
英語タイトル:『One Nation Under Blackmail:The Sordid Union Between Intelligence and Crime that Gave Rise to Jeffrey Epstein, Volume Two』Whitney Webb 2022
日本語タイトル:『脅迫された国家:ジェフリー・エプスタインを生み出した情報機関と犯罪の醜い結合 第二巻』ホイットニー・ウェブ 2022

目次
- 第11章 ジェフリー・エプスタインの台頭 / The Rise of Jeffrey Epstein
- 第12章 不動産開発者 / The Property Developer
- 第13章 レスリー・ウェクスナーの世界 / The World of Leslie Wexner
- 第14章 ウェクスナーの「慈善活動」の暗黒面 / The Darkside of Wexner’s “Philanthropy”
- 第15章 ギレーヌ・マクスウェル:スパイ帝国の相続人 / Ghislaine Maxwell:Heiress to an Espionage Empire
- 第16章 曲がった選挙活動 / Crooked Campaigns
- 第17章 エプスタインの事業? / Epstein’s Enterprise?
- 第18章 捕食者たち / Predators
- 第19章 王子と大統領 / The Prince and the President
- 第20章 エプスタイン、エッジ、そしてビッグテック / Epstein, Edge, and Big Tech
- 第21章 PROMISからパランティアへ:脅迫の未来 / From PROMIS to Palantir:The Future of Blackmail
本書の概要
短い解説:
本書は、ジェフリー・エプスタインという人物と彼を支えた巨大なネットワークの背景を、情報機関(インテリジェンス)と組織犯罪の歴史的・構造的癒着という観点から解き明かすことを目的とした調査報道の書籍である。主に、エプスタインの台頭とその活動の全容を、膨大な文書と関係者への取材に基づいて詳細に描き出す。
著者について:
著者ホイットニー・ウェブは、独立系メディアで活動する調査報道記者である。本書は、エプスタイン事件を単なる性的犯罪スキャンダルとしてではなく、米国やイスラエルなどの情報機関、国際金融資本、政界、技術界が複雑に絡み合った「脅迫(ブラックメール)システム」の顕現として捉える独自の視点を提供する。綿密な資料調査と、従来の主流メディアが避けてきた繋がりを追求した姿勢が特徴である。
テーマ解説
- 主要テーマ:情報機関と組織犯罪の共生関係が、政治的影響力の行使に利用される「国家規模の脅迫」システム。
- 新規性:エプスタイン・ネットワークを、冷戦期から続く「私的諜報」と「恥辱情報(コンブロマ)」収集の延長線上に位置づける。
- 興味深い知見:エプスタインの「事業」の中心には、富裕層・権力者向けの性的搾取サービスを通じた恥辱情報の体系的収集と、それを用いた政治的・経済的操作があった。
キーワード解説(一部)
- 恥辱情報(コンブロマ):対象者の弱みや違法行為の証拠を収集し、沈黙や協力を引き出すために用いられる情報。
- 私的諜報ネットワーク:公的情報機関の外側で、富豪や犯罪組織によって運営され、しばしば公的任務とも連携する情報収集活動。
- テクノロジーと監視:PROMISソフトウェアからパランティアのような最新企業に至るまで、情報収集・脅迫の手段としての技術の進化。
3分要約
本書第二巻は、ジェフリー・エプスタインの個人的な「台頭」の物語から始まる。エプスタインは、ベルンシュタインやベア・スターンズでのキャリアを通じて金融界に足を踏み入れ、その後、不可解な富と影響力を急速に獲得していく。その中心的な支援者となったのが、小売り王国「リミテッド・ブランズ」の創業者レスリー・ウェクスナーである。第13章、第14章では、ウェクスナーの巨大な経済力、彼の慈善活動を通じた社会的ネットワーク構築、そしてその活動の陰に潜む、イスラエルとの強固な結びつきや、青少年関連団体への多額の寄付を通じたアクセス可能性など、暗がりに光が当てられる。
