
『Off the Grid:Inside the Movement for More Space, Less Government, and True Independence in Modern America』Nick Rosen 2010
『オフ・ザ・グリッド:より広い空間、より少ない政府、そして真の独立を求める現代アメリカの運動』ニック・ローゼン 2010
目次
- 第1章 もう一つの道 / Another Way
- 第2章 グリッドはいかにして勝ち取られたか / How the Grid Was Won
- 第3章 私のもう一つの居場所はグリッド上 / My Other Place Is on the Grid
- 第4章 離脱 / Stepping Away
- 第5章 アメリカン・ドリームの再発明 / Reinventing the American Dream
- 第6章 暴落への対処 / Coping with the Crash
- 第7章 競争社会からの逃走 / Running from the Rat Race
- 第8章 ポスト消費社会 / Post-consumer Society
- 第9章 力と自由 / Power and Freedom
- 第10章 神への接近 / Closer to God
- 第11章 レーダーの下で / Under the Radar
- 第12章 恐怖 / Fear
- 第13章 到達 / Getting There
本書の概要
短い解説:
本書は、アメリカにおける「オフ・ザ・グリッド」生活の実態とその背景にある多様な動機を探求する。公的電力や水道に依存しない生活を選んだ人々への取材を通じて、その利点、課題、そしてこの運動が現代社会に投げかける問いを浮き彫りにする。
著者について:
著者のニック・ローゼンは英国のジャーナリスト兼ドキュメンタリー映画製作者で、自身もオフ・ザ・グリッド生活の実践者である。Webサイト『Off-Grid.net』を運営し、このテーマに関する執筆やキャンペーン活動を行っている。本書のために全米を旅し、多様なオフグリッダーたちにインタビューを行った。
テーマ解説
本書の主要テーマは、現代の集中型社会システム(グリッド)からの離脱を通じて、個人の自由、自立、精神的充足、そして環境持続可能性を追求する運動の全体像を描くことである。
キーワード解説
- オフ・ザ・グリッド:公共の電力網や上水道、下水道などのインフラに依存せず、太陽光発電や雨水貯留などで自給自足する生活様式。比喩的に政府や大企業からの監視や影響を受けない生き方も指す。
- サバイバリスト:社会崩壊や大災害に備えて、食料、武器、バグアウト・ロケーション(避難場所)などを準備する人々。その動機は政治不信やピークオイル理論など多岐にわたる。
- バック・トゥ・ザ・ランド運動:1970年代にヒッピー文化などから生まれた、都市生活を離れ、自給自足を目指して田舎で生活する運動。本書ではその第二波が起きているとされる。
- ピークオイル:石油の生産量がピークに達し、以後減少に転じるという理論。経済成長の持続可能性や社会構造の崩壊を危惧するオフグリッダーの根拠となることが多い。
- グリッド(電力網):大規模発電所から消費者へ電力を送る集中型システム。本書では、その歴史的形成過程において、消費者の利益よりも企業の論理が優先された経緯が批判的に検証される。
3分要約
英国のジャーナリスト、ニック・ローゼンは、自身のオフ・ザ・グリッド体験とウェブサイト運営を通じて、アメリカでのこの生活様式への高い関心を実感する。現代社会への不信感や経済的圧力から、公的インフラに依存しない「もう一つの道」を選ぶ人々の実態を探るため、彼は全米への旅に出る。
ローゼンはまず、なぜ人々がグリッドに依存するようになったのか、その歴史を批判的に検証する。20世紀初頭、ゼネラル・エレクトリックなどの巨大企業は、電化された「理想的な」家庭像を広告やプロパガンダで巧みに創り出し、消費を拡大した。この過程で、利便性だけでなく、企業への依存と監視の構造も作られた。水道事業においても、公益性よりも利権や巨大プロジェクトが優先される構図は同様である。
旅の中で出会うオフグリッダーの動機は実に多様だ。裕福な第二世代の隠れ家として、高級な水力発電を備えた別荘を持つビル・ビーバーのような例がある。一方、フロリダ州のノーネームキーでは、下水道問題をきっかけに、このままオフグリッドを維持すべきか、便利な公共サービスを導入すべきかで住民同士が激しく対立している。彼らの議論の背後には、自分たちのコミュニティの特性と資産価値をどう守るかというジレンマがある。
