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Blood Brain Barrier(BBB)
概要
血液脳関門とは
脳はひじょうに脆弱な神経器官であるため、ジャンクなものが脳へ入らないための物理的な障壁(タイトジャンクション)が存在する。
その障壁のことを血液脳関門と呼ぶ。英語の頭文字をとってBBBとも呼ばれている。
血液脳関門は分子輸送系、シグナル伝達系など、中枢神経の恒常性を維持するための重要な役割もあわせもっている。
Wikipedia 血液脳関門
アルツハイマー病創薬を阻むBBB
この血液脳関門の障壁は多くの治療剤の通過も阻むため、アルツハイマー病を始め脳神経疾患の創薬をむずかしくさせている。
直接的に、抗酸化物質、神経保護物質を摂取しても体内では作用するけれども脳内へは透過せずに脳の抗酸化作用や神経保護にはさほど効果を発揮しないものが大半だったりする。
そのため超音波をあてて、強制的にBBBを拡大させて薬を運んでしまおうという研究もあるほどだ。
薬物BBB通過 7つの経路 概略図
(a)リーク経路
(b)脂溶性物質の拡散経路(受動輸送)
物質の濃度差を駆動力とする膜輸送[R]
(c)キャリア媒介トランスサイトーシス
グルコース、アミノ酸、プリン塩基、ヌクレオシド、コリンなどの脳に必要な物質を送達するためのキャリアとして、内皮上の輸送タンパク質によって機能する。
(d)能動排出トランスサイトーシス
(e)特異的受容体介在性トランスサイトーシス(RMT)
リガンドの受容体結合を必要とし、脳内内皮(グルコース輸送体)を横切るのに、ペプチド、インスリン、トランスフェリンのような巨大分子と種々のタンパク質を輸送することができる。特定の物質を選択的に輸送できるメリットがある。
トランスフェリン受容体は、鉄の細胞内取り込みを行うのが本来の役割だが、脳内薬物デリバリーに利用される代表的なRMT[R]
(f)吸着性トランスサイトーシス(AMT)
大脳内皮細胞の表面は負に帯電しているため、正に帯電したタンパク質は吸着媒介トランスサイトーシスによって大脳内皮細胞の表面に吸収される可能性がある。ヒストン、プロタミン、アビジンなど、カチオン性タンパク質を含む多くの分子が透過する。RMTと比べて高濃度でも飽和しないため、より多くの分子を細胞内に取り込むことができる。
(g)タイトジャンクション(密着結合)
Mfsd2a トランスサイトーシス抑制メカニズム
中枢神経内皮細胞のトランスサイトーシスを介した脂質輸送は、Mfsd2aによって自律的に調節されている。[R]
カベオラ経路(caveolae )
DHA輸送
Mfsd2aは、DHAを脳に送達する脂質輸送体として同定されている。脂質組性がCNS内皮細胞のBBB機能の重要な調節因子であり、Mfsd2aの不在によるトランスサイトーシス・カベオラ小胞の存在がリーキーBBBの原因となる。[R]
カベオラの形成はCav-1とコレステロールの両方に依存する。膜の流動性が高くなると膜の曲率が低くなりカベオラ形成には好ましくない環境となる。[R]
オメガ3脂肪酸
マウスへのオメガ3脂肪酸を豊富に含む食事の投与は、コレステロールとCav-1が同時に減少することが示されている。[R]
血液脳関門への薬物送達方法
BBBを透過させるための主な4つの方法
直接注入
- メリット 高い局所薬物濃度を達成できる。全身投与の回避
- デメリット 副作用がある、制御が難しい、繰り返す必要がある
経鼻送達
- メリット 非侵襲的、実行と繰り返しが簡単。リスクが低い
- デメリット 薬物送達量は少ない、個人差がある。哺乳類とげっ歯類で鼻腔粘膜からの送達メカニズムが完全には一致しないため研究がむずかしい。
浸透圧溶液の動脈注入
- メリット 高い薬物濃度が達成できる。大規模な臨床研究の蓄積がある。
- デメリット 全身麻酔が必要、 繰り返すのは難しい
小分子薬の脂質化
- メリット 操作が簡単。脳全体に届けられる、
- デメリット 容易にエーテル化される薬物にしか適用できない。
上記の方法の多くが侵襲的であるため、感染や脳外傷のリスクにつながる可能性がある。
また、非侵襲的に繰り返しを必要とする投与方法も、脳の広い領域へ薬物を送ることができない可能性があり、通常届くことが望まれない白質に送達される。[R]
物理的方法
集束超音波(FUS)
MRIとして診断のために使われていた医療技術だが、造影剤を使用して一時的にBBBを開くことができる。
