書籍要約『ゴースト・マネージド・メディシン:製薬大手の見えない手』 セルジオ・シスモンド 2018年

医療・製薬会社の不正・腐敗、医原病

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英語タイトル:Ghost-Managed Medicine:Big Pharma’s Invisible HandsSergio Sismondo 2018

日本語タイトル:『ゴースト・マネージド・メディシン:製薬大手の見えない手』 セルジオ・シスモンド 2018年

目次

  • 序章:権力と知識 / Power and Knowledge
  • 第1章:健康の縁辺でのデータ収集 / Data Extraction at the Margins of Health
  • 第2章:機構の中のゴーストたち:出版計画101 / Ghosts in the Machine:Publication Planning 101
  • 第3章:お化け屋敷のホストとゲスト / Hosts and Guests in the Haunted House
  • 第4章:憑依:キー・オピニオン・リーダーの作成と管理 / Possession:Making and Managing Key Opinion Leaders
  • 第5章:主体性の枯渇と制約 Ⅰ:習慣の変化 / Draining and Constraining Agency I:Changing Habits
  • 第6章:主体性の枯渇と制約 Ⅱ:服薬遵守問題 / Draining and Constraining Agency II:The Adherence Problem
  • 第7章:希望のセイレーン、怒りのトロール、その他の声を持つ者たち / Sirens of Hope, Trolls of Fury and Other Vocal Creatures
  • 結論:憑かれたファルマコン / Conclusion:The Haunted Pharmakon

本書の概要

短い解説:

本書は、製薬産業が医学知識の生産、流通、消費に及ぼす体系的な影響力を、科学技術社会論(STS)の観点から解き明かすことを目的とする。医師、研究者、患者、規制当局など、医療に関わるすべてのステークホルダーに対して、製薬会社の「見えない手」がどのように作用しているかを具体的な事例と内部告発的証言を通じて示す。

著者について:

著者セルジオ・シスモンドは、科学技術社会論(STS)を専門とする哲学者・社会学者である。製薬産業の知識生産とマーケティングの実態を明らかにするため、業界関係者の会議に参加し、内部資料を分析する「境界調査」の手法を用いている。産業の影に潜む「ゴーストライティング」や「キーオピニオンリーダー管理」といった慣行を、政治経済学の視点から批判的に検証する。

テーマ解説

  • 主要テーマ:製薬産業による医学知識のゴースト・マネジメント:企業が研究デザインから論文出版、医師教育に至るまで、一貫して隠然たる支配を及ぼすシステムを指す。
  • 新規性:アセンブリッジ・マーケティングの概念:市場を自然発生的なものと見なすのではなく、製薬会社が研究、出版物、医師、患者団体などの多様な要素を組み合わせて「市場」そのものを構築する能動的なプロセスとして捉える。
  • 興味深い知見:主体性の制約と枯渇:製薬会社のマーケティング活動は、医師や患者の「合理的な選択」を装いつつ、その選択肢と判断を巧妙に狭め、実質的な主体性を奪うことに成功している。

キーワード解説

  • ゴースト・マネジメント:製薬会社が、委託研究機関や出版プランナーなどを通じて、臨床試験の実施から学術論文の執筆・出版、その普及に至る全過程を、表立たずに管理・形成する一連の慣行。
  • キー・オピニオン・リーダー:製薬会社によって選ばれ、管理され、報酬を得て、自らの独立性と信用を活用して会社の製品を宣伝・教育する役割を担う医師・研究者。
  • アセンブリッジ・マーケティング:製品を取り巻く情報、研究、専門家、患者団体などの多様な要素を体系的に結びつけ、調整し、製品の販売に最適化された「市場」そのものを構築するマーケティング手法。
  • 服薬遵守問題:処方された薬を患者が服用・継続しないこと。製薬会社はこれを失われた売上と見なし、患者の行動変容を促す多様な介入プログラムを開発している。
  • 患者アドボカシー団体:患者の利益を代表する団体。その多くが製薬産業から資金提供を受けており、規制当局への働きかけや疾病啓発活動において、出資企業の商業的利益に沿った活動を行うことがある。

3分要約

本書『ゴースト・マネージド・メディシン』は、現代医療の核心にある医薬品の処方を決定する「医学的知識」が、製薬産業の商業的利益によって如何に体系的に形成され、流通されているかを暴く。製薬会社は、単に製品を宣伝するだけではない。委託研究機関を通じて臨床試験を実施し、そのデータを出版プランナーが戦略的に学術論文に仕立て上げ、キー・オピニオン・リーダーと名付けられた医師たちに宣伝教育活動を委ね、患者団体を味方につける。この一連の過程は「ゴースト・マネジメント」され、企業の関与は巧妙に隠蔽される。

