
『Inside Iran:The Real History and Politics of the Islamic Republic of Iran』Medea Benjamin 2018
『内部から見たイラン:イラン・イスラム共和国の真実の歴史と政治』メディア・ベンジャミン 2018
目次
- 序文 / Introduction
- 第1章 1979年革命以前のイラン / Iran Before the 1979 Revolution
- 第2章 世界を震撼させたイスラム革命 / The Islamic Revolution Shocks the World
- 第3章 イランにおける人権をめぐる闘い / The Struggle for Human Rights in Iran
- 第4章 「社会逸脱者」:ゲイ、売春婦、麻薬、アルコール / “Social Deviants”:Gays, Prostitutes, Drugs, and Alcohol
- 第5章 一部のための宗教的自由 / Religious Freedom, for Some
- 第6章 パラドキシカルなイラン女性の地位 / The Paradoxical Status of Iranian Women
- 第7章 数十年に及ぶ制裁下のイラン経済 / The Iranian Economy After Decades of Sanctions
- 第8章 米国および西側諸国とのイラン関係 / Iran’s Relations with the US and the West
- 第9章 中東とその周辺地域におけるイラン / Iran in the Middle East and Beyond
- 第10章 前進への道 / The Way Forward
本書の概要
短い解説
本書は、複雑で誤解されがちなイランという国について、その歴史、政治、社会を米国の市民外交官の視点から解説し、一般読者の理解を深めることを目的とする。
著者について
著者メディア・ベンジャミンは、平和団体CODEPINKの共同創設者であり、米国の対外政策を市民の立場から批判的に考察する活動家である。二度のイラン訪問経験と現地の人々との交流を通じて得た洞察を基に、政府間の対立を超えた民衆同士の理解を提唱する。
テーマ解説
米国とイランの根深い対立を、歴史的介入と誤った認識による産物として捉え、双方の内部からの変革の可能性を探求する。
キーワード解説
- 1953年クーデター:CIAと英情報部が計画し、民主的に選出されたモサデク首相を打倒、親米パフラビー王朝を復活させた事件。反米感情の根源。
- イスラム革命:1979年に発生し、親米的な国王を打倒、宗教指導者によるイスラム共和国を樹立した革命。現代イランの枠組みを決定づけた。
- 神権政治:イラン独自の統治システム。選挙で選ばれた大統領や議会と、最高指導者を頂点とする unelected な宗教的機関(護憲評議会など)が併存し、後者が強い権限を持つ。
- 緑の運動:2009年の大統領選挙結果に抗議して起きた大規模な市民抵抗運動。激しい弾圧を受け敗北したが、改革への民意を示した。
- 女性の地位:ヒジャブ強制などの抑圧がある一方、高い教育水準と社会進出を遂げ、権利拡大のために積極的に運動する、複雑な実態を指す。
- 核合意(JCPOA):2015年にイランとP5+1(米・英・仏・露・中・独)の間で結ばれた包括的共同行動計画。核開発の制限と引き換えに制裁を解除する画期的な合意。
3分要約
本書は、アメリカ人が「敵国」として認識するイランの実像に迫る。著者は、現在の米国とイランの対立が、1953年のCIAによるモサデク民主政権転覆という歴史的介入に深く根ざしていると指摘する。この出来事がイラン人の反米感情を決定づけ、1979年のイスラム革命へとつながった。革命後、ホメイニ師が樹立したイスラム共和国は、最高指導者を頂点とする独特の神権政治体制を確立する。
この体制下で、イラン国民は厳しい統制に直面する。人権、宗教的マイノリティ、女性、LGBTQなど多様な領域で抑圧が存在する一方、著者は、イラン社会が単なる抑圧社会ではないことも描き出す。特に女性は高い教育を受け、社会進出を果たし、権利獲得のために闘い続けている。また、ゲイへの弾圧が厳しい一方で、性別適合手術は国家が助成するなど、複雑な矛盾をはらむ。
経済的には、数十年にわたる西側諸国の制裁が国民生活を直撃し、インフレと失業に苦しむ。核開発をめぐる緊張は2015年の核合意で一旦収束するが、経済回復は道半ばである。外交面では、米国、イスラエル、サウジアラビアとの敵対関係が中東地域の紛争(シリア、イエメンなど)に影を落とす。しかし同時に、ロシアや中国、近隣諸国との複雑な関係を模索している。
著者は、米国による敵視政策と内部の強硬派の双方がイランの改革を阻んでいると主張する。真の変革は、外部からの圧力ではなく、教育水準が高く世界とつながる若い世代を中心とした内部からの非暴力の変革によってのみ可能であると結論づける。そして米国の市民として、政府に働きかけ、イランとの対話と相互理解を促進することの重要性を訴える。
各章の要約
序文
著者は、2008年の初訪伊体験を振り返り、「アメリカ死ね」というスローガンに衝撃を受けつつも、イラン人の親米的な国民性とユダヤ人への敬意に驚いたことを綴る。本書の目的は、政府やメディアが作り上げた歪んだイメージを払拭し、複雑で誇り高きイランの実像を伝えることである。
