書籍要約『勝者の総取り:世界を変えるというエリートの茶番劇』2018年

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『Winners Take All:The Elite Charade of Changing the World』

『勝者の独占:世界を変えるというエリートの茶番劇』 アナンド・ギリダラダス 2018年

目次

  • プロローグ
  • 第1章 しかし、世界はどう変わるのか? / But How Is the World Changed?
  • 第2章 ウィンウィン / Win-Win
  • 第3章 厄介なベレー帽をかぶった反逆者たち / Rebel-Kings in Worrisome Berets
  • 第4章 批評家と思想リーダー / The Critic and the Thought Leader
  • 第5章 放火魔こそ最高の消防士 / Arsonists Make the Best Firefighters
  • 第6章 寛容さと正義 / Generosity and Justice
  • 第7章 現代世界で機能する全てのもの / All That Works in the Modern World
  • エピローグ:「他人はあなたの子どもではない」 / “Other People Are Not Your Children”

本書の概要

短い解説

本書は、格差が拡大する現代社会において、勝者となった富裕層や企業エリートが主導する「社会変革」や「慈善活動」の実態を批判的に分析する。この「市場原理主義的世界」の活動が、根本的な社会問題の解決を回避し、むしろ現状を維持・強化しているという逆説を明らかにすることを目的としている。

著者について

著者のアナンド・ギリダラダスは、元『ニューヨーク・タイムズ』記者・コラムニストであり、現代の資本主義と民主主義の交点を考察する著述家である。自身もマッキンゼーでの勤務経験やTED登壇など、「市場原理主義的世界」の内部に身を置いた経験を持つ。そのため、本書の批判は外部からの非難ではなく、内部者の反省的視点に立脚している。

テーマ解説

  • 主要テーマ:市場主導型社会変革の偽善性 [勝者による「世直し」が、勝者の権力と富を温存し、根本的な変化を阻んでいるという矛盾]
  • 新規性:「市場原理主義的世界」という概念の提示 [ビジネスの論理と語彙で社会問題を解決しようとするグローバルなエリート層とそのネットワークを指す]
  • 興味深い知見:フィランソロキャピタリズムの限界 [慈善活動が社会正義の代わりにはならず、むしろ格差を固定化するメカニズム]

キーワード解説

  • 市場原理主義的世界 (MarketWorld):ビジネスの手法と論理(効率性、スケール、ウィンウィン)を社会変革の唯一有効な手段と見なす、富裕層・起業家・思想家らのグローバルなネットワークとその価値観。
  • ウィンウィン (Win-Win):慈善と利益、社会的価値と経済的価値を両立させるとされる、市場主導型社会変革の核心的なイデオロギー。これにより、根本的な犠牲や権力構造の変革を回避する。
  • 思想リーダー (Thought Leader):大衆向けに希望に満ちた、実践可能で非政治的な「解決策」を提供する現代の知識人。過去の「公共知識人(批評家)」とは異なり、権力への批判を避け、市場原理主義的世界の価値観に沿った議論を行う。

3分要約

現代社会は、技術革新に満ちているにもかかわらず、その進歩の果実はごく一部の勝者に独占され、大多数の市民の生活はほとんど向上していない。この「進歩の機械」の故障に直面して、勝者である富裕層や企業エリートは、自ら「世界を変える」主体として名乗りを上げるようになった。彼らは、慈善活動、社会的企業、インパクト投資、Bコーポレーションなど、市場の論理とツールを用いた「ウィンウィン」の解決策を推進する。

しかし、本書はこの動きを「勝者の茶番劇」と批判する。なぜなら、これらの取り組みは、彼ら自身の富と権力の源泉である根本的なシステム(税制、労働法、金融規制、政治への影響力など)には一切触れず、むしろその正当性を補強するものだからである。例えば、ウーバーは「共有経済」を通じて労働者を「エンパワー」すると謳うが、そのビジネスモデルは労働者の保護を弱め、不安定な雇用を生み出している。慈善活動で巨額を寄付する富豪は称賛されるが、その富が租税回避や非正規雇用の拡大といった問題に由来することは問われない。

