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日本語タイトル:『満洲候補者の探索:CIAとマインドコントロールの秘密の歴史』ジョン・マークス 1979年
英語タイトル:『The Search for the “Manchurian Candidate”: The CIA and Mind Control: The Secret History of the Behavioral Sciences』John Marks 1979年
目次
- 序文 / Author’s Note
- 第一部 マインドコントロール研究の起源 / Origins of Mind-Control Research
- 第1章 第二次世界大戦 / World War II
- 第2章 冷戦と精神への攻撃 / Cold War on the Mind
- 第3章 教授と「A」トリートメント / The Professor and the “A” Treatment
- 第二部 知性か「魔女の薬」か / Intelligence or “Witches Potions”
- 第4章 LSD / LSD
- 第5章 フランク・オルセン博士の事件について / Concerning the Case of Dr. Frank Olsen
- 第6章 気づかぬ被験者たち:セーフハウス / Them Unwitting: The Safehouses
- 第7章 キノコからカウンターカルチャーへ / Mushrooms to Counterculture
- 第三部 呪文―電極と催眠 / Spells—Electrodes and Hypnosis
- 第8章 洗脳 / Brainwashing
- 第9章 ヒューマン・エコロジー / Human Ecology
- 第10章 ギッティンガー評価システム / The Gittinger Assessment System
- 第11章 催眠 / Hypnosis
- 第四部 結論 / Conclusions
- 第12章 真実の探求 / The Search for the Truth
全体の要約
本書は、冷戦時代にCIAが秘密裏に実施した大規模な行動制御・マインドコントロール研究プログラムの全貌を、機密解除された政府文書と関係者への取材に基づいて明らかにした調査報道の傑作である。
物語は第二次世界大戦中のOSS(戦略情報局)の真実薬開発から始まる。戦後、冷戦の激化と共に朝鮮戦争での米軍捕虜の「自白」問題が浮上し、共産主義国の洗脳技術への恐怖が広がった。CIAはこれに対抗するため、1953年にアレン・ダレス長官の指示でMKULTRAプログラムを開始した。
このプログラムの中心人物がシドニー・ゴットリーブ博士である。彼の指揮の下、CIAは全米の大学、病院、研究機関と契約を結び、LSD、電気ショック療法、感覚遮断、催眠術などあらゆる手段を駆使した人間の行動制御実験を実施した。被験者は精神病患者、囚人、薬物中毒者、売春婦など社会的弱者が選ばれ、多くは自分が実験対象であることを知らされていなかった。
特に注目すべきは、サンフランシスコとニューヨークに設置されたセーフハウスでの実験である。ここでは麻薬取締官ジョージ・ホワイトの協力の下、知らない間にLSDを投与された一般市民の反応が観察された。また、カナダのモントリオールではユーアン・キャメロン博士が「デパターニング」と呼ばれる記憶消去実験を行い、患者の人格を完全に破壊した。
研究は心理学者ジョン・ギッティンガーの人格評価システム(PAS)のような比較的成功した分野もあったが、全体的には期待された「完全な行動制御」は実現しなかった。人間の精神は科学者たちが想像した以上に複雑で、薬物や技術による完全な支配は不可能だった。
1960年代に入ると、皮肉なことにCIAが開発したLSDが若者の間に広まり、カウンターカルチャー運動の象徴となった。ティモシー・リアリーやケン・キージーといった文化的指導者たちは、元々CIAの実験から始まったLSD体験を通じて意識革命を提唱した。
1970年代のウォーターゲート事件とそれに続く議会調査により、これらの秘密プログラムが暴露された。1973年、ゴットリーブとヘルムズはMKULTRAの記録を破棄したが、会計資料の一部が残存していたため、後に全容が明らかになった。
著者のジョン・マークスは、この研究が科学の名の下に行われた人権侵害であり、ニュルンベルク綱領に反するものだったと厳しく批判している。同時に、現代社会における行動制御技術の拡散と民主主義への脅威について警告を発している。
