書籍要約『第四次産業革命における大国政治:技術的主権の地政経済学』グレン・ディーセン 2021年

テクノロジー、技術批判、ラッダイト戦争・国際政治

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英語タイトル:『Great Power Politics in the Fourth Industrial Revolution:The Geoeconomics of Technological Sovereignty』Glenn Diesen 2021

日本語タイトル:『第四次産業革命における大国政治:技術的主権の地政経済学』グレン・ディーセン 2021年

目次

  • 序章:産業革命の地政経済学
  • 第1章 第四次産業革命の技術:国家戦略に向けて
  • 第2章 技術的主権の地政経済学:拡散の管理
  • 第3章 技術ナショナリズムとリショアリング:国際分業の断片化
  • 第4章 テックジャイアントと権威主義的国家の台頭:生産手段の掌握
  • 第5章 政治的コミュニケーション:国家、個人、外国勢力
  • 第6章 資本主義なき地政経済学:資本と労働の分離
  • 第7章 大いなる社会変容:ゲマインシャフトなき地政経済学?
  • 第8章 殺人ロボットと大国間戦争の回帰
  • 第9章 グローバル・ガバナンス:権力、正当性、統治不可能な技術
  • 結論:技術的主権に向けて

本書の概要

短い解説:

本書は、第四次産業革命がもたらす技術革新が大国間の地政経済的競争をいかに根本的に再編し、国家主権の概念そのものを「技術的主権」の獲得競争へと変容させるかを分析する。国際関係、政治経済、安全保障の専門家や、技術と社会の未来に関心を持つ読者を対象としている。

著者について:

著者グレン・ディーセンは、地政経済学、ロシア外交、ユーラシア統合を専門とする国際関係学者。本書では、新現実主義(ネオクラシカル・リアリズム)の理論的枠組みに立ちつつ、米国、中国、ロシアという三大大国を主な事例に、技術が権力の源泉となり、国家と市場、個人の関係を再定義する過程を実証的に追っている。

テーマ解説

  • 主要テーマ:技術的主権の競争:第四次産業革命下では、AI、ロボティクス、ブロックチェーンなどの基盤技術を自国で掌握し、他国への依存を減らす「技術的主権」が、大国の自立性と影響力の根源となる。
  • 新規性:地政経済学と産業革命の統合的分析:単なる技術予測ではなく、過去の産業革命の歴史的教訓を引きながら、技術が国際分業、国内社会、軍事バランス、グローバル・ガバナンスに及ぼす体系的影響を地政経済学の観点から解き明かす。
  • 興味深い知見:デジタル・プラットフォームの「範囲の経済」と新たな独占:検索エンジンやSNSといったデジタル・プラットフォームが、一見無関係な産業(運輸、小売、金融など)を吸収し、巨大な技術的エコシステムを形成する「範囲の経済」が、市場支配力と国家への挑戦を生み出す。

キーワード解説(抜粋)

  • 技術的主権:国家が戦略的に重要な技術を外部に過度に依存することなく、自国の自律性と安全保障を維持し、国際的な影響力を行使できる能力。
  • 地政経済学:国際的な無政府状態において、国家が市場を支配し、経済的相互依存の非対称性を利用して政治的影響力を獲得・行使することを目的とする政治経済学の分野。
  • ゲマインシャフトとゲゼルシャフト:産業革命により、伝統的な共同体(ゲマインシャフト)が合理的で計算的な社会(ゲゼルシャフト)に取って代わられ、人間の本性に根ざした帰属意識と現代社会の効率性の間の緊張が生じている。
  • 創造的破壊(社会的側面):シュンペーターの経済的概念を超え、技術革新が既存の社会的構造、価値観、職業に意味を与える働き方を破壊し、社会の結束と個人の目的意識に危機をもたらす過程。

3分要約

本書は、第四次産業革命が、大国間のパワー・ポリティクスを「技術的主権」をめぐる競争へと激変させると論じる。AI、ロボティクス、バイオテクノロジーなどの画期的技術は、経済力と軍事力の源泉を再定義し、他国への技術的依存は国家の自律性を損なう戦略的脆弱性となる。その結果、米中を中心とする大国は、サプライチェーンの国内回帰(リショアリング)や自国の技術的エコシステムの育成を推進し、冷戦後のグローバルな国際分業と自由貿易システムは断片化の道を歩み始める。