非侵襲的である、開口位置を選択できる。明らかな副作用はない、再利用可能など、の利点がるが、パラメーターが多く、組織損傷のリスクも有る。[R][R]
化学的方法
薬物の化学修飾
-OH、-NH 2および-COOH末端を持つ薬物は低親油性を示す。これらの薬物はエステル化により親油性薬物を生成できる。
例えばモルヒネの表面のヒドロキシがアセチルによって修飾されると、BBBの浸透は100倍以上改善される。
マンニトールまたは芳香物質と薬物のカップリング
マンニトール
浸透圧剤であるマンニトールを高浸透圧で内皮細胞を収縮させ、内皮タイトジャンクションを開き、大きな分子を通すためのBBBの受動的拡散を増加させる。
ただし、BBBの開放は非選択的であり、様々な分子量の化合物が流入する危険性がある。
ボルネオール
ボルネオールは中国の伝統医学でアロマオイルなどとして用いられる。ボルネオールはマウスへの経口投与後20分で増強し、1時間でピークに達し、8時間後には正常に戻った。[R][R]
ボルネオールの皮質への送達が最も大きく線条体への送達が最も少なく、海馬と視床下部ではその中間であった。[R]
ボルネオールがBBBを開く可能性のあるメカニズムは以下が想定されている。[R]
- 内皮タイトジャンクションの緩み
- ABC薬物排出トランスポーターの発現の減少
- 一時的な血管拡張性神経伝達物質の増強
化学薬物送達システム(CDDS)、BBBを通過する薬物担体を利用
化学薬品送達システム(CDDS)
脳を標的とする鼻から脳への輸送メカニズムの利用[R]
ボルネオールとナノ粒子の組み合わせによるフペルジンAの薬理学的効果の改善[R]
生物学的方法
タンパク質やペプチドなどの高分子は、エンドサイトーシスを利用してBBBを通過させている可能性がある。
ナノ粒子
ナノ粒子はBBBに浸透するための新しい輸送手段。サイズが10〜1000 nmのナノ粒子は、マイクロエマルジョン、ポリマー、無機材料で構成される。
BBB浸透を増加させる主流の材料はリポソーム、高分子ナノ粒子、固体ナノ粒子[R]
リポソーム
リポソームは長い間薬物送達システムで使用されており、簡単な調製、低毒性、比較的低コストという利点を持っている。
高分子ナノ粒子(ポリマーナノ粒子)
アルキルシアノアクリレート、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(DLラクタイドCOグリコライド)によって調製されたナノ粒子[R][R][R]
固体脂質ナノ粒子
P-gp阻害剤・モジュレーター
ベラパミル、シクロスポリンA、タモキシフェンなど
P糖タンパク質は、CNSから代謝産物や生体異物を血流に排出する生理学的機能を持つ排出トランスポーター。脳毛細血管内皮細胞上に発現するP-gp を阻害することによりBBBの透過性を高める。
てんかんや脳腫瘍などの一部の神経疾患では、P糖タンパク質の過剰発現が報告されている。[R]
タリキダールの健常者への投与[R]
エクソソーム
血液脳関門を透過する神経保護物質
血液脳関門を透過し神経保護特性をもつ可能性のある化合物を、実効性はひとまず置いて、リストアップしてみた。
ハーブ類・ポリフェノール
食品に含まれる栄養化合物
- ケルセチン[R]
- クルクミン(リポソーム)[R][R][R][R]
- エビガロカテキン EGCG[R][R]
- グレープシードエクストラクト
- アスタキサンチン[R]
- アントシアニン[R][R][R]
- プテロスチルベン[R]
- ヘスペリジン[R]
- ナリンゲニン[R]
- ナリンジン[R]
- ルチン[R][R]
- ケニヤンパープルティー・アントシアニン[R]
- カフェイン酸フェネチルエステル(プロポリス成分)[R][R]
- ルテオリン
- レスベラトロール[R][R][R][R]
- フェルラ酸[R][R][R]
ビタミン類
- デヒドロアスコルビン酸(ビタミンC酸化化合物)[R]
- トコトリエノール(ビタミンE)[R]
- ナイアシン & ニコチンアミド
- アルファリポ酸[R][R][R][R][R][R][R]
- コエンザイムQ10[R]
- オメガ3
- セレニウム
- カルニチン[R]
その他
ホルモン・リガンド
薬剤
- アスピリン[R]
- イデベノン[R][R]
- シルデナフィル[R]
- メチレンブルー[R]
- リラグルチド(糖尿病薬)[R]
- ニコチン
- メトホルミン[R]
- ロバスタチン・シンバスタチン[R]
- リバスチグミン [R]