
『Globalization and Its Discontents Revisited: Anti-Globalization in the Era of Trump』Joseph E. Stiglitz 2017
『グローバリゼーションとその不満 超大国の傲慢と没落』ジョセフ・E・スティグリッツ 2017
目次
- 第一部 グローバリゼーションと新たな不満 / Globalization and the New Discontents
- 第1章 グローバリゼーションの失敗 / The Failures of Globalization
- 第2章 グローバリゼーションの多面的側面 / The Multiple Dimensions of Globalization
- 第3章 新たな保護主義 / The New Protectionism
- 第4章 グローバリゼーションは救えるか? / Can Globalization Be Saved?
- 第二部 グローバリゼーションとその不満(2002年版) / Globalization and Its Discontents (2002 edition)
- 第5章 グローバル機関の約束 / The Promise of Global Institutions
- 第6章 破られた約束 / Broken Promises
- 第7章 選択の自由? / Freedom to Choose?
- 第8章 東アジア危機 / The East Asia Crisis
- 第9章 誰がロシアを失ったのか? / Who Lost Russia?
- 第10章 不公平な公正貿易法 / Unfair Fair Trade Laws
- 第11章 市場へのより良い道 / Better Roads to the Market
- 第12章 IMFのもう一つのアジェンダ / The IMF’s Other Agenda
- 第13章 前進への道 / The Way Ahead
- 2017年版あとがき / Afterword to the 2017 Edition
本書の概要
短い解説:
本書は、グローバリゼーションが先進国と発展途上国の双方で生み出した不満の根本原因を分析し、より公平で持続可能なグローバル経済秩序の構築を提言する。政策決定者、経済学者、そしてグローバリゼーションの行方に関心を持つ一般読者を対象としている。
著者について:
著者ジョセフ・E・スティグリッツは、ノーベル経済学賞受賞者であり、元世界銀行チーフエコノミスト、米国大統領経済諮問委員会委員長を歴任。国際金融機関の内部からグローバリゼーションの管理の失敗を目の当たりにし、市場原理主義的な「ワシントン・コンセンサス」政策に対して一貫して批判的立場を取ってきた。本書では、その豊富な実務経験に基づく独自の視点から、グローバル経済の現状分析と改革案を提示する。
主要キーワードと解説
- 主要テーマ:グローバリゼーションの管理失敗 [先進国と途上国双方に広がる不満の根本原因]
- 新規性:新たな不満層の台頭 [先進国の労働者階級が途上国に加わり、反グローバリゼーション運動が拡大]
- 興味深い知見:保護主義という偽りの解決策 [トランプ的な保護主義は問題を悪化させるだけである]
各章の要約
第1章 グローバリゼーションの失敗
貿易グローバリゼーションは、その推進派が約束したほどの利益をもたらさなかった。利益は過小評価され、コストは過大評価された。単純化された経済モデルに依存した結果、雇用喪失や不平等の拡大といった悪影響が見落とされていた。貿易自由化は、国内の雇用創出が雇用破壊に追いつかない場合、失業を増大させる。また、為替レートの変動や不完全競争といった現実的な要因を無視したため、リスクが軽視された。最も重大な失敗は、貿易の利益が労働者ではなく、多国籍企業に偏って分配されたことである。著者はこう述べる。「問題はグローバリゼーションそのものではなく、我々がそれを管理してきた方法にある。」
第2章 グローバリゼーションの多面的側面
グローバリゼーションは貿易だけでなく、資本移動、知識、人の移動にも及ぶ。短期資本の自由な移動は、通貨危機を引き起こし、経済に大きな不安定性をもたらした。投資協定は、外国企業に自国政府を訴える権利を与え、環境や労働者の権利を守る規制を妨げる手段として利用されてきた。さらに、グローバリゼーションは企業による租税回避を容易にし、政府の税収を減少させた。知的財産権の強化は、医薬品の価格高騰を招き、生命の危機に瀕する人々を生み出した。移民に対する不満は、経済的要因以上に文化的恐怖や人種差別に根ざしている。これらの問題はすべて、グローバリゼーションのルールが企業利益を中心に設計された結果である。
第3章 新たな保護主義
トランプ大統領に代表される「新たな保護主義」は、グローバリゼーションに対する不満への誤った解答である。保護主義は、過去の製造業中心の経済を取り戻すことはできない。歴史は重要であり、構築された全球的なサプライチェーンを一夜で解体することは不可能である。貿易赤字は主にマクロ経済要因(貯蓄と投資のバランス)によって決まるため、保護主義的な貿易政策だけでは是正できない。むしろ、関税の引き上げは物価を上昇させ、生活水準を低下させる。貿易戦争はすべての国にとって損失となる。著者はこう述べる。「保護主義は、彼らが代弁すると主張する人々の苦境を実際には悪化させるだろう。」
第4章 グローバリゼーションは救えるか?
