
THE TRUE STORY OF A REMARKABLE PAIN-KILLING DRUG
目次
- 第1章 万能薬を求めて (In Search of a Panacea)
- 第2章 発見 (The Discovery)
- 第3章 DMSO:アスリートの最良の友 (DMSO: The Athlete’s Best Friend)
- 第4章 痛みが悪化し続ける時 (When the Pain Keeps Getting Worse)
- 第5章 関節炎の問題 (The Arthritis Question)
- 第6章 命を救うために (To Save a Life)
- 第7章 精神遅滞とDMSO (Mental Retardation and DMSO)
- 第8章 DMSOの多面性 (The Many Faces of DMSO)
- 第9章 DMSOはどの程度安全か? (How Safe Is DMSO?)
- 第10章 DMSOの政治学 (The Politics of DMSO)
- 第11章 DMSOについて最もよく寄せられる質問 (The Most Frequently Asked Questions about DMSO)
各章要約
第1章 万能薬を求めて
In Search of a Panacea
理想的な薬物が持つべき特性として、幅広い疾患への効果、安全性、投与方法の多様性、安定性、安価性が挙げられる。DMSO(ジメチルスルホキサイド)は1960年代にポートランドで発見され、ニューヨーク・タイムズに「1960年代最大の奇跡の薬」と評された。この化合物は関節炎から火傷まで多様な症状に効果を示し、皮膚を通過して体内に直接浸透する独特な性質を持つ。製紙業の副産物として安価に製造でき、1パイント35セントで購入可能だった。しかし1981年現在、膀胱疾患の間質性膀胱炎のみがFDA承認を受けているに過ぎない。数百万人のアメリカ人が地下市場でDMSOを購入し使用している現状がある。
第2章 発見
The Discovery
1950年代後期、クラウン・ゼラーバッハ社の研究化学者ロバート・ハーシュラー(Robert Herschler)が木材パルプ製造の副産物であるDMSOの商業的可能性を探っていた。彼は植物の抗生物質や殺菌剤とDMSOを混合すると、これらの薬剤がより深く迅速に植物の循環系に浸透することを発見した。また、DMSOが手に付くと口の中でカキのような味がすることに気づき、DMSOが皮膚を貫通して直接体内に入ることを推測した。1963年、オレゴン大学医学部の外科医スタンリー・ジェイコブ(Stanley Jacob)博士と共同研究を開始し、DMSOの7つの基本的薬理作用を特定した。これには膜透過性、鎮痛効果、抗炎症作用、細菌増殖抑制などが含まれる。
第3章 DMSO:アスリートの最良の友
DMSO: The Athlete’s Best Friend
1963年、研究助手ニール・フレデリック(Neil Frederick)が階段で足首を捻挫した際、DMSOを塗布すると15分以内に痛みが消失し、腫れも治まった。これは軟組織損傷に対するDMSOの劇的な効果を示す最初の事例となった。プロ・アマチュアを問わず多くのアスリートがDMSOを使用しており、元オークランド・レイダースのクォーターバック、ダリル・ラモニカ(Daryle Lamonica)は「DMSOなしではNFLでプレーできなかった」と証言した。ブリガムヤング大学のトレーナー、マーブ・ロバートソン(Marv Robertson)は、DMSOが軟組織損傷の回復時間を平均50%短縮すると報告している。DMSOは痛みを和らげ、炎症を抑制し、筋肉をリラックスさせ、血流を増加させる複合的効果を持つ。
第4章 痛みが悪化し続ける時
When the Pain Keeps Getting Worse
