トライアルサイトスタッフ
2022年6月1日、午前2時30分
ギリシャの研究チームは、自己免疫性甲状腺炎患者と対照者について、COVID-19ワクチン(ファイザー・バイオエヌテックのBNT162b2 mRNAワクチン)が免疫反応や「中和抗体(Nabs)の動態」に与える影響を比較する試験と、BNT162b2ワクチン接種前後の健康者の甲状腺機能に与える影響を調査する試験の2つを実行しようとしていた。ギリシャで最も著名な学術医療センターの1つである本研究の研究者らは、BNT162b2が健康な人の甲状腺機能に影響を与える可能性があると報告している。
この研究の著者は、アテネ国立カポディストリア大学の医学部、薬学部、臨床治療学部、細胞生物学部、生物物理学部に所属し、アレクサンドラ病院にも籍を置いている。ギリシャの学術的・知的伝統に不可欠なアテネ国立カポディストリア大学は、6万9千人以上の学生を擁するヨーロッパ最大の大学の一つである。この研究成果は、本年2月、専門誌「Frontiers in Endocrinology」に掲載された。
その1つは、自己免疫性甲状腺炎と診断された患者56人と年齢と性別をマッチさせた健常対照者56人を対象に、BNT162b2 mRNA製品のワクチン接種後のNabsレベルを、接種初日から2度目の接種後3カ月まで比較する研究であった。なお、自己免疫性甲状腺炎は、遺伝と環境要因の組み合わせにより、免疫系が甲状腺細胞に損傷を与えることで発症する(米国甲状腺学会を参照)。
2番目の「サブスタディ」では、研究者達はファイザー社のBNT162b2ワクチンの甲状腺活性への影響を調査している。具体的には、甲状腺疾患の既往が全くない72人の健康な研究参加者の甲状腺ホルモン(T3,T4,TSH)と甲状腺自己抗体レベル(抗TG、抗TPO)をmRNAベースのワクチン投与前とサブスタディの50日目に行われた2度目の投与完了の1ヶ月後に調査したのだ。
その結果、どのようなことが分かったのだろうか
アテネ国立カポディストリア大学の研究チームは、自己免疫性甲状腺炎患者の2回目投与直前のD22における中和阻害率の中央値は62.5%だったが、1ヵ月後の50日目にはその値が96.7%に上昇したと報告している。しかし、2回目の投与から3ヵ月後でも、Nabsの力価はほとんど変わらず(94.5%)2回目の投与から3ヵ月後でも、Nabsの力価はほとんど変わっていなかった。
一方、健常者群では、試験開始22日目のナブス値は53.6%であったという。50日目には中央値が95.1%に上昇し、3ヵ月後には89.2%に低下した。
統計解析の結果、両群間に有意差は認められなかった(22日目、50日目、3カ月目のp値0.164,0.390,0.105)。甲状腺機能の変化についてはどうだろうか?ここでも甲状腺ホルモンを測定したところ、T4については、BNT162b2接種前の測定値が89.797nmol/L、その30日後に2回目の接種で89.11nmol/Lとなった(p値は0.649)。
もう一つの甲状腺ホルモンであるT3については、ギリシャの研究者が測定した平均値は1.464nmol/Lで、試験開始50日目には1.389nmol/Lに減少した(p値=0.004)。TSHの平均値は、1日目に2.064mlU/mlとなり、BNT162b2の2回目の投与から30日目(1カ月)までに1.840mlU/mlまで低下した(p値=0.037)。低下が測定されたものの、著者らは「すべての甲状腺ホルモン値は正常範囲内にとどまった」と記している。抗TPO、抗TGに変化は見られなかった。” と書いている。
結論
この研究の著者達は、この2部構成の研究は、ファイザー社のmRNAワクチンに対して「自己免疫性甲状腺炎患者が同様の免疫学的反応を示す」ことを証明するものであると結論付けている。しかし、重要なことは、BNT162b2ワクチンが健康な研究参加者の甲状腺機能に影響を与える可能性があるということだ。
主任研究員/研究員
Meletios A. Dimopoulos、アテネ国立カポディストリア大学、アレクサンドラ病院、医学部、臨床治療学教室、分担執筆者
Stavroula A. Paschou, National and Kapodistrian University of Athens, Department of Clinical Therapeutics, Alexandra Hospital, School of Medicine, Endocrine Unit.
Vangelis Karalis アテネ国立カポディストリア大学薬学部健康科学科
Theodora Psaltopoulou、アテネ国立カポディストリア大学、アレクサンドラ病院、医学部、臨床治療学部門