
タイトル
英語タイトル:『Perversion of Justice』 Julie K. Brown 2021
日本語タイトル:『正義の歪み:権力と金が司法を捻じ曲げたジェフリー・エプスタイン事件』 ジュリー・K・ブラウン 2021
目次
- 前書き:/ Preface
- 序章 / Introduction
- 第1章 ジョー / Joe
- 第2章 「ジェーン・ドウ」を見つけて / Finding Jane Doe
- 第3章 警察の捜査 / The Police Probe
- 第4章 エピー / Eppy
- 第5章 マイアミ・ヘラルド紙 / The Miami Herald
- 第6章 行き止まり / Dead Ends
- 第7章 最初の取引 / The First Deal
- 第8章 ミュージック・シティ / Music City
- 第9章 血の金 / Blood Money
- 第10章 マイク / Mike
- 第11章 カネの流れを追え / Follow the Money
- 第12章 永遠に変わった人生 / Forever Changed
- 第13章 閏年作戦 / Operation Leap Year
- 第14章 甘すぎる司法取引 / The Sweetheart Deal
- 第15章 狼たちとのダンス / Dancing with Wolves
- 第16章 コートニー / Courtney
- 第17章 バージニア / Virginia
- 第18章 エプスタイン氏を探して / Finding Mr. Epstein
- 第19章 マー・ア・ラゴ / Mar-a-Lago
- 第20章 マダム・ギレーヌ / Madam Ghislaine
- 第21章 王子と笛吹き男 / The Prince and the Piper
- 第22章 スターの力 / Starr Power
- 第23章 おとりとすり替え / Bait and Switch
- 第24章 釈放切符 / The Get Out of Jail Free Card
- 第25章 靴底が擦り切れる取材 / Shoe-Leather Reporting
- 第26章 節目 / Milestones
- 第27章 つわりの朝 / Morning Sickness
- 第28章 余波 / Aftershocks
- 第29章 ダーショウィッツ対ブラウン / Dershowitz v. Brown
- 第30章 連邦政府 / The Feds
- 第31章 ジャーナリズムの抵抗 / The Journalism Resistance
- 第32章 ケイティ・ジョンソン / Katie Johnson
- 第33章 花火 / Fireworks
- 第34章 謝罪も後悔もなし / No Apologies, No Regrets
- 第35章 受刑者番号76318-054 / Inmate 76318-054
- 第36章 ペドファイル島 / Pedophile Island
- 第37章 ハーバード、MIT、そして億万長者クラブ / Harvard, MIT, and the Billionaires Club
- 第38章 隠れもないところに / In Plain Sight
- 第39章 ジェフリー・エプスタインは自殺していない / Jeffrey Epstein Didn’t Kill Himself
- 第40章 ボス / The Boss
- 第41章 陰謀論 / Conspiracies
- 第42章 清算の時 / The Reckoning
- エピローグ:/ Epilogue
本書の概要
短い解説:
本書は、超富裕層の金融業者ジェフリー・エプスタインによる大規模な未成年者性虐待事件を、司法と権力がいかに歪められ、被害者たちが見捨てられたかを、ジャーナリストの著者が自らの調査報道の過程と共に詳細に検証するノンフィクションである。一般読者に対して、正義とは何かを問い直すことを目的としている。
著者について:
著者ジュリー・K・ブラウンは、フロリダ州を拠点とするベテラン調査報道記者である。2006年に起きたエプスタイン事件が不当に軽い処分で幕引きされたことに強い違和感を抱き、2016年から独自に調査を開始した。彼女はマイアミ・ヘラルド紙での一連の報道(「Perversion of Justice」シリーズ)により、事件の再調査と連邦司法取引の見直しに道を開き、2021年ピュリツァー賞(公益部門)を受賞した。本書はその調査の全容を、被害者たちの証言と共に初めて体系的に記録したものである。
テーマ解説
- 主要テーマ:司法制度の腐敗と、富・権力・人脈による「二つの正義」の存在。
- 新規性:当事者記者による、エプスタイン事件の司法取引の全貌と、報道が司法に影響を与えたプロセスの内部告発。
- 興味深い知見:被害者と加害者を取り巻く社会構造、および「誰もが知っていたが、誰も止めなかった」という共犯的沈黙のメカニズム。
キーワード解説
- 甘い司法取引:連邦検察とエプスタイン側が結び、広範な性的人身売買の罪を免責し、州レベルでの軽い処分に導いた極めて異例の合意。
- 被害者無視の司法:捜査・裁判過程で、被害者である少女たちが脅迫され、信用を傷つけられ、完全に蚊帳の外に置かれたプロセス。
- 高価な弁護団:ハーバード大学教授アラン・ダーショウィッツ、元独立検察官ケネス・スターなど、政治的・学術的に影響力を持つ弁護士たちによる「法律戦」。
- レネ・アコスタ:当時のマイアミ連邦検事。エプスタインと違法な司法取引を結んだ中心人物で、後にトランプ政権の労働長官に就任。
- 報道の役割:権力による隠蔽が行われた事件において、地道な取材と被害者への寄り添いが、真実の回復と司法の是正にいかに重要であったか。
3分要約
本書は、超富裕層の金融業者ジェフリー・エプスタインによる大規模な未成年者性虐待事件の全貌と、それが司法と権力によっていかに巧妙に隠蔽され、軽んじられたかを、調査報道記者である著者の体験を通じて描くノンフィクションである。
事件の核心は、2000年代半ばにフロリダ州パームビーチで発覚した、エプスタインが多数の少女(多くは13〜16歳)を自宅に呼び寄せて性的に虐待し、金銭を支払うという一連の犯行である。パームビーチ警察の熱心な捜査にもかかわらず、州検察は著名な弁護士アラン・ダーショウィッツの介入もあって消極的となり、FBIに案件が移される。
しかし連邦検察においても、エプスタインが雇ったケネス・スターら豪華弁護団と、当時のマイアミ連邦検事レネ・アコスタの間で、極めて異例の「司法取引」が秘密裏に進められた。その結果、エプスタインは連邦レベルの性的人身売買罪を含む重罪を免責され、州法に基づく軽微な罪でわずかな服役と、多くの共犯者に対する免責を手に入れた。この過程で被害者少女たちは脅迫され、無視され、司法から完全に締め出された。
著者は2016年、この不当な取引と被害者たちの存在に疑問を抱き、調査を開始する。彼女は何年も沈黙を強いられてきた被害者たちに直接接触し、その生々しい証言を引き出していく。同時に、司法取引に関わった弁護士や検察官への取材を重ね、取引の違法性と隠蔽の実態を突き止めようとする。
取材は、エプスタインや彼の共犯者ギレーヌ・マクスウェル、さらには彼らの社会的ネットワーク(ドナルド・トランプ、ビル・クリントン、アンドリュー王子などの著名人、ハーバード大学やMITなどの学術機関)にまで及ぶ。著者は、エプスタインの犯行がパームビーチのみならずニューヨークやプライベート島でも行われ、社会的に「公然の秘密」でありながら、富裕層と権力者のネットワークによって保護されていた構造を明らかにする。
著者の一連の報道は、最終的に世論を喚起し、2019年のエプスタイン再逮捕と連邦検察による本格的な起訴へとつながる。しかしエプスタインは拘置所で「自殺」を遂げ、完全な司法の審理はなされなかった。本書は、エプスタイン個人の罪だけでなく、彼を免罪し、被害者を二次的に傷つけた司法システムと社会全体の「共犯性」を鋭く問い質す。そして、権力の監視と真実の追求というジャーナリズムの根本的使命の重要性を力強く主張する。