本書が「市場原理主義的世界」と呼ぶこのエコシステムでは、アスペン研究所やTED、クリントン・グローバル・イニシアチブなどの会議が思想の温床となり、「思想リーダー」たちが、衝突を避け、行動可能で、希望に満ちたメッセージを提供する。彼らは「公共知識人」のように権力を批判するのではなく、システム内で個人がどう「適応」するかを説く。これにより、問題の根本原因や加害者の追求は霞み、現状を変えない表面的な変化だけがもてはやされる。

結果として、このエリート主導の社会変革は、民主主義や政府による集合的解決策を空洞化させ、公の問題を私的な慈善や市場の解決に委ねる。それは、格差や不正義を生み出すシステム自体を温存したまま、その症状を緩和するだけの「アグレッシブな保守主義」にほかならない。真の変化は、勝者に犠牲を強いるかもしれない政治的な闘争、すなわち民主主義のプロセスを通じた権力と資源の再分配によってのみ可能なのである。

各章の要約

プロローグ

現代アメリカでは驚異的な革新が続くが、平均的な国民の生活水準はほとんど向上せず、経済成長の果実はごく一部の富裕層に集中している。この「進歩の機械」の故障に対し、勝者であるエリートたちは自ら社会変革の主導権を握ろうとする。彼らは慈善活動や社会的ビジネスを通じて「世界を変えよう」とするが、そのアプローチは根本的なシステムの変更を伴わない。むしろ、オスカー・ワイルドが指摘したように、このような「親切」は問題の深刻さを覆い隠し、真の変革を阻害する「害」となりうる。本書は、勝者による社会変革が、実際には現状維持のための巧妙な装置であることを明らかにする。

第1章 しかし、世界はどう変わるのか?

ジョージタウン大学を卒業したヒラリー・コーエンは、アリストテレスの教えに影響を受け、「人類の繁栄」に貢献したいと願う。しかし、彼女の周囲では、社会を変える最良の方法はビジネスの手法(マッキンゼーなどのコンサルティングファームで学ぶこと)であるという「市場原理主義的世界」の通念が支配的だった。彼女はマッキンゼーに入社するが、ビジネスの「問題解決手法」が社会の根本的問題に通用するのか疑問を抱き始める。その後、オバマ財団の民主主義活性化プロジェクトに参加するが、コンサルタントが民主主義の再生を請け負うこと自体の矛盾に直面する。彼女の逡巡は、市場の論理に染まった現代の「世界を変えたい」若者たちの典型的なジレンマを象徴している。

第2章 ウィンウィン

「ウィンウィン」は、利益と社会貢献が両立するという市場主導型社会変革の核心的なイデオロギーである。ファンタジースポーツで慈善活動を行う「Portfolios with Purpose」や、生産性向上ソフトで世界を良くしようとするアサナの創業者など、多くの起業家がこの思想に基づいて活動する。彼らは、アダム・スミスの「見えざる手」を超え、利益追求そのものが直接的に社会を良くすると信じる。しかし、低所得者の収入変動をアプリで平滑化する「Even」のようなビジネスは、不安定雇用という根本的な社会問題を市場に委ね、解決ではなく「管理」するものだ。ウィンウィンの論理は、勝者に都合の良い解決策だけを追求し、構造的な変革を回避させる危険性をはらんでいる。

第3章 厄介なベレー帽をかぶった反逆者たち

シリコンバレーの起業家や投資家は、自分たちを既存権力への反逆者と位置づけながら、実際には空前の経済的・社会的権力を握っている。ウーバーやエアビーアンドビーの投資家であるシェルビン・ピシェバルは、タクシー業界の「既得権益」や「組合」と戦う自社を正義の側と主張する。しかし、これらのプラットフォーム企業は、ネットワーク効果による巨大な権力集中をもたらし、労働者保護を後退させ、差別などの問題を生み出している。彼らが夢見る規制のない「脱出」は、新しい封建制をもたらす可能性がある。これに対し、「プラットフォーム協同組合主義」のような運動は、技術の所有とガバナンスを民主化する真の変革を目指す。

