
英語タイトル:『Chokepoints:How Economic Infrastructure Is Shaping Geopolitics』Edward Fishman [2024年]
日本語タイトル:『チョークポイント:経済インフラが地政学を形作る方法』エドワード・フィッシュマン [2024年]
目次
- 第一部 チョークポイントの構築 / Building the Chokepoints
- 第二部 イランと核兵器 / Iran and the Bomb
- 第三部 ロシアの帝国主義的領土拡大 / Russia’s Imperial Land Grab
- 第四部 中国の技術覇権への挑戦 / China’s Bid for Technological Mastery
- 第五部 ロシアのウクライナ侵攻 / Russia’s Invasion of Ukraine
- 第六部 世界経済の断絶 / The World Economic Rupture
本書の概要:
短い解説:
本書は、21世紀における新たな経済戦争の形を、金融、エネルギー、技術などの「チョークポイント」(要所)を支配する戦略を通じて分析する。政策立案者、ビジネスリーダー、国際関係に関心のある一般読者に向け、米国が直面する地政学的競争における経済的優位性の維持方法を具体的な事例に基づき示す。
著者について:
著者エドワード・フィッシュマンは、国務省で経済制裁政策に関わるなど、実践的な政府経験を持つ研究者である。そのバックグラウンドを活かし、ロシア、イラン、中国に対する米国の経済戦略の立案と実行の舞台裏を、内部関係者の視点から詳細に描き出す。理論と実践の橋渡しを行う学識実務家としての立場から、説得力のある提言を行う。
テーマ解説
- 主要テーマ:経済インフラを兵器化する戦争 [金融、決済、エネルギー供給路などの世界的な経済インフラの要所(チョークポイント)を支配・遮断することで、敵対国に圧力をかける新たな形態の経済戦争。]
- 新規性:チョークポイント戦略としての経済安全保障 [従来の軍事対立とは異なり、グローバル経済の相互依存性そのものを戦場とする、21世紀型の対立の様式。]
- 興味深い知見:不可能な三位一体 [著者は、経済的相互依存、経済安全保障、大国間競争の三つを同時に達成することは不可能であると論じる。]
キーワード解説(2~7)
- チョークポイント:世界的な経済活動の流れ(資金、エネルギー、データなど)が集中し、それを支配または遮断することで他国に大きな影響を与え得る要所。
- 経済戦争:軍事力の代わりに、貿易制限、資産凍結、金融システムからの排除などの経済的手段を用いて国家目標を達成しようとする行為。
- サプライチェーン:製品やサービスが原材料から最終消費者に至るまでの一連の流れ。その分断は経済に壊滅的打撃を与え得る。
- 金融制裁:特定の国、企業、個人を国際金融システムから切り離すことで、経済活動を麻痺させる強力な経済兵器。
- 技術覇権:人工知能(AI)や半導体などの次世代基幹技術において世界をリードし、他国の安全保障と経済的未来を左右する地位。
- 相互依存の武器化:国家間の経済的結びつき(貿易、投資、金融取引)を、相手に対する脆弱性やレバレッジ(梃子)として積極的に利用する戦略。
3分要約
本書は、冷戦終結後のグローバル経済の相互依存が深まった世界において、大国間競争が再燃する中で、経済的手段が「戦争の継続としての政策」の主要な形態となった過程を描く。著者は、この新しい経済戦争の本質を、世界的な経済活動の流れを制御する「チョークポイント」を支配する戦いと定義する。
第一部では、経済戦争の歴史的変遷を振り返り、現代の特徴が金融システムやドルの基軸通貨性といった「不可視のインフラ」を武器化することにあると指摘する。9.11後のテロ資金対策で強化された金融追跡網が、国家に対する制裁の精密な実行を可能にしたことが基盤となった。