ミネアポリスの繊維商人ソル・ファインスタイン(Sol Feinstein)は椎間板手術後の瘢痕組織により3年間慢性疼痛に苦しんでいた。1980年の60ミニッツ番組を見た後、ポートランドのDMSOクリニックを訪れ、毎朝70%DMSO溶液で足浴を行う治療を開始した。3週間後から痛みが軽減し始め、10か月後にはゴルフや自転車に復帰できるまで回復した。慢性疼痛はアメリカで数千万人が苦しむ深刻な問題である。DMSOは動物実験でモルヒネと同等の鎮痛効果を示し、2〜4時間長く持続する。急性痛には即効性があるが、慢性痛では効果が現れるまで6週間以上かかる場合がある。C線維の伝導を阻害することで鎮痛効果を発揮すると考えられている。
第5章 関節炎の問題
The Arthritis Question
アメリカでは約3200万人が関節炎に苦しんでおり、これは心疾患、精神疾患に次ぐ第3位の障害原因となっている。年間経済損失は100億ドルに達する。DMSOは優れた鎮痛剤であり、抗炎症作用を持ち、局所投与が可能で安価である。しかし関節炎財団(Arthritis Foundation)は科学的データではなく証言に基づく効果だと批判している。下院議員クロード・ペッパー(Claude Pepper)委員会の調査では、回答したリウマチ専門医の20%がDMSOを使用し、その50%が効果的と評価した。日本リウマチ協会の274名を対象とした研究では、90%および50%DMSO溶液がプラセボより有意に優れた効果を示した。ロシアの研究でも343名中64%に改善が見られた。
第6章 命を救うために
To Save a Life
アメリカでは平均10分に1回、重篤な頭部・脊髄損傷患者が病院に搬送される。シカゴ大学のジャック・デ・ラ・トーレ(Jack de la Torre)博士の動物実験では、DMSOが頭蓋内圧を他の薬剤より迅速かつ効果的に低下させることが判明した。DMSOは脳血流を増加させ、脳波活動を活発化し、血圧を安定させ、呼吸を深くする効果がある。サル30匹の実験では、生理食塩水群は全て死亡、尿素群は10匹中7匹が生存したが、DMSO群は全匹が生存し、1匹のみに一時的麻痺が見られただけだった。オレゴン大学のハロルド・パクストン(Harold D. Paxton)博士は、従来治療に反応しない頭蓋内圧上昇患者にDMSOを投与し、6例中2例が良好な回復を示したと報告している。DMSOは損傷後1時間以内の投与で最大効果を発揮する。
第7章 精神遅滞とDMSO
Mental Retardation and DMSO
ポートランドの22歳のビリー・キング(Billy King)はダウン症候群で、10年間DMSOと神経伝達物質の注射治療を受けている。母親のベティ・ルー・キング(Betty Lou King)によると、治療開始前は着替えや排泄制御ができなかったが、現在は自立した生活を送り、作業センターで働いている。チリの化学者ニコラス・ワインスタイン(Nicholas Weinstein)は、DMSOが血液脳関門を通過してアミノ酸を脳内に運ぶ能力に注目した。チリでの55名のダウン症児を対象とした研究では、DMSO・アミノ酸治療群のIQが平均29から40に上昇したのに対し、対照群は34から33に低下した。ジェイコブ博士らによるオレゴン大学での研究でも、高用量DMSO群が最も改善を示した。
第8章 DMSOの多面性
The Many Faces of DMSO
ペンシルベニア州のアーキー・バーレット(Arkie Barlet)は1965年に強皮症を発症し、皮膚が硬化し疲労感に悩まされていた。彼女は強皮症国際財団を設立し、DMSOの使用により痛みが軽減され正常な生活を送れるようになった。DMSOは火傷、滑液包炎、関節炎、癌、慢性疼痛、凍結肩、間質性膀胱炎、強皮症、歯痛、耳疾患、眼疾患、胃腸疾患、頭痛、痛風、痔、ヘルペス感染症、腱炎など幅広い疾患に効果を示している。獣医学分野では1970年からFDA承認を受けており、アメリカの獣医師の70%が使用し、90%が効果的と評価している。農業分野では植物の栄養素吸収促進、成長刺激、凍結防止、病気予防効果が確認されている。DMSO は「21世紀のアスピリン」と呼ばれる多面的な治療薬である。
第9章 DMSOはどの程度安全か?
How Safe Is DMSO?