この技術競争は、国内社会にも深い亀裂をもたらす。自動化とAIによる「創造的破壊」は、かつてない規模で雇用を破壊し、資本と労働の結びつきを分離させる。これにより富の一極集中が進み、資本主義の存続基盤そのものが揺らぐ。同時に、デジタル・プラットフォームを支配する「テックジャイアント」は、市場支配力を背景に国家の権威に挑戦し、政治的コミュニケーションを私物化する。国家はこれに対応するため、規制や事実上の国有化を通じて「ナショナル・チャンピオン」を育成し、より権威主義的な方向へと傾斜せざるを得なくなる。

こうした国内の混乱は、国家が合理的な外交政策を追求する能力を損なう。さらに、軍事技術の革新は、核抑止のバランスを崩し、自律型殺人兵器や宇宙・サイバー空間の戦場化を通じて、大国間の直接衝突のリスクを高める。しかし、既存の国際的軍備管理体制は崩壊しつつあり、新技術を管理するグローバル・ガバナンスは未だ生まれていない。米国の一極支配が揺らぎ、中国の台頭とロシアの巻き返しが続く中、世界は新たな秩序なき「中間期」にあり、無秩序と紛争の危険が高まっている。

著者は、技術は単なる効率化の道具ではなく、社会を再構築する力であると強調する。第四次産業革命の技術を、共同体の絆(ゲマインシャフト)と個人の尊厳を回復するために活用し、宇宙探査のような新たなフロンティアに人間の目的意識を見出すことが、社会的分断と地政経済的対立を乗り越える道筋となりうると示唆する。結論として、国家は新技術の導入を管理し、技術的主権を確保するとともに、それがもたらす社会経済的混乱を緩和する積極的役割を果たさなければならない。さもなければ、大国間の競争は不安定化し、世界はさらなる混乱に陥るだろう。

各章の要約

序章:産業革命の地政経済学

第四次産業革命は、過去の産業革命と同様に、権力の源泉と国際システムの構造を根本から変える。蒸気機関や電力に続き、AIとロボティクスは「認知の自動化」をもたらし、経済、軍事、社会、政治にわたって予測不能な変容を引き起こす。本書の中心的問いは、この革命が大国間の地政経済的競争に与える影響である。仮説として、技術的主権(自国技術基盤の掌握)の重要性が飛躍的に高まり、国家の自律性と影響力を左右するようになると論じる。分析の枠組みには新現実主義(ネオクラシカル・リアリズム)を採用し、米国(現状維持国)、中国(挑戦国)、ロシア(追随・巻き返し国)を主要な事例として検討する。

第1章 第四次産業革命の技術:国家戦略に向けて

本章は、第四次産業革命を構成する中核技術(AI、ロボティクス、3Dプリンティング、IoT、ブロックチェーン、ニューロテクノロジーなど)を概観する。特にAIは「認知の自動化」という点で画期的であり、他のあらゆる技術の進歩を加速する「汎用技術」として機能する。これらの技術は、製造コストの劇的な低下、サプライチェーンの簡素化、新たな産業の創出をもたらすが、そのスピードと範囲は政府の対応を上回る。米国、中国、ロシアはそれぞれ異なる国家戦略を策定し始めている。米国は従来のリーダーシップを維持しようとし、中国は「中国製造2025」などで積極的に追い上げ、ロシアは独自の技術的エコシステム構築による「技術的主権」の確立を目指す。技術はもはや単なる経済ツールではなく、大国の地位を決定づける地政経済的・軍事的競争の核心である。