第二部から第四部では、この新たなツールキットを駆使した米国主導の三つの大規模な経済戦争キャンペーンに焦点を当てる。イラン核開発問題では、国際金融システムからの締め出しという「100-0」の戦略が交渉妥結への道筋を作った。2014年のロシアによるクリミア侵攻時には、対象を限定的にした「外科手術的」制裁が試みられたが、その限界も露呈した。中国に対する技術覇権争いでは、半導体などの重要技術サプライチェーンを「小さな庭と高い柵」で囲い込む戦略が展開され始める。
第五部は、2022年のロシアのウクライナ全面侵攻に対する西方諸国の対応の劇的変化を扱う。従来の「外科手術的」アプローチは放棄され、ロシア中央銀行の資産凍結、主要銀行のSWIFT排除など、経済全体を標的とした「金融核兵器」とも呼ばれる前例のない制裁が発動された。著者はこれを「経済消耗戦」と評し、エネルギー市場の混乱と世界的なインフレを招きながらも、ロシア経済に深刻な圧力をかけ続ける様子を描く。
最終部では、これらの事例を総括し、世界経済が「戦時体制」へと移行しつつあると警鐘を鳴らす。各国が経済安全保障を最優先する「スクランブル」状態に突入した結果、グローバリゼーションの後退と経済ブロックの形成が進んでいると論じる。著者は、経済的相互依存、経済安全保障、大国間競争という「不可能な三位一体」から、我々は選択を迫られていると結論づける。
各章の要約
第一部 チョークポイントの構築
第1章 古いやり方:ペリクレスからサダム・フセインまでの経済戦争小史
古代アテネのメガラ封鎖から20世紀の貿易禁輸に至るまで、経済封鎖は長い歴史を持つ。しかし、冷戦期までの経済戦争は主に物理的な封鎖や貿易停止に依存しており、その効果は限定的で、同盟国の協力が不可欠だった。著者はこう述べる。「歴史を通じて、経済戦争は常に同盟国の問題であった。」
第2章 不可視のインフラ
現代の経済戦争を可能にしているのは、国際金融システム、ドル決済網、エネルギー供給路、情報通信ネットワークといった「不可視のインフラ」である。これらのグローバルなチョークポイントを管理する主体(主に米国とその同盟国)は、アクセスを許可または拒否することで、強大な影響力を行使できる。
第3章 解き放たれた金融
2001年9月11日の同時多発テロは転換点となった。テロ資金の流れを断つため、米国は国際的な金融取引の監視・追跡システムを強化した。これにより、特定の個人、企業、銀行の資産を標的として凍結・没収する、より精密で強力な金融制裁が可能になった。
第4章 砂漠の取引
2003年のイラク侵攻後、サダム・フセイン政権の資産凍結と石油食料交換プログラムは、包括的な制裁が一般市民に与える痛みと、制裁執行の実務的な困難さを浮き彫りにした。この経験は、後の制裁設計者たちに「スマート制裁」(賢い制裁)の必要性を強く認識させた。
第5章 我々の通貨、あなたの問題
米ドルの基軸通貨としての地位は、米国に比類なき経済的レバレッジを与える。世界の主要取引はドルで決済され、その決済は最終的にニューヨークの米金融機関を経由する。米政府はこの「チョークポイント」を利用して、特定の主体を事実上、国際金融システムから締め出すことができる。
第6章 「灰色のスーツを着たゲリラ」
経済戦争の実行部隊は、ワシントンの官僚機構にいる「灰色のスーツを着たゲリラ」たちである。財務省、国務省、商務省の官員らは、法律の解釈を拡張し、既存の規制枠組みを創造的に活用して、新たな経済兵器を開発していった。
第7章 経済兵器のテスト
北朝鮮とスーダンに対する初期の標的制裁は、新しい金融ツールの有効性をテストする場となった。特に、マカオのバンコ・デルタ・アジアへの措置は、北朝鮮の資金洗浄の重要な経路を断ち、その核開発プログラムに実際的な財政的圧力をかけることに成功した。
第二部 イランと核兵器
第8章 テクノクラート
財務省テロ・金融情報局(TFI)の責任者スチュアート・レビーは、金融追跡の専門家として、制裁を単なる政治的なジェスチャーから、精密な経済的圧力に変革しようとした。
第9章 イラン、「牙のない虎」を見下す
国連安保理のイラン核開発問題に関する制裁決議は、当初、具体的な執行メカニズムを欠いており、イラン政府から「牙のない虎」と嘲笑された。これでは効果的な圧力にならないことが明らかになった。
第10章 リスクの高いビジネス