エプスタインの「仕事」を理解する上で鍵となるのが、彼の長年の同伴者ギレーヌ・マクスウェルである。第15章は、彼女の父親で巨悪のメディア王ロバート・マクスウェルが築き上げた、イスラエル諜報機関(モサッド)と深く結びついた国際的な商業・諜報ネットワークを詳述する。ギレーヌはこの「スパイ帝国」の相続人であり、その人的ネットワークと「汚れ仕事」のノウハウをエプスタインの活動に継承・応用したと論じられる。彼らの関係は私的なものではなく、情報収集と影響力行使を目的とした事業上のパートナーシップであった。
第16章以降は、このエプスタイン=マクスウェル・ネットワークが、米国の政治中枢にいかに深く食い込んでいったかを追う。クリントン家との関係は特に深く、ビル・クリントン大統領の政治的支援や国外訪問への同行のみならず、ヒラリー・クリントンの大統領選挙活動への資金調達面での関与が描かれる。これは単なる交友関係ではなく、政治的影響力を獲得し、場合によっては行使するための計算された関係であった。同様に、ドナルド・トランプとの長年の交友関係も、不動産取引や社交界でのつながりを通じて育まれた。
第18章「捕食者たち」は、エプスタインのネットワークに引き込まれた、あるいは積極的に加担した他の権力者たち——例えば弁護士アラン・ダーショウィッツや英王室のアンドルー王子など——の役割に焦点を当てる。エプスタンの私島や邸宅は、富裕層や権力者にとっての「安全な空間」として機能し、そこで行われた性的虐待は、同時に参加者全員を共犯者とする脅迫材料を生成する装置でもあった。
最終章(第20章、第21章)は、エプスタインの関心が金融や政治から、先端技術、特にデータ収集・分析技術(ビッグデータ、AI)へと向かっていたことを明らかにする。彼が投資し、関わったとされる企業や人物(例えば、マイクロソフト共同創業者のポール・アレンの「バルチャー・ロード」や、AI軍事企業パランティアなど)を通じて、著者は、エプスタインの活動の核心が、従来型の性的脅迫から、デジタル時代における大規模な個人データ収集とAIによる分析を駆使した、新たな形態の「脅迫」や社会的操作へと進化しようとしていた可能性を示唆する。かつて諜報機関が開発したソフトウェア「PROMIS」の流用スキャンダルから、現代のパランティアに至る系譜は、国家と犯罪の結託がハイテク化する未来への警鐘である。
全体として本書は、エプスタイン事件を、情報機関、国際金融、政治権力、先端技術が交差する地点で機能した、巨大な「脅迫と影響力行使」のインフラの氷山の一角として描き出している。
各章の要約
第11章 ジェフリー・エプスタインの台頭
ジェフリー・エプスタインの経歴は、ニューヨークのコーネル大学を出てベルンシュタインや投資銀行ベア・スターンズに勤務したという表向きのものとは大きく異なる。彼のキャリアは、数学教師からいきなりウォール街のエリート職に転じるなど、不可解な飛躍に満ちている。特にベア・スターンズでは、富裕層顧客向けの税務・資産管理を専門とする「リミテッド・パートナーサービス」部門で働き、超富裕層の財務的・個人的な「問題処理」に関わるスキルとネットワークを獲得した。この時期、彼は後に最大のパトロンとなるレスリー・ウェクスナーと出会う。エプスタインの「天才」という神話は、彼を支援した権力者らによって意図的に作られ、その背後で行われる活動を覆い隠すカモフラージュとして機能した。
第12章 不動産開発者
