- 英語タイトル『Glenn Diesen and Pepe Escobar on Iran:The Holy Grail of Empire』
- 日本語タイトル『グレン・ディーゼンとペペ・エスコバルが語るイラン:帝国の聖杯』
登場人物
- グレン・ディーゼン (Glenn Diesen):司会者、政治アナリスト。ユーラシア大陸を中心とした国際関係、地政学を専門とする。対談では質問者として、イランをめぐる米国の戦略的意図や戦争の構図を鋭く問いかける。
- ペペ・エスコバル (Pepe Escobar):政治アナリスト、作家。ユーラシア大陸を中心に長年取材する“旧式の特派員”を自称する。アフガニスタン、イラク、イランなどでの現地経験を基に、米国の帝国戦略、イランの抵抗戦略、BRICSの現状について深い洞察を提供する。
対談の基本内容
短い解説:
本対談は、イランをめぐる米国の戦略的意図、軍事衝突の現状、そしてこの戦争がユーラシア地政学やBRICSに与える影響を、二人の専門家が多角的に分析する。
著者について:
司会のグレン・ディーゼンは、ユーラシア大陸の地政学を専門とし、欧米の覇権主義的政策を批判的に分析する政治アナリストである。対談者のペペ・エスコバルは、長年にわたり中東、中央アジア、ロシアを取材してきたジャーナリストであり、現地での経験と深い人脈に基づいた独自の視点から、帝国の衰退と新たな多極世界の台頭を描き出す。
重要キーワード解説(2~7)
- プロジェクト・フォー・ザ・ニュー・アメリカン・センチュリー (Project for the New American Century:PNAC):1990年代後半に設立された米国の新保守主義(ネオコン)シンクタンク。米国の世界覇権維持と軍事力による体制変革を主張し、イラク戦争などに大きな影響を与えた。エスコバルは、イラン攻撃計画はこのグループにまで遡ると指摘する。
- グレーター・イスラエル (Greater Israel):シオニスト右派が掲げる、現在のイスラエル領土を超え、パレスチナ自治区や周辺国を含む「約束の地」の支配を目指す拡張主義的思想。本対談では、イラン戦争の背後にある思想的動機として言及される。
- 分散型モザイク戦略 (Decentralized Mosaic Strategy):エスコバルがイランの軍事戦略を形容する言葉。中央集権的な指揮系統に依存せず、各地の抵抗勢力が連携し、多様な手段で敵を疲弊させる柔軟な戦い方を指す。
- BRICS (BRICS):ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなる新興国の経済協力体。エスコバルは、イランへの対応(インド、UAEの姿勢)などを理由に、現在は「昏睡状態」にあると分析する。
- 大収縮 (The Great Constriction):イランが対イスラエル戦略として用いる用語。ミサイル攻撃などにより、イスラエル国家が機能するための重要拠点(港湾、空港、エネルギー施設など)を徐々に破壊し、その生存圏を収縮させていく戦略を指す。
本書の要約:
対談は、イランがなぜ米国にとって「聖杯(the holy grail)」と呼ぶべき最終目標なのかという問いから始まる。エスコバルは、イラン攻撃計画は1990年代後半の「プロジェクト・フォー・ザ・ニュー・アメリカン・センチュリー(PNAC)」や「クリーン・ブレイク(Clean Break)」構想にまで遡ると述べ、これは単なるトランプ政権の衝動的な決断ではなく、数十年にわたり温存されてきた帝国の悲願であると指摘する。この戦争の推進者には、ネタニヤフを中心とする国際シオニスト同盟に加え、ジャレッド・クシュナーのような巨額の利益を得る人物がいることが、その背景にある。
しかし、米国とイスラエルによる「首切り攻撃」が期待通りに機能しなかったことで、戦争は予期せぬ展開を見せる。イランは指導部の継承(ハメネイ師の後継として、革命防衛隊(IRGC)と強固な関係を持つモフタバ・ハメネイ師が選出された)を果たし、分散型モザイク戦略を駆使して、ミサイルや無人機の質的向上、そして防衛から攻勢への戦略的転換を遂げつつある。エスコバルは、米国の国債市場の動揺(10年物国債利回りの急上昇)がトランプ大統領を一時的に宥和的な姿勢に転換させたと分析し、戦争の行方が軍事面だけでなく、金融市場の安定性に大きく左右される現実を浮き彫りにする。
イランの要求は、米国の西アジアからの完全な撤退、膨大な賠償金、制裁の永久解除など、米国にとっては事実上の帝国の終焉を意味するものであり、両者の溝は埋められない。この膠着状態の中で、イランはロシアと中国からの情報、衛星、軍事技術(シャヘド無人機の改良型など)のバックアップを受けている。しかし、エスコバルは、BRICSの現状については深刻な懸念を示す。UAEやインド(特に、イラン海軍との軍事演習後にイラン艦船が攻撃された事件)の行動がイランへの裏切りと映り、BRICSは「昏睡状態」にあると断じる。それでも、ロシアと中国はイランの崩壊が自国の戦略的敗北(ユーラシア統合の頓挫)に直結することを理解しており、イランを支え続けるだろう。
