Mg欠乏症へのキレート化マグネシウム
マグネシウム欠乏症に対しては、生物学的利用能の高い有機結合マグネシウム塩が推奨される。
- クエン酸マグネシウム
- グルコン酸塩
- オロチン酸塩
- アスパラギン酸塩
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23708889/
神経損傷への特定キレート化マグネシウム
しかし、脳での神経損傷がすでに生じている場合、一般のキレート化されたマグネシウムでは効果が限定的である可能性もある。
アルツハイマー病を含め脳神経変性など脳疾患におけるマグネシウム欠乏症には、最も効果があると考えられるマグネシウム-L-スレオネイト一択と考えて良い。
その他血液脳関門を透過するタイプのマグネシウムも選択肢となる。
- リポソーム化マグネシウム
- マグネシウムタウレート
- マグネシウム硫酸塩
- オロチン酸マグネシウムなど。
キレート加工されたマグネシウムの利用可能な医療データは限られている。キレートによって単に吸収率が違うというだけではなく、体内での動態(分布)が異なることが動物実験で示されていることから、様々なタイプを用いることが、特定の臓器や部位への蓄積リスクを低減させる方法として有効かもしれない。
一部のメーカーは、そのことを理解しているからか、キレートをミックスさせたマグネシウムサプリメントを販売している。日を分けて異なるキレートタイプのマグネシウムを摂取することでも、同様のことは達成できると思われる。
有機塩マグネシウム
クエン酸マグネシウム Magnesium citrate
もっとも一般的なキレートマグネシウム
生物学的利用能は25~30%。もっとも一般的なマグネシウム補給サプリメント
クエン酸マグネシウムは、用量に依存して筋肉と脳のマグネシウムレベルを増加させる。[R]
低コスト
リンゴ酸マグネシウムと類似する効果と性質をもっている。
低コストであるため、マグネシウムサプリメントとして一般的に普及している。[R]
高用量で効果を発揮
細胞外から細胞内へのクエン酸輸送は濃度勾配に依存しており、クエン酸マグネシウムは高用量でのみ効果的あることが示唆されている。
ある研究ではクエン酸マグネシウムによる組織マグネシウムレベルの増加は、8時間後ではなく24時間後に用量依存的に生じることが示されている。[R]
高用量で用いるとお腹がゆるくなることがある。
便秘の予防や治療にも使えるかもしれない。
腸内環境の改善に。
クエン酸キレートにより、シュウ酸塩の吸収を防ぐため、腎結石症に使用される。
オロチン酸マグネシウム Magnesium orotate
吸収率はわかっていない。安全性は高く、ラットの研究ではクエン酸マグネシウムと同様の生態吸収率があるように見える。
細胞膜への浸透
植物や動物は、DNA、RNAを作る際オロチン酸マグネシウムを用いる。細胞膜に浸透し、ミトコンドリア核の内層にマグネシウムイオンを効果的に送達する。
心血管保護・自律神経系の調整作用
心血管に対する保護作用、血圧調整、自律神経系の機能調整作用がある。[R]
抗うつ作用
プロバイオティクスとの併用で、抗うつ作用をもつ。[R]
L-トレオン酸-マグネシウム Magnesium threonate
概要
マグネシウムLスレオネイトは、脳関門を容易に通過し、脳内のマグネシウム濃度を効果的に上昇させるマグネシウム化合物。
一般のマグネシウム化合物、その他のアミノ酸キレートのマグネシウムサプリメントでは、中枢神経系への作用は限られており代替が効かない。
また、注意するべき点として、トレオン酸マグネシウムでの補給は、末梢組織での(脳以外の体組織)マグネシウム代謝には絶対量が足りない。トレオン酸マグネシウムだけで一般的に認められているマグネシウムの補給の有益な効果を得ることもできない。
規定量以上に増加させると中枢神経系へのMg供給が過剰となり、有害な影響を及ぼすかもしれない。つまり、少なくとも精神疾患、脳の機能障害がある想定される人では、両方のタイプのマグネシウムが必要とされる可能性が高い。精神的な問題も抱えておらず脳の健康が保たれている人では、通常のキレートマグネシウム剤のみを適量補給するだけでも良いだろう。
