
英語タイトル:『THE LONG EMERGENCY:SURVIVING THE END OF OIL, CLIMATE CHANGE, AND OTHER CONVERGING CATASTROPHES OF THE TWENTY-FIRST CENTURY』James Howard Kunstler 2005
日本語タイトル:『ロング・エマージェンシー:石油終焉、気候変動、そして21世紀の収束する大災害を生き抜く』ジェームズ・ハワード・クンストラー 2005年
目次
- 第1章 未来への夢遊病 / Sleepwalking into the Future
- 第2章 近代性と化石燃料のジレンマ / Modernity and the Fossil Fuels Dilemma
- 第3章 地政学と世界石油ピーク / Geopolitics and the Global Oil Peak
- 第4章 石油以後:なぜ代替燃料は私たちを救わないのか / Beyond Oil:Why Alternative Fuels Won’t Rescue Us
- 第5章 自然の報復:気候変動、感染症など / Nature Bites Back:Climate Change, Epidemics, etc.
- 第6章 残りガスで走る:幻覚の経済 / Running on Fumes:The Hallucinated Economy
- 第7章 ロング・エマージェンシーの中で生きる / Living in the Long Emergency
- エピローグ:/ Epilogue
本書の概要
短い解説:
本書は、安価な化石燃料の終焉がもたらす経済的・社会的・政治的な破局を予告し、アメリカの郊外的生活方式がもはや持続不可能であることを読者に認識させることを目的とする。
著者について:
ジェームズ・ハワード・クンストラーは、アメリカの郊外化と都市デザインの問題を長年批判してきた作家・ジャーナリストである。『The Geography of Nowhere』などの著書で知られ、石油依存社会の脆弱性を鋭く指摘する。本書では、楽観的な技術信仰を斥け、地質学的事実に基づく現実的な未来予測を提示する。
テーマ解説
安価な化石燃料の時代は終わりを告げ、その後の「ロング・エマージェンシー」において、アメリカ社会はスケールダウンと地域化を余儀なくされる。
キーワード解説
- 石油ピーク:世界の石油生産量が最大に達した時点。その後は不可逆的な減少が始まり、経済全体が不安定化する。
- 郊外スプロール:自動車依存の低密度住宅開発。本書では史上最大の資源誤配分とされ、石油終焉後にはスラム化すると予測される。
- エネルギー収支率:エネルギーを得るために投入するエネルギーとの比率。石油の初期は20:1だったが、現在は低下し、代替燃料では1以下になる場合が多い。
- グローバリズム:安価な石油によって可能になった国際分業体制。石油ピーク後に交易は縮小し、生活は局所化する。
- 熱力学第二法則:エントロピー増大の法則。効率性の追求がかえってシステムの崩壊を早めるとされる。
- 熱的脱重合:廃棄物から油を生成する技術だが、前提となる化石燃料プラットフォームが失われれば成立しない。
3分要約
アメリカは安価な石油と天然ガスに依存した生活様式を築いてきたが、世界石油ピークは2000年代前半から2008年の間に訪れると著者は断言する。ピーク後も地中には半分の石油が残るが、それは採掘困難で低品質なものばかりであり、需要は供給を永遠に上回る。この事実はほとんど無視されてきたが、自動車通勤と郊外住宅に投資されたアメリカ社会は、燃料不足によって機能不全に陥る。代替エネルギーとして期待される水素、太陽光、風力、バイオマス、さらには核分裂も、現在の大規模システムを維持するだけのエネルギー収支を達成できない。石炭やオイルサンドは存在するが、採掘と精製に膨大なエネルギーを消費するため、実質的な解決策にはならない。
気候変動は石油問題と相乗的に作用する。ハリケーンの激化、干ばつ、海面上昇、そして疫病の流行が、すでに脆弱な社会システムをさらに破壊する。AIDSや薬剤耐性菌、鳥インフルエンザのパンデミックは、人口過剰と環境破壊がもたらす「自然の報復」である。同時に、アメリカ経済は1990年代以降、住宅バブルとチェーン店による消費幻想に支えられてきたが、これは「幻覚の経済」にすぎない。住宅は本質的な価値を持たず、石油価格の高騰とともに資産価値は崩壊する。著者は、今後アメリカは小さな町と地域農業を中心とした社会に縮小せざるを得ないと論じる。州間高速道路は維持できず、鉄道と水路が復権する。サンベルト(南西部)は最も深刻な打撃を受け、メキシコとの紛争や無法状態が予想される。一方、旧北部諸州は比較的持ちこたえられる可能性がある。楽観的な技術信仰を斥け、現実を受け入れたうえで、局所的なコミュニティの再建こそが「ロング・エマージェンシー」を生き抜く道だと結論づける。
各章の要約
第1章 未来への夢遊病