各章の要約
前書き
2006年、パームビーチ警察は10代の少女たちに対する性虐待でジェフリー・エプスタインを逮捕し、確固たる証拠を集めた完璧な事件を検察に引き渡した。しかしエプスタインが雇ったアラン・ダーショウィッツ弁護士の介入で状況は一変し、検察は被害者を責め立てる側に回った。FBIに引き継がれた事件は、新任の連邦検事レネ・アコスタと、エプスタイン側のケネス・スターらとの間で極秘の取引が進められ、2008年、エプスタインに広範な免責を与える異常な司法取引が結ばれた。著者はこの取引の不自然さに着目し、2016年から事件の再調査を開始する。彼女は、エプスタインの犯行が社会的に認知されながら見過ごされ、司法が歪められた背景には、富と権力による腐敗、そして被害者を見下す社会構造があったと考える。
序章
序章は省略。
第1章 ジョー
パームビーチ警察の刑事ジョー・レカレイは、2005年、保護者が届け出た「娘が金銭と引き換えにマッサージをさせられ、性的な行為を要求された」という訴えからエプスタイン事件の捜査を開始する。当初はローカルな富裕層の不品行案件と思われたが、捜査を進めるうちに、エプスタインが組織的に多数の未成年少女を勧誘・虐待していた大規模な犯罪であることが明らかになる。レカレイは熱心に証拠を集め、数十人の被害少女から聴取を行う。
第2章 「ジェーン・ドウ」を見つけて
著者は2016年、エプスタイン事件の司法記録を漁り、匿名の「ジェーン・ドウ#1」から「ジェーン・ドウ#3」と名付けられた被害少女たちの存在を知る。彼女たちの証言は生々しく、事件の深刻さを物語っていた。しかし彼女たちはその後、公の場にほとんど出てこなかった。著者はこれらの「失われた被害者」たちを探し出し、彼女たちの現在の声を聞くことが真実を明らかにする第一歩だと考え、その手がかりを求める。
第3章 警察の捜査
レカレイ刑事の捜査は緻密を極めた。彼はエプスタインの自宅への訪問者記録、電話記録、飛行機のマニフェストなど物的証拠を集め、少女たちの証言と照合していく。捜査はエプスタインの共犯者(「募集係」の女性たちや執事など)にも及んだ。警察は州検察に対して、エプスタインを複数の重罪で起訴するに足る十分な証拠があると確信していた。
第4章 エピー
エプスタイン(周囲からは「エピー」と呼ばれた)の経歴と人物像に迫る。謎多き金融業者として巨万の富を築き、科学者や政治家、学者ら著名人との幅広いネットワークを持っていた。その私生活では、若い女性(多くは十代)を常に側に置くことを好み、その性的嗜好は関係者の間ではほぼ「公然の秘密」となっていた。彼は自身の富と人脈を盾に、法の目をかいくぐってきた自信に満ちていた。
第5章 マイアミ・ヘラルド紙
著者が勤務するマイアミ・ヘラルド紙は、フロリダ州を代表する新聞であり、権力監視の伝統を持つ。著者は編集部にエプスタイン事件の再調査を提案する。当初は「過去の事件」としてあまり関心を持たれなかったが、著者はこの事件が司法取引の不正という現在進行形の問題であり、被害者たちが未だ正義を得られていない点を強調し、調査の許可を得る。
第6章 行き止まり
著者の調査は当初、難航した。司法取引に関わった関係者は口を閉ざし、公的な記録も部分的にしか公開されていなかった。被害者少女たちの現在の居場所はわからず、弁護士を通じた接触も拒否された。事件がもたらしたトラウマと、エプスタイン側からの脅迫の記憶が、彼女たちを沈黙させていた。
第7章 最初の取引
パームビーチ州検察当局内での動きを描く。当初の熱意とは裏腹に、エプスタイン側からアラン・ダーショウィッツが介入すると、検察当局の姿勢は後退した。州検事バリー・クリッシャーは、被害者少女たちの経歴(家庭環境や学校での問題など)を執拗に調べ上げ、その信用性を貶める方向に捜査をシフトさせ始める。警察の確たる証拠よりも、被害者の「完璧な」被害者像からの逸脱が追求された。
第8章 ミュージック・シティ