第2章 技術的主権の地政経済学:拡散の管理

地政経済学の観点から見ると、国家間の競争は「依存のバランス」を有利にすること、すなわち自国の他国への依存を減らし、他国の自国への依存を増やすことに帰着する。ハイテク産業は、代替が難しく、依存関係を生み出す「戦略的産業」であり、このバランスを操作する上で極めて重要である。第四次産業革命では、技術そのものが戦略的産業の基盤となるため、「技術的主権」の獲得が地政経済的パワーの核心となる。国家は、技術の獲得(イノベーションor模倣)と実用化を支援し、先発優位を延長するために技術の拡散を遅らせようとする。他方、後発国は拡散を加速させて追いつこうとする。国内の社会経済的安定は、国家が外部のシステミックな圧力(バランス・オブ・パワーの論理)に合理的に対応するための前提条件であり、新古典派現実主義の視点が重要となる。

第3章 技術ナショナリズムとリショアリング:国際分業の断片化

自由貿易とグローバルな国際分業は、英国や米国といった地政経済的ヘゲモンがそのリーダーシップを固定化するために推進してきたものであり、永続的ではない。第四次産業革命は、この分業体制を二重の意味で解体する。第一に、大国間の対立(特に米中)の中で、サプライチェーンは「重要なインフラ」と見なされ、安全保障上の理由から国内回帰(リショアリング)が進む。第二に、自動化とロボティクスの発達により、低賃金労働を比較優位とする発展途上国での生産の優位性が失われ、先進国自身が製造業を国内に呼び戻す経済的誘因が生まれる。中国は「中国製造2025」で技術的自立を図り、米国は製造業の回帰を掲げる。この「デュアル・デカップリング」は、従来の輸出主導型開発戦略を取ってきた国々に大きな打撃を与え、世界経済は米国主導、中国主導、そしておそらく欧州主導の技術的ブロックに分断される「スプリンターネット」へと向かう。

第4章 テックジャイアントと権威主義的国家の台頭:生産手段の掌握

第四次産業革命は、GAFAやBATHに代表される「テックジャイアント」に空前の市場支配力をもたらす。デジタル・プラットフォームは「範囲の経済」により、検索、EC、SNSから、自動運転、物流、決済、食料生産に至るまで、一見無関係な産業を統合する巨大な技術的エコシステムを構築しつつある。この独占的傾向は、自由市場の競争を損ない、国家の権威に挑戦し、民主主義を蝕む。国家は、国際競争力を維持するために巨大企業が必要であるというジレンマに直面する。解決策は、規制や国家関与を通じて、企業を国益に沿った「ナショナル・チャンピオン」へと変質させることである。これは、国家と大企業が融合するファシズム的経済体制への傾斜を意味する。中国は当初からこのモデルに近く、米国やロシアも同様の圧力に直面している。

第5章 政治的コミュニケーション:国家、個人、外国勢力

印刷機からインターネットまで、コミュニケーション技術は、国家と個人、そして外国勢力の間の力関係を絶えず書き換えてきた。デジタル革命は当初、個人のエンパワーメントと民主化をもたらすと期待された。しかし現実には、ソーシャルメディアは社会を分断する「エコーチェンバー」を生み、フェイクニュースを拡散し、外国勢力の介入を容易にした。国家は、社会的結束の維持と外国の情報操作への対抗のため、インターネットの管理を強め、「主権的インターネット」の構築へと向かう。中国の社会的信用システムや、ロシアの「RuNet」構想はその極端な例である。第四次産業革命では、IoTやAIによる監視技術の進展が、この権威主義的傾向にさらに拍車をかける。民主主義は、国家による監視・統制と、無秩序な情報空間の間で窮地に立たされている。

第6章 資本主義なき地政経済学:資本と労働の分離

第四次産業革命による自動化は、資本と労働の歴史的結びつきを決定的に分離させる。機械が人間の労働に取って代わり、生産性向上の果実が労働者に還元されなくなる「資本偏向的技術変化」が進行する。これにより、富は資本所有者に一極集中し、技術的失業は恒久的なものとなるリスクがある。過去の「創造的破壊」とは異なり、新たに創出される高度な職の数は、失われる職を補えない可能性が高い。資本主義は、労働者が賃金を得て商品を購需するという循環に依存しているため、この構造的変化はその存立基盤を脅かす。著者はこう述べる。「資本主義の成功は、それを改革するインセンティブを低下させ、長期的な生存を脅かすかもしれない」。政治的安定を維持するためには、ロボット税やベーシックインカムなどによる富の再分配が不可欠となるが、それは資本主義の根本原理の修正を意味する。

第7章 大いなる社会変容:ゲマインシャフトなき地政経済学?