リコード法で用いられるマグネシウム剤はこのキレートタイプとなる。認知症患者、神経変性疾患向けのマグネシウムは基本これ一択。ただし臨床的な証拠はそれほど多くない。
脳の神経変性疾患治療として用いるマグネシウムはマグネシウム・L・スレオネイト一択となる。マサチューセッツ大学がノーベル受賞者と共同で開発した化合物で、特許品でもあり高価格。
効率よく生体吸収率をあげるには、一日3カプセルを分けて空腹時に摂取すること。穏やかにする作用があるため、夜を中心に摂取する。
亜鉛と競合することから、亜鉛との同時摂取は避けたいところ。
高齢者の認知能力の改善
無作為化プラセボ対照二重盲検 認知障害をもつ高齢者の認知能力を有意に改善[R]
脳シナプス密度を高める
プラセボ対照二重盲検無作為化比較試験、認知障害を有する高齢者25名へマグネシウムスレオニン(MMFS-01)1.5~2g/日を投与。脳シナプスの密度を結に高め認知能力を改善。[R]
学習能力・作業記憶・短期長期記憶の改善
マグネシウム-L-スレオネートはラットの脳のマグネシウムを増加させ、学習能力、作業記憶、短期長期記憶の改善を示す。[R]
環境多様性との相乗効果
マグネシウム スレオネートはADマウスのNMDAR伝達経路を回復させ、飼育環境に変化と多様性を取り入れることで(環境エンリッチメント)認知機能を高める。[R][R]
鉛中毒への効果
鉛による記憶障害の回復にマグネシウムスレオニンは重要な役割を果たすことが示されている。マグネシウムスレオニンは鉛への直接的なキレート作用はないため、マグネシウムがいくつかの酵素を促進することによる鉛の神経毒性を低下させた可能性がる。[R]
摂取方法
なるべく空腹時 夕方以降夜を中心に。
鎮静効果があり、人によっては日中に摂取すると眠気を催す。
タウリン酸マグネシウム Magnesium taurate
うつ病に使用されている。
脳関門の透過性が高いマグネシウムとしてL-トレオン酸-マグネシウムよりも低価格。認知機能改善の臨床的な証拠はないが、脳へ透過性からトレオン酸と同様に認知機能への改善効果があると考えられる。
タウリン
約1:10の割合でタウリンと結合しており、マグネシウムだけでなく脳神経保護作用をもつタウリンを補給できるメリットもある。デメリットというほどでもないがタウリン比率が高いため必要なマグネシウム量を摂取する際、錠剤の大きさまたは摂取数量が増加する。
マグネシウムとタウリンは容易に解離するため、タウリン酸マグネシウムの摂取は食事中のマグネシウム源と類似した代謝や生物学的分布が行われると予想されている。
タウリンはラットの13週間の経口毒性試験では、1500mg/kgがNOAEL用量として確認されている。ただし、病理学的パラメーターには影響がなかったものの中枢神経系に対する薬理作用を介して運動能力が低下した可能性があることから安全用量の設定はされなかった。
脳内マグネシウム濃度を高める
毛細血管内皮細胞には、血液脳関門を形成するタウリン輸送システムがある。グリシン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウムが高用量でのみ脳内マグネシウムレベルを増加させるのに対し、マグネシウムアセチルタウリン酸塩を投与した被験者では用量に依存せず、低用量、高用量の両方で脳内マグネシウムレベルを増加させる。
マグネシウムアセチルタウレートはリンゴ酸マグネシウムに次いで急速に吸収され(薬物の曲線面積が広い)、脳に容易に透過し脳内でもっとも高いマグネシウム濃度を維持する。[R]
NMDA神経毒性からの保護
マグネシウムアセチルタウレートは、ニトロソ化ストレスを減少すること介してNMDA興奮毒性への保護効果を示す。[R]
白内障
リポソーム化タウリン酸マグネシウムの局所適用 白内障[R]
リンゴ酸マグネシウム Magnesium malate
リンゴ酸はすべての生物で合成される。クエン酸サイクルの中間体でもあり、エネルギー生産の基本的化合物。[R]