エプスタインは、金融業以外に「不動産開発者」としても活動し、それが富の洗浄とネットワーク構築の場となった。彼が購入した一連の豪華不動産——ニューヨークのヴィレッジのマンション、パームビーチの邸宅、ニューメキシコのランチ、そして有名なカリブ海のプライベート島「リトル・セント・ジェームズ島」——は、単なる住居や保養地ではなく、重要な「事業拠点」であった。これらの物件は、富裕層や著名人を招き入れ、監視が難しく、法の及ばない空間を提供した。特に私島は、性的虐待が行われる主要な現場であると同時に、訪問者を恥辱情報で捕捉する完璧なトラップとして機能した。著者はこう述べる。「これらの物件は、単なる不動産投資ではなく、犯罪と諜報活動のための物理的インフラであった。」
第13章 レスリー・ウェクスナーの世界
エプスタインのパトロン、レスリー・ウェクスナーは、ファッション小売帝国「リミテッド・ブランズ」(後にLブランズ)の創業者であり、米国有数の富豪である。彼のビジネス手法は独裁的で秘密主義であり、巨大な富と影響力を築いた。ウェクスナーはオハイオ州コロンバスを本拠地とし、同地に広大な邸宅と財団を構え、地域社会への慈善活動を通じて顕著な存在感を示した。しかし、その慈善活動の一方で、彼は自身の私的保安部隊を組織し、徹底したプライバシー保護と情報管理を行っていた。ウェクスナーの世界は、公的な慈善家の顔と、極度に閉鎖的でコントロールを重視する私的領域とに明確に分かれており、エプスタインは後者の領域で彼の最も信頼される「財務管理者」かつ「問題処理役」としての地位を確立していった。
第14章 ウェクスナーの「慈善活動」の暗黒面
ウェクスナーの慈善活動は、社会的名声を高めるだけでなく、特定の政治的・社会的アジェンダを推進し、重要な人脈にアクセスするための手段でもあった。特に注目されるのは、彼のイスラエルとの強固な結びつきである。ウェクスナーはイスラエルへの多額の寄付者であり、同国の諜報機関モサッドの元高官とも親密な関係にあった。また、彼が設立・支援した「ウィッツォ・ヤング・リーダーシップ・プログラム」などの青少年リーダーシップ育成プログラムは、将来のエリート層との接触点を提供した。著者は、こうした青少年団体への関与が、意図的か否かを問わず、エプスタインのような捕食者が若いターゲットに近づくための経路を提供した可能性を指摘する。慈善という清いベールの下に、アクセスと影響力のネットワークが張り巡らされていた。
第15章 ギレーヌ・マクスウェル:スパイ帝国の相続人
ギレーヌ・マクスウェルの父親ロバート・マクスウェルは、チェコスロバキア生まれのユダヤ人で、英国でメディア帝国を築き上げた実業家であった。しかしその裏で、彼は複数の国の情報機関、特にイスラエルのモサッドのために働く「私的諜報員」であり、国際的な武器取引、資金洗浄、諜報活動に関与していた。彼の死後、巨大な負債と腐敗した事業が明らかになるが、その人的ネットワークと「諜報ノウハウ」は失われなかった。ギレーヌは父親の事業と人脈を引き継ぎ、没落したとはいえ「マクスウェル」の名前が持つ国際的なコネクションを利用した。エプスタインとの出会いは、彼女にとって父親の「事業」を新しい形で復活させる機会であり、エプスタインにとっては、プロのスパイネットワークの継承者をパートナーに得ることを意味した。
第16章 曲がった選挙活動
エプスタインとマクスウェルのネットワークは、米国の民主主義の核心である選挙政治にも深く浸透していた。ビル・クリントン大統領とは、エプスタインが民主党の主要な献金者として関係を築き、大統領の海外訪問に同行するほどの親密さを得た。ヒラリー・クリントンの2008年および2016年の大統領選挙においても、エプスタインは直接・間接的に資金調達に関与したとされ、ヒラリー側近との緊密な関係が報じられている。彼らの支援は単なる政治的信念ではなく、政治的影響力を獲得し、自身の活動に対する保護を求める投資であった。同様に、共和党のドナルド・トランプとも長年の友人関係を維持し、両陣営にわたる二党制のコネクションを構築していた。これは、政治的な色に関わらず権力中枢に近づき、影響力を保持するための戦略であった。
第17章 エプスタインの事業?
