と体内リズムの科学を応用した新しい治療法の可能性を探る。
最終的に本書は、私たちが太古から太陽の子であることを思い出させ、人工光に満ちた現代社会においても、日中は積極的に太陽光を浴び、夜は暗い環境を確保することで、心身の健康を取り戻す道筋を示している。
特に印象的な発言や重要な引用
「私たちの生物学は、太陽と協力して機能するように設定されている。」
「概日リズムの乱れは、今日社会を苦しめているあらゆる主要な病気の特徴として確認されている、抑うつからがん、心血管疾患まで。」
「私たちは回転する惑星から生まれ、その惑星自体が星明りによって形作られてきた。そして私たちは自分自身の電気の星を生み出して夜を照らしているが、私たちの生物学は依然として、それらすべてよりも強大な君主、私たちの太陽に縛られているのである。」
サブトピック
体内時計の仕組み
私たちの体には、ほぼすべての細胞に概日リズムを生み出す時計遺伝子が存在する。この細胞時計の親時計であり、同期の基準点となるのが、脳の視床下部にある視交叉上核(SCN)である。この微小な細胞の集まりは、網膜の特殊な光感受性細胞(ipRGCs)を通じて外界の光を感知し、体内時計を24時間周期にリセットする。光はストップウォッチのリセットボタンのようなもので、夕方や夜の光は時計を遅らせ(夜更かし傾向に)、朝の光は時計を進ませる(早起き傾向に)。このシステムが乱れると、非24時間睡眠覚醒症候群のような深刻な睡眠障害を引き起こす。
人工光が睡眠を奪う
エジソンの白熱電球の発明以来、人工光は私たちの生活を一変させた。しかし、夜間の光、特にLEDスクリーンや電灯が発するブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、体内時計を遅らせる。その結果、入眠が困難になり、睡眠の質と量が低下する。アーミッシュのように夜間の照明が少ないコミュニティでは、日没後は暗く、日中は屋外で過ごす時間が長いため、睡眠の質が高く、冬季うつ病の発生率も極めて低い。研究により、日中に十分な明るい光(特に午前中の光)を浴びることで、夜間の人工光の悪影響を相殺し、睡眠と日中の警戒心を改善できることが示されている。
シフトワークの健康リスク
看護師、工場労働者、パイロットなど、世界の労働人口の15~30%が何らかの形でのシフトワークに従事している。夜間勤務は、睡眠不足に加えて、体内時計と外部環境の時間の不一致(概日ミスアラインメント)を引き起こす。これは単に睡眠が乱れるだけでなく、ホルモン分泌、代謝、免疫機能など、体の基本的なプロセスの同期が乱されることを意味する。その結果、シフトワーカーは肥満、2型糖尿病、心血管疾患、うつ病、さらには乳がんや前立腺がんなどの特定のがんのリスクが高まる。2007年、国際がん研究機関(IARC)は、概日リズムを乱すシフトワークを「人に対しておそらく発がん性がある」と分類した。
太陽光の治癒力の再発見
古代から太陽光は治療に用いられてきた。19世紀末から20世紀初頭にかけて、デンマークの医師ニールス・フィンセンは、結核菌による皮膚病「狼瘡」の治療に紫外線を集中照射する「フィンセン灯」を開発し、ノーベル賞を受賞した。スイスの医師アウグスト・ロリエは、アルプスでの太陽光療法(ヘリオセラピー)で骨格結核の患者を治療した。当時はビタミンDや光の殺菌作用が知られておらず、太陽光は「万能薬」としてもてはやされた。抗生物質の登場で一旦廃れたが、抗生物質耐性菌の出現により、光の殺菌作用(特にUVC光)に対する関心が再び高まっている。
ビタミンDを超えた太陽光の恩恵
太陽光はビタミンDの生成を促し、骨の健康を保つ。しかし、近年の研究は、ビタミンD以外の経路による太陽光の健康効果を明らかにしている。その一つが、皮膚に蓄えられた一酸化窒素(NO)の放出である。太陽光(UVA)が皮膚を照射すると、一酸化窒素が放出され、血管を拡張させて血圧を下げる。このメカニズムは、高緯度地域で心血管疾患が多い理由の説明や、太陽光が代謝機能を改善する効果の一因とも考えられている。また、紫外線には免疫反応を抑制する効果もあり、多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患の治療法としての研究が進められている。