DMSO の安全性に関する懸念は主に1965年のFDAによる動物実験での眼のレンズ変化報告に基づいている。しかしジェイコブ博士は「20年近く世界中で何百万人が使用しているにも関わらず、致命的毒性効果の文書化された例は一例もない」と述べている。LD50(半数致死量)は大鼠で19.7〜28.3g/kgで、アルコール(13.7g/kg)より毒性が低い。カリフォルニア州バカヴィル刑務所での囚人を対象とした研究では、80%DMSO を14日〜90日間投与しても重篤な毒性効果は見られなかった。眼のレンズ変化はウサギ、犬、豚の3種でのみ確認され、サルでは認められていない。人間での眼の問題は20年間報告されていない。主な副作用は口臭、皮膚刺激、ニンニク様の味覚のみで、重篤な副作用はまれである。
第10章 DMSOの政治学
The Politics of DMSO
ハーシュラーとジェイコブが発見したDMSOは、理想的には2〜3年でFDA承認を受け、処方薬として広く利用可能になるはずだった。しかし実際には複雑な政治的・官僚的問題に直面した。1963年の最初の論文発表は科学雑誌に拒否され、1964年にようやく『Current Therapeutic Research』誌に掲載された。その間に地元紙がDMSOについて報道し、ニューヨーク・タイムズも追随したため、科学界から「ルール違反」として批判された。クラウン・ゼラーバッハ社は6社の大手製薬会社にライセンスを供与したが、これが競争を激化させFDAを警戒させた。1965年、アイルランドでの死亡例を口実にFDAは臨床試験を停止し、その後15年以上にわたって承認を阻み続けた。これは医学史上最大級の薬物弾圧事件となった。
第11章 DMSOについて最もよく寄せられる質問
The Most Frequently Asked Questions about DMSO
DMSOに関する一般的な疑問への回答集である。DMSOはジメチルスルホキサイドの略称で、1950年代から工業溶媒として使用され、1960年代から治療薬として利用されている。商業グレードと医薬品グレードの治療効果は同じだが、医薬品グレードは追加の精製工程を経ている。冷凍・解凍を繰り返しても品質に影響しない。高濃度溶液(70〜90%)はより効果的だが皮膚刺激も強い。作用機序は多面的で、膜透過性、鎮痛効果、抗炎症作用などによる。手で直接塗布し、広範囲に適用するのが最適である。多くの医師は未承認薬への慎重姿勢から処方を躊躇する。眼への害は動物実験に基づく懸念で、人間での報告例はない。アルコールとの相互作用は十分解明されていない。現在アメリカでは間質性膀胱炎のみ承認されている。
DMSO: The True Story of a Remarkable Pain-killing Drug についての考察
by Claude 3
DMSOの発見と医学的特性
この書籍を読み進めていくと、DMSO(ジメチルスルホキシド)という物質が持つ医学的可能性と、それを取り巻く複雑な政治的状況が浮かび上がってくる。
まず、DMSOの基本的な特性から考えてみよう。1866年にロシアの化学者アレクサンダー・N・サイツェフによって初めて合成されたこの物質は、約100年間ほとんど注目されることなく、単なる実験室の珍品として扱われていた。しかし1959年、ロバート・ハーシュラー(Robert Herschler)という化学者が、クラウン・ゼラーバッハ社で木材パルプ製造の副産物の新しい商業的可能性を探る中で、DMSOの驚くべき特性を発見することになる。
ハーシュラーが最初に気づいたのは、DMSOを植物の抗生物質や殺菌剤と混ぜると、これらの物質が通常よりも深く、速く植物の循環系に浸透するという現象だった。さらに興味深いことに、DMSOが皮膚に付着すると、すぐに口の中に牡蠣のような独特の味を感じるという体験をした。これは単に蒸気による味覚ではなく、DMSOが実際に皮膚を透過して体内に入っていることを示唆していた。
皮膚透過性という革命的特性