エプスタインの活動を「事業」として定義するとき、その核心は何であったのか。本章では、彼の様々な活動——金融アドバイザリー、不動産取引、科学研究への寄付、政治家への働きかけ——が、一つの統合された目的、すなわち「脅迫(ブラックメール)」の素材となる情報(コンブロマ)の収集と、それを用いた影響力の行使に奉仕していたと論じる。エプスタインは、富裕層や権力者に「税務アドバイス」や「資金管理」を提供することで彼らの財務的機密にアクセスし、私的な社交の場で性的サービスを提供することで彼らの個人的な弱みを握った。この二重のアプローチにより、彼は対象者に対して抜け出せない支配力を獲得した。この「事業モデル」は、冷戦期に情報機関が開発したコンブロマ収集手法を、民間の犯罪ネットワークが私的利益のために応用したものと位置づけられる。
第18章 捕食者たち
エプスタインのネットワークは、彼一人で運営されていたわけではなく、多くの「捕食者」や「共犯者」によって支えられ、拡大していた。本章では、著名な法律学者でエプスタインの弁護士でもあったアラン・ダーショウィッツ、英王室のアンドルー王子、さらに多くの未公表の政治家、実業家、学者らが言及される。ダーショウィッツはエプスタインの法的問題を処理するだけでなく、自らも被害者とされる女性に関与したと訴えられている。アンドルー王子はエプスタインとマクスウェルを通じて知り合った若い女性との関係で世界的なスキャンダルに発展した。これらの人々は、単なる「客」ではなく、ネットワークの積極的な参加者であり、時には新たな被害者を紹介する「調達役」にもなった。彼らの社会的地位は、ネットワークに信頼性を与え、被害者の告発を困難にする防壁として機能した。
第19章 王子と大統領
第19章は、エプスタイン・ネットワークが国際的な広がりを持つことを象徴する二つの関係、英王室のアンドルー王子と米国のドナルド・トランプ大統領(当時は実業家)との関係に焦点を当てる。アンドルー王子との関係は、ギレーヌ・マクスウェルの英国社交界でのコネクションを通じて深まり、王子はエプスタインの私邸や私島を繰り返し訪問した。トランプとの関係は、1980年代のニューヨーク不動産・社交界で始まり、互いを「素晴らしい男」と称し合う長年の交友関係として知られる。両者の関係は、エプスタインが逮捕された後も、トランプが過去にエプスタインのパーティーに出席していた事実とともに再注目された。これらの関係は、エプスタインのネットワークが、米英のエスタブリッシュメントの頂点にまで到達していたことを示す証左である。
第20章 エプスタイン、エッジ、そしてビッグテック
エプスタインの関心は、金融や政治だけでなく、科学技術、特に人工知能(AI)やデータ分析といった先端分野にも向けられていた。彼は、マイクロソフト共同創業者ポール・アレンの投資会社「バルチャー・ロード」や、AI研究の第一人者とされるマービン・ミンスキー(彼自身もエプスタインの島を訪れ、虐待に関与した疑惑がある)などと関係を持っていた。また、自身でも「サイエンス・センター」を構想し、著名な科学者に資金を提供した。これらの活動は、単なる慈善や知的興味を超えて、将来の技術的優位性、特に大量の個人データを収集・分析して人々の行動を予測・影響する技術への投資であった。著者は、エプスタインが「テクノロジーは次のフロンティアである」と語っていたことを示し、彼の活動の技術的側面に光を当てる。
第21章 PROMISからパランティアへ:脅迫の未来
最終章は、脅迫と情報支配の技術的進化を歴史的に展望する。起点は、1980年代の「PROMIS」ソフトウェアスキャンダルである。これは、司法省が開発したデータベースソフトが、イスラエルの諜報機関を通じて世界各国に裏口版として販売され、バックドアを通じて諜報活動に利用された事件である。このスキャンダルには、ロバート・マクスウェルや後のエプスタイン関係者も関与していた。著者は、この流れが現代のデータマイニング企業「パランティア・テクノロジーズ」に連なると論じる。パランティアはCIA出資のスタートアップとして始まり、政府機関向けに大量データ分析ツールを提供している。エプスタインもパランティアの創設者ピーター・ティールと面会していたとされる。ここから見えてくるのは、国家諜報機関、民間軍事・諜報企業(PMC/PSC)、そしてエプスタインのような私的ネットワークが、先端監視技術を共有・発展させ、デジタル時代における脅迫と社会操作の新たな形態を生み出そうとする危険な未来図である。
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