冬の闇と心の健康
高緯度地域では、冬季の日照時間の短縮が冬季うつ病(SAD)を引き起こす。これは、過眠、過食(特に炭水化物への渇望)、気分の落ち込みなどを特徴とする。原因としては、冬季の遅い日の出によって体内時計が遅れ、外部社会の時間とずれてしまう「位相遅延説」や、メラトニン分泌期間の延長が脳内の甲状腺ホルモンやセロトニンの合成を抑制するため、などの説がある。いずれにせよ、特に朝の高照度光療法は、SADに対する効果的な治療法として確立されている。ノルウェーのトロムソのように、極夜(太陽が昇らない期間)を経験する地域では、冬を「居心地の良い(コージーな)時間」として前向きに捉える文化的なマインドセットが、冬の憂鬱への抵抗力になっている可能性もある。
体内時計を活用した医療
体内時計の科学は、新しい治療法の開発に応用されている。精神科では、うつ病(特に双極性障害)の治療に、一晩中の覚醒療法と朝の光照射、リチウム投与を組み合わせた「三重クロノセラピー」が試みられ、薬物療法が無効だった患者の約7割に改善が見られている。また、病院や介護施設では、日中は青白い明るい光、夜間は暖色系の暗い光を提供する概日照明を導入することで、患者や認知症高齢者の睡眠、気分、回復速度の改善が図られている。さらに、がんの化学療法において、抗がん剤の投与時間を患者の体内リズムに合わせる時間治療(クロノセラピー)を行うことで、副作用を大幅に軽減し、治療効果を高めることができる。
社会の時間と体内時計の調和
私たちの社会生活の時間(学校や仕事の始業時間、タイムゾーン、サマータイム(DST))は、多くの場合、私たちの体内時計と一致していない。特に思春期の青少年は生物学的に夜型にシフトするため、早い始業時間は慢性的な睡眠不足と社会的ジェットラグを引き起こし、学業成績や精神衛生に悪影響を及ぼす。学校の始業時間を遅らせる試みは、生徒の睡眠時間、出席率、成績の向上に確実に結びついている。職場でも、従業員のクロノタイプ(朝型・夜型)を考慮したフレックスタイム制の導入は、生産性と幸福感の向上に寄与する可能性がある。ドイツのバート・キッシンゲン市は、社会全体で体内リズムを尊重する「クロノシティ」を目指す先駆的なプロジェクトを推進している。
本文
Chasing the Sun: How the Science of Sunlight Shapes Our Bodies and Minds
太陽を追って
リンダ・ゲディス著
Bumpology: 好奇心旺盛な両親になるための妊娠に関する神話の真実を暴く本
リンダ・ゲディス
2019年に英国で初版発行
リンダ・ゲディスは生物学、医学、テクノロジーを専門とするサイエンス・ジャーナリストである。ニューサイエンティスト誌の編集者および記者として勤務し、そのジャーナリズムで多数の賞を受賞しており、その中には英国サイエンスライター協会の最優秀調査報道賞も含まれる。著書に『Bumpology: The Myth-Busting Pregnancy Book for Curious Parents-To-Be』がある。
明るい気分で長くなる夕暮れを追う私の母へ
目次
- はじめに
- 1. 体内時計
- 2. 電気の体
- 3. 交代制勤務
- 4. ドクター・サンシャイン
- 5. 保護因子
- 6. 暗い場所
- 7. 真夜中の太陽
- 8. 光治療
- 9. 体内時計の微調整
- 10. 社会のための時計
- エピローグ
- 謝辞
- 注釈
- 索引
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