各章の要約
序文
Author’s Note
著者マークスは、情報公開法により入手した16,000ページのCIA文書に基づいて本書を執筆したと述べる。CIAの主要関係者の多くが取材を拒否し、1973年に重要文書が破棄されたため、完全な全貌解明は困難だったが、可能な限り正確な記録を残そうと努めた。議会調査や外部研究者の協力を得て、25年間にわたるCIAの秘密行動制御研究プログラムの実態を明らかにした画期的な調査報道であることを説明している。
第一部 マインドコントロール研究の起源 / Origins of Mind-Control Research
第1章 第二次世界大戦
World War II
1943年、スイスのサンドス社でアルバート・ホフマン博士が偶然LSDを発見した。同時期、ナチス・ドイツはダッハウ強制収容所でメスカリンを使った人体実験を行っていた。米国のOSS(戦略情報局)も真実薬の開発に着手し、大麻エキスを使った実験を実施した。ジョージ・ホワイト捜査官がマフィアのボス、デル・グラシオに大麻入りタバコを吸わせる実験は成功したとされる。戦時下の科学研究は倫理的境界を越え、後のCIA行動制御プログラムの基盤となった。
第2章 冷戦と精神への攻撃
Cold War on the Mind
1949年のミンツェンティ枢機卿事件と朝鮮戦争での米軍捕虜の「自白」により、共産主義国の洗脳技術への恐怖が広がった。CIAは1950年にBLUEBIRD計画、後にARTICHOKE計画を開始し、モース・アレンが責任者となった。彼らは電気ショック、薬物、催眠術を組み合わせた尋問技術を開発し、日本や韓国で捕虜や二重スパイを対象とした実験を実施した。アレンは「終末実験」と呼ぶ非人道的な実験の実施を提案し、被験者の人権を完全に無視した研究が行われた。
第3章 教授と「A」トリートメント
The Professor and the “A” Treatment
1952年、海軍のCHATTER計画の下、ロチェスター大学のG・リチャード・ウェント教授がドイツでの薬物実験に参加した。ウェント教授は独自の薬物カクテル(セコナール、デキセドリン、大麻)を開発したと主張したが、実際は既知の薬物の組み合わせに過ぎなかった。CIAとの合同実験では、ソ連スパイ容疑者に対してナルコ催眠療法「A」トリートメントが実施された。これは被験者を昏睡状態にしてから催眠下で尋問する技法だったが、期待された結果は得られず、ウェント教授の能力に対する疑問が高まった。
第二部 知性か「魔女の薬」か / Intelligence or “Witches Potions”
第4章 LSD
LSD
1949年、ボストン精神病理学病院のロバート・ハイド博士が米国初のLSD体験者となった。CIAは1953年にMKULTRA計画を開始し、シドニー・ゴットリーブが責任者となった。彼らはLSDの独占供給を確保し、全米の研究機関に秘密資金を提供して大規模な実験を実施した。ハリス・イズベル博士は囚人に77日間連続でLSDを投与するなど極端な実験を行った。CIA職員自身もLSDを試用し、その効果を体験した。しかし、LSDは期待された「精神支配」の手段とはならず、予測不可能で制御困難な薬物であることが判明した。
第5章 フランク・オルセン博士の事件について
Concerning the Case of Dr. Frank Olsen
1953年11月、生物兵器専門家フランク・オルセン博士がゴットリーブによってLSDを秘密投与され、9日後にニューヨークのホテルから転落死した。オルセンは陸軍フォート・デトリックの特別作戦部門(SOD)で細菌兵器の空中散布技術を研究していた。LSD投与後、彼は深刻な精神的混乱に陥り、CIA関係者によってニューヨークに連行され、適切な医療措置を受けることなく監視下に置かれた。最終的にホテルの窓から転落したが、CIAは事件の隠蔽を図り、家族には20年以上真実が隠されていた。この事件はMKULTRA計画の最も悲劇的な事例となった。
第6章 気づかぬ被験者たち:セーフハウス
Them Unwitting: The Safehouses
1953年、ゴットリーブはジョージ・ホワイト麻薬捜査官と協力してニューヨークとサンフランシスコにセーフハウスを設置した。ここでは売春婦を使って客にLSDを秘密投与し、隠し撮りと盗聴で反応を観察した。ホワイトは「モーガン・ホール」の偽名を使い、豪華なアパートで10年間にわたって一般市民を対象とした無断薬物実験を続けた。被験者は社会的弱者が選ばれ、彼らの人権は完全に無視された。1963年、CIA監察官の調査で倫理的問題が指摘され、ジョン・マッコーン長官の判断で計画は中止されたが、この間数千人が被害を受けた。
