書籍『タダより高いものはない:ゲイツ財団とフィランソロピーの代償』リンジー・マクゴイ 2015年

フィランソロキャピタリズム、ビル・ゲイツワクチン- 製薬会社、CDC、FDA、DoDワクチン全般 HPV、炭疽菌、ポリオ、他医療・製薬会社の不正・腐敗、医原病教育新自由主義遺伝子組み換え生物・蚊

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『No Such Thing as a Free Gift: The Gates Foundation and the Price of Philanthropy』Linsey McGoey 2015

目次

  • 序章 経済的に楽園を手に入れる / Winning Paradise Economically
  • 第1章 ビッグマン / Big Men
  • 第2章 TEDヘッズ / TED Heads
  • 第3章 マンデヴィルの申し子たち / Mandeville’s Bastards
  • 第4章 小柄な利益追求者たち / Pintsized Profit-makers
  • 第5章 神の御業 / God’s Work
  • 第6章 彼らを許せ、バスティア / Forgive Them, Bastiat
  • 第7章 常にコカ・コーラ / Always Coca-Cola
  • 結論 利己的な贈り物 / The Selfish Gift

本書の概要

短い解説:

本書は、現代の巨大慈善財団、特にビル&メリンダ・ゲイツ財団の活動を批判的に分析し、フィランソロキャピタリズム(慈善資本主義)がもたらす社会的影響を明らかにする。政策立案者、社会活動家、そして慈善のあり方に関心を持つ一般読者に向けて、慈善の光と影を描き出す。

著者について:

著者リンジー・マクゴイは社会学を専門とする研究者であり、慈善活動とグローバルガバナンスを主要な研究テーマとしている。本書では歴史的・社会的な視点から、現代の巨大財団が持つ非民主的な影響力と、それが社会的不平等を悪化させる可能性を実証的に検証する。

主要キーワードと解説

  • 主要テーマ:フィランソロキャピタリズムの社会的コスト [慈善と資本主義の融合がもたらす意図せざる結果]
  • 新規性:歴史的連続性の指摘 [「新しい慈善」の主張に対する歴史的な反論]
  • 興味深い知見:二重の免除 [租税回避企業への慈善助成がもたらす税収の二重損失]

3分要約

本書は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団をはじめとする現代の巨大慈善財団の活動を、歴史的・社会的文脈の中で批判的に検証する。著者は、慈善資本主義(フィランソロキャピタリズム)が「新しい慈善」として喧伝されるが、その実態は19世紀のロックフェラーやカーネギーの慈善活動と本質的に変わらないと指摘する。

現代の慈善家たちは、利益追求と社会貢献の両立を声高に主張するが、この「利己的な利他主義」の裏には、富の集中を正当化し、再分配政策への支持を弱める危険性が潜んでいる。ゲイツ財団は世界保健機関(WHO)の最大の単独資金提供者となるなど、国際的な政策決定に大きな影響力を持つが、その意思決定は3人の理事のみに委ねられ、民主的統制が及ばない。

教育分野では、ゲイツ財団が標準化テストの導入やチャータースクールの推進に巨額の資金を投じ、アメリカ公教育を根本から変えようとしている。しかし、これらの政策は教師の士気低下や教育の画一化をもたらし、むしろ教育格差を拡大させている可能性がある。

グローバルヘルスの分野では、財団の資金が主に欧米の研究機関に集中し、現地の研究者や医療機関への直接投資が軽視されている。さらに、ゲイツ財団の投資先にはモンサントやコカ・コーラなど、その慈善活動と矛盾する企業が含まれており、利益相反の問題が指摘されている。

農業開発においては、アフリカへの遺伝子組み換え作物の導入を推進するが、これは現地の小規模農家を多国籍企業の支配下に置く危険性をはらんでいる。著者は、慈善が民主的なプロセスを迂回し、富裕層の価値観を全球的に押し付ける手段となる可能性を警告する。

歴史を振り返れば、慈善活動は常に富の正当化と社会的支配の手段として機能してきた。現代のフィランソロキャピタリズムは、この伝統の最新の現れに過ぎない。真の社会的変革を求めるなら、慈善による富の再分配ではなく、民主的なプロセスを通じた富の公正な分配が必要なのである。