より切迫した事情を抱える人々もいる。メイン州の作家キャロリン・チュートは貧困と健康問題に苦しみながらも、精神的な拠り所としてオフグリッド生活を続け、若いアナキストたちと共同体を作ろうとしている。メル・セコアは差し押さえから逃れ、子供たちを危険な環境から守るために、テキサスの砂漠にトレーラーごと移住した。彼女にとってオフグリッドは、崩壊した「アメリカン・ドリーム」の代替案である。
さらに、社会生活そのものからの離脱を選ぶ人々もいる。カリフォルニアからニューメキシコに移住したヴォニー・マロンは、企業の激務とストレスから逃れ、夫との関係を修復する場としてオフグリッドを選んだ。一方、ブレット・バトラーやアラン・ワイズベッカーといった人々は、9/11事件は政府の陰謀だという強い確信を持ち、差し迫った社会の崩壊に備えている。彼らの原動力は恐怖であり、その生活はバグアウト・ロケーション(避難場所)の確保という側面を強く持つ。
これらの事例を通じて、ローゼンはオフ・ザ・グリッド運動が単なるエコ生活術ではなく、消費社会、監視社会、そして「システム」そのものへの根源的な疑問と抵抗であると結論づける。土地のゾーニング規制や建築基準など、オフグリッド生活を困難にしている法的障壁を取り除くことが政策として求められると主張する。そして、高齢の土地所有者と若い世代を結びつけるランドトラストのような新しい所有形態が、この運動を未来へと継承する鍵となる可能性を示唆する。
各章の要約
第1章 もう一つの道 / Another Way
カリフォルニア州のグリーンフィールド・ランチで開かれた、先駆的なオフグリッダー、セコイアの追悼式から始まる。著者は、オフ・ザ・グリッド生活を選ぶ多様な人々を紹介する。その動機は、環境保護から経済的困窮、自由への渇望、宗教、そして終末論的な恐怖まで実に様々である。著者自身もこの生活様式を「自由」と「節約」のために選んだと語り、アメリカのパイオニア精神が今もなお息づいている場所を探す旅の目的を明らかにする。
第2章 グリッドはいかにして勝ち取られたか / How the Grid Was Won
大規模停電をきっかけに、電力グリッドの脆弱性と、それを支える業界の論理が問われる。歴史を遡ると、ゼネラル・エレクトリックなどの企業は、消費者主権ではなく、自らの市場支配と効率性のためにグリッドを構築した。彼らは広告や学校教科書の改編を通じて、「電化された生活」を神話として植え付け、人々の依存を創り出した。水道事業においても、公共性よりも利権や都市拡大の論理が優先されてきた経緯を著者は明らかにする。
第3章 私のもう一つの居場所はグリッド上 / My Other Place Is on the Grid
オフグリッド住宅の半数は別荘かパートタイム用と推定される。ソーラー企業の創業者デイブ・カッツは、裕福なヒッピーやマリファナ栽培者たちに太陽光パネルを販売して成功した。その一方で、彼自身はグリッド上の家に住んでいる。フロリダ州ノーネームキーでは、下水道問題を機に、島に公共電力を導入すべきかをめぐる住民間の熾烈な闘争が起きている。そこでは、不動産価値を守りたい新住民と、孤立した生活様式を守りたい古くからの住民が対立している。
第4章 離脱 / Stepping Away
完全なオフグリッドへのステップとして、「オフグリッド・レディ」な生活がある。メイン州の作家キャロリン・チュートは貧困の中で手動ポンプや薪ストーブを備えながらも、精神的な自立を保つ。彼女は若いアナキストたちの共同体JEDと、老後を見守ってもらう代わりに土地を継承する契約を模索する。これは高齢の土地所有者と土地を持たない若者を結ぶ新しいモデルとなりうる。一方、マサチューセッツ州の家族は、小さな住宅ローンを抱え、ヤギを飼い、薪で暖を取り、可能な限り貨幣経済から離脱した生活を実践している。
第5章 アメリカン・ドリームの再発明 / Reinventing the American Dream
経済的に余裕のない人々にとって、オフグリッドは高級住宅地に住むための手段となりうる。ニューメキシコ州のカルロス・プロフィットは法外な土地でコツコツと家を建て、自分の居場所を確保した。彼の地域は無法地帯だが、だからこそ彼は自由を手に入れられた。コロラド州のリン・パジェットは、オフグリッドであるがゆえに彼女の予算では手が届かないような高級エリアの家を購入し、住宅ローンを組むことに成功した。彼らは「アメリカン・ドリーム」を、裕福さではなく、自分たちのルールで生きる自由の中に見出している。
第6章 暴落への対処 / Coping with the Crash
経済破綻がオフグリッドへの直接の動機となる例として、メル・セコア一家が描かれる。彼女は住宅ローンを放棄し、子供たちを危険な街から連れ出し、テキサスの砂漠にトレーラーで移住した。彼女にとってオフグリッドは、より良い生活を再構築するための最後の選択肢だった。一方、アースシップ建築で知られるマイク・レイノルズは、環境破綻に備えた自給自足の住宅を提唱するカリスマ的な実業家だが、その手法や評判は賛否両論である。彼のクライアントの中には、社会への適応に失敗し、陰謀論に傾倒していく者もいる。