最後に、アゼルバイジャンの役割が言及される。同国はイスラエルに石油を供給するBTCパイプラインの起点であり、過去にはイランへの無人機攻撃の拠点として使われた経緯もある。エスコバルは、もしアゼルバイジャンが再び対イラン攻撃に加担すれば、深刻な報復を受ける可能性があると警告する。全体を通して、エスコバルは、米国がイランの「抵抗の精神」とシーア派の殉教の文化を過小評価していること、そしてこの戦争が、帝国の最終的な終焉と新たな多極世界の形成を決定づける歴史的な転換点であるとの見解を示す。
特に印象的な発言や重要な引用
「イランは聖杯(the holy grail)である。」
「彼ら(イラン人)は、殉教のシーア派精神を完全に体現している。殉教したならば、大義のために死ぬのだ。そのような精神を持つ人々を打ち砕くことは不可能である。」
「イランはこの戦いでグローバルサウント全体のために戦っているのだ。」
「この戦争は、帝国が最終的に終焉し、新たな多極世界が形成される歴史的な転換点である。」
サブトピック
イラン:帝国が追い求めた「聖杯」
エスコバルは、イランが米国にとって長年の「聖杯(the holy grail)」、すなわち最終目標であったと断言する。この計画は、911同時多発テロ後のイラク、シリア、リビアなどへの介入計画(ウェズリー・クラーク元大将の証言)とも連続性を持つ。1990年代後半の「プロジェクト・フォー・ザ・ニュー・アメリカン・センチュリー(PNAC)」や「クリーン・ブレイク(Clean Break)」構想にまで遡るこの計画は、グレーター・イスラエルの実現と、西アジアにおけるイスラエルの唯一の地域大国としての地位確立を目的としている。トランプ政権は、ネタニヤフ首相やジャレッド・クシュナーのような利害関係者たちに強く影響された「完璧な伝達者」として機能した。
米国が想定していなかった「継続性」と「反撃」
米国とイスラエルは、ハメネイ最高指導者の殺害をもってイランの体制崩壊という「任務完了」を想定していた。しかし、モフタバ・ハメネイ師という後継者は、既に15年以上にわたり革命防衛隊(IRGC)と緊密に連携しており、継続性と体制の安定をもたらした。これにより、イランは予想外の強度で反撃に転じる。分散型モザイク戦略を駆使し、高性能ミサイル(コッラムシャール4型、ファッタフ2型など)を順次投入、地下ミサイル都市の所在は米国も把握できていない。戦略は防衛から攻勢へと転換し、イスラエルの機能麻痺を狙う「大収縮(The Great Constriction)」戦略を展開し始めている。
狂騒を止めたもの:国債市場という現実
戦争は常にエスカレーションの様相を呈していたが、トランプ大統領が突如として5日間の「休戦」的な姿勢を見せた。エスコバルは、その背後にある最大の要因は原油市場ではなく、米国の国債市場であると分析する。10年物国債の利回りが5%近くに急騰すれば、住宅ローン金利は7〜8%に達し、米国政府の資金調達は破綻する。この金融市場の混乱が、帝国の戦争機械にブレーキをかけた。イラン側は「トランプは嘘つきだ」と即座に反論し、交渉の余地がないことを明らかにした。イランの要求は米国の西アジアからの完全撤退、賠償金(約5000億ドル=約75兆円)、制裁の永久撤廃など、帝国の終焉を意味するものであり、交渉による妥協点は存在しない。
緊迫するユーラシア:イランを支えるロシア、中国、そして「昏睡」するBRICS
イランはロシアと中国からの強力なバックアップを受けている。ロシアは24時間体制の情報提供、衛星情報、シャヘド無人機を改良したゲラニウムの供与、さらにはアストラハン=テヘラン路線による軍事物資輸送で支援する。中国も外交的支援と情報支援を提供する。しかし、BRICSの現状は深刻である。UAEが米国との共謀を疑われる行動をとり、インドもイラン海軍との演習後にイラン艦船が攻撃された件で信頼を損ねた。エスコバルは、現在のBRICSを「昏睡状態」と評し、ロシアと中国だけがイランを支える「接着剤」の役割を果たしていると指摘する。この戦争の行方は、ユーラシア統合という壮大なプロジェクトの成否そのものと直結している。
火種としてのアゼルバイジャンとトルコの二枚舌
イランにとって、隣国アゼルバイジャンとトルコの動向も極めて重要である。アゼルバイジャンは、イスラエルへの石油供給ルート(バクー・トビリシ・ジェイハンパイプライン:BTC)の起点であり、過去にはイランへの無人機攻撃の発射拠点となった経緯がある。エスコバルは、アリエフ大統領が「ギャングスター的」な行動を取り、エルドアン大統領も常に二枚舌を使うと指摘する。もしアゼルバイジャンが再び対イラン攻撃に加担すれば、イランはその代償を支払わせると警告する。トルコはエネルギーと隣国という関係から、イランとの全面対立を避けざるを得ないが、この地域の地政学的緊張は予断を許さない。
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