第4章 批評家と思想リーダー

現代の思想界では、権力に批判的な「公共知識人」に代わり、市場原理主義的世界に好都合な「思想リーダー」が台頭している。ハーバードビジネススクールの社会心理学者エイミー・カディは、ジェンダー不平等の構造的研究を行っていたが、TEDで「パワーポーズ」について語ることで世界的著名人となる。そのメッセージは、個人の内面や行動を変えることに焦点を当て、構造的な性差別の問題から目を逸らさせるものだった。思想リーダーは、問題を「個人化」「脱政治化」し、実行可能で希望に満ちた「解決策」を提供することで、富裕層の支援を受け、広く消費される。これは、根本的な批判を封じ込め、現状を温存する「思考の独占」を生み出している。

第5章 放火魔こそ最高の消防士

社会問題の解決に、それを作り出した張本人であるビジネスエリートやその「プロトコル」(コンサル流問題解決手法)が招かれる逆説が広まっている。元マッキンゼー・ゴールドマンサックス勤務で、現在はジョージ・ソロスの経済プログラムを率いるショーン・ヒントンは、自身の経歴を振り返りながら、この「問題を引き起こしたツールで問題を解決しようとする」アプローチの限界を認める。ハーバードのマイケル・ポーター教授でさえ、近年のビジネス慣行(グローバル化による地域社会への無関心、効率化による労働者への負担転嫁、株主価値至上主義)が不平等を助長したと指摘する。にもかかわらず、これらのビジネス手法が社会問題解決の「正しい方法」としてまかり通っている。

第6章 寛容さと正義

フォード財団のダーレン・ウォーカーは、現代の慈善活動を支配するアンドリュー・カーネギーの「富の福音」を更新しようとする。カーネギーの教えは、残酷な競争で富を築くことは許容され、その富を慈善で還元すれば不平等は解消されるというものだった。ウォーカーは、慈善活動が富の「使い道」だけを問題にするのではなく、その「稼ぎ方」や、不平等を生み出すシステム自体に目を向けるべきだと主張する。サックラー家(鎮痛剤オキシコンチンの製造で富を築き、慈善家として名高い)の例は、慈善が不正の根源を免罪し、民主的な説明責任を回避させる危険性を示す。真の変化は、慈善による「与えること」ではなく、正義のための「取り戻すこと」を要求する。

第7章 現代世界で機能する全てのもの

ビル・クリントンが創設したクリントン・グローバル・イニシアチブは、政府、企業、慈善団体が「パートナーシップ」を組み、具体的な「コミットメント」を行うことで世界の問題を解決するモデルを体現していた。しかし、この「グローバリスト」たちの集いは、民主主義のプロセスを迂回し、私的な利益と公共の利益を曖昧にした。2016年、ポピュリストの反乱が世界を揺るがす中、CGIのパネルでは、ブレグジットやトランプ現象を「誤った情報に導かれた有権者」のせいと断じ、エリート主導のグローバリゼーションの是非は問われなかった。クリントンはこうした私的な問題解決が「現代世界で機能する全てのもの」だと述べるが、それは民主主義の空洞化を意味する。真の変革は、人々が自らの運命を決定する政治的プロセスにこそある。

エピローグ:「他人はあなたの子どもではない」

市場原理主義的世界の内部にいながらその限界を感じる人々は少なくない。Bコーポレーションを立ち上げたアンドリュー・カッソイは、「良き行いを容易くする」アプローチが根本的なシステム変革につながるのか疑問を抱く。政治哲学者のキアラ・コルデッリは、エリートの慈善活動を「親切な奴隷所有者」の論理に例える。彼らは不正なシステムから利益を得ながら、その被害者への施しで罪滅ぼしをしようとする。しかし、他人はエリートの「子ども」ではない。社会の問題を代表して語り、解決する権利を持つのは、自由で平等な個人が構成する民主的な制度のみである。我々の責務は、私的な救済策を講じることではなく、それらの公共制度をより良く機能させるために働くことなのである。


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