第7章 競争社会からの逃走 / Running from the Rat Race
企業の激務に疲れ果てたヴォニー・マロンは、夫との関係を修復し、精神的な充足を得るためにオフグリッド生活を選んだ。彼女は高給のマーケティング副社長の座を捨て、ニューメキシコのアースシップ・コミュニティで慎ましくも豊かな生活を送る。アンドレア・ジョンソンは、エミー賞を受賞したカメラウーマンから長距離トラック運転手へと転身し、最終的にコロラドの山奥で一人で暮らすことを選んだ。彼女にとってそれは、社会からの逃避ではなく、自分自身と向き合うための積極的な選択である。
第8章 ポスト消費社会 / Post-consumer Society
消費社会からの脱却を目指す人々が登場する。ポートランドのサラは「ギフト・エコノミー」やタイムバンクを活用し、可能な限り貨幣を使わない生活を目指す。ノースカロライナのアースヘイブンでは、地域通貨「リープ」が流通している。ジム・ジュザックは「スクランジの王様」の異名を持ち、廃材を駆使して巨大な円形住宅をほぼ無料で建設した。彼の行動原理は環境への配慮というより、極限まで合理的で、システムに依存しない「論理」に基づいている。
第9章 力と自由 / Power and Freedom
「ザ・マン(体制)」からの自由を最重要視するグループに焦点を当てる。テキサスのボブとレサは、建築許可や警察への不信感から、ダラスを離れ、自分たちのルールで生きられる山間部へと移住した。ノースカロライナのユースタス・コンウェイは「最後のアメリカ人男性」と呼ばれ、原始的な生活技術を教える保護区を運営する。彼は現代社会が人々を無力な子供に変えたと嘆き、真の自由とは共同体での互助であると説く。さらに、車上生活を選ぶヤッセン・バウマンの例は、極限まで固定費を削った究極の自由な生き方を示す。
第10章 神への接近 / Closer to God
宗教的動機からオフグリッドを選ぶコミュニティを紹介する。ケンタッキー州のメノナイト、アンモン・ウィーバーは、馬力で機械を動かし、電化製品のモーターを取り外すことで、電気を使わずに高精度の機械加工業を成功させている。彼の成功の鍵は、地域コミュニティ内での完全な自給自足と、借金をしないという厳格な規範にある。カリフォルニアのアナンダ瞑想共同体は、ヨガの教えに基づき、グリッドからの自立を精神的な修行の一環と捉えている。これらの例は、オフグリッドが単なる経済戦略ではなく、世界観や信仰と深く結びついていることを示す。
第11章 レーダーの下で / Under the Radar
「グリッド」を物理的なインフラではなく、監視社会や公式な身分証明のシステムとして捉える。サクラメントのテントシティの住民たちは、ホームレスでありながらも独自のコミュニティを形成している。フロリダの活動家マックス・ラモーは、差し押さえられた家にホームレスの家族を住まわせる活動を通じて、国家権力に対抗する「もう一つの権力の中心」を作ろうとする。レインボー・ファミリーのトニー・レイコックは、IDを持たずに生きることを選び、それがいかに現代社会で困難になっているかを語る。さらに、許可なく建築する者や、違法なマリファナ栽培者が、いかにして当局の目を逃れて暮らしているかも描かれる。
第12章 恐怖 / Fear
社会崩壊への恐怖が原動力となっている人々、いわゆるサバイバリストを取り上げる。メキシコのビーチで暮らす元ハリウッド脚本家アラン・ワイズベッカーは、9/11は政府の内部工作であり、近い将来、社会は崩壊すると確信している。テキサスで巨大なオフグリッド邸宅を建設中のレスター・ジャーマニオも同様の陰謀論を信奉し、ピークオイル後の世界に備えている。ノースカロライナの大学生ブレット・バトラーもまた、9/11は陰謀であり、社会は終末に向かっているという見解を持つ。彼らはその恐怖ゆえに、あるいはその恐怖を正当化するために、銃を備蓄し、自給自足の技術を磨く。
第13章 到達 / Getting There
著者は旅の結論として、オフグリッド運動の社会的意義を三つの点からまとめる。一つ目は、住宅問題への解決策となる可能性。二つ目は、エネルギーの安全保障と環境負荷低減への貢献。三つ目は、過剰消費へのアンチテーゼとしての価値である。さらに、高齢の土地所有者と若い世代を結ぶランドトラストのような新しい所有モデルが、この運動を未来へ継承する鍵となることを示唆する。そして、政府に対してゾーニング規制の緩和など、オフグリッドを促進する政策を提言し、読者に対しても、恐怖ではなく喜びと自由を求めて、この生き方を選ぶ可能性を提示する。
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