グローバリゼーションを救うためには、根本的な改革が必要である。グローバリゼーションは目的ではなく、すべての国の人々の生活水準を向上させるための手段でなければならない。国内レベルでは、格差是正のための進行的な税制、強力な社会的セーフティネット、完全雇用を目指すマクロ経済政策が不可欠である。国際レベルでは、グローバルなガバナンスを改革し、透明性と説明責任を高め、発展途上国により公平な発言権を与える必要がある。環境保護や労働基準といった社会的価値も貿易ルールに組み込まれるべきである。公平なグローバリゼーションは可能だが、それは企業の利益ではなく、人々の福祉を中心に据えた場合にのみ実現する。
第5章 グローバル機関の約束
IMF、世界銀行、WTOといった国際経済機関は、世界経済の安定と繁栄を促進するために設立された。しかし、これらの機関、特にIMFは、その本来の使命から逸脱している。冷戦終結後、IMFと世界銀行は市場原理主義的な「ワシントン・コンセンサス」政策(財政緊縮、民営化、市場自由化)を発展途上国に押し付ける「伝道機関」へと変貌した。これらの政策は、しばしばその国の実情を無視した画一的なものであり、貧困層に多大な犠牲を強いた。国際機関のガバナンスの問題(先進国、特に米国の独占的な影響力)が、こうした政策の失敗の背景にある。
第6章 破られた約束
世界銀行チーフエコノミストとしての経験から、著者はIMFの政策が如何に発展途上国、特に貧困層に打撃を与えているかを目の当たりにする。エチオピアの事例では、IMFが健全なマクロ経済実績にもかかわらず、独自の政治的アジェンダ(金融市場の急速な自由化など)を押し付けるために融資を停止した。IMFの「画一的」アプローチは、各国の特有の事情や発展段階を無視しており、その政策は往々にして理論的イデオロギーに基づき、現地の知識や専門家の意見を軽視する。このような「新たな植民地主義」的な態度が、発展途上国における反グローバリゼーション感情を煽っている。
第7章 自由を選ぶ?
ワシントン・コンセンサスの三本柱(財政緊縮、民営化、自由化)は、適切な順序やペースを無視して推進されたため、多くの場合、悲惨な結果を招いた。民営化は、しばしば腐敗を伴い、資産の略奪や雇用の喪失をもたらした。貿易自由化は、新しい雇用が創出される前に既存の雇用を破壊し、貧困を悪化させた。資本市場の自由化は、通貨危機を引き起こす主要因となった。これらの政策は、貧困層に過度の負担を強いる「トリクルダウン経済学」に依拠しており、その結果、成長が達成された場合でも、利益は富裕層に集中し、格差は拡大した。成功を収めた東アジア諸国は、ワシントン・コンセンサスとは異なる、政府が積極的な役割を果たす独自の道を歩んだ。
第8章 東アジア危機
IMFの政策が世界を金融危機の瀬戸際に追い込んだ経緯を検証する。1997年のタイバーツ暴落を発端としたアジア通貨危機は、IMFが推進した急激な資本市場自由化が主要な原因だった。著者は、IMFが高金利政策や緊縮財政を強要したことで、危機が深化・長期化したと指摘する。特に、企業の高負債状態での高金利政策は破綻を促進し、経済を悪化させた。マレーシアが資本規制を導入して比較的軽微な影響で済んだ事例と対比し、IMFの画一的な政策処方箋の問題点を浮き彫りにする。著者はこう述べる。「IMFの方針は、危機に陥った国々の問題の一部であって、解決策の一部ではなかった。」
第9章 誰がロシアを失ったのか?