細胞には2つの異なるリンゴ酸輸送体があり、ミトコンドリア膜と細胞質膜の両方に存在し、濃度勾配に依存する。[R]
血中マグネシウム濃度のみを上昇
リンゴ酸マグネシウムの投与は、脳と筋肉内のマグネシウムレベルは変化を示さず、血中マグネシウム濃度のみを増加させた。
細胞内のミトコンドリアで豊富に作られ、その後細胞質に移動する。細胞内のリンゴ酸塩は細胞外よりも高濃度であることからリンゴ酸マグネシウムが組織中のマグネシウムレベルに影響を与えたなかった可能性がある。[R]
血中への吸収力は高い
低価格帯のマグネシウムでもっとも吸収力が高い。キレート化マグネシウムの比較研究では、リンゴ酸マグネシウムはもっとも薬物動態の曲線面積がもっとも広いことが示された。急速に吸収され血中濃度を維持する。[R]
グリシン酸塩マグネシウム Magnesium glycinate
吸収力が高い、他のマグネシウムと異なる腸管の領域で吸収される。
高用量で脳への吸収が高まる
グリシン酸は、傍細胞経路の濃度勾配に依存して脳のタイトジャンクションを介して通過する。そのためグリシン酸マグネシウムは低用量では脳組織の透過能力が失われ、高用量で脳マグネシウムレベルが増加する。[R]
うつ病に使用される。
睡眠の改善、解毒、抗不安
アスパラギン酸マグネシウム Magnesium aspartate
酸化マグネシウムよりも生態吸収率が高く、クエン酸マグネシウムよりも低い。アスパラギン酸マグネシウムとアスパラギン酸カリウムの組み合わせによる疲労感の軽減[R][R]
無機塩マグネシウム
キレート化マグネシウムと異なり吸収率は低いが、過剰なマグネシウムは体内に吸収されないため大量に摂取しても比較的安全。マグネシウム欠乏に対しての継続的な長期補充は、無機塩マグネシウムが安全かもしれない。
一般的な食生活においてはキレート化マグネシウムは300mg以内の補充に制限し、それ以上のマグネシウムを補給する場合に無機塩マグネシウムを組み合わせると、より安全性と効果の両立が図られるかもしれない。
塩化マグネシウム Magnesium chloride
酸化マグネシウムよりも高い生物学的利用能を示す。安全性が高い。
皮膚への適用などに用いられる。
酸化マグネシウム Magnesium oxide
生体吸収率は低く4%、マグネシウム補給としては悪い選択だが、メーカーがコスト削減として使うことがある。 その他下剤の治療として使われる。下剤効果を軽減するためにはカルシウムサプリメントとセットで摂取する必要がある。
大量に酸化マグネシウムを投与することで、反対に体内のマグネシウムレベルを下げてしまう可能性がある。
水酸化マグネシウム Magnesium hydroxide
吸収率は低い。ミルマグとも呼ばれる。通常制酸剤や下剤として使われる。制酸効果があるかもしれないが、マグネシウム補給には向かない。
乳酸マグネシウム Magnesium lactate
酸化マグネシウムよりも高い生物学的利用能を示す。消化器系の治療にもっとも用いられる形態のマグネシウム。腎疾患をもつ人は避けるべき。
硫酸マグネシウム Magnesium sulfate
硫酸マグネシウム投与による有意な脳性麻痺のリスクの低減 神経保護剤としての可能性[R]
アルツハイマー病患者への硫酸マグネシウム投与試験
clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03038334
経口硫酸マグネシウムは低い生物学低利用能10%のため通常下剤として使用される。
エプソムソルト(入浴剤)
入浴剤(エプソム塩)として、または硫酸マグネシウムをクリームで用いることで、皮膚から吸収される。硫酸マグネシウムは血液脳関門を透過し脳のマグネシウム濃度を高めることが確認できなかった。[R]
サリチル酸マグネシウム Magnesium salicylate
慢性関節リウマチで使用される。
その他
リポソームマグネシウム Liposome Magnesium
マグネシウムをリポソーム化したもの。キレート加工したマグネシウムをさらにリポソーム化することで、さらに吸収率を高めることができる。