米財務省は、イランと取引する外国企業や金融機関に対し、米金融市場へのアクセスを禁止するリスクがあることを明確に伝え始めた。これは、国際ビジネス界にとって重大な決断を迫るものだった。
第11章 スチュアート・レビーの戦争
レビーは世界を飛び回り、各国の政府高官や銀行のCEOと面会し、イランとの取引のリスクを直に説いた。彼のキャンペーンは、国際金融界におけるイラン関連ビジネスのリスク認識を劇的に高めた。
第12章 手を差し伸べる
オバマ政権は当初、イランとの対話路線を探り、制裁圧力を和らげる可能性を示唆した。しかし、イランの核開発活動が続く中、このアプローチはすぐに行き詰まった。
第13章 我々と共にいるか、敵か
米国は同盟国やパートナー国に対して、イランとの取引を続けるか、米国の金融システムへのアクセスを維持するかの二者択一を迫った。多くの国と企業は後者を選んだ。
第14章 エクソダス(脱出)
主要な欧州銀行が次々とイラン関連ビジネスから撤退し始めた。これはイランの国際貿易と財政に重大な支障を来たし、イラン経済を孤立へと追い込んだ。
第15章 最後のとりで
イランは、米ドル圏から締め出された後、ユーロ決済網に依存しようとした。しかし、米国の圧力は欧州にも及び、その最後のとりでも失われつつあった。
第16章 100-0
レビーは、イランを国際金融システムから完全に(100%)締め出すことを目標に掲げた。部分的なアクセスも許さないというこの「100-0」戦略は、従来の制裁の考え方を根本から変えるものだった。
第17章 良い刑事、悪い刑事
オバマ政権内では、外交的解決を優先するグループと、最大限の圧力継続を主張するグループとの間で緊張があった。この「良い刑事と悪い刑事」の役割分担は、結果的にイランに対する交渉レバレッジを高めた。
第18章 地滑り
国際社会の圧力は頂点に達し、イラン経済はハイパーインフレと通貨暴落に苦しんだ。2013年、穏健派のロウハニが大統領に選出され、核交渉への本格的な傾斜を示した。
第19章 凍結
交渉開始に伴い、一部制裁の執行が停止された。しかし、制裁の法的枠組み自体は「凍結」されただけで、解除はされておらず、イランに対する脅威は潜在化したままだった。
第20章 「世界はもう一つの戦争を回避した」
2015年、イラン核合意(JCPOA)が成立した。オバマ大統領はこれを外交的勝利と称えたが、合意は制裁解除を段階的に行う代わりにイランの核活動を制限するものであり、根本的な対立の解決ではなかった。
第21章 黒魔術
合意後も、イランの地域での活動や弾道ミサイル開発を巡る緊張は残り、米国(特にトランプ政権)は「黒魔術」のように見える新たな制裁手段を模索し続けた。イラン核問題は、経済戦争が一時的な抑止力にはなり得ても、根本的な政治問題を解決する万能薬ではないことを示した。
第三部 ロシアの帝国主義的領土拡大
第22章 外交官
国務省のキャサリン・A・ノバードは、ロシア問題の専門家として、ウクライナ危機への対応の最前線に立つことになる。彼女は経済的圧力と外交的解決のバランスを模索した。
第23章 傷舐める墜落した熊
冷戦終結後、ロシアは経済的混乱と国際的な影響力の低下を経験した。プーチン政権は、エネルギー資源を梃子に影響力を回復させるとともに、近隣諸国への介入を強め、NATO東方拡大への警戒感を深めた。
第24章 ユーロマイダン
2013年末から2014年初頭にかけて、ウクライナの親EU協定署名拒否を契機に発生した「ユーロマイダン」革命は、親露派のヤヌコーヴィチ大統領を失脚させた。ロシアはこれを西側による「クーデター」と見なした。
第25章 「まず狙え、それから撃て」
クリミア侵攻直前、オバマ政権内では制裁発動のタイミングを巡る議論が紛糾した。侵攻前に発動すべきか、後にすべきか。結果として、米国は「まず狙え、それから撃て」、つまり侵攻という既成事実が作られてから反応する姿勢をとった。
第26章 コンタクト・グループ
クリミア併合後、米国とEUは「コンタクト・グループ」を通じて調整を図ったが、EU加盟国間の足並みの乱れは当初から明らかだった。特にエネルギー依存度の高い国々は、厳しい制裁に消極的だった。
第27章 外科手術用メス