第1章 1979年革命以前のイラン
キュロス大王の古代ペルシャ帝国に始まるイランの長い歴史を概観する。20世紀に入り、石油資源を巡って英国とロシアの介入が常態化する中、1951年にモサデク首相が石油国有化を断行。しかし、1953年に米英の情報機関がクーデターを起こし、独裁的なパフラビー国王を復権させた。この出来事がイラン人の反米感情を決定づけ、後のイスラム革命の遠因となったことを明らかにする。
第2章 世界を震撼させたイスラム革命
ホメイニ師の思想的台頭から革命の成功、そしてその後の混乱を描く。革命直後、自由主義的なバザルガン暫定政権と、宗教的支配を求めるホメイニ師の路線対立が起きるが、米国大使館人質事件を機にホメイニ師が主導権を握る。続くイラン・イラク戦争を経て、ホメイニ師の「法学者の統治」理論に基づくイスラム共和国の体制が確立される。その後、ラフサンジャニ、ハタミ改革派政権の試みと挫折、アフマディネジャド強硬派政権、そして2009年の「緑の運動」弾圧を経て、現在のロウハニ政権に至るまでの政治変遷を追う。
第3章 イランにおける人権をめぐる闘い
古代ペルシャが世界初の人権宣言(キュロス・シリンダー)を生んだ地である一方、現代イランが人権において深刻な問題を抱えることを指摘する。表現の自由、集会の自由の制限、二重国籍者の拘束、不公平な司法制度、拷問の横行、そして世界最多レベルの死刑執行(特に薬物犯罪や未成年への執行)の問題を、具体的な事例を交えて詳細に論じる。
第4章 「社会逸脱者」:ゲイ、売春婦、麻薬、アルコール
LGBTQコミュニティへの弾圧について、同性愛行為が死刑にもなりうる厳しい現実を伝える。その一方で、性別適合手術が国家によって推奨・助成されるという逆説的な状況を紹介する。また、売春や麻薬・アルコールの問題が広がる現状と、政府による取締りだけでなく、公衆衛生の観点からの対策(薬物依存症治療センターの設置など)も始まっている変化を描く。
第5章 一部のための宗教的自由
シーア派を国教とするイランで、公式に認められた少数宗教(キリスト教、ユダヤ教、ゾロアスター教)は一定の自由を認められているが、非合法のバハーイー教は激しい迫害を受ける実態を明らかにする。また、国内のスンニ派ムスリムも差別の対象であり、イスラム神秘主義であるスーフィズムは人気がある一方で体制からの警戒対象となっている。興味深いことに、国民の多くは表面的には敬虔なムスリムを装いつつも、実際には宗教的ではないというパラドックスを指摘する。
第6章 パラドキシカルなイラン女性の地位
イラン女性は、ヒジャブ着用の強制や後見人制度など、法的・社会的に厳しい制約に直面する。しかし同時に、大学進学率は男性を上回り、医師やジャーナリスト、実業家として活躍する女性も多い。著者は、女性たちが服装(薄手のスカーフや豊富なメイク)や「ホワイト・ウェンズデー」運動などを通じて日常的に抵抗し、結婚、離婚、就労における権利拡大のために組織的な運動を続ける姿を描く。
第7章 数十年に及ぶ制裁下のイラン経済
豊富な石油・ガス資源を持ちながら、1979年以来の西側諸国による経済制裁により、国民生活はインフレと失業に苦しんでいる。制裁は革新的な「抵抗経済」を生み出した側面もあるが、同時に腐敗を蔓延させ、革命防衛隊のような特定勢力の経済支配を強化した。2015年の核合意後の制裁緩和は期待されたほどの経済効果をもたらさず、2017年末には経済不満が大規模な抗議行動に発展したことを記す。
第8章 米国および西側諸国とのイラン関係
1953年のクーデター、1979年の米大使館人質事件、イラン・コントラ事件、1988年のイラン航空機撃墜事件など、米国との関係悪化の歴史的転換点を詳細に描く。9/11後の短期的な協力関係もあったが、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言で頓挫。オバマ政権下での外交努力が実を結び、2015年の核合意(JCPOA)に至るが、トランプ政権の誕生で再び関係は緊張の度を増す。また、米国内でイラン人権派を装い影響力を行使する反体制組織MEK(ムジャヒディーネ・ハルグ)の特異な存在にも言及する。
第9章 中東とその周辺地域におけるイラン
サウジアラビアとの地域覇権争いが、シリア、イエメン、イラクなど中東諸国の紛争にどう投影されているかを分析する。イスラエルとはかつて同盟関係にあったが、現在は互いを「存在する脅威」と罵り合う敵対関係にある。また、周辺国(イラク、アフガニスタン、トルコ、パキスタンなど)との複雑な関係、非国家主体(ヒズボラ、ハマス、フーシ派)との戦略的連携、そしてロシアや中国、アジア諸国との主にエネルギーを軸とした関係を概観する。
第10章 前進への道
2017年末の抗議運動を分析し、経済的苦境と若者の不満が政権への圧力となっていることを確認する。しかし、米国のトランプ政権による敵対姿勢の強まりは、イラン国内の強硬派を利するだけで、改革派の立場を弱めていると批判する。著者は、真の変革は外部からの圧力ではなく、教育水準が高く世界とつながる若い世代による内部からの非暴力の変革によってもたらされると結論づけ、米国の市民には自国政府に働きかけ、イランとの対話を促進するよう呼びかける。