産業革命は、人間の本質にある二重性—伝統的共同体(ゲマインシャフト)への帰属欲求と、合理的で効率的な社会(ゲゼルシャフト)への志向—の間の緊張を悪化させてきた。第四次産業革命による自動化は、労働から解放されると同時に、労働を通じて得られていた尊厳と人生の目的を奪う可能性がある。テクノロジーが経済的効率だけを追求する道具となるなら、社会は無意味化とニヒリズムに陥る。地政経済学的競争においても、国内社会が分裂し不安定化すれば、国家は合理的な外交政策を追求する統一的行為者として機能できなくなる。著者は、技術を単なる労働節約の手段ではなく、人間性を回復し、新たなフロンティア(宇宙探査など)に目的を見出すために用いるべきだと主張する。宇宙探査は、アポロ的合理性とディオニュソス的混沌への挑戦を結びつけ、社会に共通の目標と意味をもたらす「新たなユーバーメンシュ」の活動領域となりうる。

第8章 殺人ロボットと大国間戦争の回帰

第三次産業革命の核兵器は「相互確証破壊」を通じて大国間の直接戦争を抑止してきたが、第四次産業革命の軍事技術はこの「核の平和」を瓦解させる可能性がある。AIを搭載した自律型殺人兵器、極超音速兵器、宇宙空間やサイバー空間での戦争は、従来の攻守のバランスと抑止の論理を根本から変える。特に、ミサイル防衛と先制攻撃能力の組み合わせは、相手の報復能力を無力化し、先制攻撃を誘発する「安全保障のジレンマ」を激化させる。自律兵器の高速化は意思決定の時間を奪い、人間の管理から外れるリスクを高める。米露中はこうした新技術の開発競争に突入しているが、ABM条約やINF条約に代表される従来の軍備管理体制は崩壊し、新技術を規制する国際的枠組みは存在しない。世界は、管理不能な新兵器が大国間の偶発的衝突や全面戦争のリスクを高める危険な時代に戻りつつある。

第9章 グローバル・ガバナンス:権力、正当性、統治不可能な技術

産業社会の生産力の拡大を管理するグローバル・ガバナンスは、ヘゲモニーか勢力均衡のいずれかの下で安定する。米国主導の冷戦後の「自由主義的国際秩序」は、中国とロシアを十分に包摂することに失敗し、正当性を失った。その結果、世界は米国主導の西側ブロックと、中国・ロシアが推進する「大ユーラシア」構想という、対立する地政経済的ブロックへと分裂しつつある。各国は自国の法的空間を域外に適用する「治外法権主義」に走り、グローバルなルールは崩壊している。第四次産業革命の技術(AI、遺伝子編集、宇宙開発など)は国境を越える性質を持つが、それを統治する国際的枠組みはない。新技術の開発競争が、大国間の対立を先鋭化させる中、世界は新秩序なき危険な「中間期」にあり、20世紀初頭の状況に似た無秩序と紛争のリスクが高まっている。

結論:技術的主権に向けて

第四次産業革命は、技術的主権の獲得を大国の地位の必須条件とし、国際分業を断片化させる。国家は、テックジャイアントの制御、社会的混乱の緩和、軍事的均衡の維持のために、市場への介入を強めざるを得ず、自由主義的秩序は後退する。この変革期は、古いシステムが死に、新しいシステムが未だ生まれない「中間期」であり、ポピュリズム、保護主義、技術ナショナリズムなどの「病的症状」が現れている。著者は、技術を人間性と社会の絆を再構築するために方向づけ、宇宙のような新たなフロンティアに目的を見出すことが、地政経済的対立と社会的分裂を克服する道となりうると結論づける。国家は、技術の単なる受動的採用者ではなく、その発展を導き、技術的主権を確保しながらも、それがもたらす広範な帰結を管理する積極的役割を担わなければならない。


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