2014年春に発動された初期の制裁は、クリミア併合やウクライナ東部不安定化に関与した特定の個人や企業を対象とした「外科手術的」なものだった。著者はこう述べる。「制裁は軍事力の代わりに用いられる外交政策の延長線上にあるべきだ。」
第28章 開戦の口火
制裁の第一波は、プーチンの側近や「オリガルヒ」と呼ばれる親密な実業家に焦点を当てた。その目的は、クレムリンに近いエリート層にコストを認識させ、プーチンに政策転換を促すことにあった。
第29章 MH17
2014年7月、マレーシア航空機MH17がウクライナ東部で撃墜され、多数の民間人が死亡した。西側は親ロシア派武装勢力、ひいてはロシア政府の関与を非難し、制裁強化への世論的後押しが強まった。
第30章 エスカレーション
MH17撃墜事件を受け、米国とEUは制裁を「セクター制裁」へと拡大した。これはロシアの金融、エネルギー、軍事産業の主要企業への融資や技術供給を制限するもので、より広範な経済的打撃を意図していた。
第31章 「崩壊した経済」
制裁と原油価格の暴落が重なり、ロシア経済は2014-2015年に深刻な不況に陥った。ルーブルは暴落し、インフレが急騰した。しかし、プーチン政権の国内での支持は固く、ウクライナからの撤退にはつながらなかった。
第32章 崖っぷちからの後退
2015年2月、ドイツとフランスの仲介により、ウクライナ東部の停戦と政治解決の枠組みを定めた「ミンスク合意」が結ばれた。これに伴い、西側はさらなる制裁エスカレーションを見送り、一部制裁は解除される可能性さえ議論された。
第33章 賄賂と共にロシアから
ミンスク合意は履行されず、ウクライナ東部での低強度紛争は継続した。ロシアは情報戦やサイバー攻撃、欧州各国への政治的働きかけ(しばしば汚職を伴う)を通じて、欧州の結束を崩そうと試みた。
第34章 「暗い考え」
2016年米大統領選におけるロシアの干渉疑惑は、米国内の政治を分断し、対ロシア強硬政策に対する両党一致の基盤を弱体化させた。ロシアは米国の民主主義そのものに弱点を見出した。
第35章 ゴールデン・エスカレーターによる出口戦略
ドナルド・トランプ大統領の就任は、対ロシア制裁緩和の期待を生んだ。しかし、議会の強い反発により、むしろ制裁権限は強化され(CAATSA法)、政権の裁量余地は狭められた。ロシアにとっての「出口」は閉ざされたままだった。
第四部 中国の技術覇権への挑戦
第36章 通訳者
中国問題に深く関わるある政策担当者は、中国の台頭を「異なる文明との競争」として捉え、米国が技術優位を維持することの生存的重要性を訴えた。その視点は、後の対中政策に影響を与える。
第37章 無責任な利害関係者
2000年代、米国は中国を国際システムに組み込むことで「責任ある利害関係者」に変えることを期待した。しかし、中国はWTOルールを巧みに利用して自国産業を保護・育成し、知的財産侵害や市場歪曲的行為を続けた。
第38章 目覚め
2010年代半ば以降、中国の「中国製造2025」計画や軍事・民生技術の融合(軍民融合)が明確になるにつれ、米国政策担当者層の間で、中国の技術覇権追求が米国の長期的な経済・安全保障に対する根本的な脅威であるとの認識が広がった。
第39章 百花斉放する中国政策
トランプ政権発足時、対中政策には一貫性がなく、様々な省庁や閣僚が独自の、時には矛盾するアプローチを推進する「百花斉放」状態だった。強硬派と交渉派の間で激しい内部対立が生じた。
第40章 手がかり:ZTE
2018年、中国の通信機器メーカーZTEがイランなどへの禁輸違反を繰り返したことで、米国から部品供給停止処分を受けて経営危機に陥った。この事例は、中国企業のサプライチェーンが米国技術に深く依存しているという脆弱性を明らかにした。
第41章 検証:福建金華
中国の半導体メーカー、福建金華が米国企業のマイクロン・テクノロジーから技術を窃取した疑いで訴追され、エンティティ・リストに追加された。これは、知的財産侵害に対して制裁という経済兵器を初めて本格的に適用した事例となった。
第42章 ファーウェイへの第一撃