その結果、医師が日常的に接する「エビデンス」の多くは、本質的にマーケティングツールとしてデザインされたものとなる。医師は自らの専門的判断に基づいて処方していると信じているが、その判断材料は製薬会社によって事前に形作られ、選択肢は狭められている。患者もまた、疾病啓発キャンペーンや服薬遵守プログラムを通じて、自身の健康観や行動に影響を受けている。

このような「見えない手」による体系的な影響は、医学の独立性と客観性を蝕む。著者は、製薬産業が「アセンブリッジ・マーケティング」と呼ぶ手法で、研究、教育、マーケティングを融合させ、製品に都合の良い医療環境そのものを構築していると指摘する。問題は個別の不正や誤謬ではなく、商業的利益が医学知識の政治経済全体を歪めている構造そのものにある。本書は、この「憑かれた」医療の実態を、業界内部の声に耳を傾けながら描き出し、私たちが依存する医療知識の根源的な脆弱性を問いかける。

各章の要約

序章:権力と知識

製薬産業のマーケティングは、医師の診察室での一コマに至るまで、無数の形で介入している。コレステロール降下薬を処方されるという日常的なシナリオの中に、テレビ広告、検査基準の設定、臨床試験、ゴーストライティングされた論文、学会支援、キーオピニオンリーダーの講演、サンプル提供など、少なくとも15の企業介入点を見出すことができる。このように、医学知識は製薬会社によって「ゴースト・マネジメント」されている。本書は、この見えない影響力のシステムを、委託研究機関、出版プランナー、キーオピニオンリーダー、患者アドボカシー団体などの「幽霊的な」代理人たちに焦点を当てて追跡する。その目的は、医学知識の生産、流通、消費を支配する「政治経済」を明らかにすることである。ケーススタディとして、オキシコンチンによるオピオイド危機を挙げ、標準的なマーケティング手法がいかに公衆衛生上の惨事を招いたかを示す。

第1章:健康の縁辺でのデータ収集

新規承認される医薬品の多くは、生存率や生活の質の改善といった明確な利益を示す証拠が乏しい。製薬会社は、統計的有意性を示すために大規模で「ずさんな」臨床試験を行い、ごくわずかな治療効果をデータから引き出す。こうした臨床試験の大部分は、契約研究機関に委託されている。CROは、承認取得や販売拡大に必要なデータを「抽出」するための資源採掘産業のようなものであり、被験者の身体から液体、測定値、観察結果を収集してデータに変換する。試験はコスト削減と倫理規制の緩さを求めて低・中所得国へ移行しつつあり、被験者を「治療未経験」の集団から効率的に集める。企業がスポンサーとなる臨床試験は、デザイン、実施、解析、報告のあらゆる段階で商業的利益に有利な選択がなされ、結果として企業寄りの結論が導かれやすい。著者はこう述べる。「製薬会社にとって、研究とマーケティングは決して分離していない」。

第2章:機構の中のゴーストたち:出版計画101

医学雑誌に掲載される論文の約40%は、製薬会社のために「ゴースト・マネジメント」されている。これは単なるゴーストライティングではなく、「出版計画」という体系的なプロセスである。出版プランナーは、製品の市場ポジショニングを支援する「科学的プラットフォーム」を構築するため、SWOT分析を行い、主要メッセージを設定し、対象ジャーナルと著者候補を選定する。実際の執筆は医療ライターが担当し、選ばれたキーオピニオンリーダーが著者として名を連ねる。データは企業が完全に管理し、著者がアクセスできないこともある。こうして生まれた論文は科学的に高品質であることが多く、一流ジャーナルにも掲載されるが、その目的はあくまでマーケティングにある。企業は、医師への情報提供や販売促進のために、そうした論文の抜き刷りを数万部単位で購入する。問題は個別の論文の真偽ではなく、商業的利益に沿った知識の体系的な生成と普及それ自体にある。

第3章:お化け屋敷のホストとゲスト

医学雑誌とその出版社は、製薬会社がスポンサーする論文を積極的に歓迎している。それらの論文は被引用数が高く、雑誌の収益源(抜き刷り販売、学会誌サプリメント)にもなるからだ。編集者はゴーストライティングを批判しつつも、企業が「ルール」に従っていれば良質な投稿者と見なす。しかし、国際医学雑誌編集者委員会の厳格な著者基準は、企業主導の共同研究の実態に合わない。出版プランナーにとって、KOL著者は信用性を与える「装飾」であり、しばしば原稿への実質的貢献は最小限に留められる。著者のデータアクセス権をめぐる論争は、企業がデータの解釈と発表を完全にコントロールしたい欲望と、研究者の独立性との根本的な衝突を示している。企業と出版プランナーは、倫理規定を整備することで批判をかわそうとするが、商業的コントロールと独立した著者性との矛盾は残る。