著者が被害者の一人と初めて接触を図る舞台となる。被害者の一人が暮らす田舎町を訪れ、その家族や周囲の人々に話を聞こうとするが、地域社会はこの事件について語りたがらず、脅威を感じている様子がうかがえる。エプスタイン側の私立探偵による嫌がらせや監視の記憶が、人々を委縮させていた。
第9章 血の金
エプスタインが被害者やその家族に対して行った経済的解決(示談金)の実態に迫る。彼の弁護士団は、比較的少額の金銭と引き換えに、被害者に厳格な秘密保持契約(NDA)への署名を強要した。この契約は、被害者が警察や検察に協力することさえ禁じる内容を含んでおり、司法への協力を妨げる手段として利用された。金銭は沈黙を買う「血の金」であった。
第10章 マイク
パームビーチ警察のマイク・リーダー署長(当時)の役割に焦点を当てる。彼は部下のレカレイ刑事を支持し、州検察の消極的姿勢に疑問を抱き、FBIに案件を持ち込む決断を下した。警察組織内部でも、エプスタインのような有力者を相手にすることへのためらいがあったが、リーダー署長は警察の使命は誰に対しても同じだと主張した。
第11章 カネの流れを追え
エプスタインの富の源泉とその使途を探る。彼の金融業務の詳細は不明瞭だが、その資金は弁護士費用、私立探偵への支払い、被害者への示談金、そして政治家や学術機関への多額の寄付に流れていた。著者は、この資金の流れがエプスタインの「保護網」を形成していたと分析する。寄付を受けたハーバード大学などは、その後長年にわたりエプスタインとの関係を断とうとしなかった。
第12章 永遠に変わった人生
著者が初めて、事件の被害者であるミシェル・リカタと直接対面し、その証言を聞く章である。リカタは事件が彼女の人生に与えた計り知れないトラウマを語る。幼い頃の虐待経験があり、エプスタインの事件はそれを再び炙り出す結果となった。彼女は司法取引のことを知らず、自分たち被害者が完全に蚊帳の外に置かれていたことに怒りと無力感を覚えている。
第13章 閏年作戦
FBIが本格的に事件を捜査し始めた「オペレーション・リープイヤー」の内容である。FBI捜査官はエプスタインの行動パターン、全米およびカリブ海の私島にわたる犯行の広がり、そして彼を支援するネットワークの存在を把握し始める。捜査はエプスタインが国家的な規模の性的人身売買組織の中枢にいる可能性を示唆していた。
第14章 甘すぎる司法取引
2007年から2008年にかけて、マイアミ連邦検察局(レネ・アコスタ検事)とエプスタイン側弁護団(ケネス・スターら)の間で進められた極秘交渉の詳細である。交渉の結果、エプスタインは連邦検察による性的人身売買などの重罪起訴を免れ、代わりに州レベルでの軽罪二件に認否し、わずかな服役と登録の義務を負うだけで済むことになった。さらに、取引はエプスタインの「いかなる共犯者」に対しても連邦起訴しないことを約束する、前代未聞の免責条項を含んでいた。
第15章 狼たちとのダンス
著者が司法取引の立役者であるレネ・アコスタ元連邦検事への取材を試みる過程を描く。アコスタは何度もインタビューを拒否し、最終的には電子メールでのみ回答を寄せた。その説明は「当時は証拠が不十分で、州での服役を確保するのが最善策だった」というもので、極めて非説得的であった。著者は、アコスタのキャリア野心(将来の最高裁判事を目指していた)が、エプスタインのような有力者との衝突を避ける選択に影響した可能性を示唆する。
第16章 コートニー
被害者の一人、コートニー・ワイルドの証言である。彼女は14歳の時からエプスタインの被害に遭い、その後他の少女を紹介する「募集係」にさせられた経歴を持つ。ワイルドは2008年の司法取引が被害者への連絡義務に違反しているとして法廷で異議を唱えた数少ない被害者である。彼女の勇気ある行動と、それにもかかわらず法廷から退去させられた無念さが語られる。
第17章 バージニア
最もよく知られる被害者の一人、バージニア・ロバーツ・ジュフリー(当時)の証言である。彼女はギレーヌ・マクスウェルによってエプスタインに「紹介」され、長期にわたる虐待を受けたと主張する。さらに、エプスタインから英国のアンドリュー王子など、著名な男性たちに「提供」されたと述べており、事件の社会的波及の大きさを象徴する証言となっている。彼女もまた、司法取引によって声を奪われた一人であった。