共産主義から市場経済への移行(トランジション)における失敗を分析する。著者は、IMFと米国財務省が推し進めた「ショック療法」(急速な民営化、自由化、緊縮政策)が、ロシア経済を破綻させ、貧困と不平等を劇的に増大させたと主張する。特に、オリガルヒ(新興財閥)が国有資産を安価で取得する「ローン・フォー・シェア」計画のような腐敗した民営化が、経済的惨事と民主主義の後退をもたらした。中国やポーランドなど、より漸進的なアプローチを取った国々の成功と比較し、政策の誤りを明らかにする。著者はこう述べる。「市場ボリシェヴィキたち…は、レーニンの手法の穏健版を用いて、ポスト共産主義の『民主的』移行を導こうと試みた。」
第10章 不公平な「公正貿易法」その他の悪行
ロシア改革をめぐる米国の政策決定が、地政学的戦略や国内の特殊利益(特に金融・アルミニウム産業)に左右された実態を暴く。米国がロシアに自由貿易と市場開放を要求しながら、自国ではアルミニウム国際カルテルを容認したり、国内産業保護のため「ダンピング防止」関税を発動するなど、矛盾した行動を取ったことを批判する。このような hypocrisy(偽善)が、ロシアを含む世界に対する米国の信頼と影響力を損なったと論じる。
第11章 市場へのより良い道
ロシアや多くの東欧諸国が失敗した「ショック療法」とは異なる成功モデルとして、中国とポーランドの漸進的アプローチを紹介する。中国は農業改革から始め、二重価格制度や町郷鎮企業の育成を通じて競争と新規事業の創出を優先した。ポーランドは、民営化よりも銀行システムや法制度など市場経済の基盤整備を重視した。これらの国々が、IMFのワシントン・コンセンサスに反して高い成長を達成した事実は、改革の道筋が複数存在することを示している。著者はこう述べる。「成功した事例はすべて『内発的』であり、各国の人々によって設計され、その国のニーズと懸念に敏感であった。」
第12章 IMFのもう一つの議題
IMFの行動が、グローバルな経済安定という本来の使命よりも、国際金融界の利益を反映していると指摘する。資本市場自由化や大規模な救済プログラム(バイルアウト)が、実際には金融市場の不安定性を増大させ、危機国の国民より欧米の債権者を利する結果をもたらしたと批判する。著者は、スタンドスティル(支払い停止)や破産処理の促進など、債権者よりも債務国に配分した代替戦略の必要性を主張する。IMFの行動を理解するには、「金融コミュニティの利益を追求している」と見る必要があると論じる。
第13章 前進の道
グローバリゼーションをより公平で持続可能なものにするための改革案を提示する。国際金融機関(IMF、世界銀行)のガバナンス改革(発言力の再配分)、透明性の向上、条件付け(コンディショナリティ)の見直しを求める。金融面では、資本規制の容認、破産・債務整理の枠組み構築、大規模救済依存の軽減を提言する。貿易(WTO)では、先進国の農業補助金削減や知的所有権ルールの見直しなど、開発途上国に有利な「開発ラウンド」の実現を訴える。グローバリゼーションそのものではなく、その管理の仕方に問題があると結論づける。著者はこう述べる。「グローバリゼーションは、世界中の何十億というこれまで恩恵を受けてこなかった人々のために機能させることができる…しかし、それが実現するのは、私たちがこの書で概説したような改革を真剣に実行する場合に限られる。」
2017年版あとがき
2002年の初版刊行以降のグローバリゼーションの変化を振り返る。2008年の金融危機はワシントン・コンセンサス政策の失敗を決定的にし、中国をはじめとする新興国の台頭により、世界はより多極化した。IMFは不平等の危険性を認識するなど一部で改革が進んだが、グローバルガバナンスの根本的な変革は遅れており、米国の政治的混迷(トランプ政権の誕生)が国際協調を危うくしている。中国主導の新たな国際機関(AIIBなど)の登場やデジタル経済の台頭といった新たな潮流を分析し、将来のグローバリゼーションが、より公平で持続可能な共有繁栄を実現するか、それとも保護主義と対立が深まるかは、政治的な選択にかかっていると論じる。著者はこう述べる。「持続可能なグローバリゼーションは、持続可能な共有繁栄なくしてあり得ない。」
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