
- 『脆弱な恐怖の均衡:新しい核時代における抑止』ヴィピン・ナラン、スコット・D・セーガン編 2022年
- 英語タイトル:『The Fragile Balance of Terror: Deterrence in the New Nuclear Age』Vipin Narang and Scott D. Sagan (eds.) 2022
目次
- 序文:脆弱な恐怖の均衡 / Introduction: The Fragile Balance of Terror
第I部:新しい核時代における新たな挑戦 / Part I: New Challenges in the New Nuclear Age
- 第1章:新興核時代における多極抑止 / Chapter 1: Multipolar Deterrence in the Emerging Nuclear Era
- 第2章:心理学、指導者、新しい抑止のジレンマ / Chapter 2: Psychology, Leaders, and New Deterrence Dilemmas
- 第3章:核のツイッター? / Chapter 3: Thermonuclear Twitter?
- 第4章:新しい核脅威の理解 / Chapter 4: Understanding New Nuclear Threats
第II部:新たな変化を伴う持続的挑戦 / Part II: Enduring Challenges with a New Twist
- 第5章:どの程度で十分か? / Chapter 5: How Much Is Enough?
- 第6章:新しい対兵力時代における生存性 / Chapter 6: Survivability in the New Era of Counterforce
- 第7章:脆弱性の支点 / Chapter 7: The Fulcrum of Fragility
- 第8章:新しい核時代における核学習の限界 / Chapter 8: The Limits of Nuclear Learning in the New Nuclear Age
- 結論:危険な核の未来 / Conclusion: The Dangerous Nuclear Future
各章の要約
序文:脆弱な恐怖の均衡
冷戦終結後、核兵器保有国は増加し、インド、パキスタン、北朝鮮が新たに核兵器を獲得した。これらの新興核保有国は米ソ冷戦時代とは異なる特徴を持つ。小規模で洗練されていない核戦力、個人独裁的指導者、地域的敵対関係、資源制約などが核抑止の安定性を脅かしている。従来の核理論は二極構造を前提としており、現在の多極的核競争には適用困難である。
第1章:新興核時代における多極抑止
多極核世界では不確実性が増大し、複数の核保有国間の相互作用が複雑化する。米露中の三極構造と地域核保有国の存在により、偶発的危機や戦争のリスクが高まる。三国間では「座して見る者が勝者となる」構造があり、理論的には抑止を強化するが、実際には軍拡競争と事故リスクを増加させる。地域レベルでも印パ中、米北中などの三角関係が危機を複雑化させる可能性がある。
第2章:心理学、指導者、新しい抑止のジレンマ
新興核保有国の多くは個人独裁的指導者に率いられており、従来の合理的行為者モデルでは説明できない行動をとる可能性がある。これらの指導者は自己愛、復讐心、妄想などの病理的特徴を持ち、組織的制約が少ないため、核兵器使用の判断が感情や個人的動機に左右される危険性がある。プライドと屈辱が意思決定に大きく影響し、核兵器を地位向上の手段として利用する傾向も見られる。
第3章:核のツイッター?
ソーシャルメディアは核危機の動態に新たな複雑性をもたらした。プラットフォーム(開放型・閉鎖型)、危機の性質(短期・長期)、対象聴衆(国内・国際)により異なる影響を与える。開放型プラットフォーム(Twitter)は短期危機で誤情報を拡散しやすいが、長期的には正確な情報に収束する傾向がある。閉鎖型プラットフォーム(WhatsApp)では誤情報が持続し、ナショナリズムを煽る危険性が高い。2019年のインド・パキスタン危機の事例が示すように、ソーシャルメディアは危機の拡大と鎮静化の両方に作用する。
第4章:新しい核脅威の理解
商業衛星技術、インターネット接続性、機械学習の発達により、政府外の組織や個人が核脅威分析に参加するようになった。これらの非政府系核探偵は重要な情報を提供し、虚偽の主張を論破する役割を果たしている。しかし、技能レベルのばらつき、意図的な欺瞞、都合の良い虚構の暴露による外交への悪影響などのリスクも存在する。オープンソース情報の利点と危険性を適切に管理することが重要である。
第5章:どの程度で十分か?
新興核保有国は「十分性」の概念を独自に定義している。インド、パキスタン、北朝鮮の事例分析により、これらの国々は技術的基準よりも政治的目的を重視し、限定的な核実験と不確実な報復能力でも十分な抑止効果があると判断していることが判明した。しかし、自国の核能力に対する認識と敵対国の認識との間にギャップが生じると、危険な危機動態が発生する可能性がある。
第6章:新しい対兵力時代における生存性
精密誘導技術と偵察能力の向上により、核戦力の生存性に新たな挑戦が生まれている。硬化(サイロ)による防護は効果を失いつつあるが、移動性による隠蔽は依然として有効である。偽陽性の問題により、移動標的の発見と破壊は技術的に困難である。新興核保有国は生存性への懸念から、より危険な展開パターンや早期警戒発射態勢を採用する可能性があり、これが事故や無許可使用のリスクを増大させる。
第7章:脆弱性の支点
地域核保有国の指揮統制システムは、従来の断定的・委任的二分法を超えて、委任のタイミングに基づく三つの類型に分類される。断定的統制(危機後期の委任)、条件付き統制(危機初期の委任)、委任的統制(平時からの委任)である。外部脅威、戦略的論理、国内政治要因が指揮統制の選択に影響する。条件付き統制システムは危機エスカレーションの新たな経路を生み出し、核安全保障に特有の課題をもたらす。
第8章:新しい核時代における核学習の限界
核学習論は、核保有国が時間の経過とともに安定化する教訓を学ぶと主張するが、この楽観論は理論的・実証的基盤が弱い。組織学習の障害、軍事的偏見、秘密主義、核兵器の曖昧な役割などが学習を阻害する。米ソ事例でも期待される教訓は学習されず、インド・パキスタンでは逆により攻撃的な政策が採用された。新しい核時代の複雑性は学習をさらに困難にし、自動的な安定化は期待できない。
結論:危険な核の未来
新しい核時代は冷戦期とは根本的に異なる特徴を持つ。多極構造、個人独裁的指導者、情報環境の変化、技術の進歩により、従来の抑止理論への信頼が揺らいでいる。危機管理、軍備管理、核拡散防止、対拡散措置などの包括的な緩和戦略が必要である。しかし、これらの挑戦は困難であり、核兵器使用のリスクは冷戦期よりも高まっている可能性がある。
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