第18章 エプスタイン氏を探して
著者がエプスタイン本人への接触を試みる。2010年代半ば、エプスタインはニューヨークの屋敷でほとんど外界と接触せずに暮らしていた。著者は彼の自宅前で待ち構え、弁護士を通じてインタビューを要求するが、一切の応答は得られなかった。エプスタインは刑期を終えても、その富とネットワークに守られて、何もなかったかのように生活を続けていた。
第19章 マー・ア・ラゴ
エプスタインとドナルド・トランプ元大統領(当時は不動産王)の関係に迫る。二人は1990年代から2000年代にかけて、フロリダの社交界で親密に交流し、トランプのプライベートクラブ「マー・ア・ラゴ」でも共に過ごした。トランプは過去のインタビューでエプスタインを「すごいやつだ」と評していた。著者は、トランプを含む社交界の人々が、エプスタインが常に若い女性を連れ歩く様子を目にしながらも、その実態を深く追求しなかった「見て見ぬふり」の文化を指摘する。
第20章 マダム・ギレーヌ
エプスタインの最も重要な共犯者とされるギレーヌ・マクスウェルの詳細である。英国のメディア王の娘として生まれ、エプスタインの「女友達」として振る舞いながら、実際には彼のために少女を勧誘・管理する役割を果たしていた。彼女は上流社会のコネクションを使い、被害者少女たちに接近した。著者は彼女の二面性と、エプスタインとの共生的関係を分析する。
第21章 王子と笛吹き男
バージニア・ジュフリーの証言に基づき、エプスタインと英国アンドリュー王子との関係を検証する。ジュフリーは王子と複数回の性的接触を強要されたと主張している。王子側は一切を否定しているが、王子がエプスタインとマクスウェルと共に写った写真が存在し、その親密な関係が示されている。著者は、エプスタインが世界的な著名人を巻き込むことによる「保険」をかけていた可能性に言及する。
第22章 スターの力
エプスタイン側弁護団の重鎮、ケネス・スターの役割に焦点を当てる。元連邦判事、元独立検察官としての経歴と権威を利用し、スターは司法省上層部に対して直接働きかけ、エプスタインへの起訴に否定的な見解を促した。彼の介入は、現場のFBI捜査官や検察官の意に反し、政治的に配慮された決断を導く上で決定的であった。
第23章 おとりとすり替え
2008年の司法取引が、被害者たちにどのように伝えられ(あるいは伝えられず)、実行されたかを描く。連邦検察は法律で定められた被害者への通知義務を怠り、取引が成立するまで被害者たちに知らせなかった。被害者は何の意見も述べる機会を与えられず、司法プロセスから完全に排除された。これは「おとり」(被害者保護の法的手続き)を掲げながら、実際には「すり替え」(被害者無視の決着)を行った行為であった。
第24章 釈放切符
エプスタインが実際に服役した13ヶ月間の実態である。彼は州刑務所ではなく、パームビーチ郡の拘置所に収容され、さらに週6日、1日12時間の「仕事出所」プログラムを利用して実質的に日中は自由に外出していた。これは実質的に「釈放切符」ともいうべき異常な服役形態であり、刑罰としての意味をほぼ成さないものであった。
第25章 靴底が擦り切れる取材
著者の取材方法の核心である「靴底の擦り切れる取材」の具体例が描かれる。裁判記録の山を読み込み、関係者の古い住所を訪ね、何十時間も車を走らせて証言者を探す。デジタル時代においても、真実を追求するには物理的に現場に赴き、人と直接会うという地道な作業が不可欠であると著者は強調する。その過程で、これまで公に語らなかった複数の重要な証言者と出会う。
第26章 節目
2018年、マイアミ・ヘラルド紙が著者の調査報道「Perversion of Justice」シリーズの第1弾を公開する。記事は、不当な司法取引と被害者たちの無視に焦点を当てた。公開後、大きな反響が起こり、ソーシャルメディアを通じて事件への関心が再燃する。これが事件再調査への大きな転機となった。
第27章 つわりの朝