アメリカ国民は9.11後も石油依存の現実を直視せず、「ロング・エマージェンシー」と呼ぶべき経済・政治的大混乱の崖っぷちを夢遊病のように歩いている。著者は、楽観的な「コーネストピアン」と絶望的な「ディーオフ」の中間の立場をとり、人口過剰と環境破壊が進む中で、人類は厳しい損失を被りつつも生き延びると予測する。地球の人口は非工業的な支持限界である10億人をはるかに超え、石油がこの人口バブルを支えてきた。気候変動や新興感染症(AIDS、鳥インフルエンザ)はこの状況を悪化させ、グローバリズムもまた安価な石油という一時的条件の上に成り立っていたにすぎないと著者は述べる。「アメリカのライフスタイルは交渉の余地がない」という言葉は幻想である。
第2章 近代性と化石燃料のジレンマ
20世紀のあらゆる驚異(飛行機、電灯、スカイスクレイパーなど)は安価な化石燃料なしでは不可能だった。しかし石油は有限であり、その終焉は産業文明の根底から崩壊をもたらす。世界石油ピークの概念が鍵となる。ピーク時には全埋蔵量の半分が採掘され、以後は生産量が減少する。アメリカは1970年に自国ピークを迎え、その後輸入依存を深めた。オイルショックを経て、アラスカと北海の発見は一時的な猶予を与えたが、それらの油田も現在は減少している。著者は、「人類は石油を一種の一時的で異常なボーナスとして享受してきた」と述べる。
第3章 地政学と世界石油ピーク
世界は石油をめぐる生死の闘争に直面している。中東には全世界の残存石油の60%以上が存在し、アメリカはその依存症の虜となっている。イスラム過激派との対立は慢性化し、資源戦争はすでに始まっている。サウジアラビアの超巨大油田ガワールは海水圧入による枯渇が疑われ、王国自体の安定性も疑問である。中国の台頭はさらに地政学的緊張を高める。イラク戦争は中東に警察署を設置する戦略的試みだったが、占領の困難さは明らかである。著者は「米国はやがて自らの地域へ退却し、内政問題に直面せざるを得なくなる」と予測する。
第4章 石油以後:なぜ代替燃料は私たちを救わないのか
いかなる代替燃料の組み合わせも、現在のアメリカの生活様式を維持することはできない。天然ガスも1973年にピークを迎え、現在は年間5%で減少している。水素経済は熱力学上の理由から現実的ではなく、液化天然ガスの輸入はコストと危険性から限定的である。石炭は豊富に見えても採掘エネルギーを考慮すれば永遠に持たず、環境破壊も深刻である。太陽光や風力は、その製造自体が化石燃料プラットフォームに依存している。熱的脱重合やバイオマスも同様のジレンマを抱える。著者は「再生可能エネルギーは現在の巨大システムとは両立しない。システム自体を変更する必要がある」と断言する。
第5章 自然の報復:気候変動、感染症など
気候変動はもはや理論ではなく、確立された科学的コンセンサスである。グリーンランドの氷床コアは、気候が本質的に不安定であり、ホロシーン(現在の温暖期)が異常に安定していたことを示す。メキシコ湾流の停止はヨーロッパを寒冷化させる可能性がある。海水面上昇、異常気象、干ばつは食料生産を直撃し、天然ガス枯渇による肥料不足と相乗して飢饉を引き起こす。さらにAIDSは世界で拡大を続け、薬剤耐性菌や鳥インフルエンザのパンデミックも目前である。著者は「疾病がロング・エマージェンシーでこれまで以上に大きな役割を果たすだろう」と警告する。
第6章 残りガスで走る:幻覚の経済
現代の「グローバリズム」は、未来を犠牲にして現在を最大化する高エントロピーの経済であり、石油ピークとともに終焉する。ウォルマートのような巨大企業は地域経済を破壊し、人々をコミュニティから切り離した。金融は実体経済から遊離し、LTCMの破綻や住宅バブルに象徴される「幻覚」の状態にある。連邦準備制度による低金利とサブプライムローンは住宅価格を吊り上げたが、これは石油依存の郊外開発に投資された「史上最大の資源誤配分」である。著者は「住宅は投資ではなく消費者製品であり、その価値は石油がなければ崩壊する」と論じる。
第7章 ロング・エマージェンシーの中で生きる
ロング・エマージェンシーでは、生活は局所的かつ小規模にならざるを得ない。農業が経済の中心となり、食料生産には多くの人手が必要となる。郊外はスラム化し、州間高速道路は維持できなくなる。鉄道と水路が復権し、自動車は富裕層のものとなる。サンベルト(南西部)は水とエネルギーの不足で最も深刻な打撃を受け、メキシコとの紛争も予想される。南部諸州は暴力文化と原理主義宗教の問題を抱え、新たな農奴制が出現する可能性がある。一方、旧北部諸州は比較的良好な立地条件と市民的習慣を備えている。著者は自身も小さな町に住み、自転車で移動し、最後の自動車を所有する覚悟であると告白する。「私たちは自らの行動を根本的に再編成しなければならない」。
エピローグ(2006年追加)
2005年のハリケーン・カトリーナとリタはメキシコ湾の石油・ガス生産施設の85%を破壊し、価格の高騰と供給不安を引き起こした。サウジアラビアはもはや「スイング・プロデューサー」として機能せず、世界の石油生産は頭打ちとなった。住宅バブルは崩壊の兆しを見せ、天然ガス価格は高騰を続けた。ロンドン同時爆破テロやフランスの移民暴動は、イスラム世界との緊張の高まりを示している。イラク戦争は依然として終結せず、イランの核問題も未解決である。著者は、アメリカ国民が依然として幻想を抱き続けていると嘆き、現実に基づいた政治の必要性を訴える。「私たちはいかにして現実に基づいた国家になるのか。それが最大の政治課題である」。
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