ZTEに続き、世界最大の通信機器メーカーである中国のファーウェイが、イラン制裁違反などの疑いで司法調査の対象となった。ファーウェイは5G技術を巡る覇権争いのシンボルとなっていった。
第43章 出だしの失敗
当初、トランプ大統領はファーウェイ問題を米中貿易交渉のカードとして利用しようとしたため、強硬な制裁措置の発動が何度も先延ばしにされ、政策に不確実性と混乱をもたらした。
第44章 「バックドア」と「裏切り」
米政府は、ファーウェイの機器に中国政府によるスパイ活動や妨害工作のための「バックドア」が仕掛けられているリスクを警告した。さらに、ファーウェイがイランや北朝鮮との違法取引に関与したという内部告発(「裏切り」)も表面化した。
第45章 ファーウェイへの第二撃
2019年、米国はファーウェイをエンティティ・リストに追加し、米国製部品やソフトウェアの供給を事実上禁止した。さらに2020年には、「外国産品直接規則」を強化し、ファーウェイが他国製チップを調達する経路さえも遮断しようとした。
第46章 ドミノ倒し
ファーウェイ制裁は、グローバルな半導体サプライチェーンに大きな衝撃を与えた。世界中のチップメーカーやサプライヤーは、自社の製品に含まれる米国技術の割合を調査し、対中輸出の可否を判断するという前例のない複雑な課題に直面した。
第47章 鉄のカーテン
米中の技術分断は深まり、デジタル世界における新たな「鉄のカーテン」の降下が懸念されるようになった。両国はそれぞれの技術標準、サプライチェーン、アプリケーションエコシステムの構築を急いだ。
第五部 ロシアのウクライナ侵攻
第48章 実践者
財務省のエリザベス・ローゼンバーグら制裁実務担当者は、過去の経験を踏まえ、より効果的で結束した制裁パッケージの準備を進めた。彼らは同盟国の協力が成否を分けることを熟知していた。
第49章 周到な計画
2021年後半から、ロシア軍の国境集結を受けて、米国と同盟国は侵攻に備えた前例のない規模の制裁案(「プレイブック」)を秘密裏に作成した。その核心は、これまで「核兵器」と恐れられてきた金融制裁の全面発動にあった。
第50章 「アメリカは戻った」
バイデン政権は、同盟国との関係修復を最優先課題とし、「アメリカは戻った」と宣言した。ロシア問題では、情報公開戦略を通じてロシアの偽旗作戦を先回りして暴露し、同盟結束の基盤を固めようとした。
第51章 歴史の流れに立ちはだかり、やめろと叫ぶ
侵攻直前まで、ドイツやフランスなど欧州内には、外交的解決への期待と、厳しい制裁が自国経済に与える打撃への懸念から、制裁発動に消極的な動きがあった。
第52章 ポンプパニック
エネルギー、特にロシア産天然ガスへの依存が制裁設計における最大の障害だった。ガス供給停止による欧州経済と市民生活への影響を恐れる「ポンプパニック」が、制裁の歯止めとなると広く考えられていた。
第53章 「侵略は侵略だ」
2022年2月24日の全面侵攻は、全てを変えた。大規模な軍事行動と都市への攻撃という現実は、欧州の躊躇を一掃し、「侵略は侵略だ」という一点で結束させた。著者はこう述べる。「プーチンは、彼自身が最も恐れていたシナリオ、つまり結束した西側を作り出してしまった。」
第54章 ショルツ・ジョルト
侵攻直後、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、長年堅持してきた政策を一夜で転換し、防衛費増額とロシア産エネルギー依存脱却を宣言した。この「ショルツ・ジョルト」は、欧州の安全保障認識の根本的変化を象徴した。
第55章 銀行対戦車
最初の制裁の一撃は金融に向けられた。主要ロシア銀行の国際決済網SWIFTからの排除、そしてロシア中央銀行の対外資産の凍結である。これはロシアが侵攻資金を調達し、ルーブルを防衛する能力を奪うことを目的としていた。
第56章 パンドラの箱
ロシア中央銀行資産の凍結は、国家主権資産を標的とする前例のない措置であり、国際金融システムの根本原則に疑問を投げかける「パンドラの箱」を開けた。これにより、ドルやユーロを保有する全ての国に安全保障上の新たなリスクが認識された。
第57章 銃剣による金融政策