多くの化学物質が生体膜を透過する能力を持つことは知られている。アンモニア、ガソリン、ナフサなども皮膚を透過できる。しかし、これらの物質は皮膚バリアを破壊してから透過する。DMSOの独自性は、皮膚の完全性を損なうことなく、わずかな灼熱感を除いてほとんど害を与えずに透過できる点にある。
この特性について考えてみると、従来の医学常識を覆すものだということがわかる。1960年代初頭まで、薬物担体が膜を透過するには、まず不可逆的な損傷を引き起こす必要があるというのが医学の定説だった。DMSOがこの常識を覆したことで、多くの科学者は当初、その主張を信じようとしなかった。
スタンリー・ジェイコブ(Stanley Jacob)医師との出会いによって、ハーシュラーの発見は医学的応用への道を開くことになる。ジェイコブは臓器の凍結保存を研究する低温生物学の専門家だったが、DMSOの可能性に魅了され、共同研究を開始した。
DMSOの多面的な薬理作用
二人の研究によって明らかになったDMSOの薬理作用は驚くほど多岐にわたる:
1. 鎮痛作用 – 特に急性の痛みに対して迅速な効果を示す
2. 抗炎症作用 – フリーラジカルの除去と膜の安定化による
3. 抗菌作用 – 細菌の抗生物質耐性を低下させる
4. 利尿作用 – 静脈内投与で最も強力な利尿薬の一つとなる
5. 血管拡張作用 – 損傷部位への血流を増加させる
6. コリンエステラーゼ阻害作用 – 神経伝達の改善に寄与
7. 薬物運搬作用 – 他の薬物を皮膚を通して運ぶ能力
これらの作用について深く考察すると、単一の物質がこれほど多様な薬理作用を持つことの意味が見えてくる。通常、医薬品は1つか2つの基本的な薬理特性を持つのが普通だが、DMSOは重篤な副作用を生じることなく、これらすべての作用を示す。
臨床応用の実例と効果
書籍に記載されている臨床例を見ていくと、DMSOの効果の即効性と幅広さが印象的である。例えば、ニール・フレデリック(Neil Frederick)の事例では、階段で足首を捻挫した際、DMSOを塗布してから15分以内に痛みが消失し、翌日には腫れも引いていた。通常の捻挫治療では考えられない速さである。
アスリートたちの証言も興味深い。元オークランド・レイダースのクォーターバック、ダリル・ラモニカ(Daryle Lamonica)は、腫れ上がった親指にDMSOを使用した際、「目の前で腫れが引いていくのが見えた」と証言している。5~6分で皮膚が正常に戻り、腫れの大部分が消失したという。
インディアナ大学の陸上競技コーチ、サム・ベル(Sam Bell)は、1964年のオリンピック選考会の直前に重度のハムストリング損傷を負った選手に2日間DMSOを集中的に使用し、選手が競技に参加できるまでに回復させた。完全な回復には至らなかったが、通常なら歩くことさえ困難な状態から競技参加可能なレベルまで回復したことは「奇跡」と表現されている。
慢性疼痛への応用
急性の痛みだけでなく、慢性疼痛に対するDMSOの効果も注目に値する。ソル・ファインスタイン(Sol Feinstein)の事例は特に印象的である。椎間板手術後の瘢痕組織による3年間の慢性疼痛に苦しんでいた彼は、DMSOによる治療開始から3週間で改善を感じ始め、10ヶ月後にはゴルフ、長距離歩行、自転車に乗ることができるようになった。
しかし、ここで重要な点は、慢性疼痛に対する効果は急性疼痛ほど劇的ではないということである。ジェイコブ医師は、慢性疼痛患者の場合、効果が現れるまでに6~8週間かかることもあると述べている。これは、DMSOの作用機序が単純な鎮痛ではなく、より複雑な生理学的プロセスを介していることを示唆している。
関節炎治療における可能性と論争
関節炎に対するDMSOの使用は、最も議論を呼んでいる分野の一つである。アメリカで約3200万人が苦しむ関節炎は、心臓病、がんに次いで3番目に多い障害の原因となっている。年間約100億ドルの経済的損失をもたらすこの疾患に対して、DMSOは理論的には理想的な治療薬となりうる。優れた鎮痛作用、抗炎症作用、局所適用可能性、低毒性、低コストという特性を持つからだ。