報道公開後の反響と、著者個人への影響が描かれる。記事は称賛される一方で、エプスタインの弁護士アラン・ダーショウィッツからは猛烈な反発と法的脅迫が始まる。著者はダーショウィッツから告訴されるとの脅しを受け、精神的ストレスから体調を崩す。しかし、被害者たちから寄せられる感謝の言葉が、彼女を支える原動力となる。
第28章 余波
報道が現実の司法に与え始めた影響である。連邦司法省は、アコスタ元検事が結んだ司法取引の合法性を内部調査することを余儀なくされる。議会でも関心が高まり、公聴会が開かれる動きが出始める。長年沈黙を守ってきた他のメディアも、ようやくこの事件を本格的に報じ始めた。
第29章 ダーショウィッツ対ブラウン
アラン・ダーショウィッツとの直接的な対立の章である。ダーショウィッツは自身もバージニア・ジュフリーから性的関係を強要されたと告発されていたが、それを強く否定し、むしろ著者とジュフリーの弁護士を誹謗中傷で訴えると脅した。著者は、ダーショウィッツのような権威ある人物が、恫喝によって報道を沈黙させようとする典型的なパターンを目の当たりにする。
第30章 連邦政府
2019年、ニューヨーク連邦検察が、著者の報道と世論の高まりを受けて、新たな証拠に基づきエプスタインを性的人身売買で再逮捕するに至った経緯である。これは、2008年のマイアミでの司法取引とは別の管轄(ニューヨーク南部地区)による起訴であり、過去の免責は無効とされた。司法省が自らの過ちを(部分的に)是正する動きが始まった。
第31章 ジャーナリズムの抵抗
エプスタイン再逮捕までの過程で、著者を含む調査報道ジャーナリストたちが果たした役割を振り返る。大手メディアが当初消極的だった間も、地方紙やフリーランスの記者たちが地道に情報を掘り起こし、ネットワークを築いて真実を追い続けた。彼らは権力による情報操作や恫喝に屈せず、「ジャーナリズムの抵抗」を続けたのである。
第32章 ケイティ・ジョンソン
2016年に浮上した、エプスタインとドナルド・トランプを相手取る別の訴訟(ケイティ・ジョンソン訴え)について検証する。この訴えはマスコミを賑わせたが、原告が正体を明かさず訴訟を取り下げたため、真偽は不明のままである。著者は、この訴訟がかえって事件全体を「陰謀論」の領域に引きずり込み、核心から目を逸らさせる効果を持った可能性を指摘する。
第33章 花火
2019年7月6日、エプスタインがニューヨークでFBIにより再逮捕される瞬間の描写である。著者はそのニュースを取材中に知り、長年の調査がついに現実の動きにつながったことに感慨を覚える。しかし同時に、これで終わりではなく、真の意味での「正義」が実現するかはまだわからないという緊張感もあった。
第34章 謝罪も後悔もなし
エプスタイン逮捕後、過去に彼と親交のあった著名人たちが一斉に距離を置き始める中で、レネ・アコスタ労働長官(当時)の対応に焦点を当てる。アコスタは司法取引について公の場で謝罪するどころか、当時の判断を正当化し続けた。その態度がさらなる批判を浴び、結局彼はトランプ政権の労働長官を辞任することになる。
第35章 受刑者番号76318-054
再逮捕後のエプスタインの拘留生活と、彼の自殺に至るまでを描く。彼はメトロポリタン矯正センターに収容され、当初は自殺監視下に置かれたが、なぜか解除された。2019年8月10日、エプスタインは独房内で首を吊っているところを発見され死亡する。獄吏の監督不行き届きや監視カメラの不具合など、不可解な点が多々報告された。
第36章 ペドファイル島
エプスタインがカリブ海に所有した私島「リトル・セント・ジェームズ島」(通称ペドファイル島)での犯行に迫る。島には豪華な施設が建てられ、エプスタインはここで世界中から招いた著名人と共に、被害者少女たちを連れ込んでいたとされる。島は完全にプライベートな空間として、通常の法の目が届かない虐待の温床となっていた。
第37章 ハーバード、MIT、そして億万長者クラブ