第7章 キノコからカウンターカルチャーへ
Mushrooms to Counterculture
1953年、CIAはメキシコの幻覚キノコ探索を開始し、モース・アレンがアステカの「神の肉」に関する調査を命じた。1955年、銀行家R・ゴードン・ワッソンが西欧人として初めて聖なるキノコの儀式に参加し、その体験を『ライフ』誌で発表した。CIA契約研究者ジェームズ・ムーアが調査に参加したが、スイスのアルバート・ホフマンがシロシビンの化学合成に先行した。皮肉なことに、CIAが資金提供した研究から始まったLSD文化は、1960年代にティモシー・リアリーやケン・キージーらによってカウンターカルチャー運動に発展し、CIA自身の予想に反して反体制的な意識革命の象徴となった。
第三部 呪文―電極と催眠 / Spells—Electrodes and Hypnosis
第8章 洗脳
Brainwashing
1956年、神経学者ハロルド・ウォルフとローレンス・ヒンクルがCIAのために共産主義国の洗脳技術を分析し、魔法的な装置は存在せず、心理的圧迫と人間の弱さを利用した技法であることを明らかにした。しかしCIAは独自の洗脳技術開発を継続し、カナダのアラン記念研究所でユーアン・キャメロン博士が「デパターニング」実験を実施した。この技法は大量の電気ショックと薬物による長期睡眠で患者の記憶を完全消去し、テープによる「心理的駆動」で新しい行動パターンを刷り込もうとするものだった。被験者の人格は破壊されたが、期待された行動制御は実現しなかった。
第9章 ヒューマン・エコロジー
Human Ecology
1955年、ウォルフは人間生態学研究協会を設立し、CIAの行動科学研究の隠れ蓑とした。この組織は中国系難民のスパイ養成から始まり、後に全世界の行動科学研究への資金提供機関となった。カール・ロジャース、チャールズ・オスグッド、B・F・スキナーなど著名な研究者が無自覚のうちにCIA資金を受け取り、研究成果が諜報活動に利用された。協会は年40万ドルの予算で行動科学の発展に寄与したが、同時に学術界の独立性を損ない、研究者を知らないうちにスパイ活動に協力させる結果となった。1965年に解散した。
第10章 ギッティンガー評価システム
The Gittinger Assessment System
心理学者ジョン・ギッティンガーは、ウェクスラー知能検査を基にした人格評価システム(PAS)を開発し、これがCIAの最も成功した行動制御技術となった。システムは内向性/外向性、規則性/柔軟性、役割適応性/役割統一性の3つの次元で人格を分析し、個人の弱点と操縦方法を特定した。29,000件のデータベースを構築し、スパイ募集、外国諜報機関職員の選考、政治指導者の分析に活用された。キューバ危機ではフルシチョフの行動予測に使用された。韓国中央情報部やウルグアイ対テロ部隊の人員選考にも関与し、人権抑圧機関の創設に協力した問題のある側面もあった。
第11章 催眠
Hypnosis
モース・アレンは催眠術による「満洲候補者」の作成を目指し、CIA職員を対象とした実験で秘書に銃撃させることに成功した。しかし実際の暗殺者養成は実現せず、MKULTRA移管後はより慎重なアプローチが取られた。ジョン・ギッティンガーは催眠術の限界を理解し、完全な行動制御は不可能と結論づけた。それでも1960年代には対敵諜報部門と協力して急速催眠誘導技術の開発が続けられ、メキシコシティでの実験も行われた。最終的に、催眠術による確実な行動制御は実現不可能であり、むしろ伝統的なスパイ工作の方が効果的であることが判明した。
第四部 結論 / Conclusions
第12章 真実の探求
The Search for the Truth
1962年、ジョン・マッコーンCIA長官はMKULTRAの研究機能を新設の科学技術局に移管し、ゴットリーブは実用的なプログラムのみを残したMKSEARCH計画を継続した。1972年にゴットリーブが退職し、リチャード・ヘルムズと共にMKULTRAの記録を破棄した。1970年代のウォーターゲート事件後、議会調査でこれらの秘密プログラムが暴露された。著者マークスが情報公開法で入手した残存文書により全容が明らかになった。科学技術局は脳電気刺激、精神外科、超心理学など更に高度な行動制御研究を継続していたが、その成果は今も秘匿されている。民主社会における行動制御技術の監視と公開の重要性が強調されている。
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