しかし、関節炎財団はDMSOに対して否定的な立場を取っている。フレデリック・マクダフィー(Frederick McDuffie)博士は、DMSOへの熱狂は「科学的データではなく体験談から来ている」と主張する。一方で、クロード・ペッパー(Claude Pepper)下院議員の委員会が行った調査では、250人のリウマチ専門医のうち20%がDMSOを使用または処方した経験があり、その半数が効果的だと感じていることが明らかになった。
日本リウマチ協会が274人の関節リウマチ患者を対象に行った研究では、90%および50%のDMSO溶液を使用した群で、プラセボ群と比較して関節痛と可動域に有意な改善が見られた。ドイツの医師ハインツ・ジョン(Heinz John)とゲルハルト・ラウダーン(Gerhard Laudahn)の研究では、変形性関節症患者の80%、関節リウマチ患者の約75%が部分的または完全な症状寛解を経験した。
中枢神経系損傷への革新的応用
おそらく最も革命的な応用は、頭部および脊髄損傷に対するDMSOの使用である。ジャック・デ・ラ・トーレ(Jack de la Torre)博士の動物実験は、衝撃的な結果を示している。通常なら致死的または麻痺を引き起こす頭部・脊髄損傷を負った動物に、損傷後速やかにDMSOを静脈内投与すると、死亡や麻痺を防ぐことができたのである。
30匹のサルを使った実験では、生理食塩水のみを投与した10匹すべてが死亡したのに対し、DMSOを投与した10匹はすべて生存し、1匹が一時的な右腕麻痺を示しただけだった。これは、従来は不可逆的と考えられていた中枢神経系の損傷が、実は損傷直後の適切な介入によって防げる可能性を示唆している。
DMSOが頭蓋内圧を迅速かつ効果的に低下させる能力は、他のどの薬物よりも優れていることが示された。頭蓋内圧の上昇は、脳組織の腫脹によって頭蓋骨内の圧力が高まることで生じ、さらなる脳損傷を引き起こす。DMSOはこの悪循環を断ち切ることができる。
FDA規制との長い闘い
DMSOの物語で最も問題となっているのは、FDA(米国食品医薬品局)との関係である。1965年、FDAは動物実験で高用量のDMSOが眼のレンズに変化を引き起こすという理由で、ヒトでの臨床試験を禁止した。しかし、この決定には疑問が多い。
まず、これらの眼の変化は特定の動物種(ウサギ、イヌ、ブタ)でのみ確認され、サルでは4つの研究のうち1つを除いて確認されなかった。さらに重要なことに、約20年間のヒトでの使用において、DMSOによる眼の損傷の症例は一例も報告されていない。
ジェイコブ医師は、FDAの決定は科学的根拠よりも政治的動機に基づいていたと主張する。1965年の禁止令の直後、FDAは全国の調査官をワシントンに召集し、「我々の決定を正当化する証拠を見つけろ」と指示したという。これは、科学的評価機関としてのFDAの役割から逸脱した行為である。
安全性プロファイルの検証
DMSOの安全性について、多くの誤解が存在する。確かに、すべての薬物には何らかの副作用があり、DMSOも例外ではない。しかし、その毒性プロファイルは驚くほど良好である。
ラットでの致死量(LD50)は体重1kgあたり19.7~28.3gである。これはアルコールの約13.7g/kgよりもはるかに高い。人間に換算すると、平均的な体重の人が1時間以内に2クォート(約1.9リットル)以上のDMSOを飲まなければ致死量に達しない。これは、ほとんどの人が2ヶ月かけて体内に取り込むDMSOの量を超える。
1967年にカリフォルニア州ヴァカヴィル刑務所で行われた研究では、ボランティアの囚人に通常の治療用量の3~30倍のDMSOを投与したが、重篤な毒性効果は観察されなかった。主な副作用は、特有の呼気臭と塗布部位の軽度の皮膚刺激のみだった。
現代医療への示唆と日本への応用
