書籍要約『イングランド労働者階級の形成』E. P. トムソン 1963年

テクノロジー、技術批判、ラッダイト階級闘争・対反乱作戦・格差社会

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英語タイトル:『THE MAKING OF THE ENGLISH WORKING CLASS』E. P. Thompson 1963

日本語タイトル:『イングランド労働者階級の形成』E. P. トムソン 1963

目次

  • 第一部 自由の樹 / The Liberty Tree
  • 第1章 無制限の成員
  • 第2章 キリスト教徒とアポリオン
  • 第3章 「サタンの砦」
  • 第4章 生まれながらの自由人イングランド人
  • 第5章 自由の樹を植える
  • 第二部 アダムの呪い / The Curse of Adam
  • 第6章 搾取
  • 第7章 農場労働者
  • 第8章 職人とその他
  • 第9章 織工
  • 第10章 生活水準と経験
  • 第11章 十字架の変革力
  • 第12章 共同体
  • 第三部 労働者階級の存在 / The Working-Class Presence
  • 第13章 急進主義のウェストミンスター
  • 第14章 是正を求める軍隊
  • 第15章 デマゴーグと殉教者
  • 第16章 階級意識

本書の概要

短い解説:

本書は、産業革命期のイングランドにおいて、労働者階級が受動的な存在ではなく、自らの経験、文化、闘争を通じて能動的に「形成」されていった過程を描き出す。経済史ではなく、人々の意識と行動に焦点を当てた社会史の古典である。

著者について:

著者E. P. トムソンは、イギリスの歴史家であり、活動家でもあった。従来の経済史中心の労働史観を批判し、「下から見る歴史」を提唱した。彼自身が社会主義的な立場から執筆しており、本書には、名もなき人々の経験と抵抗への深い共感が貫かれている。

テーマ解説

  • 主要テーマ:階級の形成過程 [経済的条件ではなく、文化的・政治的経験を通じて階級が形成されていく過程を分析する]
  • 新規性:階級を「関係」と「過程」として捉える [階級を固定的なカテゴリーではなく、歴史的に形成される「関係」であり、生きられた「経験」の過程として再定義した]
  • 興味深い知見:窮乏化論への批判 [産業革命期の労働者の実質賃金が上昇したというデータを批判し、生活の質の悪化や権利の剥奪といった観点から「窮乏化」を主張する]

キーワード解説(1~3つ)

  • 階級意識:共通の経験と敵対者に対する闘争を通じて形成される、集団的なアイデンティティと連帯感。
  • モラル・エコノミー:市場原理以前に存在した、共同体の慣習や公正な価格・賃金についての民衆の倫理観。
  • 自由の樹:フランス革命に由来する象徴で、平等や権利の要求、政治的急進主義を表す。

3分要約

E. P. トムソンによる『イングランド労働者階級の形成』は、1780年代から1830年代初頭にかけてのイングランドにおいて、労働者階級が歴史の舞台に登場するに至った過程を壮大なスケールで描いた歴史書の金字塔である。トムソンは、労働者階級を産業化の単なる「産物」や統計上のデータとしてではなく、自らの文化、伝統、闘争を通じて能動的に自身を形成した主体として捉え直す。

第一部「自由の樹」では、18世紀末の民衆の精神的・政治的土壌が探られる。フランス革命の影響を受けたトマス・ペインの急進思想、非国教徒の宗教的伝統、そして「生まれながらの自由人」という古来の権利意識が融合し、政治的覚醒の基盤が形成されていく。これは、新たな階級意識の萌芽となる思想的源泉であった。

第二部「アダムの呪い」は、産業革命と資本主義の進展が労働者民衆にもたらした過酷な現実を描く。家内工業から工場制への移行、囲い込みによる農村共同体の解体は、生活様式を一変させ、深刻な搾取と不安定性をもたらした。しかしトムソンは、単なる経済的「窮乏化」だけでなく、時間の規律、家族関係の変化、技能の喪失といった文化的・人間的な経験の側面を強調する。この圧迫に対する反応として、メソジストなどによる宗教的救済や、共同体の相互扶助のネットワークが重要な役割を果たした。

第三部「労働者階級の存在」は、こうした経験と意識が、具体的な政治的・社会的運動として爆発する様子を描く。ナポレオン戦争後の不況と政治弾圧の中、労働者階級は、ウィリアム・コベットの言説に触発され、ハンプデン・クラブや大規模な請願運動、さらにはラッダイト運動のような直接行動を通じて、自らの権利を要求する。ピータルーの虐殺やカトー街の陰謀といった事件を経て、政府との対立は先鋭化する。そして、労働組合の試み、ロバート・オウエンの協同社会主義思想、リチャード・カーライルらによる言論の自由をかけた闘争など、多様な運動が交差する中で、1832年の第一次選挙法改正で中産階級に権利が与えられながら労働者階級が排除されたことを決定的な契機として、独自の「階級意識」が確立されていく。

トムソンは結論において、階級を「もの」ではなく「関係」であり、歴史的出来事の中で能動的に形成される「過程」であると定義し、イングランド労働者階級がまさにこの時期に「自身を形成した」のである、と力強く締めくくる。本書は、歴史の底辺から湧き上がる人々の声をすくい上げ、歴史叙述そのものを変えたのである。

各章の要約

第一部 自由の樹

第1章 無制限の成員

18世紀末のイングランド民衆は、様々な団体や結社( Friendly Society 、クラブなど)に参加することで、組織の運営や相互扶助の技術を学んでいた。これらの「無制限の成員」を持つ団体が、後の労働者階級の組織化の基盤となった。これは、上から押し付けられたものではなく、民衆自身の自発的な活動から生まれた下地であった。