制裁により、ロシアは6,000億ドル以上と言われる外貨準備の大半を利用不能にされた。ロシア中央銀行は資本規制や急激な利上げなど「銃剣による金融政策」で対応せざるを得ず、金融システムは大きな打撃を受けた。
第58章 ポチョムキン通貨
ロシア当局が発表する経済統計の信頼性は低下し、ルーブル為替相場も当局の厳重な管理下に置かれた。著者はこれを、見かけだけの健全さを装う「ポチョムキン通貨」と評する。
第59章 供給と需要
エネルギー制裁は段階的に導入された。当初は石油・石炭の輸入禁止が中心だったが、最大の収入源であるパイプライン天然ガスへの制裁には至らなかった。これは、ロシアに収入を与えつつ、欧州のエネルギー転換の時間を稼ぐ苦渋の選択だった。
第60章 ルービックキューブ
輸出管理制裁は、ロシアの軍事産業とハイテク産業を締め上げることを目指した。世界中の企業は、自社製品が軍転用可能か、サプライチェーンにロシア向け部品が含まれていないかを確認する、複雑極まる「ルービックキューブ」のような課題に直面した。
第61章 「他にどんな選択肢がある?」
著名なロシア人オリガルヒや政権内部の人物に対する資産凍結と渡航禁止は広範に行われた。その正当性について問われたある当局者は、「他にどんな選択肢がある? 彼らがプーチンの戦争を可能にしているのだ」と答えた。
第62章 サービスプロバイダーのカルテル
制裁の実効性を高めるため、米国は法律事務所、会計事務所、コンサルティング会社などの専門サービスプロバイダーに対し、ロシアのエリート顧客との取引停止を求めた。これらの「門番」の協力がなければ、資産隠しは困難になる。
第63章 経済消耗戦
戦争は長期化し、制裁戦も「経済消耗戦」の様相を呈した。西側はロシア経済の耐性をテストし、弱点を探り続け、ロシアは制裁回避経路(第三国を経由する貿易など)を開拓しようとした。
第64章 分断された市場
世界経済は、ロシアと取引する国(中国、インド、トルコなど)と、制裁を支持する国とに事実上分断され始めた。この「分断された市場」は、グローバリゼーションの後退を示す兆候となった。
第六部 世界経済の断絶
第65章 「小さな庭と高い柵」
米国の対中技術戦略は、「小さな庭と高い柵」という比喩で説明されるようになった。国家安全保障上、絶対に優位を保たなければならない重要技術(小さな庭)を明確に定義し、それを防護するためには高い障壁(輸出管理・投資規制)が必要だとする考え方だ。
第66章 経済安全保障へのスクランブル
ロシアの侵攻と米中対立は、世界中の国々に「経済安全保障」の優先順位を急上昇させた。各国は重要物資のサプライチェーン短縮化(レッシング・フレンドショアリング)や、戦略的依存の解消を急ぐ「スクランブル」状態に突入した。
第67章 チョークポイントの破壊
米国が支配するチョークポイントへの依存がリスクと認識される中、中国やロシアなどは、ドル離れ、代替決済システム構築、重要資源の囲い込みを通じて、これらのチョークポイントを「破壊」し、制裁への耐性を高めようとしている。
第68章 戦略と犠牲
著者は、経済戦争には避けられないトレードオフがあると論じる。経済安全保障を追求すれば、効率性と成長は犠牲になる。大国間競争をすれば、経済的相互依存の恩恵は減衰する。各国はどのような犠牲を払うのか、明確な戦略的選択を迫られている。
結論 不可能な三位一体
本書の分析は、一つの核心的なジレンマに帰着する。それは、経済的相互依存、経済安全保障、大国間競争という三つの目標を同時に達成することは不可能であるという「不可能な三位一体」である。過去30年のグローバリゼーションは相互依存を深めたが、それは安全保障上の脆弱性も生んだ。今、大国間競争が先鋭化する中、各国は安全保障を優先せざるを得ず、必然的に相互依存の紐帯は弱まり、世界経済はブロック化や分断の方向へ向かっている。著者は、この厳しい現実を直視し、何を守り、何を諦めるのか、その選択とそれに伴う犠牲について、国民的な議論が必要であると結論づける。経済戦争の時代において、繁栄、安全、そして国際的影響力のバランスをどう取るかが、国家の未来を決定する。
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