エプスタインが科学や学術界に多額の寄付を行い、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボなどと深く関係していた事実を検証する。これらの一流機関は、エプスタインの犯罪歴を知りながらも、その資金を受け入れ、彼を公式な訪問者として迎えていた。著者は、学術界の倫理が巨額の寄付の前でいかに屈したかを暴く。
第38章 隠れもないところに
エプスタインの犯行が、実は多くの人々の目の前で行われていた「公然の秘密」であったことを様々な証言から立証する。彼の自宅には常に十代の少女たちが出入りし、彼は彼女たちをパーティーに連れて行き、飛行機に同乗させた。関係者や近隣住民の多くは不審に思いながらも、直接問いただす者はほとんどいなかった。
第39章 ジェフリー・エプスタインは自殺していない
エプスタインの死を巡る数々の不可解な点と、それによって広がった陰謀論について論じる。著者は、確定的な証拠はないとしつつも、彼の死が多くの疑問を残したことは事実であり、それが司法による完全な審理を不可能にし、共犯者たちの責任追及を困難にした点で、結果的に「彼に利する死」であったと指摘する。著者は「自殺説」も「他殺説」も安易に結論せず、検死と調査の不備を批判する。
第40章 ボス
エプスタイン事件の全貌を調査する中で浮かび上がる根本的な疑問:エプスタインは単独の犯罪者だったのか、それより巨大なネットワークの末端だったのか。あるいは、彼自身が「ボス」だったのか。著者は、エプスタインが自身の欲望を満たすために組織的な犯罪を行った主犯ではあるが、その成功を可能にしたのは、彼を取り巻く弁護士、私立探偵、取り巻き、そして彼と取引をした司法関係者や学術関係者らからなる広範な「支援ネットワーク」であったと結論づける。
第41章 陰謀論
事件の複雑さと不可解な点が、様々な陰謀論を生み出した経緯を分析する。著者は、陰謀論が時に真実の追求を妨げる危険性を指摘する。例えば、政治的に敵対する陣営がエプスタインを利用して相手を貶めようとする動きは、被害者たちの苦しみから目を逸らさせ、事件を政治的な道具に貶める結果をもたらした。
第42章 清算の時
エピローグに先立つ総括の章である。エプスタインの死後も、共犯者とされるギレーヌ・マクスウェルの逮捕・裁判、ハーバード大学などへの批判、司法取引の見直しを求める動きなど、「清算」は続いている。しかし、最も重要な「清算」は、社会がこの事件から何を学ぶかである。著者は、富と権力が法の上に立つことのない社会にするためには、司法の透明性、被害者中心の司法手続き、そして権力を見張る不屈のジャーナリズムが不可欠であると力説する。
エピローグ
著者は、自らの調査を通じて出会った被害者たちの強さに敬意を表する。彼女たちは長い沈黙と恐怖を乗り越え、真実を語る勇気を示した。本書が、彼女たちの声を歴史に刻み、同じ過ちが繰り返されないための警鐘となることを願うと結ぶ。最後に著者は
会員限定記事
新サービスのお知らせ 2025年9月1日よりブログの閲覧方法について
当ブログでは、さまざまなトピックに関する記事を公開しています。2025年より、一部の詳細な考察・分析記事は有料コンテンツとして提供していますが、記事の要約と核心部分はほぼ無料で公開しており、無料でも十分に役立つ情報を得ていただけます。 さらに深く掘り下げて知りたい方や、詳細な分析に興味のある方は、有料コンテンツをご購読いただくことで、より専門的で深い内容をお読みいただけます。パスワード保護有料記事の閲覧方法
パスワード保護された記事は以下の手順でご利用できます:- Noteのサポーター会員もしくはコアサポーター会員に加入します。
- Noteの「続きを読む」パスワード記事にて、「当月のパスワード」を事前にお知らせします。
- 会員限定記事において、投稿月に対応する共通パスワードを入力すると、その月に投稿したすべての会員記事をお読みいただけます。
サポーター会員の募集
- サポーター会員の案内についての案内や料金プランについては、こちらまで。
- 登録手続きについては、Noteの公式サイト(オルタナ図書館)をご確認ください。
会員の方は以下にアクセスしてください。(note.com)
パスワードお知らせページ