第2章 キリスト教徒とアポリオン

非国教徒(ディセント)の宗教的伝統、特にその会衆運営や平等主義的な傾向、権威への反抗精神が、政治的急進主義の精神的・組織的土壌を提供した。彼らは国教会という「アポリオン」(破壊者)に対抗する「キリスト教徒」としての自覚を持ち、そのネットワークが政治運動に流用されていった。

第3章 「サタンの砦」

メソジストの信仰は、労働者階級にとって複雑な影響を与えた。一方でその規律と自己抑制は資本主義の労働倫理に適合したが、他方でその集会形式は組織能力を培い、特に「千年王国説」的な終末論は、現世の苦難に対する抵抗の論理として機能する側面もあった。

第4章 生まれながらの自由人イングランド人

イングランドの民衆には、古来からの「自由人の権利」や「コモン・ロー」に基づく権利意識が根付いていた。この伝統的な自由観念が、18世紀末の新しい人権思想(トマス・ペインの『人間の権利』など)と結びつき、政治的要求を支える強力なイデオロギーとなった。

第5章 自由の樹を植える

フランス革命の影響と、トマス・ペインの急進思想の普及が、1790年代のイングランドにおける政治的論争を激化させた。政府による弾圧(「フランスとの戦争」から「国内の反体制派との戦争」へ)にもかかわらず、ペインの思想は地下に潜り、労働者階級の間で「自由の樹」として根を下ろし、後の運動の思想的源泉となった。

第二部 アダムの呪い

第6章 搾取

トムソンは、産業革命期の労働者の「窮乏化」を、単なる実質賃金の動向だけで論じる従来の経済史観を批判する。彼は、家内制工業から工場制工業への移行に伴う労働の強化、時間規律の導入、失業の恐怖、そしてかつての「職人」から「賃金労働者」への転落という経験そのものが、搾取の本質であったと主張する。

第7章 農場労働者

農村における囲い込みは、土地からの追放と賃金労働者化をもたらし、農村共同体を解体した。これにより、農場労働者は土地との結びつきを失い、都市のプロレタリアートへと転落するか、あるいは農村で最も貧しく無権利な階層へと変えられていった。

第8章 職人とその他

熟練を要する手工業職人(仕立職人、靴職人、鍛冶職人等)は、自律性と「職人気質」に強い誇りを持っていた。しかし、分業の進行や徒弟制度の形骸化、非熟練労働者の参入によって、その地位と賃金は脅かされ、彼らは資本の論理に対する激しい抵抗の主体となっていった。

第9章 織工

手工業織工の運命は、産業革命がもたらした悲劇の典型であった。かつては比較的豊かであった在方の織工たちは、動力織機の導入と工場制の広まりによって、激烈な競争と賃金の暴落に直面し、悲惨な窮乏と没落を経験した。

第10章 生活水準と経験

この章では、労働者階級の物質的・文化的な生活実態を多角的に検証する。食料、住居、衣服、健康、余暇、そして子供時代の経験までを含め、産業化が人々の日常生活にどのような影響を与えたかを描き出す。統計上の数字では捉えきれない「生活の質」の悪化が強調される。

第11章 十字架の変革力

メソジストを中心とする宗教的覚醒は、労働者階級の形成に二面的な役割を果たした。一方でそれは現世の苦難からの逃避や従順を促す「民衆のアヘン」として機能したが、他方でその組織や終末論的な熱情は、政治的抵抗のエネルギーへと転化される可能性を秘めていた。

第12章 共同体

経済的圧迫の中で、労働者民衆は独自の共同体と文化を維持し、再創造した。パブでの交流、スポーツ、儀礼的な相互扶助(Friendly Society)、民衆文化などが、社会的絆と連帯感を育む場となった。また、アイルランド人移民との接触と摩擦も、イングランド人労働者の自意識を形成する一因となった。

第三部 労働者階級の存在

第13章 急進主義のウェストミンスター

ナポレオン戦争後、ロンドンのウェストミンスターを中心に、フランシス・プレイスらによる組織的な急進主義運動が再燃した。彼らは議会改革を要求し、大衆集会や請願運動を通じて政治参加を訴え、労働者階級を政治的主体として動員していった。

第14章 是正を求める軍隊

この章は、労働者階級による直接行動の広がりを描く。特にラッダイト運動(機械打ち壊し)に焦点を当て、それが無計画な破壊行為ではなく、熟練職人たちの共同体の規範と「モラル・エコノミー」(公正な価格と生活を守るための慣習的倫理)に基づく抵抗であったことを明らかにする。政府の弾圧と団結禁止法が、この闘争を先鋭化させた。

第15章 デマゴーグと殉教者

1815年から1820年にかけての激動の時代を扱う。戦後不況と穀物法制定への怒りを背景に、ハンプデン・クラブによる草の根組織化、ブランドレスやオリバーといった政府のスパイ(工作員)が関与した陰謀事件(ペントリッチ蜂起)、ピータルーの虐殺、そしてカトー街の陰謀など、一連の事件を通じて、労働者階級の運動は弾圧と殉教の歴史を経験し、政府との対立は決定的なものとなった。

第16章 階級意識

最終章でトムソンは、これまで描いてきた多様な経験と闘争の蓄積の結果、1830年代初頭までに独自の「労働者階級の意識」が形成されたと結論づける。ウィリアム・コベットの言説による政治的意識の啓発、リチャード・カーライルらの自由思想家による言論の自由の闘争、そしてロバート・オウエンの協同社会主義思想が、この階級意識に思想的深みを与えた。1832年の第一次選挙法改正で中産階級が参政権を得た一方で労働者階級が排除されたことは、彼らに自らが独自の利害を持つ階級であるという意識を決定的に自覚させた。労働者階級はもはや、歴史の受動的な客体ではなく、自らの運命を切り開く主体として登場したのである。


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