各章の要約

序章 経済的に楽園を手に入れる

現代のフィランソロキャピタリズムは、慈善と利益追求の融合を特徴とする。しかしこの考え方は、バーナード・マンデヴィルやアダム・スミスにまで遡る古い思想の焼き直しである。ゲイツ財団は世界で最も影響力のある私的財団だが、その活動には透明性や説明責任の欠如、民主的プロセスへの干渉といった重大な問題が存在する。慈善は社会的不平等を解決するどころか、むしろ悪化させている可能性がある。

第1章 ビッグマン

ビル・クリントン元大統領やフランク・ギュストラのような現代の慈善家たちは、人類学的にいう「ビッグマン」の系譜を引く。彼らは贈与を通じて社会的ネットワークを構築し、政治的・経済的影響力を拡大する。慈善は利益をもたらす戦略として機能し、このことは19世紀のカーネギーやロックフェラーの慈善活動にも見られた。慈善は常に富の正当化と社会的支配の手段として機能してきたのである。

第2章 TEDヘッズ

社会的起業家精神やマイクロファイナンスといった新しい慈善のトレンドは、革新的であると喧伝されるが、その実態は誇大宣伝に過ぎない。高額な参加費を必要とするTEDやスコール・ワールドフォーラムなどのイベントは、エリート主義的で排他的な性格を持ち、真の社会的変革から目を背けさせる役割を果たしている。これらの「新しい」アプローチは、政府の開発援助の失敗を批判するが、それ自体が市場原理に過度に依存した短期的解決策に終始している。

第3章 マンデヴィルの申し子たち

マイケル・ポーターやマーク・クラマーなどの経営学者は、「共有価値」の概念を提唱し、企業の利益追求と社会貢献の両立を説く。しかしこの考え方は、企業の社会的責任をビジネス機会に還元する危険性をはらむ。慈善部門では、財団が助成先に対してより厳格な管理と成果の即時性を要求するようになり、これが受給者の自律性を損なっている。慈善は本来の目的から逸脱し、ドナーのエゴを満たす手段となりつつある。

第4章 小柄な利益追求者たち

ゲイツ財団はアメリカの公教育に多大な影響力を行使している。共通核心カリキュラム(コモン・コア)の導入、チャータースクールの推進、教師の成果主義的評価など、財団が推進する政策は全国規模で実施されている。しかしこれらの政策は、教師の自律性を損ない、教育の画一化をもたらしている。オンライン学校などの営利目的の教育事業は、公的資金を湯水のごとく消費しながら、しばしば質の低い教育を提供している。

第5章 神の御業

ゲイツ財団はグローバルヘルスの分野で大きな役割を果たしているが、その資金の大部分は欧米の研究機関に集中しており、現地の医療機関や研究者への直接投資は限られている。インドでのHPVワクチン試験をめぐるスキャンダルは、財団が資金提供する研究の倫理的問題を浮き彫りにした。さらに、財団の投資先には製薬会社や食品メーカーなど、その慈善活動と矛盾する企業が含まれており、利益相反が生じている。

第6章 彼らを許せ、バスティア

ゲイツ財団は強力な知的財産権保護を擁護する立場を取っているが、これは安価なジェネリック医薬品の普及を妨げ、低所得国での医薬品アクセスを制限している。財団は「援助は機能する」というメッセージを広めるために大規模な広報キャンペーンを展開しているが、これは貿易不均衡や租税回避など、貧困の根本的原因から目を背けさせる役割を果たしている。援助の物語そのものが、政治的・経済的不平等を隠蔽する機能を担っている。

第7章 常にコカ・コーラ

ゲイツ財団はアフリカの農業開発において、モンサントなどの多国籍企業と提携し、遺伝子組み換え作物の導入を推進している。しかしこれは現地の小規模農家を企業の支配下に置く危険性をはらむ。また、財団はコカ・コーラのような食品企業をグローバルヘルスのパートナーとして称賛するが、これらの企業の製品は非感染性疾患の増加に大きく貢献している。慈善と企業利益の境界線が曖昧になりつつある。

結論 利己的な贈り物

現代のフィランソロキャピタリズムは、ハイエク的な自由市場原理主義の延長線上にある。それは国家の計画主義を批判しながら、自らは巨大な計画を全球的に実行するという矛盾を抱えている。真の慈善とは、受益者の自律性を尊重し、ドナーのエゴを押し付けないことである。しかし現代の巨大財団は、この原則から大きく逸脱している。社会的正義を求めるなら、慈善による富の再分配ではなく、民主的なプロセスを通じた富の公正な分配が必要なのである。


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