DMSOの物語から学ぶべきことは多い。まず、革新的な医薬品の開発と承認プロセスにおける規制当局の役割について再考する必要がある。FDAのような機関は、公衆の安全を守る重要な役割を果たしているが、同時に官僚主義的な硬直性が医学の進歩を妨げる可能性もある。
日本の文脈で考えると、厚生労働省の医薬品承認プロセスも同様の課題を抱えている可能性がある。特に、既存の枠組みに収まらない多機能性を持つ物質や、安価で特許による独占が困難な物質に対しては、製薬会社の開発インセンティブが働きにくい。
DMSOのような物質が示唆するのは、医薬品開発における「オーファンドラッグ」的な問題である。効果的で安全であっても、商業的魅力が低い物質は開発が進まない。これは、公的機関による研究開発支援や、承認プロセスの柔軟化が必要であることを示している。
また、DMSOの多面的な作用機序は、西洋医学の還元主義的アプローチの限界を示唆している。単一の作用機序を持つ薬物を開発し、特定の症状を治療するという従来のパラダイムでは、DMSOのような物質の価値を適切に評価できない。
科学と政治の交差点
DMSOの事例は、科学的真実と政治的現実の間の緊張関係を浮き彫りにする。ハーシュラーとジェイコブが発見したDMSOの医学的特性は、多くの独立した研究者によって確認されている。世界中で何千もの科学論文が発表され、ドイツ、スイス、スペイン、ソビエト連邦など多くの国で処方薬として承認されている。
しかし、アメリカでは1981年の時点で、まれな膀胱疾患である間質性膀胱炎に対してのみ承認されていた。この矛盾は、科学的証拠の評価が純粋に客観的なプロセスではなく、政治的、経済的、社会的要因に影響されることを示している。
FDAの立場を擁護する議論もある。サリドマイド事件の記憶がまだ新しい1960年代、新薬の安全性に対する慎重なアプローチは理解できる。しかし、過度の慎重さは、有効な治療法へのアクセスを妨げ、結果として患者に害を与える可能性がある。
DMSOが示す医療の未来
DMSOの物語は、21世紀の医療が直面する課題を予見している。第一に、複雑な作用機序を持つ物質の評価方法である。従来の「一つの薬、一つの標的、一つの疾患」というパラダイムは、DMSOのような多機能性物質には適用できない。
第二に、安価で容易に入手可能な物質の医薬品化の問題である。DMSOは工業用溶媒として1ピント35セントで購入できたが、医薬品として承認されれば、規制コストのために価格は大幅に上昇する。これは、医療へのアクセスと規制の必要性のバランスをどう取るかという問題を提起する。
第三に、患者の自己決定権の問題である。多くのアメリカ人が違法にDMSOを入手し、自己治療に使用していた。これは、患者が自身の健康に関する決定にどの程度関与すべきか、医師や規制当局の役割は何かという根本的な問いを投げかける。
結論:DMSOが投げかける問い
DMSOの物語は、単なる一つの薬物の承認をめぐる論争以上の意味を持つ。それは、科学的発見がどのように社会に実装されるか、規制システムがイノベーションとどう向き合うか、そして最終的に患者の利益をどう守るかという、医療システム全体の課題を浮き彫りにする。
ハーシュラーとジェイコブの20年にわたる闘いは、科学者の責任と情熱の物語でもある。彼らは個人的な犠牲を払いながら、自分たちが信じる医学的真実を追求し続けた。その過程で、彼らは科学界、産業界、規制当局、そして一般市民の間の複雑な相互作用を経験した。
最終的に、DMSOの事例が示すのは、医学の進歩が純粋に科学的なプロセスではなく、社会的、政治的、経済的要因が絡み合う複雑なプロセスであるということだ。そして、このプロセスにおいて、患者の声と科学的証拠の両方に耳を傾ける必要があるということである。
日本においても、革新的な医療技術や治療法の評価と承認において、同様の課題に直面している。DMSOの教訓は、規制の必要性を認識しつつも、過度の官僚主義が医学の進歩と患者の利益を損なわないよう、バランスの取れたアプローチが必要であることを示している。
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