第4章:憑依:キー・オピニオン・リーダーの作成と管理

キー・オピニオン・リーダーは、製薬会社によって「作成」され、管理される影響力ある医師・研究者である。地域の医師向けにプレゼンを行う「医師KOL」と、学会や継続医学教育で講演する「研究者KOL」がいる。医師KOLは、企業が作成した決められたスライドと台本を使用し、質疑応答も制限された形で行う、事実上の「販売員」である。研究者KOLは、企業からの研究資金、論文の著者権、多額の講演謝礼を通じて関係を築かれる。彼らは自身の独立性と誠実さを強く主張するが、その関係性は企業によって注意深く管理されている。KOL管理は、彼らを単なるツールではなく、「同盟者」や「コアリションの一員」として扱う修辞を用いつつ、その影響力を製品の販売促進に最大限活用することを目的とする。製薬会社は、意見指導者に関する初期の社会学的研究を自己成就的な予言へと変え、自らに都合の良い影響力の階層を医療界内に作り上げてきた。

第5章:主体性の枯渇と制約 Ⅰ:習慣の変化

医薬品営業担当者の究極の目標は「医師の処方習慣を変える」ことである。そのために、食事の提供やサンプル残薬という「贈与」の儀礼、処方データに基づく医師の詳細なプロファイリング、そしてさまざまな医師のタイプに対応した「プレイブック」を活用する。例えば、懐疑的で難しそうな医師には、ゴーストマネジメントされた学術論文の抜き刷りを渡し、医師自身にその重要性を説明させることで、逆に医師の口から自社製品の優位性を引き出す。友好的な医師とは「微妙に調整された友情の剂量」を築く。営業担当者は、医師が自分は影響されないと信じていることをよく知っており、その自己認識を利用しながら処方を誘導する。このように、どのような対応をされても販売につながる返しが用意されており、医師は自由な意思決定をしていると感じつつ、その主体性は巧妙に制約され、枯渇させられている。

第6章:主体性の枯渇と制約 Ⅱ:服薬遵守問題

処方箋が発行されても、多くの患者が服薬を開始せず、また継続しない。この「服薬遵守問題」は、製薬会社にとっては数百億円規模の機会損失である。業界はこの問題に、患者教育、薬剤師による動機づけ面接、スマート薬瓶やアプリなどの行動変容テクノロジー、患者層の細分化に基づいた多チャネル介入プログラムなど、多様なアプローチで取り組んでいる。しかし、ブロディとライトの「逆便益の法則」が示すように、マーケティングによって治療のベネフィット・リスク比が低い患者層まで処方対象が広がることが、非遵守の根本的要因の一つである。したがって、服薬遵守プログラムは、アセンブリッジ・マーケティングの最終環を強化するものであり、製薬会社の販売拡大努力が生み出した問題に対処するためのさらなる努力を必要とするという逆説を内包している。

第7章:希望のセイレーン、怒りのトロール、その他の声を持つ者たち

製薬会社は、患者アドボカシー団体を重要なステークホルダーとして「活用」する。多くのPAOは製薬会社から資金提供を受けており、規制当局への働きかけ、政策提言、疾患啓発キャンペーンにおいて、出資企業の商業的利益に沿った活動を行う。企業は既存の団体と同盟を結ぶだけでなく、必要な場合には団体自体を創出することもある。例えば、女性性機能障害治療薬フリバンセリンの承認では、「Even the Score」キャンペーンが女性団体を動員し、平等のレトリックを用いてFDAに承認を迫った。PAOの「患者の声」は、乏しい試験データに「希望」という情感を付加し、規制判断に影響を与えうる強力な道具となる。一方で、製薬産業の利益を守るために激しいレトリックで批判者を攻撃するトロール的な団体も存在する。患者の切実な願いを代弁するPAOは、製薬産業の「見えない手」にとって理想的な代理人なのである。

結論:憑かれたファルマコン

製薬産業の「アセンブリッジ・マーケティング」は、研究、出版物、医師、患者団体などの要素を組み合わせて、製品が必然的に選択されるような「市場」そのものを構築する。この過程で、医学知識は商業的利益によってゴーストマネジメントされ、企業の関与はKOLやPAOなどの「偽装」によって覆い隠される。問題は個々の不正ではなく、狭い商業的利益が医学知識の政治経済全体を支配している構造そのものにある。これは「逆便益の法則」を生み出し、薬剤を「治療」から「毒」へと変えうる。関係者は自身の誠実さを主張するが、その主体性は企業によって管理され、衝突する利益の中に置かれている。改革のためには、透明性の向上や個別行為の制限を超え、医学知識の生態系における資源の大きな不均衡を是正する必要がある。それは、産業と医学の分離、臨床試験の公的資金による実施、あるいは医薬品特許制度そのものの見直しといった、より根本的な変革を要求する。


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